ライバーのコラボには三種類存在する。
収録スタジオへとライバーが集合して行うオフコラボ。
それぞれのチャンネルで配信を行い、両者が配信ソフトを使用するコラボ。
一人のライバーが配信ソフトを使用して会話だけ参加する形のコラボ。
企業内、企業外、どちらのコラボでも基本的にこの形式でコラボ配信は行われいる。
「〝#ハンプ起きろ〟って……まさか」
珍しく深夜まで配信を行っていたレオは、配信終了後に配信を見に来た袁傪へと感謝のツウィートを行った。
その際にトレンド欄に存在していた見覚えのあるハッシュタグにレオは戦慄した。
ハンプのチャンネルを見てみれば、そこには配信中の表示。
以前、ハンプはコラボ配信中に眠ってしまったことがあった。
このとき、配信をハンプが担当しており、他の者はThiscodeで通話のみという形で参加をしていた。
そして、配信を担当していたハンプが眠ってしまったことで配信が切れず、コラボ相手が何とかハンプが起きるまで場を繋ぐという地獄絵図になってしまったのだ。
それが多くの人間によって拡散され、〝#ハンプ起きろ〟というハッシュタグがトレンド入りしたのであった。
再び起こってしまった〝伝説の寝落ち〟にレオは戦慄した。
『もういや! いい加減、起きてハンプ君!』
『起きてください、ハンプさん!』
『頼むから起きてくれ、ハンプ君!』
[草]
[ハンプスヤッスヤでワロタ]
[安らかな寝顔してやがる……]
配信を見に行けばそこにあったのは予想通りの地獄絵図。
まるでハンプが息を引き取ったかのようなコラボ相手のリアクションに、コメント欄は笑っていたが、起きている出来事は笑いごとではなかった。
レオが間を持たせるために通話に参加しようか迷っているとき、ちょうど夢美からRINEのメッセージが届いた。
『今、起きてる? ツウィッター見た?』
『見たよ。またハンプさんが寝落ちしてるみたいだな』
夢美も普段の配信を終え、メンバー限定配信をちょうど終えたタイミングで何が起きたかを察したところだった。
『サーラ先生、あかやん、バッカスさん、結構しんどそうだよね』
『配信に参加してくれるライバー聞いて回ってるみたいだし、行くか?』
『ごめん、さすがにこのメンバーと絡むのはキチィ』
夢美も助けに行きたいという気持ちはあったが、それ以上に現在配信上にいるメンバーとは絡んだことがほとんどないため、自分からただの雑談コラボに参加する気にはなれなかった。
数多くのコラボをこなしているため誤解されがちだが、夢美は大人数での集まりが苦手である。
コラボもレオと林檎、まひる以外は基本的に誘われてのコラボという形が多かった。
『だろうな。今日は二回行動で疲れているだろうし、俺が代わりに行くよ』
『頼むわ。長引きそうだし、明日の朝ご飯はあたしが作るね』
『サンキュ、焦げたベーコンエッグ楽しみにしてるよ』
『はっ倒すぞ(#^ω^)』
夢美とのやり取りを終えると、レオは早速現在配信に参加できるライバーを募集しているサーラへと連絡を入れた。
レオが連絡を入れた直後、配信上では全員が
『レオ君が来てくれるって!』
『本当にありがとう獅子島君!』
『レオ君が来てくれるなら何とかなりそうだね』
[さすが聖獣]
[真打登場]
[ありがとう……ありがとう!]
コメント欄もレオが参加すると聞いて盛り上がり始めた。
レオが通話を繋げると、サーラが明るい声音で礼を述べる。
「お疲れ様です。大丈夫ですか?」
『お疲れ様ですー。あんまり大丈夫じゃないけど、来てくれてありがとうレオ君』
「いえ、この状況は放っておけないですよ! えー、皆さん、こんばん山月! 急遽お邪魔させていただくことになりました獅子島レオです!」
[こんばん山月]
[地獄に自分から飛び込む聖獣]
[さっきまで配信してたのに駆けつけるのすごいなw]
レオが先ほどまで長時間配信を行っていたことを知っている者は、わざわざいつ終わるかわかない配信に進んで参加してきたことに驚いていた。
いくらレオが人格者だからと言っても、ここまでするとは思ってもいなかったのだ。
「トレンド入りしてるの見て慌ててきたんですけど、寝てからどれだけ経ったんですか?」
『もう二時間ですよ、獅子島君……』
「ご愁傷様です……」
[十一時には寝落ちしてたからな]
[これで二度目という事実]
[起きたときのリアクションが気になるところ]
ハンプ達が配信を開始したのは十時。
そこから一時間ほどで寝落ちしてしまったため、今に至るまでサーラ達は何とか場を繋いでいたのであった。
『レオ君、疲れてないかい? 来てくれたのは嬉しいけど、さっき配信終わったばかりじゃないか』
「大丈夫ですよ。昔24時間不眠不休で企画やった後にライブとかやってたんで」
『少年時代の無茶を基準にしちゃいけないよ。アイドル時代と今とじゃ勝手が違うんじゃないか。来てくれたのは嬉しいけど、キツくなったら言ってくれよ?』
「き、気を付けます……」
[レオ君ってマジで無茶することに抵抗なくて心配になる]
[スタバさん、よく言ってくれた]
[どっちもぐう聖]
元々レオのファンであり、四期生の後輩ライバーとしてデビューしたバッカスは心からレオのことを心配していた。
レオが無茶なことを度々やっていたことを袁傪時代からバッカスは気にかけていたのだ。
「そういえば、他のライバーさんは来てないんですか?」
『コメントでは参加してくれるけど、みんな配信してたり、終わったばっかりだったりで、参加はキツイみたい』
「あー、ですよね。夢美も心配はしてたんですけど、二回行動の後で参加はキツかったみたいで……あと、白雪は寝てるっぽいです」
『あー、バラギちゃんも気にしてくれてたんだ』
『白雪さんはまあ、そうなりますよね』
『まあ、むしろ気にしてくれただけでもこちらとしてはありがたいよ』
[さらっとてぇてぇ]
[情報共有たすかる]
[普通この地獄に疲れた状態で来ようとは思わないだろw]
レオはさりげなく同期二人の話題を出した。
夢美が絡みのないメンバーと進んでコラボするのは厳しいということは伏せた。
『勝輝さんからも返信来た!』
『おっ、我らが社長はなんて?』
『[会食終わった後でしんどい。すまぬ~]って来た』
[まあ、しゃーない]
[すまぬ~がジワるwww]
[かっちゃん、マジで社長なんだなぁ]
[会食で酒入ってて参加するのは厳しいわな]
社長である勝輝もサーラに返信をしていたが、勝輝はちょうどクライアントとの会食があったため、配信に参加する体力は残っていなかった。彼は明日も仕事がある身なのである。
「そういえばハンプさんって前にも寝落ちしてましたよね?」
『そうなんですよ。前は僕と桃華さんと鶴野さんが地獄を見たんですよ。あと、乙姫さんが眠い中助けに来てくれましたね』
『私達って乙姫さんと面識ないんだけど、どんな人だったの?』
『ああ、俺も気になってたんだ。切り抜きでは見たことあったけどさ』
[真の清楚やぞ]
[そういえば、前は姫ちん来てたな]
[懐かしい……]
[ハンプは姫ちんガチ勢だったな]
以前、ハンプが寝落ちしたときはまだ引退していなかった乙姫が急遽配信に参加して場を繋ぐのに協力していた。
乙姫がハンプに向かって起きるように声をかけたことで、ハンプが目を覚ましたことも前の配信が〝伝説の寝落ち〟と呼ばれる要因の一つだった。
『本当にあのときは乙姫さんが来てくれて助かりましたよ……』
[姫ちんの呼びかけで起きたのは伝説]
[姫ちん……]
[あれはオチとしては最高だったw]
引退したライバーの話題が出ることはあまりなく、視聴者達もそれを望んでいることはレオも理解していた。
「実は俺、乙姫さんとお会いしたことあるんですよ」
『『『えっ!?』』』
[!?]
[!?]
[!?]
レオはせっかくの機会なので乙姫の話題を振ることにした。
本人からもある程度、話していいと許可をもらっていることもあり、レオは悲しみを背負って今も事務所全体を推してくれている乙姫のファンに向かってファンサービスをすることにしたのだ。
「かぐや先輩や勝輝先輩とは今も一緒に食事に行ったりしているみたいで、俺もたまたま都合があって紹介していただいたんです」
[マジか!]
[今も仲良くやってるのか]
[一期生てぇてぇ]
[たすかる]
山梨での旅行のことはぼやかしながらも乙姫とのことをレオは話し出した。
「マジであの人清楚でしたよ。口調や所作からなんていうか上品さが滲み出ているんですよ。育ちの良さでいえば白雪もそうですけど、乙姫さんのは普段からそう振る舞っているからこそ滲み出る感じでしたね。普段から夢美と接してる分、余計にそれは感じましたよ」
『『『ああ……』』』
[満場一致で気の毒そうな声出てて草]
[姫ちんとバラギ比べちゃあかんw]
[絶対的な清楚だからな]
[茨木夢美:なんでだよ! あたしも清楚だろ!]
[本人いて草]
[バラギ寝ろ]
[バラギは比較対象いないと清楚になれないぞ]
[誰か桃タロス呼んでこい]
本来、寝ているはずの夢美がコメントしたことで、再びコメント欄が盛り上がる。
夢美は何だかんだで気になって眠れず、配信を覗きにきていたのだ。
「お前疲れてるんだから寝ろよ」
『レオ君ってバラギちゃんには辛辣よね』
『まあ、それがバラレオのいいとこですよ』
『てぇてぇだなぁ』
[この二人はすぐにてぇてぇする]
[スタバさんがいい声でてぇてぇって言ってるの笑う]
[バラギ寝ろでみんな呟こうぜ]
その後、〝ハンプ起きろ〟と〝バラギ寝ろ〟が並んでトレンド入りすることになり、夢美は朝起きたときに「何でだよ!」と叫ぶことになるのであった。
続きます