Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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【Apple Radio】第4回ゲスト:レイン・サンライズ

 今日は林檎が定期的に行っているラジオ〝Apple Radio〟の配信日だ。

 ゲストは四期生のレイン・サンライズ。

 林檎の熱狂的なファンであるレインはウェンディとして活動していたときに、林檎のラジオに出演するという約束をしていた。

 今日はその約束を果たす日だった。

 

「というわけで、今日のゲストは――ほ?」

『ちょっと待って! 何か私が二人いるんですけどォ!?』

 

[初手から事故ってて草]

[レイン様のRain Radio始まるよー]

[番組乗っ取られてたw]

 

 配信が開始されて画面が表示されると、そこには二人のレインが表示されていた。

 にじライブアプリも稀に不具合を起こす。

 その不具合がタイミング悪く、配信開始と同時に起きてしまっていたのだ。

 

『にじライブアプリがバグったんだけどォ!』

「まあまあ、落ち着きなってー。少し待てば直るってー」

 

[傍から見たらレイン様の一人芝居になってる]

[この焼き林檎まるで動じてない]

[何度も炎上してきた者だ、面構えが違う]

 

 慌てふためくレインと落ち着いている林檎。その両者共にレインのモデルで表示されるシュールさに視聴者達は爆笑していた。

 

「あっ、直った。それじゃ、改めて始めよっかー」

 

 それからバグが直ると、林檎は仕切り直すようにタイトルコールに入った。

 

「ということで、おはっぽー。あぷらじ第四回のゲストはレインだよー」

『お、お邪魔しまーす……はぁ、緊張するー……』

 

 それから音量バランスを確かめると、林檎とレインは番組を始めた。

 

「いやー、来てくれてありがとねー。本当ねー、レインは返信が早くて助かったよー」

『返信の早さには自信があります!』

「送った瞬間に既読ついたもんねー」

 

[絶対RINEの履歴見返してたろw]

[メッセージきた瞬間にスマホ落としてそう]

[推しからのメッセだから仕方ない]

 

 レインはApple Radio関連の連絡が林檎から来た際に、秒単位で返信をしていた。

 それだけレインは今日の収録が楽しみだったのだ。

 

「それじゃあ、最初のお便り読むよー。気まぐれゴブリンさん、お便りありがとうございまーす」

『ありがとうございます!』

 

 

【レイン様は白雪さんの大ファンとのことですが、今回ゲストとして呼ばれてどのようなお気持ちですか? やっぱり飛び上がるほど嬉しかったのではないでしょうか。どうかその出演の依頼をもらったときのことを教えてください】

 

 

『『行きます! たとえ何があろうとも命を懸けて絶対に出演します!』これが当時ゲスト出演のお話をもらったときの私のリアクションです。あと、デビュー前でした』

「すごい鼻息荒かったよねー」

 

[命を懸けてがシャレにならん……]

[文字通り命懸けだったな]

[アレを乗り越えて出演していることに執念を感じる]

 

 レインが元々ウェンディだということは周知の事実である。

 その頃にレインが林檎とコラボしていたときから、レインが林檎のファンであることは知られていた。

 ゲスト出演の話がウェンディ時代のものということを視聴者が理解するのに時間はかからなかった。

 

「私としてもレインがうちに来てくれて嬉しかったよー。これからもいっぱいコラボしようねー」

『もちろんです! 今度はこちらからお誘いさせていただきます!』

 

[林檎雨てぇてぇ]

[この光景を見たかったんだ]

[あれ、室内なのに急に雨が降ってきた……]

[奇遇だな俺もだ……]

 

 バーチャルリンクでの苦しみを乗り越え、こうして推しと笑い合うレインを見てたことで、以前から彼女のファンだった者達は涙を流していた。

 それから〝ふつおた〟のコーナーを終えると、林檎は次のコーナーへと移った。

 

「それじゃあ、次はこのコーナー」

『コミュ障改善プログラム……』

 

[露骨にテンション下がってて草]

[絶対このコーナーのために呼んだろwww]

[ライバー界きってのコミュ障はどう対応するのか]

 

「このコーナーでは面の皮が厚いことで有名な白雪林檎が、コミュ障な小人達のお悩みにゲストと一緒に答えていくコーナーでーす」

「私、相談する側の小人なんですが……」

 

 このコーナーは対人関係に難のある小人からの相談に答えていくコーナーだ。

 人との会話が苦手なレインはこのコーナーに臨むことに関しては少々気が重かった。

 

「えーっと……ハイホーさん、お便りありがとうございまーす」

『ありがとうございます!』

 

 

【これは友人の話なのですが、彼はクラスで仲の良い友人がいても三人以上になると話題に混じれなくなります。会話が途切れたタイミングを狙っても間が悪くいつも愛想笑いを浮かべるだけになってしまいます。相手の気持ちを考えると、どうしても無理矢理会話を振ることができません。どうすればよいでしょうか?】

 

 

「くくくっ……相手の! 気持ちを、考えるっ……!」

『何で相手の気持ちを考えるだけでそんなに笑うんですかァ!』

 

[めちゃくちゃ笑ってて草]

[焼き林檎の人を小バカにしたような笑い方すこ]

[人の気持ちとか考えたことなさそう]

[ガン無視して人の話ぶった切ってきそう]

 

 コメント欄では酷い言われようだが、普段から林檎を知る小人達は半分ネタでコメントを書き込んでいた。

 林檎が心根の優しい人間であることは、小人達にとっては共通認識なのである。

 

「てか、絶対この人友達の話じゃなくて自分の話だよねー!」

『やめてよォ! これ以上死体蹴りしないでェ! 友達の話かもしれないじゃん!』

 

[クッソ情けない声で草]

[人望ゲキアツ陰キャお嬢様すこ]

[人望は確かにゲキアツだなw]

[まるで自分のことを言われているようだ]

 

 一通り笑い倒すと、林檎は目に浮かんだ涙を拭って真面目なトーンで悩みに答えだした。

 

「あのねぇ、みんな思ったよりも自分に興味なんて持ってないんだよー。だから、キャッチボールなんてしなくていいの。球が飛んできて取りやすかったら取ってあげればいいんだよー」

『で、でも、沈黙って気まずくないですか?』

「えー、楽でいいじゃん。沈黙が気まずいならしゃべっておけば相槌くらいは打ってくれるし、興味があれば返してくれる。それでいいじゃん」

 

 わざわざ話したいわけでもないのに会話を広げようとしても広がらない。

 だったら別に最初から無理して会話をする必要はない、というのが林檎の持論だった。

 

「バラギとか見てみなよー。あの子も人と話すの苦手って言ってるけど、普通に話してるでしょー?」

『た、確かに……』

「でも、バラギって無理に会話しようとはしないでしょー? それでいいんだよー」

『な、なるほど……』

 

[バラギってメン限とかで六時間以上ぶっ通しでしゃべってたりするぞ]

[もともとおしゃべり好きだから、相手を気にしないで話せる環境なら無限に話せるらしい]

[雑談の内容が脱線してコロコロ変わってくけどなw]

 

 夢美を例に出すとレインはどこか納得したように頷いた。

 

『そういえば、バラギさんって人と話すとき絶対スマホ触らないですよね』

「そうそう、マジでバラギってそういう礼儀はちゃんとしてるんだよねー」

 

[営業妨害で草]

[まあ、礼儀正しいのは割と有名な話]

[だから、他のライバーにも愛されるんだろうな]

 

 夢美が礼儀正しい人間だということは普段のちょっとした振る舞いや、他のライバーの発言から有名だった。

 また私生活がだらしないだけで、優しくてしっかり者という一面を持っていることも、ここ最近の〝夢星島〟のコラボで有名になっていたのだ。

 逆にレオは意外とダメなところも多いことも判明してきて、普段の立場が逆転していることも夢星島コラボの人気の理由なのだが。

 

 こうして夢美の話題で盛り上がりながらも、無事Apple Radioは終了した。

 

『ふぅ……白雪さん、今日はありがとうございました!』

「こっちこそ楽しかったよー、ありがとねー」

 

 ラジオも無事に終了したことで安堵のため息をつくレインとは対照的に、林檎は弾むような声音でレインに礼を述べた。

 楽し気に返事をする林檎に、レインはコラボ中気になっていたことを尋ねた。

 

『そういえば、今日はいつもより上機嫌でしたけど、何かいいことありました?』

「ほ?」

『いえ、声のトーンがいつもより高かった気がしたので』

 

 レインは長年林檎の声を聴いてきたこともあり、声から機嫌を察することもできるようになっていた。

 そんなレインのある種の絶対音感に、林檎はにひひっ、と笑って答えた。

 

「ま、いいことはあったよー。気が向いたら教えたげるよー」

 

 その後、レインとの通話を切った林檎は目を閉じて白夜とのやり取りを思い出した。

 

『林檎さん、ありがとうございました!』

 

 開口一番に礼を述べながら頭を下げてきた白夜に、林檎は戸惑ったように声をかける。

 

『どうしたの急にさー』

『いえ、きちんとお礼を言えていなかったので、この際あなたへ言いたいことを全部言ってしまおうと思って』

 

 そう前置きすると、白夜は林檎の目を真っ直ぐに見据えて言った。

 

『僕、幸せなんです』

『うん』

『大切な仲間とまた笑い合える。大切な家族とまた一緒に過ごせる。憧れの人達と同じ場所にいられる。そして、あなたがいる』

『うん』

『だから、僕を幸せにしてくれてありがとうございます』

『そっか、幸せなんだ』

『はい!』

 

 それから白夜は高校生のときのことを思い出し、笑いながら告げた。

 

『それと、あのときから変わらず林檎さんは僕の憧れの先輩ですよ』

『あれー、性悪女じゃなかったっけ?』

『おっと、すみません。憧れの性悪女先輩でした』

 

 林檎の揶揄いも何のその。白夜は軽く笑って林檎の言葉を受け流す。

 高校生のときからすっかり成長した白夜の姿を思い出し、林檎は笑みを零して呟いた。

 

「にひひっ……まったく、かっこよくなっちゃってさー」

 

 ずっと自分は人を不幸にする存在だと思っていた。

 そんな自分に真っ向から「幸せにしてくれてありがとう」と言ってくれた白夜の言葉に、林檎は胸がときめくのを感じていた。

 

「後輩の弟ってだけだったんだけどなー」

 

 まいったなー、と呟くと林檎は高鳴る気持ちのままにピアノを弾き始めるのであった。

 




バラレオ「周りを不幸にするとか気にするな。そのくらいじゃ俺達は潰れない」
白夜「幸せにしてくれてありがとうございます!」

という感じで、白夜は最後に林檎の心の棘を抜くのでした。


現在、こんばん山月の人気投票を行っております!

一応期間は五月末くらいを想定しておりますが、票が集まらない可能性もあるので、様子を見て変えようと思います。
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