Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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珍しく二話連続ネームド回となっております。


【綿貫幹夫】今後とも宜しくお願い致します

 綿貫幹夫の周りにはいつだって彼を慕う人間が集まってきた。

 気さくで親しみやすい性格をしている綿貫は常にグループの中心にいるような人間だった。

 誰にでも優しい綿貫を軽薄な人間だと妬む者もいたが、綿貫に接すれば彼が誠実な人間だということはすぐにわかっただろう。

 成績も運動神経もよくコミュニケーション能力もある。

 そんな綿貫にも悩みがあった。

 なまじ何でも出来てしまうため、綿貫は人生に退屈していたのだ。

 失敗を経験しないで過ごしてきた綿貫にとって、波風の立たない順風満帆な人生は退屈そのものだった。

 

「綿貫! 次こそ俺が絶対勝つからな!」

「黒岩君、何でそんなに喧嘩ごしなんだい? 仲良くやろうよ」

「うっせぇ! 俺はてめぇみたいに涼しい顔して成功してるような奴が気に食わねぇんだよ!」

 

 大学時代も同じようにのらりくらりとやってきた綿貫だったが、同じ学科にいた黒岩力が何かと自分をライバル視してきた。

 誰からも好かれてきた綿貫にとって黒岩の存在は新鮮なものだった。

 

「いいか、俺は絶対に勝ち組になってやる! お前なんかには思いつかないようなデッカイことを成し遂げるんだよ!」

「僕には思いつかないようなデッカイこと、か……」

 

 ただ順調な人生を送れればいいと思っていた綿貫にとって、黒岩の宣戦布告はどこか心に刺さるものがあった。

 先を見通し、最良の結果を掴む。

 単純作業の繰り返しの日々を送っていた綿貫には、夢を抱いて挑戦し続ける姿勢がどこか眩しいものに見えた。

 

 就職してからも綿貫の退屈な日々は続いた。

 営業部に配属された綿貫は夢中になれるものを探すように一生懸命に働いた。

 だが、営業成績トップになったところで、彼の心が満たされることはなかった。

 今の仕事が嫌いというわけではない。

 ただどんなに成果を上げても、その場でちょっとした達成感を味わうことができるだけで、人生が充実しているとは言い難かった。

 そんなある日、関西支社から優秀な社員がマーケティング部に転属してきた。

 

「初めまして、関西支社から参りました諸星香澄と申します」

 

 一見、中学生くらいに見える童顔低身長の女性社員を見て、綿貫は「可愛い子が来たなぁ」という風に思っていた。

 

「やあ、諸星君だっけ? 僕は営業部の綿貫幹夫。これからよろしくね」

「はい、これから宜しくお願い致します」

 

 話しかけてみれば諸星に抱いていた〝可愛い子〟という印象は崩れた。

 常に真顔でどこか圧のある諸星は、周囲から頼りになるけど怖いという印象を抱かれがちだった。

 

「諸星君さぁ、可愛い顔してるんだから、もうちょっと笑ったらどうだい? そんな怖い顔してちゃ、みんな怖がっちゃうよ」

「……怖がらせてるつもりはないのですが」

「それそれ。そういうとこだよ。社内コミュニケーションも仕事のうちでしょ?」

「まあ、それはそうですが……」

 

 綿貫の言葉に諸星は困ったような表情を浮かべた。

 諸星としては素のままで過ごせればこれほど楽しいことはないのだが、自分の素の性格が社会人として不適切なものだと思っていたのだ。

 

「別に人と話すのが嫌いというわけではないのですが、どうにも私は人と感性がズレているところがあるみたいなんです」

 

 それから諸星は自分がどんな学生時代を送っていたかを話し、仕事上では素を出すことに抵抗があることを綿貫に伝えた。

 

「くくくっ……あっはっは! 無料通話男性器ロシアンルーレットだって!? 一体どんな発想したらそんなことしようと思うんだい!」

「ちょ、声が大きいわボケェ! あっ……」

 

 つい素が出てしまい、綿貫の胸倉に掴みかかりそうになった諸星は、慌てて咳ばらいをして誤魔化すように告げた。

 

「と、とにかく、私は真面目に仕事をしているだけです。ですが、まあ、もう少し柔らかい態度を心がけるように致します」

 

 それから諸星はキツめの態度をとったと自覚した後は、努めて笑顔を浮かべて何かしらのフォローをするように心がけ、周囲と段々打ち解けていった。

 営業部の綿貫、マーケティング部の諸星、そんな風に社内での評価の高い二人だったが、綿貫は自分が諸星に並び立つほどの人材だとは思っていなかった。

 諸星は毎日充実した表情で仕事に打ち込んでいた。

 綿貫も仕事に打ち込んでいるが、やはり充実感は得られなかった。

 

「はぁ……」

「あっ、綿貫さん。お疲れ様です」

「やあ、飯田君。お疲れ」

 

 そんな綿貫にも楽しみができた。

 それは新入社員の飯田と喫煙所で会話することだ。

 

「もう会社には慣れたかい?」

「はい、諸星さんが丁寧に仕事を教えてくれるので過ごしやすいです!」

「ほお、そりゃ良かった」

 

 綿貫にとって喫煙所でのタバコミュニケーションは、営業部の者達と無茶な依頼を出すクライアントへの愚痴をこぼす場だった。

 だが、新入社員でマーケティング部に所属する飯田との会話は新鮮味があったのだ。

 

「へえ、飯田君って作曲できるんだ。すごいじゃないか」

「いや、ボカロPって言っても、本当に大したものじゃないですよ。再生数も全然伸びませんでしたし」

 

 サブカルチャー方面にそこまで明るくなかった綿貫は、飯田との会話で得られる情報に面白みを感じていた。

 それからいろいろとネットで調べるうちにVtuberという存在を知った。

 今までにない新たな文化が生まれ、段々と台頭してくる。

 そんな流れを敏感に感じ取った綿貫は久しぶりに黒岩の言葉を思い出した。

 

『いいか、俺は絶対に勝ち組になってやる! お前なんかには思いつかないようなデッカイことを成し遂げるんだよ!』

 

「デカイこと、か」

 

 それから綿貫はサブカルチャーに詳しい諸星にそれとなく話題を振ってみた。

 しかし、返ってきたのはVtuberは簡単になれるものではないという否定の言葉だった。

 

「そっかぁ、うちのアプリでそういうの出せたりすれば売れると思ったんだけどなぁ」

 

 綿貫の素人なりに思い浮かんだアイディアはあっという間に藻屑と消えた――ようにみえた。

 

「みなさん、本日はお集りいただきありがとうございます。この度、誰でもVtuberになれるアプリ〝二次元LIVE(仮)〟についてご提案させていただきます」

 

 後日、諸星が持ってきた自分のアイディアを実現させる提案に綿貫は息を呑んだ。

 諸星の提案では、所謂Vtuberのように3Dモデルを使用するのではなく、イラストを動かして表情をつけることでVtuberのような活動を可能にするというものだった。

 資料には配信活動でイラストを表示させている者の実例も乗っており、〝二次元LIVE(仮)〟は決して実現不可能な代物ではなかった。

 

「Vtuberの魅力は心惹かれる見た目のアバターから感じ取れる豊かな表情だと私は思っています。こちらをご覧ください」

 

 諸星が資料として見せてきた映像は前に起きたアイノココロの誤配信による放送事故の映像だった。

 いつも明るくどこか抜けたココロが、真剣にスタッフと打ち合わせを行う様子が配信されてしまったこの放送事故は一時期話題になっていた。

 

「普通ならばキャラが違うと批判の声が上がるような事故ですが、この一件でアイノココロさんは〝プロ意識の高いストイックさ〟が垣間見えたことで逆に人気が上昇しました」

 

 ココロの放送事故はアイノココロというキャラクター性から言えば、間違いなくズレていた。

 その放送事故が批判ではなく賞賛されたのは、ある理由があったからだ。

 

「ユーザーが求めているのは、Vtuberというアバターを通して見るその人自身の魅力です。そのため、動画投稿という形ではなく配信活動を主体として行う〝バーチャルライバー〟になれる。〝二次元LIVE(仮)〟はそういうアプリを目指していこうと思います」

「確かに動画編集は大変ですものねぇ。ライブ配信ならその手間もなく、アプリを使って配信するだけでVtuberとして活動できる……私はとても面白いと思います」

「ありがとうございます、内海さん」

 

 総務部に所属している内海から褒められたことで、諸星はどこか嬉しそうに口元を緩めた。

 それからトントン拍子に上長承認がおり、〝二次元LIVE(仮)〟はよりキャッチーなネーミングである〝にじライブ〟と名前を変えてついに本格始動することになった。

 だが、あらゆる方面にパイプを持つ綿貫から、同業他社も同じようなアプリを開発しているという情報が入ったことで、アプリの本格稼働までの時間を大幅に短縮せざるを得なくなった。

 そこで、映像制作経験のある諸星、トーク力のある綿貫、社内でも話しているだけで癒されると評判の内海がテスターとして配信活動を行うことになったのだ。

 

「あの、諸星さん。配信ソフトの使い方を教えてほしいんですけど……」

「僕も頼むよ。どうにもこの手のことには疎くてね」

「ええ、もちろんです」

 

 社内のネットワークを使い、テスト配信を念入りに行った三人はついに配信活動を開始するのであった。

 一期生である〝竹取かぐや〟〝竜宮乙姫〟〝狸山勝輝〟は、それぞれ〝かぐや姫〟〝浦島太郎の乙姫〟〝かちかち山の狸〟をモチーフとしている。

 にじライブプロジェクト一期生、狸山勝輝として活動を始めた頃は、同期であるかぐやと乙姫の話題に埋もれ、勝輝はあまり注目されていなかった。

 

 思い通りにいかず試行錯誤を繰り返す。それでも、うまくいかない。

 

 思い描いていたVtuber活動とはかけ離れた活動の難しさに、勝輝は初めて心から夢中になれるものを見つけられた気がした。

 

 ネジの外れているとしか思えない配信内容を次々に行い、イライラすると関西弁で怒鳴り散らす竹取かぐや。

 声からも話し方からも癒しを感じ取れる優しく清楚な竜宮乙姫。

 そんな二人に負けじと、勝輝は多方面にコラボを持ち掛けた。

 

 有名Vtuberとのコラボを行い、勝輝のトーク力やフォローのうまさは段々と話題になっていった。

 それでも同期二人との差は広がるばかりだった。

 特にかぐやの人気は目覚ましく、たったの一ヶ月で登録者数が十万人を超えたのだ。

 これはにじライブがまだ無名で、Vtuberがそこまで浸透していなかった頃の当時としては異常なスピードだった。

 勝輝はチャンスを逃さないようにと、かぐやへとコラボの打診をした。

 勝輝の伸び具合を案じていたかぐやはそれに快く応じた。

 

 そのコラボで勝輝は炎上した。

 

 理由は単純で、かぐやの目覚ましい活躍を喜ぶ中で勝輝は「このままの勢いで四天王倒してチャンピオンになっちゃおうよ」と言ってしまったのだ。

 業界の大先輩への礼儀を欠いたともとれる発言は格好の燃料となった。

 当時、男性Vtuberへの風当たりが強かったこともあり、勝輝の炎上は失言の割に大事となってしまった。

 それに関してはツウィッター上で謝罪の投稿をした後、すぐにかぐやが[やっぱり狸はウサギに燃やされるものなんやなぁ]とわざと茶化すようなリプライを送って笑いに変えたことで収束へと向かった。

 しかし、それからも勝輝は何かにつけて炎上した。

 所謂ガチ恋勢と呼ばれるアイドルの過激なおっかけのような視聴者の多い乙姫とはコラボしただけで炎上した。

 Vtuber界隈の燃えやすさは勝輝の予想を超えていたのだ。

 それでも、勝輝の心は折れることはなかった。

 失敗して試行錯誤を繰り返すことの楽しさを知った勝輝は、炎上しながらも活動を続けていき段々と周囲に認められるようになっていったのだ。

 それもそのはずである。

 勝輝は必要とあれば面白さを優先して過激な発言もしたが、基本的には誠実な人間である。

 炎上すらもキャラとしてしまえば、視聴者のハードルも下がり燃えにくくなる。

 要するに、一度灰になるまで燃えてしまえば燃えないということを勝輝は行っていたのだ。

 もちろん、辛くないといえば嘘になるだろう。

 同じ男性Vtuberであるバーチャルリンクのサタン・ルシファナは、サラ・マンドラと男女の組み合わせでセット売りのようなやり方をしても燃えず、むしろ人気が出るという結果を出している。

 男性Vtuberでも人気になることは不可能ではない。

 

 何より、かつて自分に何かと突っかかってきた黒岩が運営するバーチャルリンクの所属男性Vtuberが結果を残しているのだ。

 宣言通りデカイことをやってのけた黒岩に、勝輝も負けたくないと思うようになり、眠っていた闘志に火が付いたのだ。

 そうして活動を繰り返してく内に、勝輝にはある思いが芽生えた。

 こんな風に自分のやりたいことを自由にできる〝にじライブ〟をもっと大きなものにしたい。

 かぐやの人気や二期生の台頭、他社による似たアプリのリリースなどの状況により、会社は〝アプリ開発〟から〝Vtuber運営〟へと方針を切り替えた。

 乙姫が引退するきっかけとなった事件や自分の炎上経験、一部二期生の引退など、問題点も多いにじライブをより良いものにしたい。

 そんな勝輝の熱い思いを汲み取った上層部は綿貫をはじめとするにじライブの独立を支援し、晴れてにじライブは〝First lab〟の子会社として設立させることになったのだ。

 

 

 

「まさか、ここまで来れるとは思ってもみなかったよ……」

 

 がむしゃらに突っ走ってきた過去を振り返りながらも、勝輝は着々と3D配信へ向けて準備を進めていた。

 

「何、浸っとるんや。まったく……」

「そうよ。回想は死亡フラグって言うでしょ?」

 

 そんな勝輝の元にプロジェクトが始動した頃からの仲間が集う。

 

「かっちゃん、少し瘦せたんとちゃうか?」

「そうねぇ。前よりお腹が引っ込んだ気がするわ」

「少しでも動きやすいようにしようと思ってね。最近は再開した配信活動と並行して筋トレもしているんだ」

 

 かぐやと内海に苦笑しながら告げると、勝輝は表情を引き締めて、珍しく勝気な笑みを浮かべた。

 

「二人共、今日は宜しく!」

 

「「もちろん!」」

 

 久しぶりに見た同期の本気に、かぐやも内海も笑顔を浮かべて答えるのであった。

 




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