Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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【にじライブRecords】初の家族コラボの前に別の形の家族

 毎週生放送で行われる音楽番組〝にじライブRecords〟。今日もレギュラーであるレオと赤哉は慣れたしゃべりで進行をしていた。

 男性ライバー二人による公式番組。

 レオは言わずもがな、赤哉のトーク力も高いこともあり、レギュラーに女性がいないというのに、この番組は人気だった。

 ちなみに、お互い相方がにじライブを代表する狂人のため、この二人の組み合わせは〝コミュ強人外苦労人コンビ〟とも呼ばれていたりする。

 

 今日のゲストは魔王軍チャンネルの土の四天王ノーム・アースディだ。

 ノームは、大地の魔獣という設定で、茶色い髪と獣耳、ふさふさの尻尾が特徴のVtuberだ。

 そして、何よりもレオとキャラクターデザインを行ったイラストレーターが一緒という縁があった。

 レオとノームは髪の色も同じで並ぶと兄妹みたいに見えるということもあり、この組み合わせもまた望まれていたのだ。

 

「というわけで、今日のトピックはこちら!」

 

 レオのコールと共に画面上に先週発売されたアルバムのジャケットが表示される。

 

「各ライバーのオリジナル曲を収録したアルバム〝Magic Time〟発売! ということで、ね。待望のアルバム発売ですね」

「ええ、かぐや先輩にまひる先輩のソロ曲はもちろん、今までなかった組み合わせのデュエット曲も収録してますし……そう俺と赤哉先輩の曲とかね!」

 

[露骨な宣伝で草]

[共鳴はかっこすぎる]

[この二人こんなに相性いいとはなぁ]

[煽林檎といい、公式番組見据えて作ってたろw]

 

 レオと赤哉の曲である〝共鳴〟は歌声で殴り合うような力強さが特徴的なロックナンバーだ。

 〝にじライブRecords〟のメインテーマとしても使用されているこの曲はアルバムの中でもとりわけ人気の高い曲だった。

 

「本番前にノームさんはもうこのアルバムを購入したって言ってたけど……」

「うん、買ったよ。やっぱり〝イキイキフレッシュ煽林檎〟が何度もリピートしちゃってるくらい好きかな」

「にじライブ内でも流行ってると思ったけど、今日打ち合わせのときにノームさんが口ずさんでたときはとうとう箱外に伝染し始めたと思って戦慄したよ」

 

 ハンプと林檎の公式番組でもある〝ハンプ亭道場〟の主題歌でもある〝イキイキフレッシュ煽林檎〟は、可愛らしい声で歌い上げながらも歌詞は人を煽っているという、林檎を体現したような曲だった。

 

「まあ、でも一番好きなのは共鳴かな」

「おっ、さすがはゲスト! わかってますねぇ」

 

 ゲストとして満点の回答を赤哉がいじると、ノームは慌ててそれを否定した。

 

「ち、違う! あっ……いや、違うよ? 本気で一番好きなんだよ?」

 

[ん?]

[ちょっと素が出てるw]

[ノームちゃん可愛い]

 

 うっかり素が出たノームだったが、すぐに元の口調に戻すとしっかりと赤哉の言葉を否定した。

 

「かっこいい曲ってこともあるけど、ノームはあかレオの組み合わせが最高にあがるんだ」

 

[えっ、それって……]

[あかやん×レオ君]

[そっちの人だったか]

[これは腐葉土]

 

「わた――ノームは相棒が好きなだけ!」

 

 うっかり腐女子疑惑をかけられそうになり、ノームはキャラであるしっかり者感を崩してコメントを否定した。

 そんな中、赤哉は軽く咳払いをすると、相棒という単語で連想される眼鏡の刑事のモノマネをした。

 

「亀山君!」

「ぶふっ!?」

「あははは! 赤哉先輩めっちゃ似てますね! あっ、それと今は冠城君ですよ」

 

[右京さんで草]

[めっちゃ似てるwww]

[違う、そうじゃない]

[レオ君のツッコミもズレてる]

[この番組、生放送ってだけあってやりたい放題してるなぁ]

 

 いつもはフォローに回ることの多いレオと赤哉であるが、この番組で組んだときはお互いに男子特有の悪ノリが顕著に出ていた。

 

「僕としたことが……今の相棒は獅子島君でした」

「まだ続けるんですかそれ!」

「さすがにそろそろ話題を戻しますか………………亀山君!」

「ふっ、くくっ……!」

 

 話を戻すと見せかけて再びのモノマネ。

 笑いの波が引いたタイミングでの赤哉からの不意打ちにノームは再び笑い出した。

 

「ちょっと赤哉先輩! ノームさん笑いすぎて死にかけてますよ! そろそろやめましょうよ…………特命係の亀山ァ」

「ぶふぅっ……! な、何で……そっち……!」

 

[草]

[レオ君までwww]

[ノームちゃんいじめないであげてwww]

[傍から見てると勢いだけなんだよなぁ]

[この中身のない勢いだけのノリすこ]

[普段は聖人苦労人枠なのに、この二人のときだけ悪ガキなんだよなぁ]

[だが、そこがいい]

 

 レオも赤哉の悪ノリに乗っかって、別の登場人物のモノマネをした。

 赤哉を諫めると思いきや、予想外のモノマネが来たことでもはやノームは目から涙を流すほどに笑い転げていた。

 

「「最後に一つだけ」」

 

「ぶっ、くくくっ…………ひぃひー……」

 

[ノームちゃんめっちゃツボってる]

[やめたれwww]

[こんなに笑う子だったのか]

[切り抜き確定]

[ひぃひー↑]

[ひぃひー↑]

[ひぃひー↑]

 

 それからも隙を見てはノームを笑わせながら番組は進んだ。

 この番組では、公式楽曲紹介やおすすめの曲、ライバーの新着歌ってみた動画の紹介など、音楽に関わるコンテンツを配信している。

 しかし、ランキングだけは数字が関わってくるため、視聴者同士の争いに発展しかねないため、この番組では行っていなかった。

 そんな中、今回はゲストのノームがいるということもあり、魔王軍チャンネルの歌動画の話題にも触れていた。

 

「いやぁ、やっぱりノームさんの歌声は痺れるよね。優しい声音でありながら、ビシっと決める時はかっこいいし、いつか〝けもみ家〟的な感じでコラボしてみたいよ」

「……うん、そうだね。いつか絶対コラボして歌いたい」

 

 レオの提案に、ノームは照れているようでどこか寂し気な笑みを浮かべた。

 

[けもみ:うちの子達がコラボして歌うと聞いて ¥12,000円]

 

「はえ?」

「ほえ?」

 

[けもみ先生!?]

[授 業 参 観]

[赤スパ投げてて草]

 

 レオとノームのキャラクターデザインを行ったイラストレーターけもみ。

 有名絵師でありツウィッター以外で絡みがあると思わなかったレオとノームは素頓狂な声を上げた。

 

「「けもみ先生!? ありがとうございます!」」

 

「おっと、ここでママの登場ですね。けもみ先生、赤スパセンキュー! さて、魔王軍の歌ってみたといえば魔王様の〝KING〟が結構人気ですよね」

 

 動揺している二人の代わりに赤哉がしっかりと進行を続ける。

 赤哉が紹介したのは、Vtuberの間でも歌ってみた動画が流行っている曲だ。

 タイトル通り、まさに〝王〟という曲で、玉座に座って口に指を引っかけて歯を剥き出しにしているイラストがよく使用されている。

 まさに魔王であるサタンとは相性の良い曲だった。

 

「魔王様にピッタリな曲ですよねぇ。それに前より歌唱力が上がってる気がするよ」

「結構ボイトレしてるみたい。よく玉座の間でやってるよ」

 

[玉座の間でボイトレは草]

[想像したらシュールだったw]

[ボイトレしたあと、あのイラストのイスに座ってたのか……]

 

 サタンはレオ達と初めてコラボしたカラオケ大会で思うように歌えなかったことが相当悔しかった。そのうえ、カラオケ組のメンバーは総じて歌唱力が高い。

 今後のコラボのことも見据えたサタンはしっかりとしたボイストレーニングを行っていたのであった。

 

「でも、KINGと言えば獅子島君も歌っていましたよね?」

「ええ、実はカラオケ組のみんなで歌おうってノリになりまして……俺はちょっとバタバタしてたこともあって投稿が遅れちゃったんですよ」

 

[そんな裏話があったのか]

[だから畜生イルカも友ちんも和音ちゃんも歌ってたのか]

[一番期間が空いて投稿したレオ君が他の動画ぶっちぎって再生数一位になってるのやばすぎだろ]

[V界のキングよりも再生数上なのやばい]

[それ以前に歌い手押さえて一位になってるレオ君がおかしい]

[おい、数字に関する話はなしだぞ]

 

 レオは他の歌ってみた動画に比べてかなり遅れてこの曲の歌ってみた動画を投稿した。

 それにも関わらず、レオの再生数は爆発的に伸びていた。

 これはメジャーデビューの発表と時期が重なったことも大きいだろう。

 

「カラオケ組もまたコラボするし、わくわくが止まりませんね」

「ええ、赤哉先輩もフィアさんとコラボするんですよね」

「……桃華さんも一緒なのでいろいろと気をつけますよ」

「……それは、大変ですね」

「……ご愁傷様」

 

[一気にお通夜モードになってて草]

[さっきまで男子のノリでキャッキャしてたテンションどこいったwww]

[ノームちゃんまでテンション下がってるwww]

[桃タロスだからしょうがない]

 

 桃華とコラボするという話題が出た途端にその場にいた全員のテンションが急降下した。

 それほど桃華は気を使う他企業とのコラボにおいては爆弾のような存在なのだ。

 ノームの場合は、素がかなり自由奔放なフィアとの化学反応を心配してのものだが。

 ちなみに、後日行われた赤哉達のコラボでは、終始赤哉がフォローに回る地獄の盛り上がりを見せた。

 

 それからつつがなく番組は進行して、放送が終わるとノームは急いで自分の鞄からCDとサインペンを取り出してレオの元へと近づいてきた。

 

「あの……獅子島さん。その、サインいただけませんか?」

「はえ?」

 

 久しくサインを強請られたことがなかったレオは咄嗟に反応できずに間抜けな反応で答えた。

 レオが間抜けな反応になってしまった理由はもう一つある。

 ノームの持っていたCDがSTEP時代のものだったのだ。

 実はノームは学生時代にはレオ――シバタクの大ファンだったのだ。

 レオと初めてコラボで会ったときからずっと気にはなっていたのだが、何せ獅子島レオになる前の活動についての話である。

 さすがに初対面でそれは憚られたのだ。

 

「こっちかー……そっか、ずっと応援しててくれたんだな」

「はい、ずっと、応援してました」

 

 感慨深い表情を浮かべるレオに、ノームは真剣な表情で頷いた。

 

「敬語はいいよ。ノームさんの方がVとしては先輩だし……そういえば、ノームさんの本名って?」

 

 ジャケットにサインを書く前にレオはノームの本名を聞いた。

 

櫻井翔子(さくらいしょうこ)で――だよ」

「翔子ちゃんへっと……はい、これでいいかな」

「わぁ……! ありがとう!」

 

 ノームは表情を綻ばせると、〝翔子ちゃんへ 司馬拓哉〟とサインが入ったCDを大切そうに抱きかかえた。

 それからレオは思い出したようにノームへと告げる。

 

「それと〝けもみ家〟コラボだけどさ。ママから赤スパもらった以上、コラボはしなきゃだよな?」

「そう、だね……日程調整して絶対にやろう!」

 

 レオの言葉にぎこちない笑みを浮かべながらも、ノームはコラボの約束を取り付けるのであった。

 




中身何もない会話がツボると地獄

追記:大変申し訳ございません、精神的な事情で少しの間投稿をお休みさせていただきます(3/4)

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