レオ達が東京に帰ってきたことで、ついに魔王軍チャンネルとのコラボの収録の日がやってきた。
今回はバーチャルリンク側のスタジオでの収録となるため、レオ達と四谷はバーチャルリンク側の事務所へと向かっていた。
飯田はかぐやの同行、亀戸は二期生であるハンプ亭ダンプと鶴野紫恩の案件配信の収録への同行を行っていた。
「そういえば、ルリリは大丈夫だったの?」
「もう大丈夫よ。今日にも復活配信をしてもらう予定だよ。もちろん、まだ数日は長時間配信は控えてもらう予定だけどね」
「あの人、体力お化けかと思ってたけど、だいぶ無理してたんだな」
「モンエナでブーストしてたんだから、ガタがきてもおかしくないでしょー。ま、私みたいにしっかり睡眠取らなきゃダメってことだねー」
「優菜ちゃん、過眠も体には良くないんだからほどほどにしなよ?」
先日、配信中に気絶した先輩の容体を心配しながらもレオ達は大事がないことを確認して安堵していた。
「…………」
「よっちん、怖い顔してどうしたの?」
「あ、ちょっと考え事をしてて」
四谷はサラとの一件の後、バーチャルリンク側へと連絡をとった。
バーチャルリンク側からはサラの入院は〝風邪が悪化してしまった結果〟と返答があった。
また、四谷の連絡があるまで何の音沙汰もなかった件については〝担当マネージャーが急遽退職したことによる混乱〟と説明され、丁寧な謝罪があった。
この件については、余計な心配をかけさせないためにレオ達ライバーには伝えていない。
コラボ前にこんな情報を知れば、ポーカーフェイスが得意なレオはともかく、感情的になりやすい夢美や林檎は冷静でいられないだろう。
「ああ、そっか。ケイティちゃんの配信って明日だもんね」
「そりゃ緊張もするよねー」
「あの子は賢そうだし心配しなくても大丈夫だと思いますよ」
四谷が考え込んでいたことについて、レオ達は明日にデビューするミコについてのことだと思い納得していた。
「あはは、そうですね。あの子なら大丈夫だと私も思います」
ミコの配信内容についての相談は四谷も聞いた上で、全てオーケーを出した。
相談内容からミコの配信者としての才覚を感じ取った四谷は、ミコに関しては特に不安を覚えてはいなかったのだ。
「あ、レオさん。お久しぶりです!」
「やあ、サタン君。久しぶり」
バーチャルリンクのスタジオに到着すると、そこにはサタン達魔王軍のメンバーが待っていた。
「林檎さんもバラギさんもお久しぶりです!」
「久しぶり、魔王様」
「おひさー」
夢美や林檎とも軽く挨拶を交わすと、サタンは笑顔を浮かべた。サタンとしても、ここ最近忙しかったこともあり、久しぶりに三期生のメンバーと会えたことは嬉しかったのだ。
「サタン君、そちらの三人が?」
「ええ、そうです。紹介しますね、魔王軍チャンネルの四天王のみんなです」
サタンの後ろでそわそわしている三人に気がついたレオは先を促す。
サタンが三人に頷いて自己紹介を促すと、三人の中でも一番ギャルのような明るいイメージの女性が前に出て挨拶をした。
「は、初めまして、ウェンディ・ネーブルです。きょ、今日はあの〝ばけものフレンズ〟と名高い三期生の三人とコラボできてすっごく嬉しいです! よ、よろ、よよ、よろしくお願いします!」
魔王軍四天王の中でも、まとめ役とされる水の四天王ウェンディ・ネーブル。
ヒレのような耳と澄んだ水流のような青い髪。そんな清楚な見た目が特徴的な天然お姉さん系の女性として活動しているウェンディは、ガチガチに緊張しながらも自己紹介をした。
Vとリアルのイメージが違うということは往々にしてあるが、ウェンディはその中でもかなりギャップがある方だった。
噛みながらも自己紹介したウェンディの後ろから、彼女を揶揄うように小柄な少女が前に出てきた。
「オタク君さぁ~。初対面限界化はどうかと思うよ~。あ、白雪さん。この子めっちゃ白雪さんのこと好きなんですよ!」
「相葉ちゃん!」
ウェンディは林檎の大ファンだった。
林檎、というよりは〝ゆなっしー〟のファンであり、そこから林檎のファンになったという経緯を持つのだ。
いくらVtuberとしては自分の方が先輩といえど、推しであることには変わりはない。
ウェンディはあくまでも仕事相手と割り切ってコラボ収録に臨むつもりだった。
だというのに、あっさり林檎のファンであることをバラされ、ウェンディは怒りながら相葉と呼んだ少女に詰め寄った。
「えへへ、ごめんごめん!」
相葉と呼ばれた小柄な少女はウェンディに謝罪をしつつ、そのまま明るく元気に自己紹介をした。
「どうもー! フィア・シルルです!」
「「「あ、やっぱり女の子だったんだ……」」」
風の四天王であり、背中に妖精の羽を生やした中性的な男性フィア・シルル。
よく魔王軍の視聴者からは女の子扱いされているが、実際に性別が女性だったことを確認したレオ達は納得したように呟いた。
初対面であるが、ウェンディとフィアの仲の良さはレオ達から見ても一目瞭然だった。
「……あ、ノーム・アースディです。えっと……今日はよろしくお願いしますね」
最後に、どこかボーッとした印象を受ける女性、ノーム・アースディが思い出したように自己紹介をした。
ノームは土の四天王で、魔王軍の中でもしっかり者でムードメーカーという立ち位置だ。
歌唱力が高く、よく歌ってみた動画も上げているので、レオも魔王軍の中で彼女の歌動画はよく見ていた。
オタク気質なウェンディ、明るく元気なフィア、マイペースなノーム。
動画のときとは印象が違うが、自己紹介だけでも個性の強さを感じさせる三人にサタンは苦笑しながら言った。
「すみません。智花さん――サラさんがいないとどうにも纏まりがなくて……」
「そうかな? 結構ちゃんとしてる感じだと思うけど」
「私はサラちゃん会ったことないから会いたかったなぁ」
「何か素の方が実家のような安心感あるよねー」
サラが体調不良で今回の収録に出れないことはレオ達も把握していた。
残念ではあるが、体調不良ならば仕方ない。
納得したレオは普段のサラについて聞くことにした。
「サラさんが普段はまとめ役なんだ」
「ええ、あの人が僕らの中じゃ最年長ですから。一番常識があって落ち着いているんですよ」
「俺はてっきりサタン君がまとめ役かと思ってたよ」
「いえ、僕なんて全然ですよ」
魔王軍といえば、サタンが中心で回っているというイメージが強い。
実際、魔王軍チャンネルで一番人気なのもサタンであり、外部コラボが多いのもサタンである。
謙遜するサタンに対して、魔王軍の三人は笑顔を浮かべて言った。
「まっちゃんも結構私達のことまとめてくれてるじゃん!」
「司君には結構フォローされる場面も多いもんね」
「司には助けられてる」
魔王軍の仲の良さを確認したことで、四谷はようやく安堵することができた。
どうやらVtuberグループの仲自体が悪いわけではなさそうだ。
となると、環境か……。
四谷は極めて冷静にバーチャルリンクの内情を観察していた。
その後、収録のために移動した一行はアニメのアフレコ現場のような部屋に通された。
その中には魔王軍の3Dアニメ制作スタッフのメンバーが待機していた。
「にじライブの皆さん、お疲れ様です! 本日は宜しくお願い致します!」
「「「宜しくお願い致します!」」」
明るく現場に迎え入れられたことで、レオ達も自然と笑顔になり挨拶を返した。
「三期生の皆さんはあらかじめお送りさせていただいた台本には目を通していただけましたか?」
「はい、俺は台本見なくても大丈夫ですね」
「あ、あたしは台本チェックはしたけど見ながらじゃないと厳しいです」
「私も見ながらならって感じかなー」
四谷が3Dアニメスタッフと名刺交換をしている間にも、スムーズに現場での打ち合わせは進んでいく。
3Dアニメスタッフを見る限り、仕事熱心でありながらも魔王軍のメンバーを軽んじている様子はない。魔王軍のメンバーも彼らを慕っている様子が見受けられることから、ますます四谷はサラが入院するほどに無理をせざるを得なくなった原因がわからなかった。
「それじゃ本番いきまーす!」
大きな画面に魔王軍チャンネル恒例のアニメーションが流れ出す。
事前にレオ達の3Dモデルも渡してあったため、既に出来上がっていた3Dアニメーションは非常にクオリティが高いものだった。
後はそれに合わせて声を吹き込んでいくだけだ。
レオや林檎は時折アドリブを入れたが、柔軟なバーチャルリンクスタッフは「むしろ、そっちの方が面白い」とアドリブも喜んで受け入れていた。
アニメーションの収録が終わる頃にはスタッフを含め、レオ達と魔王軍のメンバーはすっかり打ち解けていたのだった。
特に深い意味はありませんが……ゲームをする部活も良いけど、探偵団も良いですよね(わかる人にはわかるはず)