Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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【寝起き】まさかの目覚まし

 

 レオが来てから配信では、突発的な歌枠が始まった。

 その場にいる全員が歌唱力のある者だったこともあり、配信は盛り上がりを見せていた。

 ただ朝日が差し込みはじめ、四人の体力も限界を迎えていた。

 

「ハンプさん、まだ起きないんでしょうか……」

『結構飲んでたからなぁ』

『ハンプ君、起きたらどうしてくれようか……!』

『贖罪配信は確定ですね』

 

[残当]

[しばらくは禁酒だな]

[トレンドにバラギ寝ろ入ってるの草]

 

 いまだに起きる気配のないハンプに、レオ達も段々と辟易し始めていた。

 

「……みなさん、大丈夫ですか?」

『……もうハンプ君が起きるまで寝ない』

『……ここで寝たら悔しいですからね』

『……こうなったら意地だよ。明日は喫茶店の定休日だから問題ないしね』

 

 既に四人の体力は限界に達していた。

 かといって現状を放置するわけにもいかず、もはや意地で目を覚ましているような状態だった。

 この四人は不健康な者が多いライバーの中でも比較的健康的な生活を送っていることもあり、夜通しでの配信はかなりキツかったのだ。

 もはや会話すらふわふわとした内容のないものに成り果てていた四人の元へあるメッセージが届く。

 

『あっ、勝輝さんからディスコで何かきた』

 

 それは一度寝た後、目を覚ました勝輝からのメッセージだった。

 

『もし良かったら使ってください……って〝目覚まし.mp3〟?』

 

 簡素なメッセージと共に添付されていたのは〝目覚まし.mp3〟という音声ファイルだった。

 レオはその瞬間、勝輝がどんな音声ファイルを送ってきたか理解した。

 

「目覚まし、か」

『目覚ましってことは大音量のアラーム音とかですかね?』

『それだったらわざわざ社長が送ってこないだろう』

『とにかく再生してみるね』

 

[社長直々に送られてきたアラーム音とか怖いw]

[かっちゃんボイス出せ]

[ハンプを起こすための音声、まさかな]

 

 サーラが恐る恐る音声を再生すると、音声ファイルからは聞き慣れた声が流れ始めた。

 

『もしもーし、ハンプさん? また寝てしまったんですか?』

 

[!?!?!?!?]

[!?!?!?!?]

[!?!?!?!?]

[まさか姫ちん!?]

[マジか!?]

 

 流れてきたのは引退した一期生の竜宮乙姫の声だった。

 内海はハンプが寝落ちしたということを朝起きた際に確認し、慌てて勝輝へと自分の声を録音した音声を送っていたのだ。

 

『早く起きないとダメですよぉ。皆さん、お疲れなんですから』

 

「いや、マジで何してるんですか!」

『乙姫先輩!?』

『いいんですか、これ!?』

『一期生ってとんでもないなぁ』

 

[また伝説作ってる]

[伝説の誕生定期]

[契約上の問題も社長から送ってるから問題ないというwww]

[切り抜き確定]

 

 まさかの乙姫の声にコメント欄は今までのお通夜モードが嘘のように盛り上がり始めた。

 引退したライバーが表に出てくることはまずない。

 夢美の凸待ちに匿名で内海が参加するという特例はあったものの、基本的に事務所を辞めた人間がわざわざ表舞台に出てくることはないのだ。

 内海の場合は、事務所の人間であったからこそ参加できたともいえるのだが。

 

『ほら、早く起きてください。ハンプさーん』

 

『――――はっ!?』

 

 乙姫が目を覚ますように呼び掛けるボイスの再生が終了した瞬間、ハンプの2Dモデルが動いた。

 

『えっ、マジすか。マジですか? マジですか、これ……』

 

[おっ!]

[ハンプが起きたぞ!]

[おはよう]

[タイミング神かよw]

 

 奇跡的なタイミングで目を覚ましたハンプに、視聴者達は大いに盛り上がり、あっという間に〝ハンプ起きた〟がトレンド入りした。

 

「ハンプさん、おはようございます!」

『よく寝てたねぇ!』

『おはようございます!』

『やあ、おはよう!』

 

 レオ達は、明るくはきはきと、どこか圧を感じさせる挨拶をした。

 半ばパニックになっていたハンプは、全てを察して心底申し訳なさそうに謝罪をした。

 

『誠に申し訳ございませんでした……』

 

[ガチトーンで草]

[これ、会社で失敗したときのテンションだ]

[やらかし度合で言えばそんな生易しいものじゃないがw]

 

 二度目の寝落ち事件。

 この騒動の終わりが見えてきたことで、内心ハラハラしていた視聴者達は、画面の向こうで安堵のため息をついた。

 

『ハンプ君さぁ。私達の必死の呼びかけでも起きなかった癖に、乙姫先輩の呼びかけだと起きるわけぇ?』

『スゥ――――…………』

 

[サーラ先生ブチ切れてて草]

[ジト目たすかる]

[これは家族会議不可避]

 

[白鳥まひる:あーあ、やっちゃったねぇ]

[白鳥白夜:父さんのこと見損なったよ!]

 

[子供達来てて草]

[次の朝昼夜亭コラボ決まったな]

[期待して待ってる]

 

 サーラは内心、ハンプに腹を立てていた。

 普段から疲れている身のため、酔って寝落ちしてしまったことはまだ許せる。

 だが、仲良くやっている自分達よりも、引退したハンプの推しだったライバーである乙姫の呼び掛けで起きたということがどこか気に食わなかったのだ。

 

「まあまあ、サーラさん。続きは朝昼夜亭コラボでやっていただいて……」

『夫婦喧嘩は犬も食わないって言いますからね』

『これは楽しみだねぇ』

 

 コメント欄にまひると白夜が登場したことで、流れは完全にハンプをいじる方向性に変わった。

 それからひたすらハンプをいじり倒した後、配信はお開きとなったのであった。

 

「ふぅあぁぁぁ……ねむ」

 

 通話を切ると、自然と大きなあくびが零れ落ちる。

 少しだけ寝よう。

 襲い掛かる眠気に負けたレオはそのまま倒れこむように眠りについた。

 

「……オ……レオ! 起きろって! ご飯できたよ!」

「ん、あ、ああ?」

 

 レオが目を開けると、いつの間にか寝ている場所がソファーに移されていた。

 

「ワタシも運ぶの手伝いマシタ!」

「ミコ、おはよう」

「おはよゴザイマス!」

 

 改めてしっかりと目を覚ましたレオは、既に部屋に上がっていた夢美とミコに礼を述べた。

 

「二人共、ありがとな」

「いいっていいって」

「寝落ち配信のヘルプお疲れ様デシター!」

 

 レオを労うと二人は早速食卓に夢美が作ったベーコンエッグとトーストを並べ始めた。

 

「おー、ベーコンエッグだ!」

「ママの作った朝ご飯!」

「ふふん、よく味わって食えよ! あっ、ミコ! 焦げてるから裏返すのはやめろォ!」

 

 レオとミコの反応に得意気な表情を浮かべていた夢美だったが、ミコがベーコンエッグを裏返して焦げた面を見つけたことで慌てたように彼女を制した。

 

「そういえば、ミコはそろそろ登録者数百万人だな」

「ねー、海外ライバーって言っても、こんなに伸びるなんてすごいよね」

 

 ミコの登録者数は九十万人を超え、もう百万人が見え始めていた。

 自分達を追い抜かし、前例のない速度で伸びていくミコに、レオも夢美も楽し気に笑っていた。

 

「そう、ですね……」

 

 楽しそうに微笑むレオと夢美に、ミコはどこかぎこちない表情で笑って答えるのであった。

 


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