「はいはいこんバンチョー! にじライブ所属竹取かぐやです!」
「おはっぽー! 同じくにじライブ所属白雪林檎でーす」
いつもの配信のように挨拶をすると、かぐやと林檎はカリューと武蔵の方を向いて話し出した。
「いやぁ、今日は呼んでいただきホンマにありがとうございます」
「まさか地上波に出られるとは思ってなかったっすよー」
[バンチョー、余所行きモードやん]
[地上波でも焼き林檎緩くて草]
[この林檎、芸能界の大御所の前でもまるで動じていない]
初めての地上波での番組出演。
それに対して林檎のまるで動じていない姿に、視聴者達は感心していた。
実のところ、林檎は内心かなり緊張していたのだが。
「こちらこそ出演していただいて感謝しかありませんよ。お二人のご活躍はいつも拝見させていただいております」
「カリューもバンチョーの配信は見てるよー! それに林檎は親友だもんね!」
「「イェーイ!」」
[かりゅりんてぇてぇ]
[本当にこの二人は相性いいよな]
[体当たり系アイドルと才能の方向音痴のバーチャルピアニストという小説のような組み合わせ]
息ピッタリの二人に視聴者達は盛り上がる。
コラボ回数は少なくても林檎が雑談枠でよくカリューの話をするため、二人の仲が良いことは周知の事実だったのだ。
「さて、本日はVtuberの中でも生配信を主体として活動して大人気のお二人にいろいろとお話を聞いていきたいと思います」
「よっろしくねー!」
「まず、初めにお二人がどういう人物なのか知っていただくために有名な動画を見ていただきましょうか。VTRスタート!」
武蔵の掛け声と共に中央にある巨大なモニターにかぐやの動画が映し出される。
それは、かぐやのデビュー動画だった。
『みなさん、初めまして。竹取かぐやと申します。文芸部に所属していて本を読むのが好きな永遠の高校二年生の十七歳です』
「あァ! ちょっとォ!?」
[公開処刑で草]
[スタッフの意図が見えてきたぞ]
[ゲストの扱い……さてはスタッフにじライブを理解しているな?]
自分のデビュー動画が流れるとは思わなかったかぐやは悲鳴のような声を上げた。
『これからバーチャルライバーとして皆さんを楽しませるために精一杯精進していく所存です。えっ、好きなVtuberさんですか? アイノココロさんが大好きです!』
「アカンアカンアカンアカンアカンアカン! もうええ、もうええ、もうええて!」
[悶えるバンチョー久しぶりに見た]
[デビュー時は関西弁じゃなかったのか]
[めっちゃ声作ってて草]
『これから温かく活動を見守っていただければ幸いです。何なら私の方から皆様を見守っちゃいます! じーっ……!』
「ぶりっこすんなやボケェ! しばくでホンマにもおおおおおお!」
「と、いうわけで、竹取かぐやさんがどんな人かわかっていただけたかな?」
[タケさんニッコニコで草]
[タケさんが三期生を好きな理由が分かった気がする]
[これは鬼畜の所業www]
笑顔でかぐやが発狂する様子を見守っている武蔵の姿に、視聴者達は笑いを禁じ得なかった。
日本を代表する俳優が自分達と同じような価値観を持っていることに、視聴者達は親近感を覚えていたのだ。
「タケさん鬼畜だなー。ま、私は昔から変わらないから無敵だけどねー」
「林檎はずっと我が道を行くって感じだもんね! あはは……」
林檎は余裕そうな表情を浮かべているが、カリューはこれからの展開を知っているため、気の毒そうな表情を浮かべていた。
ひとしきりかぐやをいじり倒すと、武蔵は林檎のVTRを流すようにスタッフへと指示を送った。
「次は白雪林檎さんだね。それではVTRスタート!」
武蔵の合図と共に再び巨大モニターに映像が映し出される。
『その日、Vtuber界に一人の心優しき少女が現れた……』
「ほ?」
武蔵のナレーションが入っている映像が流れ始めたことで、林檎は素っ頓狂な声を上げる。
『彼女は同期のためにサプライズを用意したり、友人のためならばどんな労力も厭わない』
『『登録者10万人おめでとう!』』
『……これでも私だって感謝してるんだよ』
モニターには林檎が夢美の登録者数十万人記念を祝うためのサプライズを行っている映像が流れた。
『彼女は後輩のためならば自分が炎上することも厭わない。その精神まさにヒーローそのものだ』
それから林檎が後輩であるバッカスやメロウのために、炎上したときの簡単なまとめ動画が流れた。
「んなあぁぁぁぁぁ!?」
予想外の切り口で始まった自分への精神攻撃に、林檎は珍しく叫び声をあげた。
『白雪林檎、それは心優しき少女の名前である……ProjectV』
最後の有名番組のパロディを挟んで動画は終わった。
「うむ、事実しかなかったね!」
「お、推しだからしょうがないよね!」
「酷い依怙贔屓を見た気がするわ……」
親バカ丸出しの動画にカリューは呆れ、かぐやはこめかみに手を当ててため息をついた。
あまりの羞恥に林檎は地面に倒れ伏したまま、微動だにしていない。
[内藤郁恵official(@ikueofficial)
主人がご迷惑をおかけしてしまい、竹取さん、白雪さん、大変申し訳ございませんでした
#武蔵とカリューのV語り]
[奥さん謝罪してて草]
[そういえば奥さんピアニストだったわ]
[この人もオタク文化に理解あるタイプだったのかwww]
[夫婦揃って好感度爆上がり]
武蔵の妻であり、林檎の母である郁恵がツウィッター上で写真と共に謝罪の投稿をしたことで、番組の実況ツウィートはさらに盛り上がることになるのであった。
郁恵は武蔵と林檎がテレビで共演すると聞いて祈るような気持ちで番組を視聴していたのだ。
どうか事故だけは起きませんように、と。
「さて、これだけではVtuberに馴染みのない方にお二人の魅力が伝わらないと思います」
「わかってるならやめようよ、タケさん」
「まあ、聞きなさい。Vtuberがリスナーに届けるのは笑いだけでないということを伝えるためのものさ」
[流れ変わったな]
[そういえば、今日の二人って音楽つよつよだった気がする]
[さてはタケさん、落としてあげる気だな?]
勘の鋭い視聴者達は武蔵の意図を理解し始めていた。
「ここで、こちらのVTRをご覧ください!」
武蔵の合図と共にかぐやのメジャーデビュー後のファーストライブの映像が流れ始めた。
『はいはいこんバンチョー! 今日はウチのライブに来てくれてありがとうな! さっそくやけど、ブチかますで! バンブーミサイル!』
『うおおおおおおおおお!』
「これは竹取かぐやさんのファーストライブ〝The Tale of the Bamboo Cutter〟の映像です。私も音楽ライブの経験はありますが、これだけ力強く声を前に飛ばせるのはとてもすごいことなんだよ」
解説を挟みながらも映像を偏見のかけらもなく、一人の演者として感心している武蔵の姿は、視聴者達のオタク心をくすぐるものだった。
堅物だと思っていた雲の上存在が自分達の好きなコンテンツを真剣に評価してくれている。
偏見を持って見られてきた人間にとって、武蔵のような人間は好感を持てる存在だったのだ。
「さて、次は白雪さんだね。カリュー君、バトンタッチだ」
「オッケー! 任せてくださいよ、タケさん!」
解説役を交代すると、映像もかぐやのライブの映像から林檎の3D配信の映像へと切り替わる。
『…………………………しゃぁぁぁぁぁ! ノーミスで弾き切ったぞー!』
「これは原曲の二倍速でピアノを弾いた3D化配信の映像だね! マジでこれはやばいよ。だって二倍速だもん」
[カリュー、語彙力カスで草]
[たぶん、感動して語彙力失ったっていうネタだと思う]
[今のままではいけないと思います。だからこそ日本は今のままではいけないと思っている]
[Vtuberにこんなすごい人達いたのか……]
圧倒的な実力を見せつけるかぐやと林檎の映像に、彼女達をいつもの芸人枠だと思っていた視聴者達は圧倒されていた。
「信じられるかい? さっきまで発狂していた彼女達はこれだけのパフォーマンスができる立派なアーティストでもあるんだ。食わず嫌いはよくない! さあ、君もこちら側へ!」
「露骨な勧誘だなぁ」
武蔵とカリューが締めたところで、林檎がピアノを弾かせてほしいと武蔵に頼み込むという流れがあった。
「ねえ、パパ……あっ」
そこで気が緩んでいた林檎はやらかした。
「いや、ちがっ、これは、その」
林檎は配信中の事故ならば大抵は笑ってやり過ごしている。
それが炎上に繋がったとしても大したことにならないことを理解しているからだ。
だが、今回は違う。
武蔵と自分が親子であることは公表するつもりもないし、事故でも出したくないことだったのだ。
そんな林檎のミスに対して真っ先に動いたのはカリューだった。
「うーん? 今、何ていったのかなぁ? カリューよく聞こえなかったなぁ?」
[カリューめっちゃ悪い顔してて草]
[これは恥ずかしい奴]
[学校で先生をお母さんと呼んじゃう現象]
幸いカリューが即座にいじったことで、空気は完全に〝林檎が恥ずかしい呼び間違え〟をしたという空気になった。
その空気にはかぐやも即座に乗っかることにした。
「林檎。アカンでぇ? 芸能人相手にパパ活なんてなぁ」
[バンチョーwwwww]
[パパ活は草なんよ]
[地上波で何てこと言うのバンチョー!w]
「よーし、パパグランドピアノ頼んじゃうぞー」
[タケさんまでノリノリで草]
[コピペネタ把握してるとは思わなんだ]
動揺して固まっていた武蔵も、我に返るとこの流れに乗った。
林檎も三人が作ってくれた空気に慌てて乗るのであった。
「うっ、くぅぅぅぅ……!」
[白雪、真っ赤な林檎になる]
[まさか地上波で林虐が見れるとはなぁ]
[第一回から撮れ高だらけなんよ]
林檎のミスも完全にカバーされたことで、本来の流れ通り林檎は音楽用スタジオに用意されたグランドピアノの元に向かい、見事な演奏を披露するのであった。
「申し訳ございませんでした!」
収録が終わると、林檎はスタッフや共演者全員に謝罪して周っていた。
最後まで親子としてではなく、プロとして共演したかった林檎にとってこのミスは尾を引いていた。
「頭を上げなさい」
しかし、武蔵は林檎に優しく微笑みかけた。
「ミスというものは往々にしてあるものだ。そのミスをいかにカバーするか。普段、君達ライバーもやっていることだろう。この場にいる全員でそれを行っただけさ」
そこで言葉を区切ると、武蔵はあくまでも俳優手越武蔵としての言葉を林檎へとかけた。
「白雪さん、あなたがこれからどれだけ伸びるのか。私はそれをずっと見守っているよ」
「はい……あ゛り゛か゛と゛う゛こ゛さ゛い゛ま゛す゛!」
父親としてではなく、最後まで芸能界を生き抜いてきた者としての背中を見せ続けてくれた武蔵に、林檎は涙を流しながら感謝するのであった。
何だろう、タケさん書いててちょっとヒロアカのエンデヴァーが頭に過ぎった。
現在、こんばん山月の人気投票を行っております!
一応期間は五月末くらいを想定しておりますが、票が集まらない可能性もあるので、様子を見て変えようと思います。
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