ダメ男三人衆はまだ見ぬ頼れる男性ライバーを探して彷徨っていた。
どうにも普段から素直になれないヘタレ達が次に見つけたのは、期待の後輩にして年上の頼れる男バッカスだった。
「ハンプさん、レオ君、白夜君、三人揃ってどうしたんだい?」
「実は――」
そこでレオは三人を代表して自分達の情けない現状を素直に話した。
「そういうことかい。それならプレゼントと一緒に感謝の気持ちを伝えたらどうだい?」
「プレゼント、ですか?」
「ああ、林檎さんはああ見えて人に気を使われるのが苦手なタイプだから消えものがいいだろうね。紅茶なんかどうかな?」
バッカスは至極まっとうな提案をするが、そこにレオが待ったをかける。
「いや、バッカスさん。白雪は普段から高級茶葉しか飲まないんですよ」
「ほら、白夜。これが白雪がよく収録現場に持ってくる茶葉だ」
「たっか!? 僕も普通に現場で飲んでましたけど、こんな良い茶葉普段から持ってきてるんですかあの人!?」
ハンプがスマートフォンで見せた茶葉の値段に白夜は目を見開いた。
林檎は実家が裕福なこともあり、普段から高級茶葉の紅茶を好んで飲んでいた。
収録現場のスタッフの中にはすっかり林檎の持ってくる茶葉にハマり、紅茶沼へと引きずり込まれた者も少なくないほどである。
「あいつ舌肥えてるし高いもの買っても喜ばなそうだよなぁ」
「でも、ジャンクフードは意外と好きみたいですよ」
「ジャンクフードをプレゼントはちょっと……」
「どうしたもんかねぇ」
四人揃って頭を悩ませていると、そこにちょうどリーフェが通りがかった。
「あっ、バッカスさん! 昨日はコラボ配信ありがとうございました!」
「こちらこそ、楽しかったよ。誘ってくれてありがとう」
「あははー……でも、結構ダル絡みしちゃってごめんなさい」
先日、リーフェとバッカスがコラボした際に、リーフェはバッカスが何か言う度に「それって私のこと好きってことですか?」という絡みをして、それをバッカスがいなすというやり取りが話題となっていた。
元魔王軍として爆発的に人気の上昇しているリーフェとのコラボによりバッカスはまた注目度が上がった。
にじライブでは男女コラボも頻繁に行われていることと、明らかにネタだとわかるリーフェのこういった絡みで炎上することはまずない。
むしろ、リーフェは他の男性ライバーにもこういった絡み方をするため〝てぇてぇの当たり屋〟と呼ばれていた。
「はははっ、いいんだよ。積極的に絡みにきてくれてありがとう。またコラボしよう」
「はい! 是非!」
すっかり〝懐マリアナ海溝苦労人〟というポジションで有名になってきたこともあり、バッカスは笑顔を浮かべた。
「「「おおー……」」」
自然な流れで感謝の言葉を口にしたバッカスにレオ達は感嘆の声を零した。
「てか、そこのお三方は何してんの?」
「どうやら白夜君が悩んでいるらしくてね。そこでレオ君やハンプさんが相談に乗ってあげていたらしいんだ」
バッカスから事情を聞いたリーフェは、三人のダメ男達へ呆れたような視線を向ける。
「別にお礼くらい普通に言えばいいじゃん」
「「「それができたら苦労はしない」」」
「うわぁ……李徴だらけじゃん」
事務所内の人気男性ライバー三人衆のダメな面を見たリーフェは深いため息をついた。
それからダメ男三人衆はバッカスとリーフェと別れ再び事務所内を彷徨い始めた。
「おや、ハンプさんに獅子島君、白夜君まで揃ってどうしたんですか?」
「おっ、赤哉! ちょうどいいところに!」
「「頼れる人がいた!」」
ちょうど事務所にいた赤哉を見つけたことで、三人は希望の光を見付けたように表情を輝かせた。
三人から事情を聞いた赤哉は苦笑すると、申し訳なさそうな表情を浮かべて言った。
「そういうことでしたか……残念ながら僕では力になれそうにないと思いますよ?」
「そんなことないだろ。二期生の中でも赤哉は礼儀正しさに関しては随一だろ?」
赤哉はにじライブの中でも特に曲者が揃った二期生の中でも一番しっかりしていると言われいている。
何度もコラボして赤哉の礼儀正しさを知っているハンプは怪訝な表情を浮かべていた。
「社会人的な礼儀と思いを伝えることの難しさは別だと思いますよ」
「でも、赤哉さんって桃華さんに返しきれない恩があるって言ってませんでしたか?」
「あはは、桃華さんは直接的に感謝の言葉を伝えると怒り出すんですよ」
「確かに、桃タロスはあの下品さをなくせば正統派ツンデレって感じだもんな」
本人がいないことをいいことに酷い言われようである。
それだけ桃華の普段の行動が酷いということでもある。
「まあ、こういうのは伝えようと思ったのならやけくそになるのもありですよ」
そう言うと、赤哉は桃華をLINEで呼び出した。
「おーっす。来てやったぞ」
「わざわざ、すみません」
赤哉の呼び出しによって事務所にやってきた桃華は眉間にシワを寄せて仁王立ちして赤哉に呼び出した目的を尋ねた。
「で、私に言いたいことって?」
「大したことじゃないんですけどね。いつもありがとうございます」
赤哉はいきなり桃華に頭を下げた。
突然の赤哉の行動に戸惑ったようにキョロキョロと辺りを見渡すと、桃華は怪訝な表情を浮かべた。
「……んだよ、急に」
「いえ、日頃の感謝の気持ちを伝えないとなぁと思いまして、これから食事にでもいきませんか? もちろん、奢りますよ」
「マジで!? 行く行く!」
奢りと聞いて目を輝かせた桃華は赤哉の腕を引っ張って事務所を後にするのだった。
「……初手ありがとうございますか。確かに下手な前置きはいらないのかもしれないな」
「初手から畳みかけるのはありですね。白雪って押しには案外弱かったりしますし」
「確かに思い切って最初に言ってしまえば楽になるかもしれませんね……」
赤哉の思い切った行動に全員が納得した表情を浮かべていた。
ふと、そこで白夜はあることに気がついた。
「というか、今日なんか事務所にいるライバー多くないですか?」
「そりゃアレだろ。年明けのライブと春にあるイベントの準備があるからじゃねぇの?」
「デカいイベント集中してますもんね」
にじライブは年明けと春先に大きなイベントを控えているため、ライバー達とも念入りに打ち合わせを行っていた。
年内でも〝ハンプ亭道場〟の特別版の収録や四期生ライバーの3D化など、事務所は大忙しだった。
「四期生の3D化トップバッターは白夜君だっけ?」
「ええ、僕の後にサーラさんが3D化するって話は聞いてます」
「ハンプ亭道場の年越しスペシャルに間に合わせるためだもんな。特別ゲストも来るし楽しみにしてるぞ」
「二度目の初登場ですもんね。僕もサーラさんも楽しみにしてますよ!」
「僕も楽しみだよ」
「「「ん?」」」
そこでレオ、ハンプ、白夜以外の声がしたため、三人が怪訝な表情を浮かべて声のした方を振り返る。
「やあ、久しぶりだね」
「かっちゃん! 久しぶりっすね!」
そこには勝輝が立っていた。
「何だか三人で楽しそうにしてたから混ざりたくなっちゃったよ」
「珍しいですね。勝輝さんが事務所にいるなんて」
「ああ、今日は僕の3D配信の打ち合わせがあってね」
最近、勝輝は配信頻度を徐々に上げるようにしていた。
遊園地での案件でまひるが「かっちゃん配信しろで呟いてね!」と言ったことで[かっちゃん配信しろ]というハッシュタグが出来上がり流行っていたこともあり、勝輝はスケジュールの合間を縫って配信するようになっていたのだ。
「何か感慨深いっすね……」
「これで一期生は全員3D化かぁ」
長年3D化していなかった勝輝が3D化することもあり、ハンプとレオは感慨深そうな表情を浮かべた。
「そういえば乙姫さんも3D化はしてましたね……」
「せやな。乙姫の3Dモデルは今でも社内サーバーで眠ってるで」
「あらあら悪かったわね。せっかくの3Dモデルを眠らせっぱなしにしちゃって」
白夜の呟きに二人の女性が反応しながら現れた。
「って、かぐや先輩に内海さんも!」
「よう、登録者数四十万超えのバケモノ共」
「百万が見えてきた怪物が何を言っているのかしら」
かぐやの言葉に、苦笑しながら内海がツッコミを入れる。
かぐやは配信頻度も高く、配信内容も面白い上に同時接続数も平均して高かった。
登録者数こそ負けているが、同時接続数でいえば、バーチャル四天王すらも上回るかぐやの配信はまさしくライバーとしてのトップを走っている証拠とも言えるだろう。
「お、お久しぶりです。内海さん……」
「ハンプさん。お久しぶりです……そんなにあのときのことは気にしなくていいですよ」
「い、いえ、そんな」
ハンプはどこか気まずそうに内海に挨拶をする。
そんなハンプを見て内海は苦笑していた。
「ハンプさんのあのときの行動は間違ってないわ。私がうまくさばけなかっただけ。だから、あなたはそのまま前を向いて走ってくださいね?」
「は、はい!」
「ハンプ、あんたは男性ライバーでも引っ張っていく側の存在なんや。あんまり過去のことは気に病むんやないで?」
「かぐや先輩……わかりました。これからも頑張ってにじライブを盛り上げていきます!」
「ええ返事や……!」
「いやぁ、熱いねぇ……」
事務所でもトップクラスのライバー達が笑い合いながら話している姿を見て、勝輝は嬉しそうに目を細めた。
「こうしてにじライブが盛り上がっているのは、普段から全力で〝自分らしい〟配信活動をしてくれているライバーのみんなや支えてくれる社員のみんながいるからさ。みんな、本当にありがとう」
「急に真面目な話すんなや」
「もうかぐやちゃんったら照れちゃって」
「照れとらんわ!」
にじライブの御三家とも言える三人のやり取りを見て、レオもハンプも、そして最近所属したばかりの白夜も眩しいものを見るように笑顔を浮かべた。
「「「やっぱり、社長は格が違うわ……」」」
今日一日だけでもそれぞれのライバーの〝想い〟に触れた。
Vtuberとしては歴が長かったが、にじライブとしては新参者の白夜は決意を胸に覚悟を決めた。
「僕、林檎さんのところへ行ってきます!」
「「ああ、頑張れよ!」」
林檎に連絡を入れて事務所を後にした白夜の背中をレオとハンプが温かく見守る。
「何かよくわからないけど青春だねぇ」
「いつからうちの事務所は学校になったんや……」
「あらあら、いいじゃない。学生設定のVも多いんだし」
そんな三人のやり取りを、一期生の三人は眩いものを見るように眺めていた。
ちなみに翌日、珍しく林檎は鼻歌を歌うほどにご機嫌な様子で配信を行っていたのだった。
ただの日常回と思ったか?
こんばん山月の人気投票作ってみました!
一応期間は五月末くらいを想定しておりますが、票が集まらない可能性もあるので、様子を見て変えようと思います。
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