Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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今回はにじライブ側での話となります。


【四期生】ついにデビュー! 期待の新人達

 

 Vtuber業界に激震が走った。

 大人気Vtuberグループ魔王軍のサラ・マンドラの声優が変更になったのだ。

 この一件はネット中で話題になり、各所で炎上騒ぎが起こった。

 当然のことながら、パワハラを認め改善に努めるという声明を出してすぐのことだったため。

 バーチャルリンクは大炎上。

 これには彼岸はなの[結局、ダメだったよ]というツウィートも良い燃料となっただろう。

 過剰反応したVtuberファンやVtuber自身によって、関係ないところでも炎上が起きる。

 まるで大火災が起き、そこから火の手が移っていくような地獄のような状況が出来上がっていた。

 

 魔王軍パワハラ騒動によって発生した火の粉はにじライブにも襲い掛かった。

 つい先日デビューした四期生スター・バッカス、波風メロウの二名の話題が埋もれてしまったのだ。

 バッカスとメロウは一般枠で応募し、見事最終面接を通過した将来有望なライバーだった。

 だが、二人はデビュー直前にこの騒動が起きてしまって動揺してこともあり、うまく実力が発揮できずに初配信を終えてしまったため、あまり話題になることはなかった。

 この件に、にじライブの箱推しである視聴者達は激怒してお気持ちツウィートをしたり、バーチャルリンク公式ツウィッターに突撃したり、にじライブアンチに視聴者のモラルがないと、ここぞとばかりに攻撃されたり、まさに地獄絵図だった。

 

「「はぁ……」」

 

 そんな中でのデビューとなってしまったバッカスとメロウは事務所で項垂れていた。

 本来の実力を発揮できれば、そんなものはライバーとしては言い訳に過ぎないことは二人共よく理解していた。

 生放送主体に活動していくということは、いかなる状況変化の対応力も求められる。

 いくらVtuber界における大事件だといっても、ありのまま自分らしく配信を行わなければいけなかったのだ。

 デビューしたばかりだと言うのに、これからのライバー活動に不安を感じている四期生。

 そんな二人の様子を見ていた一人のライバーがいた。

 

「ほーん……まずは亀ちゃんと飯田さんに相談っと……」

 

 新たに先輩ライバーとなったそのライバーはすぐに行動を開始したのであった。

 暗い話題の続くVtuber界。

 炎上ニュースばかり目に入る中で、視聴者達の目に新たな炎上ニュースが飛び込んでくる。

 

【悲報】白雪林檎、魔王軍パワハラ騒動に気をとられて後輩に全く興味がない!【にじライブ】

 

 定期的に炎上することで有名な林檎が再び炎上したのだ。

 林檎は先日行った雑談配信で魔王軍のパワハラ騒動に軽く触れ、自分の立場では何もできないという歯痒さを語った。

 そのとき、コメント欄に[四期生も可愛そうだったね……]というコメント見てとぼけた声でこう発言したのだ。

 

「ほ? 四期生? えっ、もうデビューしてたん?」

 

 同じ事務所であり、公式で宣伝も大々的にやっていたというのに、まるで興味がないような発言。今度こそ林檎を本格的に炎上させてやろうと、林檎アンチ達はこの発言にほくそ笑んだ。

 

「いや、ごめんよー。私、魔王様達とは仲良かったからショックで、()()()()()()()()()()()()。これから覚えるねー!」

 

 そう言うと林檎は新たにできたバッカスのページを開いた瞬間、爆笑した。

 

「あっはっは! このおっさん誰!? 誰やねん! くくくっ……!」

 

 ページを開く前にどんな可愛い子がくるんだろうなー、と発言していたこともあり、ページを開いて表示されたナイスミドルに林檎は笑いが堪えられなかったのだ。

 

「スターッ、バッカスッ……くくっ、略したらスタバじゃん!」

 

 喫茶店〝浪漫〟を営むマスター。

 会社を辞めて貯金をはたいて長年の夢だった喫茶店を建てたが、客足はそこまで多くなく経営難になったため、空いた時間でライバー活動を行うことにした。

 いつも金銭に困っているため、守銭奴な一面もある。

 この紹介文を林檎は丁寧に読み込み、つど笑いながらツッコミを入れた。

 

「はー……いやぁ、存分に笑わせてもらいましたわー。あなた、伸びますよ」

 

 上から目線で画面の向こうのバッカスにそう告げると、次は波風メロウのページを開いた。

 

「あっ、良かったー。メロウちゃんはおっさんじゃなかったよー。確かメロウちゃんってVacterさんの面接でにじライブの方が向いてるかもって言われてこっちも受けた子でしょー」

 

 波風メロウのページを開くと、林檎はバッカスをいじりつつも、彼女のプロフィールを読み上げた。

 海の世界から陸に上がってきた人魚。

 その美しい歌声に魅了される人間は多く、魔力の籠った歌声を聞いた水夫が石化するほど。

 普段は人間世界に溶け込むためにヒレを足に変形させている。

 

「えー、石化してもいいからメロウちゃんの歌聞きたーい! レオとどっちがうまいか勝負してみてよー」

 

 終始後輩ライバーをいじり倒した林檎。

 V界隈が燃えやすくなっていたこともあり、林檎のこの言動はあっという間に拡散されて炎上したのであった。

 この騒動により、バッカスとメロウの知名度が上がった。

 

 そして、すぐに林檎に対して反応するように二人のマネージャーとなった飯田、亀戸からの指示により、バッカスとメロウは自分なりに考えた上で反応して見せた。

 バッカスは林檎の切り抜き動画と共に[いろんな意味で泣いた]とツウィートしたことにより、バズった。

 彼の投稿のリプライには、林檎の視聴者らしき者達から[誰やねん]というリプライが多く届き、バッカスは配信前の待機コメントを[誰やねん]にすることを高らかに宣言した。

 

 それからメロウの方は、林檎に動画編集を頼み、とある楽曲を歌った。

 イラストも何もない状態ではあったが、それらは全て林檎が編集技術でカバーした。

 ライバーのモデルを動かし、編集で表情を変えることによって単調な映像になることは避けつつも林檎は、自身の配信をこなしながらたった二日で動画を作成した。次の日に彼女の目の下にクマが出来ていたことは言わぬが花というものだろう。

 そして、公開された歌ってみた動画に視聴者達は爆笑の渦に包まれることとなる。

 メロウはまるでオペラ歌手のような歌声を持ち、抜群の歌唱力を誇っていた。

 Vtuber界で歌唱力が高い者と言われれば、七色和音、獅子島レオ、ノーム・アースディの三人の名前が挙がるが、メロウは下手をすればその三人を上回るほどの歌唱力を持っていたのだ。

 どこまでも伸びる高音、強靭な喉から発せられる声量。

 

 どれをとっても一級品の歌唱力でメロウが歌った曲は――自宅に風俗嬢を呼んだら元彼女だったという内容の歌だった。

 

 冒頭から〝チェンジ〟と〝ノーサンキュー〟を連呼するところから始まり、視聴者達は「バチャリンに正面から喧嘩売ってて草」と涙を流しながら笑っていた。

 曲を選んだのはメロウ自身だ。

 彼女は歌唱力に自信があり、和音の所属事務所であるVacterを受けたのだが、その突拍子もない発想や、普段の常識外れな言動にVacter側の採用担当者がにじライブのオーディションを受けることを提案したという異色の経歴を持つ。

 これには採用担当をしている内海も驚いていた。

 いくらライバー同士の仲が良いと言っても同業他社。

 こんな逸材をみすみすライバル他社へ送り込むなど、普通はあり得ない。

 だが、Vacter側は、自分達に〝常識外れの天才〟を万全の状態でプロデュースする能力が足りていないことに鑑みて、いざというときにメロウを守り切れないと判断してにじライブを勧めたのだ。

 またこれによってにじライブ側はVacter側に大きな借りが出来たことになる。

 Vacterは目先の利益だけでなく、今後最高の環境で育ったメロウがVtuber界全体を盛り上げるため、ますます力をつけるにじライブと良好な関係を築くため、このような判断をしたのであった。

 バッカスと同様にバズったことで、メロウは勢いづいて歌ってみた動画で出した曲をどこまで歌えるのかという耐久配信を行った。

 十時間を超える配信の結果、メロウはさらに伸びることとなる。

 それからメロウは〝デリヘル10時間耐久の女〟〝デリヘル芸人〟〝歌唱力で遊ぶ女〟〝恵まれた歌唱力をネタにしか使えない女〟などという異名が付いた。

 本人もツウィッターのプロフィールに[デリヘル10時間耐久の女です!!!]と嬉しそうに追記をしていたことも相まって〝やっぱりにじライブだわ〟と評価されることになるのであった。

 当然、林檎が話題が収まる前に動画を急ピッチで作成したこと、バッカスとメロウが林檎に心から敬意を表して礼を述べるというやり取りをしたことで、林檎の炎上騒ぎはあっという間に鎮火した。

 すっかり炎上も収まったことで、林檎は楽しそうに公式番組ハンプ亭道場の収録に臨んだ。

 

「まったく……お前も無茶をするよな」

「にひひっ、別に大したことないって。何せ私には超有能なマネージャーが付いてるんだから」

 

 今回の一件は亀戸や飯田と話し合った上で決行した、意図的な炎上だった。

 林檎が炎上で話題を集めつつ、四期生の二人を紹介し、それをきっかけに四期生を伸ばす。

 要するに、林檎は自分を着火剤にして、バッカスとメロウの〝ブースターエンジン〟に火をつけたのだ。

 マネージャー陣との連携が取れていなければ加減の難しいやり方だったことは言うまでもないことだろう。

 

「たとえ火をつけても〝ブースターエンジン〟が付いてなければ加速はできない。あの二人が伸びたのは純粋にあの二人にそれがあったからだよ」

 

 林檎のフォローがあったところで、うまい返しや絡み方が出来なければ今回の一件は林檎が損をするだけで終わっていた。

 しかし、にじライブの最終面接を突破するということは何かしらの〝輝き〟を秘めているに違いないと思った林檎は二人の実力を信じて今回の炎上騒ぎを起こしたのだ。

 それはにじライブという事務所への絶対的な信頼ともとれる行動だった。

 

「それでも、白雪は凄いさ。きちんと後輩を導くっていう先輩としての責務を果たしたんだからな」

 

 ハンプは今回の林檎の炎上騒動で、大きく心を動かされていた。

 

「先輩は後輩を導かなきゃいけない存在だ。俺は昔、後輩を導けなかった……あのときのことは今でも後悔してるよ。もっと俺に出来ることはなかったのか、ってな」

「……あれは嫌な事件だったね」

 

 当時の苦悩を思い出し、唇を噛むハンプを見て林檎も痛ましげな表情を浮かべた。

 たとえ当時にじライブに所属していなかったとしても、にじライブという企業を追っていれば耳に入る事件だったのだ。林檎も当然知っていた。

 

「俺はもう後悔したくない。だから、今度は手を伸ばしたいんだ」

 

 ハンプはそう言うと、不敵な笑みを浮かべて言った。

 

「魔王軍はパワハラ騒動で不安よな?」

「にじライブ、動きます」

 

 ハンプ発言の元ネタを知っている林檎は、いつものように、にひひっと笑って答えるのであった。

 

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