「それでは遅くまで見てくださりありがとうございました……おつ山月!」
[おつ山月!]
[おつ山月!]
[おつ山月!]
今日もいつものように配信を終わる。
デビューからもうすぐで一ヶ月。
生配信にも慣れたもので、レオにとって生配信はすっかり生活の一部と化していた。
飲食店でのアルバイトこそ続けていたが、今ではかなりシフトを減らし、店長にもその内やめるかもしれないという話はしていた。
「ついに登録者数八万越えか……もっといろいろ企画とか考えないとな」
デビュー当時の伸び悩み具合が嘘のように、レオのチャンネルは伸びに伸びまくっていた。
夢美のチャンネルも勢いをそのままに伸び続けているため、二人共登録者数十万人はそう遠くない話である。
「ふぅあぁぁぁ……寝るか」
レオは今日の雑談枠で興が乗ってつい話過ぎてしまった。そのため、珍しく配信後に眠気が襲ってきたのだ。
ライバーとして体調管理に気を使っているレオとしては、予定がないときは眠気に従って眠るようにしていた。
その分、朝五時には起床してランニングして体を動かしているので、堕落した生活を送ってはいなかった。
伸び悩んでいた頃とは違い、晴れやかな気持ちでレオはベッドに潜りこんだ。
翌朝、ランニングを終えてシャワーを浴びたレオは洗濯物を干すためにベランダへ出た。
大体このくらいの時間になると、夢美が寝る前にベランダに出て洗濯物を干し始めるため、レオと夢美は毎朝のように会話をしていた。
隣から物音が聞こえてきたため、今日もレオはいつものように夢美へと声をかけた。
「おはよう。昨日のデレステの配信凄かったな。夢美があんなにリズム感あるとは――」
「う゛ほ゛ぁ……! レ、レオぉ……」
苦しそうな声と共に名前を呼ばれ、慌てて隣のベランダを覗き込むと、そこにはうずくまって苦しそうにお腹を押さえている夢美がいた。
「夢美!? どうした!」
「うぅ……お腹が、痛い……!」
「ちょっと待ってろ!」
レオと夢美の部屋があるのはマンションの五階。普通の人間ならば怖くて足が竦む高さだ。
だが、レオは躊躇うことなく自分の部屋のベランダ伝いに夢美のベランダに入った。
「かなりキツそうだな。救急車呼ぶぞ」
夢美の顔には大量の脂汗が浮かび、血の気も失せていた。どう見ても普通の腹痛の症状ではない。
「待って! そんな大事じゃ、ないから……!」
「何かあったら事だろ!」
救急車を呼ぶことに抵抗のあった夢美はレオを止めようとするが、レオは夢美の制止を聞かずに救急車を呼んだ。
救急車はすぐに到着し、付き添いとしてレオは夢美と一緒に病院へ向かうことになった。
「食あたりですね」
「食あたり」
処置を受けている夢美に代わり、レオは医者から話を聞いていた。
夢美の腹痛の原因は、食あたりだった。
「最近は暑くなってきましたからね。冷蔵庫に仕舞わずに放置していた食材を口にしたのでしょう」
「あー……」
ズボラな生活を送っている夢美ならあり得る。医者からの説明にレオは納得した。
「まあ、症状も大したことはないですし、家で安静にしていれば大丈夫ですよ」
「良かった……ありがとうございました」
それからしばらくして、処置を受けて顔色が回復した夢美が出てきた。
「もう大丈夫そうだな」
「やー、マジで助かったわ。一昨日買ったコンビニ弁当出しっぱなのすっかり忘れてて慌てて食べたのがいけなかったみたい。あっ、診察代と薬代とか立て替えてもらっちゃってごめんね。いくらだった?」
「ほれ、領収書」
病院からもらった領収書を渡すと、夢美はその場でレオに立て替えてもらった金額を清算した。保険証がいるだろうからと、普段使用しているカバンを根性で掴んだことが幸いした。
「にしても〝中居由美子〟ねぇ……」
「何だよ。あたしの本名に文句でもあるのか? アァン?」
病院からマンションへの帰り道。レオは怪訝な表情で夢美の本名を口にした。
病院に付き添ったことで、レオは夢美の本名を知ることとなった。苗字だけなら表札で知ってはいたが、レオにとってはどうにも不思議な気分だった。
「いや、小学校のときの同じクラスにはいなかったなって思ってさ」
レオは小学校の頃、クラスの人気者だったため、同じクラスになった人間とは積極的に交流を持っていた。ただ他のクラスの教室に入るのは禁止というルールがあったため、基本的に仲良くなるのは同じクラスの人間だった。
「ま、あたしボッチだったから」
「いや、ボッチの奴はいたけど中居じゃなかった気が……」
「クラス一緒にならなかったんだろ。というか、マジで三桜小なん?」
この一ヶ月の間、レオと夢美は話をしているうちに、自分達が地元にある同じ小学校に通っていたことに気が付いた。
しかし、残念なことに二人の間にはまったくと言っていいほど交流がなかった。
「やっぱり、司馬拓哉って聞き覚えないか?」
「その名前に聞き覚えがないわけないでしょうが。同じ小学校からSTEPのメンバー出てるとは思わんかったわ。クソッ、普通にシャニプロ系のアイドル当時ハマってたから知っていればあのクソ共にマウント取られることもなかったのに……!」
当時、シャイニーズプロダクションの男性アイドルにハマっていた夢美としては、同じ小学校に〝シバタク〟がいたという事実はかなり衝撃的だった。
「慎之介となら未だに連絡取ってるし、今度会ってみるか?」
「えっ、高坂君と連絡まだ取りあってるの!?」
「まあな。最近もよくRINEでやり取りするし」
レオは慎之介にVtuberをやっていることは隠し、顔出ししていないユーチューバーをやっていると話していた。事務所との契約があるから名前やチャンネルは教えられないとごまかしているが、いつか世間での認知度が上がった際は告げようと決めていた。
「現役時代不仲説あったのに意外」
「慎之介の器がでかいだけだよ。それでどうする?」
夢美は現在シャイニーズプロダクションのアイドルに興味はほとんどない。当時ハマっていただけという話だ。
慎之介に関しては、彼が現在声優をやっていることもあり普通にファンではあったが。
「いや、でも、何かズルい気がして……うーん」
「まあ、気持ちはわかる」
そのまま二人はマンションに帰るまで、他愛ない話していたが、夢美はあることに気が付いた。
「てか、あたし部屋着じゃんっ!?」
救急車で搬送されたため、夢美はいつも着ているモコモコの部屋着にサンダルという出で立ちだった。当然化粧もカラーコンタクトもしていないため、眼鏡もかけている。
「えー……今更だろ」
「無理無理無理! すっぴんだし、部屋着だし……あー、もう! 最悪!」
大声で喚き散らすと、夢美はレオの背中にピッタリと引っ付いた。
「ちょっ!? 引っ付くなよ!」
「うるせぇ! お前イケメンなんだから盾になれよ!」
「いや理不尽!」
最初こそ夢美に密着されたことでドキッとしたレオだったが、その後の夢美の言葉によって一瞬で冷静になった。
「というか、大声出すなよ。身バレするぞ?」
「くっ……!」
「何で俺が悪いみたいな空気になってるの?」
帰り道に一悶着あったが、二人は無事にマンションにたどり着いた。
しかし夢美は現在、自分の部屋ではなくレオの部屋にいた。
「――というわけで、今から会議をする」
「会議?」
突然部屋に呼び出されて会議と言われ、夢美は首を傾げる。
「夢美の生活習慣には改善が必要だ。正直、個人の生活習慣に口を出す気はなかったけど、このまま放っておくといつ死ぬかわかったもんじゃないからな」
「……返す言葉もありません」
今回の食あたり騒動でレオには迷惑をかけた自覚があるのか、夢美は素直に頭を下げた。
「四谷さんからも『負担でなければ獅子島さんも、夢美ちゃんの生活習慣の改善について協力してください!』って、さっき〝チームバラレオ〟のグループにメッセージきてたろ」
「よっちんェ……」
すっかりマネージャーである四谷と仲良くなった夢美は、彼女のことをあだ名で呼ぶようになっていた。
「というわけで、これから夢美の飯は俺が作る。これでも体に気を遣った料理には自信があるからな。もちろん、外食したいときは俺に言ってくれればいい」
「さすがに、そこまでしてもらうわけには……」
「そのレベルでヤバイってことだよ。四谷さんや飯田さんも全面的にバックアップしてくれるから覚悟しておけよ」
「何か包囲網が出来てる気がするんやが」
ちなみに、マネージャー陣はレオと夢美の部屋が隣同士ということは既に把握している。さすがに配信上では近所に住んでいるということにしてはいるが。
「ま、一人分作るのも二人分作るのも変わらないから、気にするな」
「食費は割り勘でいい?」
「そうだな、レシートから金額計算して月末清算にするか」
「了解。何から何まで悪いね」
レオに迷惑をかけている自覚がある夢美は申し訳なさそうに苦笑した。
そんな夢美に対して、レオは笑顔を浮かべて告げた。
「気にするな。幼馴染だろ」
「へへっ……そうだ、そうだったね」
レオと夢美は同じ小学校に通っていたという経歴があるだけでお互いのことを覚えていない。
それでも、二人にとって設定から始まったこの関係はどこか心地が良かった。
そういえば、この小説ではゲームなどは現実のままのものを使用している設定です。
正式名称出さなきゃオッケー理論でやっていきますので、よろしくお願いします。