Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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大学は学力がなくても人間関係があれば何とかなる(経験談)


【夢星島】終わらない課題

 夢星島のコラボ名はあっという間に広まり、レオ、夢美、ミコ、それぞれにいい影響を及ぼした。

 ミコはただでさえ勢いのあった登録者数増加の速度が上がり、レオと夢美もそれに釣られるように登録者数が増加していた。

 ミコの勢いもあって、既ににじライブEnglishチームでは新たな海外ライバーをプロデュースする準備もしており、にじライブ自体もさらに勢い付いていた。

 今日も配信を終えたレオと夢美はレオの部屋でのんびりとくつろいでいた。

 

「いい加減テレビくらい買ったらどうなんだ」

「うーん……結構場所とるし、拓哉の部屋いけば42インチのテレビあるし、いっかなーって」

「……まあ、いいけどさ」

 

 レオとしても夢美が自分の部屋でくつろいでいるのは悪い気はしない。

 むしろ、このままテレビを買わずに自分の部屋に来てくれることを密かに願っていた。

 レオがだらしなくくつろいでいる夢美の分の紅茶を入れたとき、ちょうどインターホンが鳴る。

 

「こんな時間に誰だ? ちょっと出てくる」

「いてらー」

 

 レオがドアを開けると、そこには深刻な表情を浮かべたミコが立っていた。

 

「ミコ?」

「助けてクダサーイ!」

 

 半泣きでそう叫んだミコに、レオは何か嫌な予感がしたが、そのまま彼女を部屋に上げて事情を聴くことにした。

 

「それで、一体どうしたんだ?」

「いや、あの……ナンデ、バラギさんがココに?」

「そりゃ幼馴染で隣の部屋なんだし、別に普通だって」

「Huh……?」

 

 ミコはわけがわからないという表情を浮かべたが、自分の状況が切羽詰まっていることもあり、夢美の雑な説明は一旦置いておくことにした。

 

「実は大学の課題が終わらなくて……」

「あー、あるあるだな。提出が明日の一限とかで徹夜しないと間に合わないって感じなんだろ?」

「あたしも夏休みの宿題とか最初の授業の前日までやってなかったし気持ちはわかるなぁ」

「ソーナンデス!」

 

 レオが大学時代を懐かしみながら同意すると、夢美も学生時代を思い出して苦笑していた。

 

「仕方ない、手伝うよ」

「切羽詰まってるんだもんね」

「ありがとござマス!」

 

 レオと夢美が笑顔で協力を申し出ると、ミコは満面の笑みを浮かべた。

 

「それで、どんな課題なんだ?」

 

 レオは手伝いをするにあたってミコに課題の内容を確認する。

 

「製図と模型製作デス!」

「はえ?」

「ホア?」

 

 こうして地獄の夜が幕を開けるのだった。

 

「図面はあたしが引くからレオはミコちゃんの指示通りにスチレンボードを切って部材を作っていって。ミコちゃんはレオが切り出した部材を組み立てて」

 

 ミコの部屋に移動した一同は早速行動を開始した。

 夢美はテキパキと指示を出して、ミコの部屋にある簡易的な製図台に製図用紙を置いて図面を引き始める。

 

「まさか建築系の学科だったとは……ただでさえ忙しいのに、よくライバーになろうと思ったな」

「うぅ……どうしてもライバーになりたかったんデス。あっ、パパ。この壁は五ミリのスチボで作ってクダサイ」

 

 泣き言を言いながらもミコはレオに切り出す部材の厚みを指定する。

 カッターを動かしながら、ふとレオは黙々と図面を引く夢美に目を向けた。

 

「それにしても夢美、図面引けたんだな?」

「一から引くのは無理だよ。今回の課題は模写だから手伝えるだけ。前の仕事柄、図面は読めたからね」

 

 夢美はガラス清掃時代、新築ビルの責任者を任されたこともあり、ビルの管理会社の人間との打ち合わせのため、図面の知識を叩き込まれていた。

 そのため、模写するだけならば可能だったのだ。

 

「新築のビルとの契約で責任者任されるって、かなり会社からは重宝されてたんじゃないか?」

「どうだろ。六年勤めて副主任止まりだったし、そこまでだと思うよ」

「いや、役職持ちの時点でかなり出世してると思うけど……」

「優遇されて副主任って時点でそこまでだよ」

 

 夢美は中小のガラス清掃企業で働いていた。

 業界でも数少ない女性社員ということもあり、役員達からはかなり優遇されていたのだ。

 もちろん、女性というだけで優遇されていたことに対し、夢美の先輩社員や同期からは少なからず嫉妬はされていた。

 

「ゴンドラ免許は持ってるけど、ロープやらないから役職も与え辛かったんじゃない? 知らんけど。新卒採用とかはやらされたけどね」

 

 夢美は現場仕事だけでなく、採用関係の仕事も振られていた。

 そのため業務過多になっていたことを思い出し、うんざりとした表情を浮かべた。

 談笑しながら作業を進める中、レオはたまにはこういうのも悪くないと感じていた――最初の内は。

 

「あっ、ミコちゃん。三スケとって」

「はーい」

「さん、すけ?」

「ママ、そっちにスコヤありませんか?」

「えーと……お、あったあった。ほいさ」

「すこ、や?」

 

 三角形の定規やL字型の定規の受け渡しをしている夢美とミコを見て、レオは頭にクエスチョンマークを浮かべる。

 そんなレオを見かねた夢美は、使用している道具について補足説明をした。

 

「あ、レオ。三スケは〝三角スケール〟の略で、スコヤは正確な直角を確認するための定規ね」

「お、おう……あっ」

 

 専門用語がまったくわからないレオは、夢美の補足説明に引き攣った笑みを浮かべた。

 そして、名案を思いついたとばかりにミコに告げる。

 

「なあ、図面が模写なら上からなぞって痕をつけて、その上から書けば早いんじゃないか?」

「残念デスガ、縮尺が違うので無理デース」

 

 ミコの製図課題は、実際に書く図面とは違う縮尺で印刷された図面をもとに作成しなければいけなかった。

 しかし、レオはそれを解決する案をさらに思いついた。

 

「じゃあ、縮尺を合わせて拡大コピーすればいけるだろ!」

「Oh! It's a good idea!」

「そんなことしたら先生にバレるでしょうが……」

 

 盛り上がるレオとミコに対して、夢美は呆れたようにため息をつく。

 

「縮尺が違う図面は三スケで測りながら引かなきゃズレるんだよ。拡大コピーなんてタダでさえズレてるところがもっとズレるんだからね?」

「図面はダメか……あっ」

 

 夢美に名案を否定されて肩を落としたレオだったが、再び名案を思いついた。

 

「模型の方は短縮できるぞ! 模型忘れましたーって言って提出を遅らせて、後で提出した奴から模型借りればいいんじゃないか?」

「いや、パパ。それはさすがにバレマスヨー」

 

 大学では友人に困ることのないミコのことだ。貸してと言えば貸してくれる友人は多いはず。

 そう思ったレオの案だったが、さすがに一度確認した模型は教師も気づいてしまう。

 そこでレオはさらなる提案をした。

 

「まあ、待て。家の屋根、二階部分、一階部分、土台。これを別々の人間から借りれば行けるはずだ!」

「て、天才デスカ!」

「あんたがどんな大学生活を送ってたか目に浮かぶわ……」

 

 いかにズルをして課題提出を乗り越えるか。

 そんなレオの大学時代の経験が垣間見える案の数々に夢美はこめかみに手を当ててため息をついた。

 

「バカなこと言ってないで、手を動かしなさい」

 

「「はい……」」

 

 結局、夢美の鶴の一声により、レオとミコは模型作成作業に戻るのであった。

 それからはミコが途中で寝落ちしてしまったため、夢美は図面を引きながらもレオに模型作成の指示を出していた。

 黙々と作業を進める中、レオは感慨深そうに呟く。

 

「何か新鮮だな」

「何が?」

「由美子の社会人時代の話だよ」

 

 レオと夢美は小学校で疎遠になってから、ライバーデビューするまでまったく関りがなかった。

 自分の知らない夢美の話を聞けたレオはもっと夢美の話が聞きたいと思っていたのだ。

 

「あたしも拓哉がいかにダメ大学生だったかわかって新鮮だったよ」

「うぐっ……」

「ホント、コミュ力ある奴は得だよねー。ま、それも実力の内って言えばそうなんだけどさ」

 

 レオを揶揄うと、夢美はそう言って小さく笑った。

 何かガラス清掃員時代の話を聞こう。

 そう思ったレオの脳裏に、先日四谷から聞いた話がよぎった。

 

「なあ、前の会社ってブラック企業だったのか?」

「年間休日八十日ちょっとだったし、世間的に言えばブラックだろうね。ただ現場によっては稼働時間五時間くらいで帰れたりしたし、楽な部分も多かったよ。仕事内容の確認も適当なこと多かったし、サボろうと思えばいくらでもサボれたからね」

 

 夢美としては前の会社で嫌なことも多かったが、全部が全部嫌なわけではなかった。

 自分の存在意義を見失って生きていた夢美にとって、前の会社は東京でも低家賃で住めるところを見付けてくれたうえに、洗濯機など生活家電の一部も購入してもらった恩がある。

 不満も多かったが、それと同じように感謝も多かったのだ。

 

「アルバイトの人達も良い人は多かったし、働きやすい環境だったよ。アルバイトなら全然好待遇な環境だったと思う」

「清掃関係ってとにかくブラックってイメージだったから意外だな」

「それは業界の関係上しょうがないよ。人手不足だし、技術職なところあるからさ。でも、あたしがいたとこは業界の中では比較的マシな方だったと思うけどね」

 

 全部が全部嫌ではなかった。

 夢美が時折笑顔を見せながら前職の話をしたため、レオは安堵した表情を浮かべた。

 

「じゃあ、パワハラとかはなかったんだな」

「いや、あったよ?」

「はえ?」

 

 せっかくいい話で終わろうとしていたのに、夢美があっけらかんとした様子でレオの言葉を肯定したため、レオは間抜けな声を零した。

 

「パワハラっていうか……アルハラ?」

「あっ」

 

 レオは夢美が以前話していたことを思い出し、顔を引き攣らせた。

 

「あの会社酒好きな人が多すぎるんだよ。強制参加の飲み会もめっちゃあったし……」

「何ていうか、大変だったんだな……」

 

 疲れた表情を浮かべた夢美に同情するようにレオは声をかけながらも、黙々と模型製作に勤しんだ。

 こうして外が明るくなるまで三人、もとい二人の共同作業は続くのであった。

 




レオ「はえ?」
夢美「ホア?」

ミコ「Huh?」 ← NEW
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