荘厳な装飾が施された玉座の間で、一人の男が呆れたようにため息をつく。
男の頭には二本の角が付いており、彼が人間でないことは一目瞭然だ。
彼は魔王サタン・ルシファナ。
人間界の征服を目論見、人間に自分達を知らしめるためにゲーム実況動画を投稿し始めたVtuberだ。
そんな魔王たる彼の傍らには三人の配下達が片膝を突いて控えている。
「まったくサラの奴、今日は異世界から客人が来るというのに、任務が終わらないとはな」
「仕方ないですよ。サラが相手するのは反魔王派閥の中でも屈指の戦闘力を誇るオーク兵団のエリート達なんですから」
「そうっすよ魔王様。サラは脳筋なんだから相手を殲滅しないと帰ってこないと思うっす」
「フィア、それフォローになってない」
未だに任務から帰ってこないサラの愚痴を零すサタンに対して、四天王であるウェンディ、フィア、ノームは同僚をフォローした。
「ふん、仕方がないか。では、今日の客人を呼ぶとしようか」
サタンがパチンと指を鳴らすと、玉座の間に魔方陣が浮かび上がり三人の人間ーーいや、二人の人間と一匹のライオンが現れた。
「にじライブ三期生の諸君! 良く来た、な?」
レオだけがライオン状態のまま登場したことで、口を開けたまま固まった。
「やあ、サタン君」
レオは二足歩行のまま立ち上がり、気さくに片手を上げた。
「ちょ、レオ! 事故ってる事故ってる! ライオンで召喚されちゃってるよ」
「よーし私の魔法で直しちゃうよー! あ、手が滑った」
林檎が魔法をレオにかけようとしたが、そのまま手が滑り魔法は夢美にかかった。
「すぴー……」
魔法は夢美にかかり、夢美は一瞬にして眠りについた。
「おい焼き林檎! 眠りの魔法かけてるじゃないか!」
「ごめーん、魔法も間違えたー」
てへぺろ、と笑っていた林檎だったが、魔王城が激しく揺れ始めたことで、全員の表情に緊張が走った。
「ロリを寄越せぇぇぇぇぇ!」
「うわぁ!? 何か魔王城のあちこちから茨が!」
「フィアが茨に捕まった!」
「助けてくださいっす!?」
「一体何が起こっているんだ!」
狼狽する魔王軍のメンバーに、レオはライオンの姿のまま冷静に状況を説明した。
「まずい、夢美はノンレム睡眠に移行すると力が暴走するんだ! たぶん、フィアさんは夢美のロリコンセンサーに引っかかって」
「何だと!? フィアは男だぞ!」
「フ゛ィ゛ア゛君゛か゛わ゛い゛い゛な゛ぁ゛!」
「ダメだ! 完全にロリ判定されてる!」
「おい、焼き林檎。今すぐ眠りの魔法を解除しろ!」
「すぴー……」
「貴様まで寝るなあぁぁぁぁぁ!」
サタンが振り返ると、林檎までもが眠っていた。
「くっ、サラマンダーのサラがいてくれれば……!」
ノームは押し寄せる茨を見て、炎を吐けるサラがいないことに歯がみする。
そんなノームの一歩前にウェンディが立った。
「大丈夫大丈夫。ここはお姉さんに任せなさい!」
「それ、サバンナでも同じ事言えんの?」
「それっておかしくない? だってここ魔王――うわぁぁぁ!?」
何故か腕を組んだレオがウェンディを諫めようとした途端、ウェンディは暴走した夢美の茨に巻き取られていった。
「言ってる場合か。レオ、一時退却だ!」
「GRRRRRRRRRRRRRR!!!」
「ぬわ――っっ!!」
レオに逃げることを提案したサタンだったが、理性を失いただのライオンになったレオに襲われ悲鳴を上げた。
「ふぅあぁぁぁ……うるさいなぁ、もうどうにでもなーれ!」
混沌とした状況の中、目を覚ました林檎があくび混じりに魔法を発動させる。
すると、魔王城を覆っていた茨が消え去り、全員が元通りの状態で玉座の間に立っていた。レオも人間の姿になった状態になっている。
「あ、全部直った」
林檎の一言でこのアニメーション動画は締められる。
動画チェックのため、一連の流れを確認したレオ達は神妙な面持ちで呟いた。
「カオスだな……」
「カオスだね……」
「カオスだよねー……」
ノリと勢いしか感じない動画内容にレオ達は絶句していた。
そんな中、レオは真顔でサタンへと尋ねる。
「俺、最後のシーン以外全部ガチライオンだったんだけど、本当に大丈夫かこれ?」
「大丈夫ですよ。いつものアニメーション動画に比べればかなりまともな方ですから」
「これで!?」
魔王軍チャンネルのアニメーション動画のノリはいつも混沌としている。
あまり動画を見たことがない夢美は、これでまともな方と聞いて驚いたように叫んでいた。
「くくっ……さっすが魔王軍だねー」
いつも魔王軍の動画をチェックしていた林檎は映像を見返して、楽しそうに笑っていた。
「さて、ゲームの方も収録していきましょうか」
「今回はボードゲームだったよねー」
魔王軍チャンネル側では基本的にゲームのオフコラボ動画は上がらない。
何故ならば彼ら演者とプレイヤーは別だからだ。
そのため、今回レオ達がコラボするに当たって選ばれたのはボードゲームだったのだ。
「それじゃ、収録を始めましょう」
ゲーム収録用のスタジオに移動すると、サタンのかけ声によって早速収録が始まった。
「魔王軍の諸君! サタン・ルシファナだ。今回はオフコラボだ!」
「いやぁ、楽しみっすねー」
「オフコラボなかなか出来ないから楽しみだなぁ」
「それでは、ゲストのお三方です!」
ウェンディのかけ声と共にレオ達の立ち絵が表示される。
「どうも皆さん、こんばん山月! にじライブ三期生の獅子島レオです!」
「こんゆみー、同じくにじライブ三期生茨木夢美でーす」
「おはっぽー、にじライブ三期生の白雪林檎だよー」
立ち絵の表示と同時に、レオ達はお決まりの挨拶をして登場する。
「というわけで、にじライブ三期生のばけものフレンズが我が魔王軍に来てくれたぞ!」
「「「わ―――!」」」
レオ達の登場に魔王軍のメンバーは、心なしかいつも以上にはしゃいでいた。
「さて、今回やっていくのは〝インサイダーゲーム〟だ」
「魔王様、インサイダーゲームって何すか?」
頭にクエスチョンマークを浮かべるフィアに、サタンは懇切丁寧に説明を始めた。
「まあ、簡単に説明するとウミガメのスープと人狼要素を合わせたようなゲームだな。流れとしては、それぞれ役職カードを配り、全員が目を瞑る。マスターだけが山札をめくりお題を確認し、次にインサイダーがお題を確認する。そして制限時間五分でお題を当てるのだ。その次に、マスター以外に答えを知っている者――つまりインサイダーを見付けるための議論を行い、インサイダーを見付けるゲームだ!」
「魔王様、説明ありがとうございます! それでは早速やっていきましょう!」
ウェンディのかけ声と共にゲームが始まる。
「さて、マスターは……吾輩だな!」
「おお、さすが魔王様!」
今回のゲームマスターがサタンだった。
動画の画面上では、後から編集でサタンの頭上にマスターと表示されていた。
「まずは全員が目を瞑った後、吾輩がお題を確認する。その後、インサイダーがお題を確認する。その後、全員目を開けてゲーム開始だ!」
ゲームマスターであるサタンとインサイダーの者がお題を確認した後、ゲームが開始される。
「それは場所ですか?」
「違うな」
「それは物ですか?」
「違うな」
「それは概念ですか?」
「そうだな」
まずは全員が当たり障りのない質問をしていき、答えの幅を絞っていく。
インサイダーゲームにおいて、答えが出なければインサイダーも含めて全員が負けになってしまう。
そのため、全員が協力して答えを当てにいく必要があるのだ。
「概念かー……じゃあ、それは季節に関係するものー?」
「違うな、季節は関係ないぞ」
林檎はそろそろ的を絞ろうと質問をしたが、それは見当違いの質問だった。
林檎に続くようにフィアが質問を投げかける。
「それは身近なものっすか?」
「そうだな、身近なものと言えるだろう」
肯定が得られたため、今度はノームがフィアの質問に重ねるように質問を投げかける。
「それは現時点で身近なものですか?」
「違うな」
「じゃあ、過去には身近なものでしたか?」
「そうだな」
概念であり、季節に関係なく、過去には身近と言えるものだった。
一通り出た情報から、今度はウェンディが角度を変えた質問を投げかける。
「魔王様、それは私達が経験したことのあるものですか?」
「経験……経験かぁ。まあ、○とも言えなくはないな」
少しばかり考え込む様にして、サタンは質問を肯定した。
それに続くように今度は夢美が質問を投げかけた。
「それはAV女優ですか?」
「えぇ!?」
予想外の大暴投とも言える質問に、サタンは目を見開いて素の声で驚いた。
いきなり自分達のチャンネルのノリを始めた夢美を諫めるように、レオは苦言を呈した。
「こら、余所で暴走するな」
「あたしは真面目にやってるっての! あり得るかもしれないだろ!」
「お前、AV女優経験したことないだろ!」
「○とも言えなくないって微妙なラインだから聞いたんだよ!」
「特大の爆弾落とすのやめろ!」
「まーたバラギの失言デッキが増えたよー」
夢美の質問では、この中の誰かがAV女優を経験したことがあるかもしれないと言っているようなものだ。
もちろん、そんな可能性をまともに考えるような視聴者はいないが。
「で、どうなの魔王様?」
「あ、あり得るかもしれんな……」
「「あり得るんですか魔王様!?」」
まさか肯定されるとは思っていなかったため、ウェンディとフィアは同時に素っ頓狂な叫び声をあげた。
二人の反応を他所に、ノームは今まで出た情報を頭の中で整理してさらに答えを絞るための質問を投げかけた。
「可能性はある、か。概念であり、昔は身近なものだった。誰もが経験したことがあると言えなくもない……それは人ですか?」
「そうだ。人だ」
「職業ですか?」
「違うな」
「友達とかー?」
「違うな。結構惜しいぞ」
惜しい。その言葉を聞いたレオは先程の夢美の発言も含めてパズルピースが嵌ったような感覚を覚えた。
「もしかして同級生か?」
「正解だ! ……よくわかったな」
「当てはまる情報を統合して、後は勘だったよ」
正解が出たため、正解までの時間を使ってのインサイダーは誰かという議論フェーズへ移行する。
正解を言ったのはレオのため、最初に行われるのはレオがインサイダーかどうかの判定である。
「まず、レオがインサイダーかどうかという議論だが、正直結構黒だとは思う」
「そだねー。あの状況から答えを導けるのは黒っぽいよねー」
「確かにレオさんはインサイダーかもしれませんね」
「よし! レオ吊ろうぜ!」
レオがインサイダーであるという流れができ始め、夢美は手を叩いてレオを吊ることを提案する。
しかし、それにフィアが待ったをかけた。
「僕は違うと思うっす。レオさんって結構鋭いからあの情報でも答えは導けると思うっす」
「私もそう思います。むしろ、今獅子島さんを喜んで吊ろうとしたバラギさんも怪しいと思います。獅子島さんはどうですか?」
フィアの意見に続くようにノームは自分の考えを述べ、レオへと話題を振った。
「インサイダーは夢美だと思う」
「へへへっ! 苦し紛れの擦り付け乙!」
「お前、前に高校のときの同級生がAV女優になったって言ってたろ」
「ホア?」
レオの指摘に夢美は突然言葉に詰まってしまった。
「一見ふざけてるだけの質問だが、俺に答えを言わせるためのパスだったんじゃないか?」
「スゥ――――…………」
迫真の呼吸。
それによって場の流れは完全に変わってしまった。
「では、決をとるぞ。レオがインサイダーだと思う者は――うむ、いないな。バラギがインサイダーだと思う者は挙手せよ!」
当然、サタンの言葉の後に全員が手を上げた。
「と゛う゛し゛て゛た゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!」
勝つ自信があったのにも関わらず負けてしまったため、悔しそうに夢美は絶叫した。
それから、何回かゲームを行ったが夢美や林檎が頓珍漢な質問をしたことによって答えが出なかったり、とにかくレオ達がゲームを引っ掻き回したことで大盛り上がりだった。
「皆さん、今日はありがとうございました!」
「こちらこそ、楽しかったよ!」
収録も終わり、スタジオの入り口までレオ達を魔王軍のメンバーが見送りに来ていた。
「ねえ、フィアちゃんって何歳なの?」
「今年で二十一です!」
「おぉう……若いなぁ」
「バラギさんも若いじゃないですか!」
「あはは、ありがとね」
「ふぅあぁぁぁ……疲れたー……」
フィアと夢美は楽し気に談笑しており、その横ではノームが眠そうにあくびをしていた。ノームは今回のコラボでかなりフォローに回っていたため、いつも以上に疲れていたのだ。
「あ、あの、白雪さん! 良かったら、その、サインを……いただけ、ないでしょうか?」
「全然いいよー。宛名は本名の方がいい?」
「そ、それでお願いします! 私、
「ほいほーい。日和ちゃんへ……っと」
林檎のファンであるウェンディは色紙とサインペンを林檎へと差し出していた。
林檎も自分を応援してくれる存在は大切にしているため、快く色紙にサインをした。
「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛! ありがとごじゃます!」
「何かバラギみたいで親近感湧くなー」
サインを受け取ったウェンディは、まひるを前にした夢美のように濁った声で狂喜乱舞していた。
こうしてにじライブと魔王軍のコラボ収録は何事もなく無事終了した。
後に魔王軍チャンネルに投稿された動画は盛り上がり、その後も魔王軍のメンバー個々とのコラボ企画も増えていくのであった。
インサイダーゲームはある程度人数集まってやると楽しいですよ。