Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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【初配信】個性爆発! シューベルト魔法学園 その1

 魔王軍改め、シューベルト魔法学園の五人の初配信までの期間、間を持たせるためににじライブ所属のライバーは全力で彼らの話で盛り上がっていた。

 何故、先日の宣伝動画からデビューまで時間がかかるのか。

 それは、2Dモデルを動かせるようにするまでに時間がかかるからである。

 それも五人分だ。

 どうしても間が空いてしまうのだ。

 そこで各ライバー達は、ツウィッターで魔王軍のときに繋がりがあった者が積極的に絡みに行ったのだ。

 まひるは元サタンである白夜が弟であることについて触れ、夢美は元フィアのリーフェと事務所で会ったときの話をしたり、林檎も元ウェンディであるレインがラジオのゲストとして出演する約束をしていることを話したり、ハンプはサラが元気そうにしていることを雑談配信で伝えていた。

 そして、レオは――

 

「みんな久しぶり! 獅子島レナだよ!」

 

[久しぶりのレナちゃんだ!]

[おい、このメスライオン動くぞ!?]

[新衣装で草]

[黄色いパーカー、夏服、そしてメスライオン]

 

 久しぶりに獅子島レナとして女声歌枠を行っていた。

 レオの女声配信は人気はあるが頻度が低い。

 そのレア度を利用して、レオは新しく妹となった元ノームであるつばさのために歌枠を行っていたのだ。

 

「聞いて~聞いて~♪ 私お姉ちゃんだよ♪ 遊ぼ~遊ぼ~♪ あなたまだ喋れないのね♪」

 

[ワタシノテンシだ!]

[またハニワじゃん!]

[そりゃつばさちゃんはモデルないからまだ喋れないだろw]

[けもみ家てぇてぇ]

 

 レオは好きなアーティストの曲の中でも妹への思いを歌った曲を選んだ。

 

[土佐つばさ:お兄――お姉ぇありがとう! ¥3,000円]

 

[つばさちゃんいて草]

[初スパチャがデビュー前なのは草]

[デビュー前から自由過ぎるだろw]

[元々にじライブ適正高かったのか……]

 

 こうして白夜達の話題は途切れることなく盛り上がった。

 そして、迎えた初配信の日。

 五人はにじライブのスタジオに訪れていた。

 

「打ち合わせ通り、トップバッターはレインさん、次にリーフェさん、サーラさん、つばささん、最後に白夜君という感じの順番でお願いしますね」

「魔王軍のデビュー順か……何か懐かしいなぁ」

 

 シューベルト魔法学園の五人はマネージャーである阿佐ヶ谷と念入りに打ち合わせを行っていた。

 

「うぅ……トップバッターか……」

「大丈夫だって! レインならいけるいける! よっ、元登録者数60万人超え!」

「それはリーフェもでしょうが!」

 

 適当なリーフェの励ましにツッコミを入れるレイン。

 場所を変えても変わらない光景に、白夜達は楽しそうに笑った。

 

「レイン、大丈夫だ。僕達が付いてる。どんなにしっちゃかめっちゃかになっても、全員でカバーできるから――ブチかませ!」

「うん! サンキュー、リーダー!」

 

 拳を突き出して強気に笑う白夜に応えるように、レインも拳を突き出しすと笑顔を浮かべてヘッドセットを装着した。

 

「配信いきます!」

「……スゥ――――ッ、よし!」

 

 深呼吸の後、表情を引き締めた

 

「みなさん、はじめまして! にじライブ四期生、シューベルト魔法学園に通うお嬢様レイン・サンライズです!」

 

[きちゃあああああ!]

[泣いた]

[これほど泣けるはじめましてがあっただろうか]

[良かった……本当に良かった……]

 

 レインが挨拶をしただけで、コメント欄には[泣いた]というコメントが大量に流れた。

 無理もない。絶望的だったVtuberとしての再デビューがこうして叶ったのだ。

 画面の向こうで涙を流している者は大勢いるだろう。

 

「おや、みなさん涙脆い人が多いみたいですね。まだ挨拶しただけですよ? ……なんてね、見つけてくれてありがとう! みんな大好き!」

 

[あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛]

[もう無理、尊い]

[この声がまた聞けるなんて……]

 

 それから配信は進み、レインの話すエピソードの節々から感じられる〝陰キャ感〟や〝オタク感〟に徐々にツッコミが入り始めた。

 

「誰が陰キャだよ! こちとら人望ゲキアツお嬢様ぞ!? 同期のみんなとはしょっちゅう遊びにいってるんだからね! 陰キャはそんなことしないでしょ? つまり私は陰キャじゃないってこと! わかる!?」

 

[早口になってて草]

[これは陰キャ特有の早口]

[予想以上に親しみやすい子で安心してる]

[これだよ、こういうのでいいんだよ]

 

 レインの素の部分を見せつつも昔の魔王軍の空気を感じさせる配信は好評のままに終了した。

 

「……ごめんなさい、何かお嬢様キャラ完全に崩れちゃいました」

 

「いやいや、むしろ最高でしたよ! ウェンディのときから陰キャ説はネタになってましたし」

「くっ、どうあがいても陰キャは陰キャなのか……」

「私達とわいわい集まったりしてる時点で陰キャじゃないと思うわ。だから、落ち込まないで、ね?」

 

 がっくりと肩を落とすレインをサーラが励ます。

 その横で、リーフェは準備運動のように両手をぐるぐると回していた。

 

「よーし、次は私の番だね!」

「選手交代!」

「オッケー!」

 

 レインとハイタッチすると、レインから受け取ったヘッドセットを装着した。

 

「まだ二番手だし、軽めのジャブって感じでサクッと配信してくるよ!」

 

 リーフェがそう言った瞬間、その場に全員が悟る。

 

 ――これ絶対軽いジャブじゃなくて渾身のコークスクリューブロー撃つ気だ、と。

 

 案の定、テレッテテレッテーと流れ出す聞き覚えるあるBGMに視聴者全員が度肝を抜かれた。

 

[!?!?!?!?!?]

[!?!?!?!?!?]

[!?!?!?!?!?]

 

 リーフェは予想通りの反応ににんまりと笑うと、よく〝わかるマン〟という投稿者が推しているキャラクターの好きなポイントに悪魔の男が同意していくネタで使用されている曲を歌い出した。

 

「あれは~誰だ♪ 誰だ♪」

 

[草]

[いきなりぶちかましてきやがったw]

[まさかのデビルマンwwwww]

[やべー奴で草]

[最初からにじライブ全開じゃねぇか]

[リ゛―゛フェ゛ち゛ゃ゛ん゛か゛わ゛い゛い゛な゛ぁ゛]

 

 自己紹介も兼ねた有名な歌の替え歌に視聴者は笑いながら涙を流した。

 歌い終わると、リーフェは元気いっぱいに挨拶をした。

 

「というわけで、はじめまして! 公式美少女魔法使いリーフェ・テンペスト参上!」

 

[公式をやたらと強調するな]

[実際、プロフィールに書いてあるぞ]

[ここぞとばかりにw]

[女の子になったのに地声の方が低くて草]

 

 リーフェ・テンペストの公式プロフィールには[シューベルト魔法学園に通う美少女魔法使い。風の魔法を自由自在に操り、どこへでも飛んでいく。気分屋なところがあり、振り回される人は多い]と書かれている。

 これはライバーのプロフィールの打ち合わせの際に、自由奔放なリーフェを連想させる内容にすることと、フィアのようにかわいい男子ではなくきちんとした〝美少女〟であることをアピールするために作成されたプロフィールだった。

 リーフェはそれを早速ネタにしたのであった。

 

「みんな、待たせてごめん! 見つけてくれてありがとう!」

 

[全然待ってない]

[急にエモくするな]

[温度差で風邪ひきそう]

[ああ、こういうのが見たかったんだ……]

 

「それじゃあ今日は……へっくしょおらァ! ふいー出た出た……」

 

[くしゃみたすかる]

[くしゃみしながらキレるなw]

[出た出たじゃないが]

[最初から自由で草]

 

 初配信だというのに、最初からエンジン全開のリーフェに視聴者も、スタジオにいた者も全員爆笑していた。

 終始笑いの絶えない配信となったリーフェの初配信は、大成功だったといえるだろう――後の三人のハードルが上がったという点を除けば。

 

「いやぁ、参った参ったー。こんなにウケるとは思わなかったよ!」

「ちょっと、やりすぎだよリーフェ!」

 

 レインはリーフェの配信終了後に慌てたように駆け寄ってきた。

 そんな慌てているレインの肩に手を置くと、サーラは珍しく自信に満ちた表情を浮かべた。

 

「大丈夫よ。次は私がうまくまとめて次に繋げるから」

「さっすがサーラママ! それじゃ次は任せたよ!」

「任せて!」

 

 リーフェとハイタッチすると、サーラは受け取ったヘッドセットを装着する。

 

「ふふふっ、今まで自由奔放なあなた達を誰がフォローしてきたと思ってるの?」

 

 それからサーラはその場にいた全員に向かって告げる。

 

「ここは場を整えることに定評のある朝顔サーラに任せなさい!」

 

 そこには精神と肉体を擦り減らして倒れてしまっていたサラ・マンドラはもういない。

 そして、頼れる年長者である朝顔サーラは落ち着いた様子で配信を開始するのであった。

 




次回は、サーラ、つばさ、白夜の配信になります!

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