Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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【月間ミーティング】勢いの止まらない三期生

 

 デビューしてから半年以上が経過し、三期生の三人は登録者数五十万人を超える怪物へと成長していた。

 シューベルト魔法学園のメンバーのようなVtuberからVtuberへの転生ではなく、短期間でこれほどの伸びを見せたVtuberも他にいないだろう。

 そんなVtuber界隈でも注目されている三人だが、最近では三人で集まって何かをやるということが難しくなっていた。

 レオ、夢美、林檎の三人にはさまざまな案件が舞い込んでくる。

 

 メジャーデビューをしていたり、公式番組を持っているような三人は自分の配信と並行してそれらを行ったり、最近事務所内で頻繁に行われるようになった大型企画への参加など、とにかく大忙しだった。

 それはかぐやも例外ではなく、最近では月間ミーティングにも顔を出せなくなっていた。

 

「しっかし、年末年始は地獄のスケジュールだな」

「仕事受けたのレオじゃん」

「いや、だってせっかくのチャンスなんだし逃したくないだろ?」

「普段ゴロゴロしてる分、稼ぎ時に稼いどかなきゃねー」

 

 三期生の中でもレオのスケジュールは群を抜いて過密スケジュールとなっていた。

 飯田も最初はレオを心配して調整しようとしたのだが、レオが断固として譲らなかったのだ。

 

「獅子島さんは今週CD発売イベント、ボイス収録、コンビニスイーツの案件、ソシャゲ案件、他社事務所のVtuberとのコラボ配信多数、大型企画、ゲーム実況者大会出場、年末のVtuber紅白歌合戦、年始のライブ……いや、やっぱりこれ調整しましょうよ」

「うーん、アイドル時代はもっと過密だったので全然大丈夫ですよ?」

「ブラック企業慣れした奴特有の感覚やめろ」

 

 どうにも感覚がズレているレオに夢美は白い目を向ける。

 そんな夢美に、今度は四谷が呆れたように告げた。

 

「夢美ちゃんだって人のことは言えないでしょ。アイノココロさん主催のゲーム大会への出場、プリソンのラジオ、ミコちゃんとの音ゲー案件、大型企画、ソシャゲ案件、Vtuberカバーソングアルバムの収録、年始のライブ……少なくともこのスケジュールでやるなら自分の配信頻度は落としなさいって言ったでしょ?」

「えー、前の会社で働いてた頃より休めてるし全然平気だよ?」

「お前こそブラック企業慣れした奴特有の感覚やめろ」

 

 レオは先ほど言われた言葉をそのまま夢美へと返した。

 

「二人共焦りすぎだよー。私みたいにもっとのんびりすればいいのにさー」

「いや、白雪さんも大概じゃないですか……」

 

 林檎も公式番組での企画や案件、コラボ配信を多数抱えているため、レオや夢美ほどではないが多忙であることは間違いなかった。

 

「「「いや、だって年末年始は書き入れ時じゃないですか」」」

 

「なんかもう生粋のVtuberって感じだなぁ……」

「本当に無理だけはしないでね?」

「三人の実力的に大丈夫だとは思いますけど、こちらも万全の形でサポートしたいので、何かあったらすぐに言ってくださいね」

 

 マネージャーである飯田、四谷、亀戸は三期生の実力ならばこのスケジュールでも問題ないことは理解していたが、もっと自分達の時間を大切にしてほしいとも感じていた。

 Vtuberは人気商売の側面が強いため、こういったイベントが重なる時期は多忙になる代わりに知名度を大きく上げられるチャンスでもある。

 一般的な生活をしている者とは違った生活リズムになるのも仕方がないことなのだ。

 

 ちなみに、三期生の忙しさと比例するようにマネージャー達の忙しさもとんでもないことになっているのだが、それについては特に飯田、四谷、亀戸の三人は気にしていなかった。

 年末年始も働き詰めなのは、彼らも同じことだった。

 

「そういえば、獅子島さんは年末年始は実家に帰られるんですか?」

「顔くらいは出そうと思ってます。夢美も一緒に帰るよな?」

「うん、由紀と一緒に年跨ぎにじライブ見る予定だからね。あと、真礼も店閉めてうちにくるってさ」

 

 レオと夢美は実家とのしこりも解消されたため、少しの間だが実家に帰省してのんびりと過ごす予定だった。

 

「私は普通に配信予定かなー。実家に帰ってもパパは紅白と正月番組で忙しいし、ママはパリで公演あるし」

「相変わらずタケさんも内藤さんも忙しそうだな」

「もうあの二人は自分の意思でスケジュールどうこうできるレベルじゃないからねー。やっぱ影響力ある人は自然とそうなるもんだよー」

 

 さして気にした風でもなく、林檎はむしろ楽しそうにしていた。

 林檎も両親との問題は解決し、関係も以前よりは改善されている。

 別に暦通りの休みにこだわらなくても、両親には隙を見て顔を見せに帰っているので、わざわざ帰省する理由がないのだ。

 

「まー、カリューがしっかり休みとれたみたいだからうちに遊びに来てくれるし全然いいんだけどねー」

「マジか。カリューさんこそ今の時期は忙しいだろうに」

「年末年始くらいは日本にいたいんだってさー。ま、三箇日終わったらノルウェー行くみたいだけど」

「ノルウェーって、何しに行くの?」

「番組のカレンダー企画でオーロラを撮影しに行くんだってー。そんで帰国したら私達のライブ見にくるって」

「……何だか忙しい中申し訳ないな」

 

 カリューは相も変わらず世界中を駆け巡っていた。

 ギリギリにはなるが、三期生も出演するにじライブ全体のライブには絶対に行くと意気込んでいた。

 

「カリューっていえば、そろそろ収録だよね。武蔵&カリューのV語り」

「初回ゲストがかぐや先輩と白雪って、これ完全に二人の趣味だろ……」

「二人共にじライブの箱推しみたいですからね」

 

 近々、林檎は武蔵とカリューがレギュラーを務める番組の収録がある。

 この企画は、武蔵が楽屋でVtuberの配信を見ているという話が広がったことによって持ち上がった企画だ。

 カリューは武蔵との共演も多く、Vtuber好きであることも有名だったため選ばれた。

 二人共多忙な身であるため、スケジュールは調整が必要だが、それでも二人の強い希望によってこの番組は成立することになるのであった。

 

「はぁ……何か授業参観みたいでめっちゃ嫌なんだけど……」

 

 出演予定の林檎は、複雑そうな表情を浮かべていた。

 最近、ある程度話をするようになったとはいえ、共演相手は長年確執のあった父親である。

 カリューが出演していなければまず出演を断っていただろう。

 

「まあ、そう言わずに……地上波の番組への出演はやはり大きいですから」

「今の若者はテレビ見ないって言っても、総人口で言ったら結局テレビ見ている人の方が多いですからね」

「あたし達の世代でもテレビ出るってなったらスゲーってなるもんね」

 

 近年ではスマートフォンの普及やU-tubeなどの動画サイトの手軽さもあり、テレビを見ないという者は少なくない。

 しかし、自分の好きなユーチューバーや声優がテレビ出演するとなれば、SNSでは話題になり、普段テレビを見ない者も一斉にその番組を見る。

 結局廃れたなどと言われてもテレビの持つ影響力は大きかったのだ。

 

「それより、なんか忘れてるような……」

「言われてみれば……」

「年末年始の前に何かあったよねー……」

 

 レオ、夢美、林檎は三人揃って首を傾げる。

 そして、三人同時に、はっとした表情を浮かべて叫んだ。

 

「「「あー! クリスマス忘れてた!?」」」

 

 本気でクリスマスという大型イベントを忘れていた三人は焦りはじめる。

 どんな配信をするべきか、と考えこもうとする三人に、マネージャー陣は圧のある笑顔を浮かべて告げた。

 

「もう予定は増やせないので、クリスマスは配信しないで楽しんでください」

「クリスマスくらいゆっくりしてね!」

「忘れてたんですからしょうがないですもんね?」

 

 これ以上は断固として働かせない、という固い意志を感じた三人は、ため息をつくとクリスマスに何をするか考え始めるのであった。

 




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