推しの卒業という大ダメージを受けたわけことで休載しておりましたが、最後は笑って見送ることができました。
レオ、夢美、ミコの打ち合わせはミコの希望もあって事務所で行われることになった。
にじライブでも初の家族コラボというジャンル。
視聴者から家族扱いされる組み合わせは今まであったが、公式で家族コラボという形をとるのはこれが初めてのことだった。
レオはにじライブRecordsの収録、夢美はpretty thornのレッスン、ミコは大学の授業。
それぞれ予定があったため、先に収録が終わったレオが一番に事務所へ到着した。
休憩所でスマートフォンを取り出してワイヤレスのイヤホンを装着すると、最近ハマっているチャンネルの動画を開いた。
『はいどうもこんにちはポンバーです!』
動画内からは特徴的な早口の挨拶が流れてくる。
彼はかつてレオも好きなモンスター育成ゲームのシリーズで好成績を残し、以前からレオもファンだった実況者ポンバーだ。
ある時期からポンバーは動画投稿をしなくなり、U-tubeにもチャンネルはなかったのだが、最近になってチャンネルを開設して動画投稿を行っていた。
好きな実況者が再び動画投稿を始めた。
そのこと自体は嬉しいはずなのに、レオはポンバーの復活に複雑な思いを抱いていた。
池袋で出会ったサタンとポンバー。
ポンバーの動画投稿の途切れたタイミング、ゲームのプレイについて言及されたときのサタンの反応、バーチャルリンクのスタジオがアフレコ現場のようなスタジオだったこと。今まで引っかかっていたことを統合すれば二人の関係は容易に想像できる。
魔王軍チャンネルのVtuberは実況とプレイヤーを分けている。
そして、プレイヤー担当が自分名義での活動に復帰する。その意味がわからないレオではない。
前から薄々嫌な予感はしていたのだ。
サラの突然の体調不良。ノームの複雑そうな表情。
じわじわと真綿で首を絞められるような感覚をレオは感じていた。
「はぁ……」
自然とため息が零れる。
事務所の事情が絡んでいる以上、魔王軍のことに自分が首を突っ込むことは事務所に迷惑をかけることになりかねない。
せめて友人として何かできることはないだろうか。
そんな風に考えていたときだった。
「だーれダ!」
後ろから誰かに突然両目を隠された。
その片言の日本語には聞き覚えがあったため、レオはすぐに目を隠した人物の名を答えた。
「ミコ、だろ?」
「Wow! 正解デース! ……んん?」
レオの回答に満足げ笑っていたミコであったが、レオの表情が優れないことに気がついた。
「浮かない顔してどうしたんデスカ?」
「ちょっと、魔王軍チャンネルのことで気になることがあってな」
「あー……確か最近ウェンディの人が病みツウィートしてマシタネー」
「はえ?」
ミコが何でもないように告げた事実にレオは間抜けな声を零す。
慌ててウェンディの公式ツウィッターを見てみるが、特にそれらしい投稿はなかった。
レオの反応を見たミコはしまった、という表情を浮かべてへたくそな口笛を吹いた。
「な、ナンデモないデスヨー」
「嘘つけ、絶対知ってるだろ」
「うーん……まあ、レオさんならいっか……」
ボソッ呟くと、ミコはウェンディのツウィートの真相について話し出した。
「魔王軍のウェンディさんとは会ったことありマスヨネ?」
「ああ、この間のコラボのときと、白雪とのコラボでこっちに来たときに会ったな」
ミコの言葉でレオはウェンディの姿を思い出す。
林檎の熱狂的なファンである彼女は、ゆるくパーマをかけたふんわりとした長髪が印象に残る女性だった。一見、落ち着きのある女性かと思ったが、林檎相手に興奮したように早口でまくし立てる姿の方がレオとしては印象深かった。
「この〝ひよこ〟って活動休止中の生主。見覚えありまセンカー?」
ミコが見せてきたニヤニヤ動画生放送を主体に活動している〝ひよこ〟の姿はどこからどう見てもウェンディだった。
「ウェンディさんだな……それにフィアさんもいるな」
マスクをしていても、実際に会ったことのあるレオからすれば勘違いするはずもない。
そのひよこの横には〝ミャーコ〟という女性生主もいたが、そちらの方は完全にフィアだった。
「魔王軍のことは最近噂になってたので調べてたんデスヨ。三期生の人達とも仲が良かったから気になってて……」
ミコは好きなライバーである夢美やレオ、林檎と仲の良い魔王軍のメンバーに不穏な空気を感じ取って独自に彼らのことを調べていたのだ。
この件はまだ公にはなっていないが、勘の良いファンの間では話題になっていたのだ。
「そっか、ありがとな。今度カラオケコラボのときにでもサタン君に聞いてみるよ」
「丸く収まればいいんデスケドネー……」
忍び寄る不穏な気配にレオとミコは表情に影を落とす。
そのタイミングでレッスンを終えた夢美が事務所に到着した。
「ごめん、遅くなった! ……って、何か空気重い?」
「M゛y゛a゛a゛a゛a゛!?」
「うわっ、ちょ!?」
夢美の姿を捉えた瞬間、ミコは奇声を発しながら夢美へと抱き着いた。
「ハ゛ラ゛キ゛先゛輩゛た゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!」
「何か夢美がまひる先輩と会ったときを思い出すなぁ」
嬉しそうに夢美に抱き着いているミコを見て、レオは感慨深げにデビュー当時に事務所に夢美がきたときのことを思い出していた。
「えっ、待って! えっ、何!?」
「こらこら、夢美ちゃんが驚いてるでしょ? 陽キャ的スキンシップは押さえなさい!」
夢美がどうすればいいかわからずに戸惑っていると、後ろから四谷がミコを引き剥がした。
「夢美ちゃん、ごめんね。この子、ちょっとスキンシップ過剰なとこあるから」
「じゃあ、その子が?」
「ハジメマシテ! 星野ミコ、デス!」
天真爛漫に片言で挨拶をしたミコの目はまるで星のようにキラキラ輝いている。
それほど夢美に会えたことが嬉しかったのだ。
「えっと、茨木夢美だよ。よろしくね」
目を泳がせながら自己紹介をした夢美に、レオは呆れ気味にため息をついた。
「何で挙動不審なんだよ……」
「いや、だってあたし英語しゃべれないから……」
「私もいるから大丈夫よ。……ま、いなくても大丈夫だとは思うけど」
ミコを見て意味深に呟いた四谷は、仕切り直すように三人を会議室へと連れて行った。
「それじゃ、これから家族コラボの打ち合わせを始めます!」
四谷はそう言うと、早速レオ達の家族コラボについて話し出した。
「まず、ミコちゃんは事務所内でも厳密には所属が違います。見ている層も基本的には海外勢。コラボをする際は獅子島さんか夢美ちゃんのチャンネルでやるのがいいと思います」
「日本語メインでも見たいと思う海外ニキはいるはずですし、そういう人達は俺達のチャンネル登録をしてくれるってわけか」
「ミコちゃんのチャンネルでやろうとしたらあたし達が英語に合わせないとだしね」
それから一通り話し合い、ある程度最初のコラボの流れが決まったところでミコはふと、あることに気がついた。
「コラボの名前ってどうしマスカ?」
「それはリスナーに任せていいんじゃない?」
「まだ手探り状態だからな。俺もひとまず命名はリスナーに任せていいと思う」
バラレオのようにコラボの名称は視聴者が呼んでいるものを採用するケースは往々にして存在する。
何だかんだで普段から情熱を持ってライバーの配信を見ている人間にはセンスのある者も多い。彼らに任せた方がのちに浸透しやすい名前が出るとの判断だった。
こうして家族コラボに向けての打ち合わせはトントン拍子に進み、何事もなく終了した。
「あー、疲れたぁ……」
「そういえば夢美はレッスンのあとだったもんな、お疲れ様。……悪いけど、ミコと一緒に先に帰っててくれるか」
打ち合わせが終わると、三人は帰路に就こうとしたが、そこでレオは気になることがあり夢美にミコと一緒に帰るように伝えた。
「ちょ、あたしミコちゃんと初対面なんだけど!?」
「大丈夫、あの子は日本語かなり喋れるから」
「言語の問題じゃねぇよ! コミュ力の問題だっての!」
「ミコはコミュ力高いから会話はキャリーしてもらえば平気だって」
「……また何か不穏なことでもあった?」
駄々をこねていた夢美は、レオの雰囲気から何かを察して神妙な面持ちになる。
「ああ、四谷さんに確認したいことがあってな」
「わかった。こっちは頑張ってミコちゃんと仲良くなっとくわ。ミコちゃん! レオは予定あるみたいだから一緒に帰ろ!」
「ハイ! 喜ンデ!」
少し緊張した様子の夢美と、今にもスキップしそうなミコが並んで事務所を出るところを見届けると、レオは四谷に問いかけた。
「聞きたいことがあります」
「……魔王軍の方々についてですね」
「ええ」
レオの言いたいことを予想していた四谷は表情を引き締めると、周囲を気にしながら小声で魔王軍の現状について述べた。
「これは内密にしていただきたいのですが、バーチャルリンクは所属Vtuberへのパワハラを行っている疑惑があります」
「やっぱりそうだったんですね……」
信じたくはなかった。
Vtuber好きなレオにとって、バーチャルリンクは好きなVtuberが所属する企業だったのだ。
それが目を覆いたくなるほどのブラック企業だったなど、レオにとって受け入れがたいことだったのだ。
「魔王軍のメンバーだけではありません。帝国軍チャンネルやゴブリン放送局のメンバーも裏垢で会社への不満を書き込んでいることが確認されはじめています……おそらく遠からず引退者が出るでしょうね」
それも魔王軍のメンバーの中から、と消え入りそうな声で呟くと、四谷は悔しそうに俯いた。
「にじライブで受け入れるってことはできないんですか?」
「諸星さんは〝状況が動かない限り厳しい〟とおっしゃってました。四期生のオーディションが進んでいる現在で彼らを受け入れるのは定員的に厳しいかと……」
Vtuberにはざまざまな権利がついて回る。
事務所から事務所への移籍をすることは基本的にないといってもいいだろう。
仮に事務所を移るのならば新たにVtuberとしての〝肉体〟を用意する必要があるのだ。
イラストを依頼し、それを専用のソフトを使って表情などの動きをつける。それだけでも、かなりの金額がかかってくるのだ。
「そう、ですか……」
まだ決まったわけではない。
それでもそう遠くない未来にやってくるであろう出来事にレオは肩を落とさずにはいられなかった。
推しの卒業のあとにこの話を投稿するのってどうなのよ、と思わなくもない。