Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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【超新星】にじライブEnglish始動!

 にじライブEnglishから一人の海外ライバーがデビューした。

 ライバーの名前は星野ミコ。

 滅亡寸前の星から一人用の流れ星ポッドに乗って地球へと降り立った宇宙人という設定だ。

 金髪碧眼にピッグテール、星形の髪留め、ユニオンジャックのパーカーが特徴的な幼い女の子だ。

 初配信の前、ミコは「chu♥」というツイートをしており、配信開始と同時に投げキッスをしてすぐにローディング画面を出すという演出で一気に視聴者達の心を掴んだ。

 あざといという声もあったが、むしろそこがいいという声の方が圧倒的に多かった。

 

 そのままの勢いでミコは勢いを増して伸び続けた。

 

 ミコが爆発的に伸びたのは、偏に視聴者のほとんどが英語圏の人間だということが大きいだろう。

 日本人と一部の熱心な海外ファンを対象とするのとは違い、英語圏の人間を対象とした場合は母数が圧倒的に違う。

 また海外の視聴者は〝日本産の海外向けVtuberコンテンツ〟というものを望んでいたこともあるため、彼女の人気は必然とも言えた。

 担当イラストレーターが今人気の夢美と同じということもミコの追い風になっただろう。

 そんなミコだが、彼女が伸びているのは環境的要因だけではない。

 彼女自身、ライバーとしての能力が非常に高かったのだ。

 思い出話は全て宇宙にいた頃の話に置き換え、デビューしてからすぐはリアクションをとりやすいリズムゲームをプレイした。

 自慢の歌唱力を活かした歌枠も高頻度で行っており、日本人視聴者に向けてたまに日本語でアピールすることも欠かさなかった。

 こうした全ての歯車が噛み合ったことによりミコの登録者はたった半月で四十万人を超える快挙を成し遂げたのだった。

 

「Hello! Appeared on a shooting star! I’m Miko Hoshino!(こんにちは! 流れ星に乗って登場! 星野ミコです!)」

 

[Hi Miko!]

[Hello!]

[chu♥]

 

 今日もミコの配信上のコメント欄のほとんどは〝海外ニキ〟だ。

 たまにチラホラと見かける日本語のコメントを拾っては、片言の日本語を披露してウィンクをする。

 

「ドウモ、ミコデース。日本の人も楽しんでクダサーイ」

 

[あ゛っ]

 

 こうして今日もまたミコの魅力に陥落する日本のオタクが増えた。

 そんな大量の英語コメントの中にたまに見かける日本語コメントだが、今日は珍しい人物からの日本語コメントがあった。

 

[茨木夢美:ミコちゃん、かわいい]

 

 英語が全くわからない夢美であったが、自分を推しているライバーである以上は見ておこうという気持ちでミコの配信を見ていたのだ。

 ついでに少しばかりのファンサービスと思い、普段はコメントをしない夢美であったが、今回は珍しくコメントを書き込んだのだった。

 そのコメントを目にしたミコは目を見開いて絶叫した。

 

「M゛y゛a゛a゛a゛a゛!?」

 

[Lol]

[Lol]

[Lol]

 

 聞いたことがないようなミコの絶叫を聞いたことで、コメント欄は〝Lol〟で埋め尽くされる。

 〝Lol〟はlaugh out loudもしくはlots of laughsの略であり、爆笑している様子を表している。

 要するに、日本で言うところの〝草〟と同じ意味である。

 

「バラギ、センパイ!? センパイ! センパイ!!」

 

[Hi BARAGI]

[Welcome GOMIKASU]

[BARAGI]

[BARAGI]

 

 夢美がコメント欄に登場したことで、コメント欄は一気に〝BARAGI〟と〝GOMIKASU〟で埋め尽くされた。

 画面の向こうで夢美はコメント欄に苦笑しつつも、自分のコメント一つで狂喜乱舞しているミコに笑顔を浮かべていた。

 

「The reason I became a liver was BARAGI-SENPAI! So BARAGI-SENPAI is my mother!(私にとってライバーデビューしたきっかけはバラギ先輩なんです! だから、バラギ先輩は実質私のママです!)」

 

[Lol]

[Lol]

[Lol]

 

 ミコにとって夢美は自分がライバーになろうと思ったきっかけだった。

 そのきっかけである夢美が自分の配信を見にきてくることが何よりも嬉しかったのだ。

 この配信上でのやり取りはすぐに切り抜き動画としてあげられ瞬く間に拡散された。

 袁傪や妖精の間では「バラギがママならパパはレオ君だな」と話題になり、その情報は事務所側も把握していた。

 さっそく妙案を思いついた四谷はレオと夢美にある提案を持ちかけた。

 

「家族コラボをやりましょう」

 

「「家族コラボ?」」

 

 レオは今度にじライブ公式チャンネルで始まる歌番組の打ち合わせ、夢美はCD発売イベントの打ち合わせで事務所に来ていた。

 ちょうどいいタイミングで事務所に二人がいたこともあり、四谷はレオと夢美に声をかけたのだった。

 

「ええ、お二人は幼馴染のてぇてぇライバーとして名をはせています。ここに娘役のライバーを投入すれば、二人を〝夫婦〟として扱うことに何の問題も生じなくなります」

 

 以前からレオと夢美は夫婦と呼ばれることも多かったが、それはカプ厨による呼称で、過度のカップリングを嫌う者からは少しばかり嫌厭される呼び方でもあった。

 レオも夢美も視聴者からカップル扱いされることについては特に何とも思っていないが、他のライバーに迷惑をかけないように、他のライバーとのコラボのときは控えるように言明していた。もちろん、まひると林檎に関しては例外である。

 

「夫婦っていうよりは両親だな」

「何か面白そう!」

 

 視聴者も事務所もライバーも公式設定としてレオと夢美を夫婦として扱えば、彼らの関係に文句を言う人間を今まで以上に封殺できる。

 レオも夢美も四谷の提案にはノリ気だった。

 

「ミコちゃんは何て言ってるんですか?」

「そりゃもう満面の笑みでOKしてきたわ」

 

 こうしてレオと夢美、ミコの家族コラボ計画が立ち上がった。

 

「そうと決まったらミコちゃんに連絡!」

 

 興奮した様子で四谷はさっそくミコへと連絡を入れた。

 そんな四谷を見てレオと夢美が苦笑していると、スタジオ側から事務所に入ってきた魔王軍チャンネルのウェンディが目に入った。

 

「あれ、ウェンディちゃん?」

「あ、バラギさん。それにレオさんも! 先日はありがとうございました!」

 

 ウェンディはレオと夢美を見付けると、笑顔を浮かべて挨拶をしてきた。

 

「どうしてにじライブのスタジオに?」

「今日はオフコラボだったんだよー」

 

 ウェンディの後ろからひょっこりと林檎が現れる。

 以前行った魔王軍チャンネルでのコラボ動画により、三期生と魔王軍はここでもコラボをするようになった。

 バーチャルリンク側はサタンやサラ以外のメンバーも生配信でのコラボを行うことに難色を示したが、コラボ相手はVtuber界の覇権企業とも名高いにじライブのライバーである。

 くれぐれもキャラを遵守するようにという厳命こそあったものの、バーチャルリンク側はウェンディ、フィア、ノームの生配信コラボも解禁したのだ。

 

「やー、取れ高たっぷりで楽しかったよー」

「こ、こちらこそ、また林檎さんとコラボ出来るなんて光栄です!」

「おっ、嬉しいこと言ってくれるねー。じゃあ、今度はApple Radioにゲストとして来てよー」

「行きます! たとえ何があろうとも命を懸けて絶対に出演します!」

 

 鼻息荒く林檎の提案に頷くウェンディ。

 配信中、彼女は大人のお姉さんというイメージを崩さず、林檎の前で限界化しそうになるのを堪えていた。

 また生配信で話すことになれていなかったため、たどたどしいところはあったものの、そこは林檎がうまくカバーしてキャラを崩さず、笑いへと昇華させていた。

 

「何か、コラボの輪が広がってくみたいでいいね」

「そうだな。カラオケ組のコラボ頻度も上がったし、フィアさんもノームさんも赤哉先輩や桃華先輩とコラボしてるし、サラさんも今度サタン君と一緒に〝ハンプ亭道場〟に出るんだっけか」

 

「はい、智花さん――サラさん『今度は絶対コラボするんだー』って、張り切ってましたよ」

 

 二期生であるハンプ亭ダンプのレギュラー番組〝ハンプ亭道場〟は、ゲームのうまいハンプの元へ、もう一人のレギュラーである林檎が道場破りを連れてくるというコンセプトの番組だ。

 この番組はにじライブでも群を抜いて人気のコンテンツと化しており、にじライブ内でも〝ハンプ亭道場〟に出演したいと望むライバーも多い。

 

「いやー、忙しすぎて嬉しい悲鳴が上がっちゃうよー。亀ちゃんがスケジュール管理してくれなきゃキツかっただろうねー」

 

 林檎は多忙な身でありながら、現状をそこまで大変だとは思っていなかった。

 それは亀戸が林檎と相談した上でスケジュールを組んでいたからだ。

 ゲーム配信、ピアノ配信、案件配信、公式番組、これらのスケジュールを亀戸は林檎に無理がない範囲で調節して割り振っていた。

 デビュー当時から林檎に振り回され、その後は彼女を完璧にサポートするために努力を重ねた亀戸のスケジュール管理能力は非常に高かったのだ。

 どこまでも広がっていくコラボの輪。

 

「もっと、企業の枠組みを超えたコラボが広がるといいね」

「ああ、俺もそう思うよ」

 

 その片鱗を見た気がしたレオと夢美はお互いに笑い合うのであった。

 


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