Vtuberには始祖と呼ばれる存在がいる。
一番初めにVtuberと名乗ったアイノココロ。
アイノココロの言ったVtuberという概念を継いで登場した坂東イルカ。
Vtuberという存在の中でもこの二人の存在感は大きく、Vtuberに詳しくないものでも名前の挙がる数少ないVtuberといえるだろう。
Vtuberとしてのキャラクターを完全に守りきるココロと、キャラに囚われない素の姿も魅力であるイルカは対照的な存在とも言える。
イルカも事務所のトラブルさえなければココロに次いで登録者数百万人の大台を突破したと言われているくらいだ。
この二人はいわゆるVtuber界における表の顔だ。
表があれば裏もある。裏の顔と呼ばれているのは四天王の残り二人であるバーチャル美少女受肉おじさんとアダルティーナだ。
バーチャル美少女受肉おじさんは通称バ美肉おじさんと呼ばれており、男性が女性のモデルを使用してVtuberになる〝バ美肉〟という単語の語源になったVtuberだ。
性別も関係なく誰でも自由に好きな存在になれる。
そんな夢を個人の技術のみで体現してみせた彼の存在は非常に大きなものだった。
そして、もう一人の裏の顔アダルティーナ。
アダルティーナは当初大人のお姉さんというイメージを押し出したキャラクターとして売り出していく予定だったが、生配信をしたときに盛大にボロが出た。
下ネタコメントを積極的に読み上げて爆笑する姿から、あっという間に〝アダルティーナ=下ネタ〟というイメージが定着した。
同じ四天王のイルカ曰く、アダルティな女性というより脳みそ中学生男子。
アダルティーナの存在はVtuberがアイドルとしての側面だけではなく、下品でありのままを曝け出しても魅力があることを知らしめた。
もちろん、下ネタだけが彼女の魅力ではないのだが、アダルティーナがVtuberになることへのハードルを下げたことには間違いない。
そんな偉大な四天王であるアダルティーナはVacterのスタジオへとやってきていた。
今日は夢美、桃華、アダルティーナ、そして最近勢いのあるVacterの新人である清澄奏とのコラボ企画があった。
「「いや、見た目詐欺だろ!」」
「あはは……君達には言われたくないかな」
開口一番、夢美と桃華に見た目詐欺と言われたアダルティーナは苦笑交じりに頬をかいた。
アダルティーナは、黙っていればゆるふわ系といわれるタイプの女性に見える。
色白な肌にナチュラルメイクでも通用する整った容姿からは、彼女が下ネタ大好きと想像することは難しいだろう。
「二人だってめっちゃ可愛いじゃん。よくナンパされるって話も納得だよ」
夢美も桃華も容姿はかなり整っている方だ。
夢美は普段からの努力の賜物であり、桃華は生まれつきの美貌を持ち合わせていた。
「私はともかくバラギは地雷系でしょ」
「よし、表出ろ桃タロス!」
「はっ、喧嘩で私にかなうと思うなよ!」
「仲良いなー……」
すぐに喧嘩を始めた夢美と桃華を見て、アダルティーナはどこか羨ましそうに目を細めて笑った。
アダルティーナには同期がいない。
過去に後輩は存在していたが、所属していた事務所が運営を終了すると共にほとんどの者がVtuber業界から去っていった。
アダルティーナは現在、運営から独立した一部の仲間と共に個人で活動しているのだ。
「あの、あの! バラギさん!」
過去に想いを馳せていると、もう一人のコラボ相手である奏が夢美へと話しかける。
「ミコちゃんが日本にいるって本当ですか!?」
「いるけど……どうして?」
「私、ミコちゃん大好きなんです! コラボしたいとは思ってるんですけど、外国にいたら時差とかありそうですし、よく限界化してるので迷惑じゃないかと思って……」
「あー……わかる。あたしもまひるちゃんにコラボ申し込む勇気なかなか出なかったもん。それが他箱の海外ライバーなら尚更だよね」
奏に昔の自分を重ねて笑顔を浮かべると、夢美は奏の頭を優しく撫でて言った。
「いいよ。あたしからミコに言っといたげる」
「あ、ありがとうございます!」
「いいのいいの、友達の後輩の頼みだからね」
奏は友人の和音の後輩でもある。
和音には世話になっていることも多いため、夢美からしてみればいつもの借りを少し返しただけという感覚だったのだ。
「ねえ、桃タロス。この子が本当にバラギちゃんで間違いないの?」
「バラギは配信外だと礼儀正しくて頼れるサバサバ系女子だぞ。人見知りする癖に後輩には優しいし、欠点なんて私生活がだらしないくらいじゃない?」
夢美と奏のやり取りを見ていたアダルティーナは困惑していた。
それとは対照的に、桃華は珍しく優し気な表情を浮かべて夢美の魅力を語っていた。
「普段からそう言ってあげればいいのに」
「なんか癪だからやだ」
「えぇ……」
普段から顔を合わせれば言い争いばかりしている夢美と桃華だが、少なくとも桃華は夢美のことを気に入っていた。
それを正直に言うのは気恥ずかしさもあり、絶対に面と向かって褒めたりはしないのだが。
「まったく素直じゃないなぁ」
苦笑すると、アダルティーナはコラボ配信に向けて打ち合わせを始めるのであった。
清楚()と名高い者達が集うコラボ配信と聞いて、四人の配信には多くの視聴者達が駆けつけていた。
「みんな、こんにちわわ! Vacter所属五期生の清澄奏だよ!」
[こんにちわわ!]
[今日も綺麗な声だなぁ]
[何でこのコラボ企画したかわからないわ(白目)]
「おっまたー! Vtube界を支える下半身、アダルティーナだよ!」
[おっまたー!]
[いつ聞いてもひどい挨拶]
[面子でもう草なんよ]
「おはきびだんごー。にじライブ所属二期生の吉備津桃華だぞー」
[おはきびだんごー]
[たぶんこの中で一番やべー奴]
[桃タロスのはエグイからなぁ]
「こんゆみー。にじライブ所属三期生の茨木夢美でーす」
[こんゆみー]
[おかしい、バラギが一番まともに見える]
[相 対 清 楚 理 論]
[桃タロスと盛り上がってるときは結構エグ目の下ネタも言うぞ]
[アーカイブ残るといいなぁ]
四人が挨拶をしただけだというのに、既にコメント欄には配信がアーカイブに残るかどうかを心配する声も多く存在していた。
「ていうかさ、今日はなんでオフコラボなん?」
「それは私も気になってた。だって、今日って雑談しながらご飯食べるだけでしょ?」
「ご飯食べるからじゃない?」
「今は米しかないけどねー!」
[米しかないのは草]
[待って、これ企画考えたの奏ちゃんだったよね?]
[嫌な予感がする]
今回のコラボはVacter所属である奏が企画したため、奏のファンである視聴者達は警戒心を抱いていた。
「あー! つまりここにいるみんなをおかずに米を食えってことか!」
「しゃあああ! 上等だよ、全員でオナって白米かきこんでやるよ!」
「待って! 違うから! おかしな戦い始めないでぇ!」
[草]
[その発想はいらなかった]
[やっぱアダルティーナはちげぇわ]
[桃タロスがさっそく暴れ始めたぞ]
[おい、問題児が主催者置いて暴れ出したぞ]
奏の企画説明を待たずに自由に動き出したアダルティーナと桃華に、深いため息をつくと夢美はゲンナリとした表情を浮かべた。
「このノリであと三時間も持つのかな……」
あまりにも自由な二人を見て、自分がしっかりしなければ、と思う夢美だった。
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