Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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お待たせ、待った?
……いや、マジで待たせてすみません。


【けもみ家】約束のとき

 バーチャルリンク周りの揉め事でバタバタしていた秋も半ばを過ぎようとしている今日この頃。

 段々と寒い日も増えてきたため、レオは体が温まる朝食を作るように心がけていた。

 

「「あ゛あ゛~……」」

 

 レオの作った味噌汁を飲んでいた夢美とミコは気の抜けた表情を浮かべていた。

 

「ケイティもすっかり馴染んだな」

「パパの作るご飯とってもおいしいデス!」

「ありがとな」

 

 いつの間にか増えた隣の住人かつ娘役のライバーに苦笑しつつも、レオはどこかミコがいることに居心地の良さを感じていた。

 

「ケイティって意外と和食も行けるよね。向こうでは結構食べてたの?」

「いえ、イギリスでは滅多に食べられなかったからこそ好きナンデスヨ!」

「お母さんとか作ってくれなかったの?」

「DadもMomも忙しい人だったノデ、ご飯は外食ばっかりデシタ……」

 

 一瞬、寂しそうな表情を浮かべた後、ミコは満面の笑みを浮かべて言った。

 

「ダカラ、こうして家族一緒にご飯を食べられるのが好きナンデス!」

「そうだね、あたしもこの時間がすごく好き」

「だな」

 

 ミコの言葉に、レオと夢美は顔を見合わせて柔らかい笑みを浮かべた。

 その表情はまるで子供を見守る両親のような表情だった。

 

「そういえば、CD発売イベントそろそろだね」

「ああ、慎之介達も宣伝してくれるって言ってるし楽しみだよ」

「ワタシもママもゼッタイ会場に行きマス!」

 

 夢美からレオのCD発売イベントの話が出たことで、ミコは興奮したように鼻息を荒くした。

 レオのCD発売イベントは、夢美とまひるのユニット〝pretty thorn〟のときと同様にミニライブが行われる予定だ。

 STEPの元メンバーというトップアイドルの再起。

 Vtuberに興味がない者もレオのメジャーデビューには注目していた。

 

「当日は思う存分暴れてくるよ」

「あんたは暴れる以外の表現を覚えなさいよ……」

「ワタシはそのままのパパでいいと思いマス!」

 

 呆れたように笑う夢美に対して、ミコはレオのパフォーマンスに胸を高鳴らせていた。

 それからミコが先に自室に戻ると、同じように自室に戻って配信準備を行おうとしていた夢美をレオが引き留めた。

 

「なあ、夢美。俺もお前もメジャーデビューした。この進捗どう思う?」

 

 進捗、とはレオの告白の内容についてである。

 二人は今や事務所内でも数少ないメジャーデビューを果たしたライバーだ。

 登録者数もにじライブではもはや上から数えた方が早いほどである。

 配信の同時接続数もここ最近では一万人を下回る日はないほどに安定している。

 グッズやボイスの売れ行きも好調で、収入も以前にも増して増加傾向にあった。

 夢美も半ばレオの告白を受け入れてもいいのではないかと思いつつあるが、それでも彼女の中ではまだ足りないものがあると感じていた。

 

「そうだねぇ……夢星島コラボのおかげで〝実は既に入籍してて報告してないだけ〟説も増えてはいるけど――決定打が足りないと思う」

「決定打?」

「リスナーってさ、てぇてぇに脳を破壊され過ぎて〝男女として好き同士〟と〝ただの仲良し〟の区別が付いてないんだよ。だから、杞憂民が文句を言って燃やしにくる」

 

 実家騒動があったため、二人が幼馴染だということを疑う者はいなくなったが、それでも〝早く付き合え〟や〝とっとと結婚しろ〟という声に苦言を呈する者は多い。

 これはむしろ視聴者としては正しい姿勢であり、レオ達もそういうマナーの良い視聴者がいることはありがたかったが、注意が行き過ぎている者がいるのもまた事実だった。

 何事もバランスが大事なのである。

 そんな中で火種にならない程度の積み重ねがまだ足りないと夢美は感じていたのだ。

 

「だから、まだ先の話になるけど、決定打はあたしに任せてくれないかな。返事はそのあとでするからさ」

「わかった。大いに期待して待ってるよ。引き留めて悪かったな。配信頑張れよ」

「ま、頑張らなくても妖精達は喜んでくれるけどね。それじゃ!」

 

 夢美の浮かべた笑みを信じて、レオは夢美を見送った。

 

「……さて、今日はもう一つの家族コラボだ」

 

 レオは身支度すると、事務所へと向かうのであった。

 レオが事務所に到着すると、既にコラボ相手である二人は到着していた。

 

「お疲れ様です。つばさ、けもみ先生」

「あ! お兄ぃ!」

「久しぶり……ってほどでもないか。レオ君、今日はよろしくね」

 

 レオの今日のコラボ相手は四期生のつばさと二人の担当イラストレーターであるけもみだった。

 つばさがノームのときにした約束である〝けもみ家コラボ〟は予想外の形で叶うことになった。

 

「まさか、けもみ先生まで出演してくれるとは思いませんでしたよ」

「飯田さんと阿佐ヶ谷さんから打診があったときは驚いたけど、せっかくだから出てみようと思ってね」

 

 イラストレーター自身がVtuberになっていたり、配信活動をしているのならまだしも、普段は配信をすることのないイラストレーターであるけもみが配信に出演することは非常に稀なケースなのだ。

 

「二人共、ありがとね」

 

 つばさは二人が自分のために忙しい中、必死に動いていたことをよく知っている。

 そのため、二人が揃っているこの場で改めて礼を述べたのだった。

 

「俺は約束を守るために動いただけだよ」

「そうそう、こうしてあなたがこの場に立っていることが何よりも幸せなんだから気にしないで」

「――――っ!」

 

 さもそうするのが当然といった様子の二人を見て、つばさは目頭が熱くなるのを感じた。

 

「さて、けもみ家コラボ。絶対に成功させるわよ!」

 

「「おおー!」」

 

 こうしてけもみ、レオ、つばさによる〝けもみ家〟のコラボ配信が始まった。

 

「みなさん、こんばん山月! 獅子島レオです!」

「みんな、どうもー。土佐つばさでーす」

 

[けもみ家コラボきちゃ!]

[この光景を見るために俺はここにいる]

[つばさどんどんすきになる]

 

 配信を開始したばかりだというのに、既に視聴者数は三万人を超えていた。

 それだけこの配信を望んでた者が多かったということだ。

 

「いやぁ、お互い結構バタバタしてたから時間はかかっちゃったけど、やっとコラボできたな」

「ねー! やっとお兄ぃと一緒に配信できるよー」

 

[もう泣きそう]

[レオ君はメジャーデビューとか大型コラボ多すぎて忙しいからな]

[つばさちゃんも早速外部コラボしまくってるからな]

 

 つばさはノーム時代に歌うまVtuberとしてツウィッター上で繋がりのあったVtuber達ともコラボしていた。

 特に和音を筆頭に歌唱力に自身のあるVtuberが多く在籍する〝Vactor〟の者達とのコラボも段々と増えていたのだ。

 

「そして何と! 今日はけもみ家コラボということでビッグなゲストをお迎えしております!」

「この人がいなきゃ、けもみ家コラボは始まらないって人ですよー」

 

[!?]

[えっ、マジか!?]

[まさかけもみママがくる!?]

 

 視聴者へのサプライズも兼ねて、今回のコラボにあたってけもみが出演することは伏せていた。

 そのため、急に発表されたゲストに視聴者達は大いに沸いていた。

 

「ど、どーも、獅子島レオと土佐つばさのキャラクターデザインを担当しておりますけもみでーす!」

 

[うおおおおおおおおお!]

[けもみママだ!]

[声初めて聞いたwww]

[声めっちゃかわいいw]

[お子さん方、お母さまを俺にください!]

 

 配信活動を行っていないけもみの声を初めて聞いたという者がほとんどだったため、けもみの登場にコメント欄は盛り上がりを見せる。

 ほどなくしてツウィッター上では〝けもみママ〟〝けもみ家〟がトレンド入りすることになる。

 

「いや、本当に今日は来てくださってありがとうございます!」

「本当にありがとねママー」

「こちらこそ! またこうして元気に活動できる二人を見ることができて嬉しいわ」

 

[けもみ家てぇてぇ]

[聖獣と神獣を生み出した母]

[シュベ学のライバーが絡むと涙腺が緩むバグなんとかして]

 

「それでは、せっかくけもみママも来ていることですし、いろいろと俺たちのことについて聞いていきたいと思います」

「デザイン面でも気になってる人多いと思うもんね」

「オッケー! 何でも聞いて!」

 

[ん?]

[今、何でもって]

[ ¥50,000円]

[リクエストするでもなく無言赤スパいて草]

 

 けもみは二人のキャラクターデザインを担当していることもあり、

 

「まず、俺のデザインの話がきたときはどう思いましたか?」

「そうねぇ……椅子から転がり落ちたわ」

 

[草]

[それはそう]

[あのアイドルがVになるからキャラデザしてくださいって意味わからんもんなw]

 

「ぷっ……くくっ! 椅子から、転がり落ちた……!」

 

[あっ、さっそくつばさちゃんがツボってる]

[そら笑うわw]

[絵面想像したらワロタ]

 

 けもみはレオのキャラクターデザインの依頼がきた当時のことを振り返る。

 あの元トップアイドル司馬拓哉がライバーになるので、モデルのデザインをお願いしますという内容の依頼にけもみは当時度肝を抜かれたものだ。

 

「まあ、雰囲気は結構現役時代に寄せたかな。あの頃のレオ君って結構尖ってて猛獣って感じだったし」

「いや、マジで昔の映像と見比べてみたんですけど、結構雰囲気似ててビビりましたよ」

 

[言われてみれば確かに似てるわ!]

[新衣装はアイドル衣装だな]

[それは今度のメジャーデビューで出るだろ]

 

 レオが司馬拓哉であることが世間に知れ渡っているからこそできる話に視聴者達は興味深そうに食いついていた。

 このトークはVtuber業界ではご法度とともいえる前世話を普通にしても問題ないレオだからこそできるトークだった。

 

「ひぃひー……!」

 

[ひぃひー↑]

[ひぃひー↑]

[ひぃひー↑]

 

 ちなみに、つばさは終始笑ったままだった。

 

「それじゃつばさの番だよ」

「私の、デザインは――ぶふっ!」

「えー、いまだにツボっているので、けもみ先生お願いします」

 

[スルーしてて草]

[さすがの対応力]

[つばさちゃんがこうなったら長いぞ]

 

 笑い過ぎて目から涙がこぼれ落ちているつばさに苦笑しながらも、けもみは〝土佐つばさ〟に込めた思いを語った。

 

「やっぱり、いろいろあったじゃない? だから、前の雰囲気を完全に消したくはなくてね……つばさちゃんがつばさちゃんらしくいられるように、あなたらしさを残したデザインをしたかったの」

 

 そこで言葉を区切ると、けもみは照れ隠しをするようにふざけた調子で言った。

 

「ま、レオ君のMVのイラストの流用なんだけどね!」

 

[台無しで草]

[まあ、あのデザインが元になったのはわかった]

[どのみち愛しか感じない]

 

 けもみの発言が照れ隠しだということは視聴者も理解しており、改めてけもみの担当したライバーへの愛を感じていた。

 

「本当にあの時は秒でやってくれてありがとうございます」

「何、かわいい子供達のためだからね!」

「……ひぃひー!」

 

「「いつまで笑ってるんだよ!」」

 

[草]

[ひぃひー↑]

[これはヒィヒーモス]

[つばさちゃん終始笑ってて草]

 

 それからつばさが落ち着いたタイミングを見計らって、レオはある提案をした。

 

「それじゃせっかくだしけもみ先生のために歌うか」

「そうだねー」

「えっ、いいの!?」

 

[これは期待]

[歌唱力お化け兄妹]

[聖獣と神獣の歌が聞けるぞ]

 

 レオとつばさの歌唱力はVtuber界でも随一である。

 その二人のデュエットとなれば、視聴者の期待は大きかった。

 

「つばさ、何歌う?」

「じゃあ、チチをも――」

「はい、ストップ」

 

[とんでもないの歌おうとしてて草]

[何でそれをチョイスした! 言え!]

[やっぱ、つばさちゃんも頭にじライブなんよ]

 

 つばさが選ぼうとした曲は、当時日曜日の朝にやっていた大人気アニメの劇中歌であり、歌詞が胸を揉むというとんでもない内容ではあったが、国内で大ヒットした名曲である。

 

「やー、だって最近メロウちゃんがいろいろ歌唱力で遊んでて羨ましくなっちゃってさ」

「メロウゥゥゥ!」

 

[アレを真似しちゃあかんw]

[デリヘル八分音符にデルヘルー語配信は伝説]

[あんだけ歌唱力で遊べる子は他にいない]

[レオ君も一緒に暴れてるんだから人のことは言えないでしょw]

 

 完全にメロウの悪影響を受けているつばさだったが、レオも一緒になってよく似たようなことをしているため、人のことは言えなかった。

 

「……二人が私のために歌ってくれるなら、それでもっ……!」

「葛藤するくらいならダメ出ししてくださいよ!」

 

[魂から振り絞ったような声で草]

[娘のやりたいことを優先させようとする母の鏡]

[けもみママ、落ち着いて]

 

「んー、じゃあ、間をとって空色デイズで」

「どことどこの間を取ったんだ!?」

 

[自由人で草]

[つばさちゃんwww]

[思考回路がアクロバットしてやがる]

 

 それから男の義務教育と呼ばれる名作アニメの主題歌を歌うことになり、レオとつばさは深呼吸をして息を整えた。

 

「さあ、いくぞつばさ!」

「オッケー、お兄ぃ!」

 

「「俺達を誰だと思ってやがる!」」

 

[うおおおおおおお!]

[これは熱い!]

[さっきとの温度差がすごい]

[温度差で風邪ひきそう]

 

「君は聴こえる~♪ 僕のこの声が~♪ 闇に虚しく~吸い込まれた~♪」

「もしも世界が~♪ 意味を持つのなら~♪ こんな気持ちも~無駄ではない~♪」

 

[はい神]

[ライオンとベヒーモスの歌唱力よ]

[最初からクライマックス]

 

 歌の出だしから視聴者の盛り上がりは最高潮に達していた。

 アニメソングの中でも屈指の名曲をVtuberの中でもトップクラスの歌唱力を持つ二人が歌っているのだ。

 盛り上がらないはずがないのである。

 サビに入る前、レオとつばさはアイコンタクトをしてニヤリと笑った。

 

「「走り出した~♪ 想いが今でも~♪」」

 

[サビやば!]

[二人共ビブラートえっぐ!]

[これは美ブラート]

 

 生歌だというのに、息ぴったりな二人の歌に視聴者はもちろん、スタッフ、そしてけもみも完全に引き込まれていた。

 レオに憧れ、彼に声を届けようと研鑽を怠らなかった少女の思いは届き、今こうして肩を並べるほどに至った。

 つばさは心から楽しそうな笑みを浮かべると全身全霊をかけて歌い続けた。

 

「「尊い日々は~まだ終わらない~♪ そして〜また~♪」」

 

[ここ好き]

[まだ終わらねぇ!]

[まだこうして続いていくんだな……]

 

「「答えはそう~♪ いつもここにある~♪」」

 

[答えは得た(尊死) ¥20,000円]

[尊い……! ¥10,000円]

[(´・;::: .:.;: サラサラ..]

 

 レオとつばさが歌い終わると、コメント欄にスーパーチャットが流れ始める。

 一つ一つに礼を述べていると、そこでけもみはどこか熱に浮かされたような様子で二人に告げた。

 

「ねえ、二人共――イラスト描かせてくれないかな。それでもって、歌動画出してほしいんだけど」

 

「「もちろん!」」

 

 こうして後日投稿されたレオとつばさの歌ってみた動画は、一週間で五百万再生を超える快挙を成し遂げるのであった。

 




現在、こんばん山月の人気投票を行っております!

一応期間は五月末くらいを想定しておりますが、票が集まらない可能性もあるので、様子を見て変えようと思います。
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