Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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【メジャーデビュー】Sun Gets Kick

 

 ついにレオのCD発売イベントの日がやってきた。

 自分がアーティストとして再始動するための第一歩。

 STEPとして駆け抜け、落ちぶれた後にもう一度夢を掴むために再び駆け出した。

 そして、ようやく夢のスタートラインに立つ日がやってきたのだ。

 

「獅子島さん、調子はどうですか?」

「ええ、バッチリですよ」

 

 前日、興奮しすぎてあまり眠れなかったが、その程度のことでレオは調子を崩したりはしない。

 レオは気力に満ち溢れていた。

 それはようやく夢のスタートラインに立てたからだけではない。

 夢美とミコが気を使って朝食を用意してくれたのだ。

 メジャーデビュー、とケチャップで文字が書かれた焦げたオムライス。

 味はいまいちだったが、レオにとってそれはどんな食事よりもおいしく感じる一品だったのだ。

 

「レオ、遅れてすまん!」

「かぐや先輩、来てくださったんですか!」

 

 レオが準備をしていると、かぐやが控室へとやってきた。

 多忙なかぐやはレオの晴れ舞台に合わせて何とかスケジュールを調整してきたのだ。

 

「当たり前やろ」

 

 かつてテレビで何度も目にして、自分も好きだったアイドルの司馬拓哉。

 自分がきっかけでオーディションに応募してきたと聞いたときは本当にわけがわからなかった。

 

 しかし、その言葉にかぐやがどれだけ救われたか。

 一期生としてデビューし、トップとして走り続けたかぐやは心が折れそうになるときも立ち止まることは許されなかった。

 同期である勝輝は理不尽に炎上し、乙姫は引退するほどに心が折れてしまった。

 楽しいことも多かったが、辛いことだって山ほどあった。

 二期生として入ってきた者達が起こすトラブルの対処にも追われ、今日まで何とか走り続けてきたが、かぐやもある程度後輩が育ったら卒業するつもりだったのだ。

 

 そんなときに自分がきっかけで夢を再び追いかけようと決意した者が現れた。

 レオ達三期生が入ってきてからも多くのトラブルに見舞われた。

 いくつものトラブルを乗り越えて進んでいく三期生を見て、かぐやはかつて一期生として仲間と共に駆け抜けた日々を思い出した。

 そして、消えかけていた胸の炎は再び燃え上がった。

 かぐやはその炎が同期にも灯っていると信じていた。

 

「レオ、ここからやで……全力でブチかましてこい!」

「はい!」

 

 推しからの最高の激励をもらったレオは獰猛な笑みを浮かべた。

 それから、レオは堂々とした佇まいでステージ上に現れた。

 現地へと赴いた袁傪達は打ち合わせもしていないのに、お決まりのセリフを叫んだ。

 

 

 

「「「「「その声は、我が友、李徴子ではないか!?」」」」」

 

 

 

 レオはニヤリと笑うと、心から楽しそうに袁傪達の声に応えた。

 

『如何にも自分はバーチャル隴西の李徴である……みなさん、こんばん山月! 獅子島レオです!』

 

「こんばん山月!」

「レオくぅぅぅぅぅん!」

「うおおおおおおおお!」

 

 野太い声が会場にこだまする。

 会場には女性もたくさん来てはいたが、男性ファンの数も負けじと多かった。

 STEP時代に着用していた白を基調とした王子様を思わせるような煌びやかな衣装を意識した3D新衣装で登場したレオに誰もが釘付けになっていた。

 

『いやぁ、ついにやってきましたよメジャーデビュー! レオ之介! レオ三郎! レオ樹! マネージャー! 見てるかぁぁぁ! 俺はもう一度夢のスタートラインに立ったぞ!』

 

 かつての仲間達へ向けた言葉。

 それは会場にいる元STEPのメンバーや元マネージャーである三島は楽し気にレオの晴れ舞台を眺めていた。

 

「ったく、あんなにはしゃぐなんてらしくねぇ」

「……そうでもないでしょ」

「うん、ああ見えてかなり子供っぽいよね拓哉君」

「あの子、結構子供っぽいとこあったものね。でしょ、由美子さん?」

「ホア?」

 

 三島から突然話題を振られた夢美は間抜けな声をこぼした。

 

「……あたし的には子供っぽいところばっかりな気がしますけどねぇ」

「あっ、デタ! 由美子さんの正妻アピール!」

「違うって……んふっ」

 

 ミコの言葉を否定しつつも、夢美の口元は全力で緩んでいた。

 

 自分を笑顔にするためにアイドルになった幼馴染の晴れ姿は、どうしようもないほどに格好良かったのだ。

 

「はぁ……やっぱり好きだなぁ……」

 

 小さな声でそう呟くと、夢美はステージ上のレオの姿を目で追い続けた。

 

『それじゃあ、さっそく行くぞ! 今回、俺が作詞してレオ三郎が作曲してくれた曲だ!』

 

 今回レオのメジャーデビューファーストシングルはレオ自身が作詞して、STEPの元メンバーである三郎が作曲した曲だった。

 

『〝Sun Gets Kick〟!』

 

 レオが曲名を高々に叫ぶと、激しいリズムの伴奏が流れ始める。

 

 

 

「GRRRRRRRRRRRRRR!!!」

 

 

 

 もはや定番となったライオンの咆哮の後、レオは丁寧に歌い始めた。

 

『暗い夜道を~照らす月のように~♪ 導かれてさ~♪ 気がつけば、また夢を見ている♪』

『求めてないことばかり~♪ 続けていっても~♪』

『そうダメだって、伸びないって~♪ それはわかってる~♪』

 

 はじまりは好きなライバーである竹取かぐやの3Dライブを見たことだった。

 

『心を熱くする~♪ 君の声を聞いたんだ~♪』

『その声は、我が友、李徴子ではないか~♪』

 

 デビューしてからはプライドが邪魔してネタをうまく消化できず伸び悩んだ。

 

『聞きたくないよ!』

 

 言い訳ばかりで自身の武器である歌を生かせなかった。

 結局、傲慢だったアイドル時代と変わっていないじゃないかと落ち込んだ。

 

『臆病な自尊心、捨てられず、立ち止まっても~♪』

『何も得られないよ、きっと~♪』

 

『let’s step up Sun Gets Kick!』

 

『受け入れられずに~♪ 意地ばっか張っていた~♪』

『茨の道を進め~♪ 覚悟はもうできている~♪』

 

 だが、同期である夢美がそんな自分の背中を蹴っ飛ばしてくれた。

 

『さあ、眩い光に手を伸ばせ!』

 

 夢美がいたから歌う楽しさを思い出すことができた。

 

『地面に落ちた~果実拾ったら~♪ 弾けるように~♪ 気がつけば、また走り出してた♪』

『楽しいことたっくさん~♪ やっていきたいよ~♪』

『そうダメだって、諦めても~♪ 俺達はいく~♪』

 

 同期である林檎とは夢美も交えて楽しく配信活動を行ってきた。

 いつしか彼女も自分にとっては仲間として大切な存在になっていた。

 

『心を震わせる~♪ 俺の声を届けるよ~♪』

『その声は、我が友、李徴子ではないか~♪』

 

 だから、絶望のどん底にいる林檎を救うために動いた。

 

『こんばん山月!』

 

 林檎をどう救えばいいかわからず迷っていたときも夢美がもう一度背中を蹴っ飛ばしてくれた。

 

『尊大な羞恥心、蹴り上げ、前へ進むんだ~♪』

『大切な仲間と共に~♪』

 

『let’s step up Sun Gets Kick!』

 

『あがき続けてさ~♪ 掴み取るんだ~♪』

『諦めないでくれよ~♪ 一緒に進んでいこう~♪』

 

 そして、林檎はレオと夢美の伸ばした手を取って立ち上がった。

 

『さあ、太陽のように輝け!』

 

 三期生の勢いは止まらない。

 もっともっと伸びて見せる。

 そんな思いを込めてレオは曲の最後も力を振り絞って歌い続けた。

 

『臆病な自尊心、捨て去れ、立ち止まるなよ~♪』

『掴み取りたいのさ、絶対~♪』

 

『let’s step up Sun Gets Kick!』

 

『尊大な羞恥心、蹴り上げ、前へ進め~♪』

『これからもずっとさ~♪ 勢いを増していくぜ~♪』

 

『もう、止まってなんてられないぜ!』

 

 最後まで全力でレオの現状だせる最高のパフォーマンスで歌い上げたオリジナル曲。

 その圧巻のパフォーマンスに誰もが言葉を失っていたのだ。

 

 

 

『うおおおおおおおおおおおお!!!』

 

 

 

 一瞬の静寂の後、会場には割れんばかりの歓声が轟いた。

 

『まだまだ俺は止まらない! 次はみんなも一緒に声出していこうぜ!』

 

 こうして、レオのCD発売イベントはVtuberのメジャーデビューの中でも群を抜いて盛り上がることになるのであった。

 




さすがに作詞はキチィ……難しいよぉ……



現在、こんばん山月の人気投票を行っております!

一応期間は五月末くらいを想定しておりますが、票が集まらない可能性もあるので、様子を見て変えようと思います。
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