ハンプと林檎が格闘ゲームで戦っている3Dアニメーションが流れ始める。
接戦だった戦いだが、じわじわ体力を削られて負けた林檎は悔し気に歯噛みすると、両手に魔力を集中させて魔法陣を浮かび上がらせた。
最後にハンプに向かって林檎が魔法を放つと、爆発のエフェクトと共にタイトルロゴが表示される。
「「ハンプ亭道場!」」
[きちゃ!]
[一億年待ってた]
[い き が い]
プレミア公開された動画にはいつも以上に視聴者達がコメントを書き込んでいた。
元々にじライブ屈指の人気番組である〝ハンプ亭道場〟だが、今日の内容は初の外部ゲストが来るとだけ告知されていた。
そのゲストとは魔王軍チャンネルの人気コンビ、サタン・ルシファナとサラ・マンドラなのではないかと、まことしやかに噂が流れていたのだ。
オープニングが終わると、恒例の小芝居の時間が始まる。
ハンプ亭道場と書かれたゲーム機が大量に置いてあるハンプの道場。
そこでハンプは今日もコントローラーを握っていた。
「今日もまた哀れな子羊を導いてしまいましたぞ。自分の才能が怖いですなぁ」
WINと表示されるゲーム画面にハンプは満足げな表情を浮かべた。
勝利の余韻に浸っていられたのもつかの間、彼の背後にはいつの間にか室内に侵入していた林檎が立っていたからだ。
「おはっぽー、今日も道場破りを連れてくるよー」
「相変わらずですな白雪殿。もはや何も言うまい……」
[不法侵入になれてて草]
[白雪の魔法は便利だなー(白目)]
[いつもよりも導入雑で草]
本来、この導入はもっと二人のやり取りがあるのだが、今日の動画ではそれは短めに作られていた。
「それじゃ呼ぶよー。召喚!」
林檎が目を閉じると、両手から光が溢れる。
床に二つの魔法陣が浮かび上がると、そこから派手なエフェクトと共にサタンとサラが登場した。
「ふははははは! ついに吾輩がこの道場に降臨してやったぞ!」
「ガッハハー! 魔王軍が誇る最強戦力、サラ・マンドラ見参ダゾ!」
[サタマンドラきちゃあああああ!]
[やっぱり魔王軍とのコラボだったか!]
[魔王軍が全身トラッキングとは珍しい]
[このために俺は生きてた]
高笑いと共に登場した魔王軍の二人。
期待通りのゲストの登場に、視聴者達は大盛り上がりである。
「うおおおおお!? まさかの異世界召喚ですと!?」
「ま、私にかかれば異世界の魔王を召喚するのも容易いもんよー。というわけで、今日のゲストは魔王軍チャンネルの魔王様とサラちゃんでーす!」
[よくやった白雪!]
[異世界召喚できてえらい]
[相変わらずハンプのリアクションがオタクで草]
林檎がゲストの紹介をすると、サタンとサラは段取り通りに自己紹介をした。
「にじライブの諸君! 魔王軍チャンネルの魔王サタン・ルシファナだ! 今日は宜しく頼むぞ! 粉骨砕身の気持ちで臨ませてもらおう!」
[尊大に見えて礼儀正しくて草]
[魔王様、あまり無理はなさらず]
[どうしても滲み出る良い人感]
[これは人間側も下につきたくなりますわ]
魔王らしく口調こそ尊大ではあるが、ゲストとして全力で収録に臨む姿勢が滲み出ていることでコメント欄はいつものようにサタンを温かく見守っていた。
「みんあ元気かァ!? ワタシは魔王軍が最強の四天王サラ・マンドラ、ダゾ! 今日は玉座の間に座りすぎてゲームの腕が鈍っている魔王様の介護にきたゾ!」
[むしろ魔王様は前線にどんどん出てる気がするんだが……]
[飛び跳ねてるサラちゃん可愛すぎかよ]
[動き回るサラちゃん見れただけで価値がある]
[ありがとう、本当にありがとう……!]
元気いっぱいに飛び跳ねているサラを見て、魔王軍チャンネルからやってきた視聴者達はコメント欄で感謝の気持ちを伝えていた。
全身トラッキングを使用すると、現実の肉体での動きがモデルに反映されるため、そこに本人がいるという実感がより得られるのだ。
サラが自己紹介を終えると、サタンは彼女を小バカにしたように言った。
「はっ、できれば優秀な補佐官であるウェンディを連れてきたかったところだが、あいつは人間側の元老院との交渉の場に赴いているからな。今日のところはこのアホマンダーで我慢してやろう」
「おっ、やんのか魔王様! もちろんワタシは抵抗するゾ! 拳で!」
[拳でwww]
[サラちゃんまでにじライブに毒されてるwww]
[貴重な常識人が……]
[よくコラボする三期生、責任を取りなさい]
両手の拳を打ち付けてネットで流行った〝拳で抵抗する21歳〟のポーズでサタンに迫った。
もちろん、これは台本通りのため、サラが自発的にやっているわけではないが、サラは台本を読み込んだ上で構成作家に感心していたので、感性は段々とにじライブに毒されていることは否めなかった。
「とんでもねぇのを連れてきましたな……ですが、異世界からの挑戦受けて立ちましょうぞ!」
勇ましくハンプが魔王軍の挑戦を受けると宣言したそのとき、サラがまき散らした炎が道場に燃え広がっていた。
「って、オイィィィィィ! 道場が燃えてますぞ!」
「で、出たー! オタク君のツッコミだー!」
「笑ってないで消火してくだされ!」
「ほいほーい!」
[いつもの道場破壊]
[ログボ]
[相変わらず白雪の魔法万能で草]
林檎が魔法で燃え広がった炎を消したところで、林檎は本題に入る。
「さて、道場も復活したし道場破りだー!」
「道場を壊して直して、道場破りとはこれ如何に……」
[草]
[破るために直すという狂気]
[破りたかったが燃やしたくはなかった]
「やっておしまい魔王様!」
「何故貴様が仕切っている焼き林檎!」
「いいじゃないカ、魔王様。魔王様並みにゲームのうまい林檎がいれば百人力ダゾ!」
「む、まあ、サラがそう言うのならば仕方あるまい」
[さりげなく魔王様の実力を認めててすこ]
[サタマンドラてぇてぇ]
[白雪の周りにはてぇてぇ力場でも発生しているのか?]
さりげなくお互いを認め合うような発言に、コメント欄が盛り上がる。
普段、動画内で喧嘩ばかりしているサタンとサラだが、こうしてたまにお互いを認め合うようなことを言ったりするため、このコンビは人気が高かった。
生配信だと特にそれは顕著に現れる。
サタンは普段からフォローしてくれるサラを信頼しているし、サラもチームを引っ張っているサタンを信頼しているのだ。
「いやー、良きてぇてぇを補充したところで、道場破りじゃー!」
林檎が指をパチンと鳴らしたことでキラキラしたエフェクトと共に画面が切り替わる。
表示されたのは、サタンやサラもよくプレイしているモンスター育成ゲームの初期の据え置き型のシリーズだ。
このゲームは子供の頃なら誰もが遊んだことのあるゲームだろう。
「おお、ポケスタですな!」
「64のコントローラーか! 懐かしいナ!」
「あー、私はどっちかと言うとキューブとかその後の世代なんだよねー」
「吾輩もこのハードは馴染が薄いな」
「ま、人間界に行ったのも最近だからナー」
「な、なんと……」
[ジェネレーションギャップを感じる]
[ハンプの気持ちがわかって辛い]
[おいやめろ]
このハードの世代だったハンプとサラは興奮したように喜び、その後のハードの世代だった林檎とサタンは薄めのリアクションをした。
ハンプと同様にジェネレーションギャップを感じた視聴者達の中には、心にダメージを負った者もいた。時間とは残酷なものである。
「今回はポケスタ2のミニゲームで勝負だー!」
「くくくっ、吾輩の本気を見せてやろう!」
「全力でいくゾー!」
「返り討ちにしてやりましょうぞ!」
こうして四人での対戦が始まった。
「最初はこれだ!」
林檎が選択したのはサカナのモンスターをジャンプさせてカウンターを叩き、時間内に多く叩けた者が勝つというミニゲームだ。
「ふっ、はねるでポンか。上等ですぞ!」
[クソ懐かしいwww]
[このBGMだけで思い出がこみ上げてくる]
[一人でやり込んだな……パーティゲームなのに]
[おいやめろ]
「では、ゲームスタートですぞ!」
「連打ゲーなら負けないよー」
「林檎、速っ! でも、ワタシだって負けないゾ!」
「くっ、タイミングが!」
このゲームではタイミング良くボタンを押すことがカギとなる。
調子良くボタンを連打していた林檎だったが、ボタンを押す間隔が短かったため、サカナ型モンスターのジャンプの高度が足りずにカウントが思うようにされなかった。
「やったゾ! ワタシの勝ちダゾ!」
結果は一位がサラ、二位がハンプ、三位が林檎、四位がサタンという結果になった。
このゲームはどちらかというと、コツを知っているかどうかが大事なのだ。
経験者であるハンプとサラが上位に来るのは必然とも言える結果だった。
「あれあれー? ゲームがうまい魔王様は何位ですかー?」
「うがあぁぁぁ!」
「白雪殿、私そっちのけでゲストを煽らないでくだされ……」
[この焼き林檎、実にイキイキしている]
[煽るのは呼吸と一緒って言ってたからなw]
[お労しや魔王様……]
それからもゲームは盛り上がり、経験者であるサラとハンプが有利なまま進んだ。
舌を伸ばせるモンスターで回転寿司をとり得点を競い合うゲームでは、サラの勝利。
「えっ、なにこれわさび!?」
「ふっはっはっは! ざまあみろ! ぬあっ、吾輩もわさびだと!?」
「あ、うにもらいダゾ!」
「む、サラ殿やりますな」
妖精型モンスターが指を振る向きを記憶するゲームでは、林檎の勝利。
「記憶力には自信あるもんねー」
「クソ! 最後の難しすぎるだろ!」
「魔王様、最後適当に押しすぎダゾ……」
「昔は覚えられたんですがな……」
それからもハンプとサラの優勢は変わらなかった。
ラストのヘビ型のモンスターを発射してモグラ型のモンスターに入れるという輪投げゲームではサタンとハンプの接戦となっていた。
「サラちゃん、飛ばしすぎだってー」
「むぅ、昔から苦手なんダゾ」
「あ、クソ! ハンプ貴様! 俺が狙っていたところを!」
「はっはっは! これも戦略ですぞ魔王様!」
接戦となったことで、ハンプはサタンが狙おうとした的を先にとるという戦法に出た。
それを見た林檎は呆れたようにハンプへと告げた。
「そんな陰キャ戦法するからキャンプファイヤーで誰も一緒に踊ってくれないんだよー」
「……うぐっ」
ハンプの顰めっ面を見た林檎はニタァと意地の悪い笑みを浮かべる。
「ちゃらららららら~♪ ちゃらららららら♪」
「オクラホマミキサーはやめろぉ!」
[精神攻撃で草]
[やめてくれ、それは俺にも効く]
[トラウマ音楽]
学生時代、後夜祭で誰ともフォークダンスを踊れなかった悲しみを思い出したハンプは大いに動揺した。
ハンプの点が露骨に入らなくなったことで、林檎はさらにハンプを煽る。
ちなみに、これは台本にない流れである。
「おやおやー? 急にエイムがゴミになりましたねー」
「ぐぁ……その不快な鼻歌を今すぐ止めるのですぞ!」
「……あれ、魔王様?」
「……何も言うなサラ」
[あっ]
[まさか魔王……]
[空気悪くね?]
ハンプと同様に狙いがブレているサタンに、何とも言えない空気が流れる。
それからサタンは学生時代にあった出来事を設定に合わせて語った。
「魔王になる前、人間界に潜入していた時期があってな。優しいと思ってた先輩に揶揄われてな……」
「ん?」
[お労しや魔王様……]
[魔王様もこっち側だったか]
[焼き林檎が煽らない辺りガチ感がやばい]
サタンの語った思い出に、首を傾げた林檎は何かを思い出したように冷や汗を流す。
流れが完全にアドリブになったが、せっかくだからとサラもこの流れに乗ることにした。
「ハンプ、キャンプファイアーしたいなら燃やすゾ?」
そして、サラがわざとらしく手を掲げると、炎のエフェクトと共にまた道場内が燃え始めた。
「あぁぁぁ! また燃えてますぞぉぉぉ!」
「ちゃらららららら~♪ ちゃらららららら♪」
[オクラホマミキサー鳴りやんでなくて草]
[やったねオタク君、キャンプファイヤーだよ!]
[何だろう、魔王軍チャンネルのカオスなノリが伝染してる気がする]
結果、このゲームでの勝者はサラとなり、総合での勝利数はサラが一番多い結果となった。
その後、二本取りで行われた後半の収録内容は一週間後に公開され、レンタルモンスターを使用したスタジオでの対戦はサタンが優勝した。
そして、ガチの対戦があったというのにそこにはサタンの相棒であるポンバーの姿はなかった。
ダイパリメイク嬉しい