Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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【魔王軍感謝祭】王の号令

 重苦しい空気のバーチャルリンクの社長室。

 そこではバーチャルリンクの社長である黒岩とサタンがいた。

 

「松本も、か」

「はい。申し訳ございませんが、これ以上この環境でVtuberを続けていくのは厳しいと感じました」

「わかった。ま、感謝祭まで頑張ってくれ」

 

 社長室でふんぞり返る黒岩からはぞんざいな言葉が投げかけられた。

 黒岩は何もわかっていない。

 彼こそVtuber業界では稀有なレベルの才能の持ち主だということは誰しもが認める事実だというのに、それを容易に手放した。

 それが事務所にとってどれほどの損失か。

 

「あの、辞める身でこんなことを言うのもおかしな話なんですが、その、炎上の件は大丈夫なんですか?」

 

 もはや敵と言っても過言ではない存在と成り果てた黒岩。

 たとえ大切な仲間達を傷つけた存在であろうと、サタンは黒岩のことも心配だったのだ。

 どんな人間であろうとも、自分をここまで大きくしてくれるきっかけをくれた存在。

 そんな黒岩がこのまま潰れていくのはサタンも本意ではなかった。

 

「ふん、何の力もない癖に声だけ大きいオタクがバカみたいに騒いでるだけだ。時間が経てば解決してくれるさ」

「何の力もない……」

 

 サタンは黒岩の言葉を聞いて唇を噛んだ。

 今まで魔王軍が、バーチャルリンクがここまで成長できたのは誰のおかげだと思っているのだろうか。

 支えてくれるファンがいたからここまで来れたのだ。それがわかっていれば、何の力もないなんて言葉出てくるわけがない。

 

「今までお世話になりました。失礼致します」

 

 サタンはここに来てようやく完全に黒岩を見限る覚悟ができた。

 もう、あの人は自分達の敵だ。

 表情を引き締めると、サタンは早速行動を開始するのであった。

 事務所の廊下を歩く姿は何事にも及び腰な青年ではなく――数多の魔物を統べる魔王のような姿だった。

 

 サタンまでもがバーチャルリンクを辞める。

 そのニュースはまたもやバーチャルリンクの炎上騒ぎに薪をくべる結果となった。

 もはやバーチャルリンクの炎上は留まることを知らないほどに勢いを増している。

 事務所はもちろん、二代目声優へのバッシングも勢いを増す。

 公式ツウィッターには、感謝祭のチケットを破った画像を送りつける者も現れ、魔王軍パワハラ騒動はVtuber史に残る大事件として残ることはもはや免れないだろう。

 魔王軍の二代目声優であるサラ役の知念真理(ちねんまり)、ウェンディ役の西畑夏帆(にしはたかほ)、フィア役の髙地伊吹(こうちいぶき)、ノーム役の上田蓮歌(うえだれんか)には申し訳ないことをしたとは思っている。

 それでも、サタンは足を止めることはしなかった。

 事務所の廊下を歩くサタンを遠巻きにバーチャルリンクの社員達が見つめる。

 彼らの口からは心無い陰口がサタンに向けて発せられる。

 そんな中でも、サタンに駆け寄ってくる者達がいた。

 

「松本君、聞いたよ!」

「とうとう辞めるんだって?」

「今まで魔王軍を引っ張ってくれてありがとう!」

「そっか、君も辞めるんだね……」

 

 魔王軍のミニアニメを作成している3Dアニメーションチームのメンバーである。

 魔王軍のデビューから一丸となって頑張ってきた仲間達を見て、サタンは口元を吊り上げて告げる。

 

「ええ、今までお世話になりました……()()()()()()()()()()()

 

「「「「ああ、必ず……!」」」」

 

 サタンの意味深な言葉に3Dアニメーションチームは笑顔を浮かべるのであった。

 それから感謝祭まではあっという間に時間が過ぎ去っていった。

 声優がほとんど変更になり、何が感謝だバカ野郎という声も多くある中、バーチャルリンクは何食わぬ顔で感謝祭を決行した。

 この日のために会場も押さえ、スタッフ総出で準備してきたのだ。

 今更炎上騒ぎだけで止まれないほどにこのイベントには資金と人手を費やしていたのだ。

 現場入りしたサタンは、控室で最初に会ったときよりも疲れ切った様子の二代目声優四人に声をかける。

 

「知念さん、西畑さん、髙地さん、上田さん……あなた達が魔王軍を好きでこの場所に来てくれたこと、本当に嬉しかった。だから、僕の……いや、吾輩の姿をしかとその目に焼き付けよ! 魔王軍とは何たるかをこの魔王サタン・ルシファナ自身が教えてやろう!」

 

「「「「松本さん……!」」」」

 

 サタンは魔王のときの口調で四人に激励を飛ばした。

 そして、あっという間に見つかったサタンの後継である日村紫耀(ひむらしょう)にも声をかけた。

 

「それと貴様も、吾輩の肉体を引き継ぐことになるのだ。よく見ておけ!」

「はい! よろしくお願いします!」

 

 元気よく返事をした紫耀の肩に手を置くと、サタンは控室のドアを開けて叫んだ。

 

「魔王軍、出陣だ!」

 

「「「「はっ!」」」」

 

 威風堂々とした姿で控室を出る五人の後姿を見て紫耀は呆然とした様子で呟いた。

 

「やっぱ、かっけー……同い年とは思えねぇわ」

 

 こうして魔王軍感謝祭が幕を開けた。

 ネットでも有料配信される魔王軍感謝祭は本来想定されていた盛り上がりとは違う盛り上がりを見せていた。

 事務所、そしてサタン以外の四人へのバッシング。

 特に多かったものは[偽物は邪魔、早く魔王様が歌って]というものだ。

 視聴者達にとってはもはやこれは魔王軍感謝祭などではなかった。

 Vtuber界を引っ張ってきた一大コンテンツ魔王軍チャンネルのリーダー、サタン・ルシファナの引退ライブだった。

 視聴者にとって二代目四天王達は、異物でしかなかったのだ。

 

「わかってはいたけど……酷いわね」

「さすがに会場にきてる人達は野次を飛ばしたりしてないですけど……」

「拍手が、まばらだ」

「私達が辞めた影響、こんなに大きかったんだね」

「でも、君達は間違っていない。だから自分を責めないでくれ」

 

 会場に来ていた元魔王軍のメンバー達と元マネージャーの阿佐ヶ谷は、会場の異様な雰囲気に顔を顰めていた。

 会場の誰もが二代目の四天王を見ていない。

 ステージ上で笑顔を振りまく二代目達の心中を思えば、心が苦しくなるのは無理もないことだった。

 そして、四人の歌が終わり次にサタンがステージ上に出てきた。

 その瞬間、先ほどまでとは打って変わって大歓声が会場から巻き起こった。

 そんな中、サタンは目一杯に息を吸い込むと会場の観客、そして画面の向こうの視聴者に向けて絶叫した。

 

 

 

 

「貴様らァ! さっきから何だその態度は!?」

 

 

 

 

[!?]

[!?]

[!?]

[びっくりした]

[急にどうしたんだ魔王様]

[いや、これはキレるでしょ]

[鼓膜ないなった]

 

 有料配信上のコメントでも、突然サタンが大声で叫んだため、驚きのコメントで溢れていた。

 

「さっきからコメントでは偽物だの邪魔だのとぶつくさ言いおって……いいか! 彼女達も吾輩の大切な仲間だ! 侮辱は許さんぞ!」

 

[でも、中身が伴ってないよ?]

[どうせ言わされてる]

[言わされてこんなテンションでキレられないだろ]

[これは本気]

 

 どうせまたバーチャルリンクのくだらない演出だと揶揄するコメントもあったが、サタンの怒りは本物だった。

 揶揄するコメントが多い中、長年のファンはサタンの真意をしっかりと汲み取っていた。

 

「確かに諸君らの気持ちもわからないでもない……だが、今この瞬間、吾輩を支えてくれる仲間は彼女達だ! 今日この日のために一丸となって頑張ってきたのだ! わかったら黙って吾輩の歌を聞け!」

 

[御意!]

[御意!]

[御意!]

[御意!]

 

『御意!』

 

 サタンの一喝でコメント欄も会場も空気が一つになる。

 

「ふふふっ、司君。やるじゃない」

「すごい……」

「やっぱリーダーは違うね!」

「さっすが司」

「松本君、やっぱり君は最高だよ……!」

 

 その様子を見ていた元魔王軍のメンバーは笑顔を浮かべ、眩いものを見るように自分達のリーダーを雄姿を眺めていた。

 サタンはこれから歌う自分の歌に過去、そして未来への思いとメッセージを残すつもりだった。

 手本は姉が見せてくれた。

 あとは自分も同じように思いを込めて歌うだけだ。

 

「「「「魔王様!」」」」

 

 歌に入ろうとしたとき、一度はステージ袖に引っ込んでいた四天王の四人がサタンの元へ駆け寄ってきた。

 

「「「「あなた様の御心のままに……!」」」」

 

 そう言うと、四天王全員が片膝をついて頭を垂れる。

 打ち合わせにない四天王達の行動。

 突然のアドリブ。それを見てサタンは、

 

「貴君らの忠義、しかと受け取った!」

 

 ――獰猛な笑みを浮かべた。

 

「吾輩の魂はもう長く持たない……だから、全身全霊をかけて歌わせてもらうぞ! 覚悟の準備はよいか!? 誇り高き配下共ォォォォォ!」

 

[うおおおおお!]

[うおおおおお!]

[うおおおおお!]

[うおおおおお!]

 

『うおおおおお!』

 

 サタンは事務所との打ち合わせで、イベントで歌う曲はファンタジーのジャンルのアニメの曲を歌うように指定されていた。

 数多の曲の中から、サタンはダークな世界観のアニメのものを選択した。

 異世界転生した少年が死ぬ度に時間を巻き戻し、救えなかった人達を救っていく人気アニメ。そのセカンドシーズンのオープニングテーマをサタンは選択した。

 

「歩き続けた今を消しては~♪ 見ないように塞いだ過去~♪」

 

[リゼロじゃん!]

[二期の方か]

[これは絶対なんか意味があるだろ!]

[異世界転生、死に戻り]

[ペロッ、これは巧妙に隠された転生匂わせ!]

 

 コメント欄では既にサタンの意志を察している者が大勢いた。

 

「め~ざした未来へ、()()()()()()()()()~♪ 辿り着いてみせるから~♪」

 

[カラオケコラボのときとは比べ物にならない歌唱力]

[これが玉座の間でのボイトレの効果か]

[魔王様も努力してたんだな……]

 

 サビに入った瞬間、会場もコメント欄もサタンの歌唱力に度肝を抜かれる。

 カラオケコラボで歌っていたときとは比べ物にならないほどにサタンの歌唱力は成長していた。

 何せ、獅子島レオと七色和音というVtuber界の歌唱力お化けコンビに鍛えられてきたのだ。

 姉に似て一つのことに集中して努力したときの吸収力はサタンの強みだった。

 

「司君、めちゃくちゃ歌うまくなってるじゃない!」

「前はあんなに声伸びなかったのに……」

「まあ、司君だもんね!」

「一緒に歌いたいなぁ……!」

「ここまで成長してるなんて……!」

 

 そのサタンの成長には元魔王軍のメンバーも度肝を抜かれていた。

 

「最後の運命を掴めRealize!!!」

 

『うおおおおおおおおお!』

 

[88888888]

[88888888]

[88888888]

[88888888]

[魔王様万歳!]

[魔王様万歳!]

[魔王様万歳!]

[魔王様万歳!]

 

『魔王様万歳! 魔王様万歳! 魔王様万歳! 魔王様万歳!』

 

 サタンが歌い終わると、会場は今日一番の大歓声に包まれる。

 それほどまでにサタンの歌は圧倒的だった。

 それからは四天王の四人を交えてトークや歌を挟みながら魔王様感謝祭は大いに盛り上がったまま終了した。

 最後のとき、サタンは端的に「別れは言わぬ。ただ来てくれた者達へ最大の感謝を!」と叫んで挨拶を終わらせた。

 ステージから引き上げると、そこには次期魔王である紫耀が花束を持って立っていた。

 

「わざわざ、ありがとう。君も頑張りなよ」

「はい……!」

 

 司は笑顔でそれを受け取ると、涙を流すサタンに激励の言葉をかけた。

 

「「「「松本さん、ありがとうございました……!」」」」

 

 四天王の四人も涙を流しながら司に礼を述べた。

 

 そして、彼女達は理解した。

 

 司がステージを通して伝えたかったこと、それは魔王軍という形だけの居場所に固執するなということだったのだ。

 Vtuberグループ魔王軍チャンネル。

 それは松本司、大野智花、二宮日和、相葉美弥子、櫻井翔子の五人が集まる場所がそう呼ばれるだけであって、形のあるものではなかったのだ。

 二代目声優の者達が好きだったコンテンツ。それは形と場所を変えて新たに生まれようとしていた。

 それをようやく理解したことで、その場にいた全員は改めて最後に大切なことを教えてくれた司に心から感謝したのであった。

 そんな五人に司は思い出したかのように、とぼけた声で告げる。

 

「ああ、そうだ。僕達はさんざん事務所から搾取されていたわけだけど、さ。今度はこっちが搾取する番だとは思わない?」

 

 バーチャルリンクはバカなことをした。

 絶対に怒らせてはいけない人間を怒らせてしまったのだ。

 

「取り立ては君達に任せるよ」

 

「「「「「御意!」」」」」

 

 この瞬間、バーチャルリンクの運命は定まった――彼らにもう未来はない。

 




一応ライブを見ていた黒岩「おー、松本やるやん」(゚σ ゚)ハナホジ
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