Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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【3D化配信】かっちゃん配信した

 長い間配信活動を休んでいた一期生の狸山勝輝が3D化する。

 そのニュースににじライブ全体が好きなファン達は大いに沸いた。

 最近、少しずつ配信活動を再開したとはいえ、ファンの中には終わり際に活動して卒業してしまうのではという不安があったのだ。

 それがまさかの3D化である。

 事務所としても先の見込みがなければ3D化をしたりしない。

 こうして勝輝の真の意味での復活を告げる配信には大勢の視聴者達が押し寄せることになるのであった。

 

「かっちゃん、準備はええか?」

「ああ、3Dチームの調整のおかげでブレはないよ。本当、現場の人達には頭が下がる一方だよ」

 

 勝輝とかぐやは今日の3D化配信のために念入りに準備をしてきた。

 最終調整を終えた二人の元に、スタジオへ様子を見にきた内海がやってくる。

 

「あらあら、今日くらいはしっかりと胸を張ってふんぞり返ってもバチは当たらないんじゃないかしら」

「今の僕はにじライブ所属の一ライバーだよ。ふんぞり返れるような立場じゃないさ」

「うふふ、そうだったわね」

 

 勝輝の言葉に柔らかい笑みを浮かべると、内海はかぐやの方へと向き直った。

 

「かぐやちゃん、かっちゃんをお願いね」

「任しとき!」

 

 強い意志を込めてそう言うと、かぐやは勝輝を連れて所定の位置へ向かった。

 

「……かっちゃん、本当にええんか?」

「ああ、むしろ君の方こそいいのかい?」

「ウチの方は正式に発表するわけやない。推察されるくらいは構へんよ。大事なのはかっちゃんの気持ちや」

「ありがとう……!」

 

 配信開始を待ちながらも交わした言葉に、勝輝は胸が熱くなるのを感じた。

 

「配信開始します!」

 

 スタッフの合図と共に配信が開始される。

 勝輝はすぅと息を吸い込むと元気いっぱいに挨拶をした。

 

「どうも皆さん、こんにちポンポコー! 狸山勝輝ですよー!」

 

[きちゃああああああ]

[こんにちポンポコー!]

[こんにちポンポコー!]

[こんにちポンポコー!]

[かっちゃんに奥行きがある!]

[一億年待ったわ]

[かっちゃんがついに3Dに!]

 

 配信開始と同時多くのコメントが流れ始める。

 そのコメントのほとんどはにじライブの古くからのファンのものであり、今も尚勝輝の配信を待ち望んでいた者達の希望の声だった。

 

「やー、本当に待たせて悪いね。忙しいのは変わりないんだけど、何とか配信はできるようになったからね。これを機に本格的にライバー活動もきちんとやっていこうと思ってさ」

 

[全然待ってないぞ!]

[忙しいのはしゃあない]

[一時期体調も崩してたんでしょ?]

[しょうがないって]

[スパチャだ。食え ¥50,000円]

 

 長い間、勝輝の再起を待ち続けた視聴者達の温かいコメントに勝輝は泣きそうになるのを堪えてかぐやを呼んだ。

 

「それじゃあ、さっそく今日のお手伝いをしてくれる仲間を呼ぼうか。かぐや君!」

「はいはい、こんバンチョー! 竹取かぐやです! 火打ち石のみんな、元気にしとったか?」

 

[バンチョーきちゃ!]

[絶対来ると思った]

[火打ち石は大体舎弟やぞ(いつも見てます)]

[一期生の二人が3Dで立ってる!]

[こんな光景が見られるなんて……!]

 

 勝輝の視聴者は火打ち石と呼ばれており、そのほとんどは現在もかぐやの視聴者である舎弟でもあった。

 こうして現役のにじライブ一期生が揃ったことに画面の向こうの視聴者達は早くも涙を流している者すらいた。

 

「さて、今日はね。かぐや君にも手伝ってもらってツウィッター上で使えるようなネットミーム画像を作っていくよ」

「まあ、一期生の記念写真がてらな」

 

[記念写真は草]

[3D配信を記念撮影に使うライバーがいるらしい]

[ばんかつてぇてぇ]

 

「それじゃあ最初はこれ!」

 

 勝輝の掛け声と共に画面上に〝おい、しっかりせぇ〟という文字が浮かび上がる。

 勝輝が床に寝ころび目を閉じると、かぐやがそれを起こし上げるような体勢をとる。

 

「おい、しっかりせぇ! おい! おい!」

 

[草]

[一発目からこれである]

[尊死してやがるw]

[綺麗な顔してるだろ。タヒんでるんだぜ、それで]

[完全に今の俺ら]

 

 オタクが尊すぎて気絶しているネタ画像を模倣した二人の姿に、視聴者達は最初から笑いを堪えられなかった。

 視聴者達がスクリーンショットを撮れる時間を充分にとると、画面が切り替わって〝そうはならんやろ〟〝なっとるやろがい!〟という文字が表示された。

 

「さて、3Dチームの皆さん! よろしくお願いします!」

 

 勝輝がそう言うと、3Dチームのスタッフは勝輝のモデルを意図的におかしな挙動で荒ぶらせた。

 

「うわあぁぁぁ!」

「そうはならんやろ」

「なっとるやろがい!」

 

[めっちゃ荒ぶってるwww]

[俺は今、にじライブの原点を見ている]

[こういうのでいいんだよ、こういうので]

 

 にじライブの起源である二人が楽しそうにネットミーム画像用のポーズをとりまくる姿を見て、画面の向こうの視聴者達は自然と笑顔になっていた。

 一期生が荒野を開拓するように険しい道のりを歩んできたことは誰もが知っていることだ。

 そんな二人がこうして自由に配信をしている姿は、ファンが心から望んだものだった。

 もちろん、この場に乙姫がいればと誰もが思っていることだろう。

 しかし、それを言うのは野暮であるということは誰もが理解していたのであった。

 

 それからいくつかのポーズをとり終えると、勝輝は表情を引き締めた。

 

「ネットミーム画像はこのくらいにして、ちょっと皆さんに大事なお話があります」

「よっ! 待ってました!」

 

[大事な話だと!]

[バンチョーのテンションからして悪い話じゃなさそう]

[これは期待]

 

 Vtuberが真面目な報告をすると、身構えてしまうのが視聴者の性だが、不安要素はかぐやが明るい声音で話していることによって払拭された。

 深呼吸をすると、勝輝は静かに画面の向こうの視聴者達に向けて語りだした。

 

「皆さんの中には知らない人も多いと思いますが、にじライブは元々〝誰でもVtuberになれるアプリ〟として売り出す予定でした」

 

[マジか]

[知ってるよ!]

[全然知らんかった]

[初期から見てるから知ってるよ(古参アピ)]

 

 にじライブが元々販売予定のVtuberアプリの名前だったということは意外と知られていないことだった。

 当時の会社のHPまで見ていた者は知っているだろうが、初期からVtuberを追っている者でもなければ、この情報を知るにはwikiなどで調べるしかないだろう。

 

「ここにいるかぐや君の爆発的人気や同業他社との競合を鑑みて、会社はバーチャルライバーのプロデュースという方針へと変わっていきました」

 

[なるほどなぁ]

[何でかっちゃんそんなに詳しいん?]

[そりゃ初期から活動してれば詳しいだろ]

[でも、何でわざわざかっちゃんがこの話をするんだろ]

 

 唐突に始まった勝輝の話を視聴者は疑問を持ちながらも静かに聞いていた。

 勝輝は一言一句に気持ちを込めながら続ける。

 

「僕達三人は元々にじライブアプリのテスターとして集められました。アプリの評判が良くなれば程よいタイミングで三人ともライバー活動はやめる予定だったんです」

 

[なん……だと……]

[初期の頃にバンチョーが言ってたやめようと思ってたタイミングってこれのことか!]

[予想以上に人気出ちゃったしやめるにやめられなくなったのか]

 

「ですが、こうして皆さんのおかげでにじライブプロジェクトは大きくなりました。そして、僕は思うようになりました。もっとみんなで自由に活動できる場を整えたいと」

 

[ん、整えたい?]

[どういうことだってばよ]

[かっちゃんの配信休止の時期とにじライブの子会社化のタイミング……妙だな]

[えっ、まさか!]

 

 視聴者の中には勘が鋭い者もおり、勝輝が何を言わんとしているのか理解する者も現れ始めた。

 

「鋭い方はお気づきかもしれませんが、僕が配信を休止した理由。それはにじライブ株式会社の社長に就任したからです」

 

[!?]

[!?]

[!?]

[社長!?]

[えっ、マジ!?]

 

 勝輝の衝撃の発表に視聴者達は激しく動揺した。

 Vtuber自身が事務所を立てて活動しているところもあるが、それはイラストレーターがVtuberになるにあたって立ち上げたプロジェクトである。

 勝輝のように一ライバーからプロジェクトが会社となるにあたって社長に就任するというのは前例がなかった。

 

「ライバー達が自由に楽しく配信活動を行える環境を提供する会社。にじライブが目指す未来はそこにあります。まだ僕の力が至らずライバーの皆様には苦労をかけてしまい、視聴者の皆様には心配をおかけしてしまうことも多くあるかと思います」

 

 そこで言葉を区切ると、勝輝は真っ直ぐにカメラを見据えて告げる。

 

「でも、僕は止まりません。社長としてもライバーとしてにじライブを引っ張っていくためにこれからも精進していきます。それをどうしてもこの記念すべき3D配信で皆様にお伝えしたくてお時間を取らせていただきました。ご清聴ありがとうございました」

 

[888888888]

[888888888]

[888888888]

[まさか、かっちゃんが社長になっていたなんて]

[ライバーに寄り添うようなスタッフが多いのはかっちゃんの方針のおかげだったのか]

[これからも応援するぜ!]

[これは箱推し不可避]

 

 コメント欄からも、かぐやと内海を含めたスタッフからも大きな拍手が巻き起こる。

 勝輝がライバーとして復帰した理由。

 それはただまひるにいじられて流されたからではない。

 裏方だけではなく、ずっと一人で引っ張ってくれたかぐやと共にもっと表からも後輩ライバー達を支援したいと考えたからだった。

 社長とライバーの二足の草鞋を履くのは容易ではない。

 それでも、勝輝はどちらもこなしていく覚悟ができたのだ。

 

「さて、大事な話もできたし、ちょっと次の準備に入るからみんな待っていてくれ」

「気張れや、かっちゃん!」

 

[おっ、ライブかな]

[最近は3D配信でライブするのがお約束だからな]

[かっちゃんの歌とか久しぶり過ぎてやばい]

 

 にじライブのライバーが3D化配信を行うと、配信のラストでライブを行うのが恒例となっている。

 勝輝が配信上で歌を披露するのは極めて稀なため、視聴者は期待に胸を膨らませていた。

 

「…………っ!」

 

 そんな中、スタジオの端から内海は大切な同期である勝輝のライブの成功を静かに祈っていた。

 準備が整うと、勝輝は日曜日の朝にやっていた大人気アニメの主題歌を歌い始めた。

 

「明日へ続く坂道の途中で~♪ すれ違う大人たちはつぶやくのさ~♪」

 

 今でも多くの人に愛されている名曲。

 それを自分の想いを込めながら勝輝は全力で歌い上げた。

 

「大人になれない僕らの~♪ 強がりをひとつ聞いてくれ~♪ 逃げも隠れもしないから~♪笑いたい奴だけ笑え!」

 

 ライバーとして多くの炎上を経験し、社員としてはライバーに辛い思いをさせてしまった。

 傷だらけになりながらも前に進む。

 勝輝がこの曲を選んだのそんな覚悟があったからだ。

 

「かっちゃん……!」

 

 勝輝の歌に込められた思いを理解した内海はスタジオの端で涙を堪えられなかった。

 自分の心が折れたことでかぐやと勝輝には大きな心的負担をかけてしまった。

 もう一度ライバーとして活動したいと思ったこともなかったわけではない。

 しかし、当時起きた出来事によって内海が受けた心の傷は今も尚、彼女の心を蝕んでいたのだ。

 

 前に踏み出せない自分を許してほしい。

 

 そして願わくばどこまでも前に進んでほしい。

 

 自分の願いを託した内海は涙をこぼしながらも勝輝の雄姿をしっかりと目に焼き付けていた。

 

「水をあげるその役目を~♪ 果たせばいいんだろう~♪」

 

[8888888888]

[8888888888]

[8888888888]

[やはりカサブタは神曲]

[さっきの話からのカサブタはずるいんよ]

[まーたにじライブが伝説作ってるよ]

[いつものことじゃん]

 

 勝輝が歌い終えると、画面が切り替わり勝輝の隣にかぐやが映し出される。

 しかし、かぐやは珍しく顔を両手で覆っていた。

 

「あれ、かぐや君。泣いてる?」

「泣いてへんわボケェ!」

 

[泣きながらブチギレてて草]

[声震えてるんよ]

[もらい泣きするやろ]

 

 配信上で涙を見せることのないかぐやが泣いている。

 それほどに勝輝の想いは胸に響いていたのだ。

 次の日、この配信の切り抜き動画はU-tube上に溢れ、各ライバーもツウィッター上で[これからもついていきます、社長!]という投稿をしたことで、この日に留まらずしばらくの間ネット上で話題になった。

 

 こうして勝輝の3D配信は無事大盛況のままに終わるのであった。

 




チチをもげ? 伏線だよ


現在、こんばん山月の人気投票を行っております!

一応期間は五月末くらいを想定しておりますが、票が集まらない可能性もあるので、様子を見て変えようと思います。
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