Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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【食事会】尊敬するトップの意外な一面

『それじゃあ後で音声送りますねっ!』

「ありがとうございます。ココロさんをはじめ四天王の皆さんには頭が上がりませんね」

『あーっ! またココロさんって言った! 何度も言ってるじゃないですかっ! ココちゃんって呼んでくださいっ!』

 

 すっかり定時を過ぎた頃。

 にじライブの事務所ではかぐやがVtuberの先駆者アイノココロと通話をしていた。

 

「い、いえ、その、恐れ多いといいますか……」

『むーっ! イルカちゃんといい、かぐやちゃんといい、私を神格化しすぎなんですよっ』

「そんなことは……」

 

 ない、とは言い切れなかった。

 かぐやはVtuberの運営を始める前からココロのファンだった。

 にじライブの前身となったプロジェクトもアイノココロがいなければ生まれなかったものだ。

 

『かぐやちゃんだってトップを背負ってる立場だからわかりますよねっ! 私はもっと気軽に接してほしいんですっ!』

 

 プライベートで親交のあるイルカでさえ、ココロには敬意を持って接している。

 友人でいたいココロとしては、その対応はどうしても寂しく感じてしまうのだ。

 

「……イルカさんが前に言ってたで。『ココさんが寂しがってるのは知っています。でも、私にとってはココさんは憧れの存在なんです』ってな」

 

 素の口調に戻すとかぐやは続ける。

 

「ウチかて、後輩がもっと気軽に絡んでほしい。この業界であまり上下関係を厳しくし過ぎるのもよくない……せやけど、あんたはウチらにとって眩しすぎるんや」

 

 かぐやにとって、ココロは気軽に接するにはあまりにも偉大過ぎた。

 

『むー……』

「せ、せやから、その……こういう裏でのときは、まあ、普通に仲良くさせてもらうで〝ココちゃん〟」

『っ! うん! これからもよろしくねっ、かぐやちゃんっ! 歌ってみた動画楽しみにしてるよ!』

 

 かぐやの精一杯の譲歩に、ココロは嬉しそうに通話を切るのであった。

 緊張の糸が切れたことで、かぐやは両手をだらんとぶら下げて椅子に腰かける。

 そんなかぐやの元にオフィスの見回りをしていた内海がやってきた。

 

「お疲れ様。打ち合わせは終わった?」

「ああ、問題ないで。四天王全員揃って快く協力してくれるってな」

「そう、良かったじゃない。あっ、そういえば、さっきの星野さんの配信の切り抜き動画が上がってるわ」

 

 ほら、と内海は自分のスマートフォンでU-tubeアプリを立ち上げると、ミコの配信の切り抜き動画を再生した。

 

『たとえ登録者数を超えようと、バンチョーはにじライブを引っ張ってきた偉大な人です。私の一歩は誰よりも遠い。でも、足跡はバンチョーの方が誰よりも多い。比べることがおかしなことなんです。私が言いたことは一つ。数字に囚われて大切なものを見落とさないでください』

 

 ミコは先ほど登録者数百万人記念配信をスタジオで行った。

 その配信内での彼女の発言が日本語字幕付きで切り抜き動画として上がっていたのだ。

 それは自分がにじライブで登録者数一位になったとしても、かぐやが変わらずにじライブの看板であるということを宣言する発言だった。

 

「まったく……後輩にフォローされるなんてウチも焼きが回ったわ」

「そうかしら、一人で抱え込むよりよっぽどいいと思うけど」

 

 かぐやはため息をつきながらもどこか嬉しそうに笑みを浮かべていた。

 そんなかぐやを見て内海も嬉しそうに微笑むのであった。

 

「それじゃ、早く退勤してね?」

「わかっとるって」

 

 しっかりと残業について釘を刺した内海は手をひらひらさせながら自分のデスクへと戻っていくのであった。

 それからかぐやが帰り支度を済ませて事務所を出ると、スタジオから撤収したミコと鉢合わせた。

 

「か、かぐやサン……」

 

 かぐやの姿を見ると、ミコは露骨に表情を引き攣らせた。

 配信ではああ言ったものの、ミコは心のどこかでかぐやに対して罪悪感を持っていたのだ。

 ミコの複雑な胸中を察したかぐやは苦笑すると、ミコに礼を述べた。

 

「ありがとうな。ウチを超えた上で、あんな風に言ってくれて」

「い、いえ、ワタシはただ丸く収めたかっただけデス……」

 

 あくまでも自分の配信が荒れるのを危惧して立ち回っただけ。

 自分のためにやったことで感謝されるのは、どこかバツが悪かった。

 

「それでも事務所としては、内輪揉めみたいになるのを防げただけでもありがたいんやで?」

 

 視聴者同士の争いは、Vtuber業界でもっとも不毛で醜いものだ。

 それを早めに収められるのであれば、それに越したことはない。

 

「ホンマにありが――あ」

 

 改めて礼を述べようとしたところで、盛大にかぐやの腹の虫が鳴った。

 かぐやも登録者数百万人は目前だ。

 特に今日は日中忙しかったこともあり、昼食を抜いていたことが仇になったのだ。

 

「えっと……」

 

 口元を抑えてそっぽを向くミコ。

 肩が震えているところから、ミコが笑いを堪えているのだと、かぐやはすぐに理解した。

 

「せ、せや、ミコちゃん。いっしょに飯でもどうや?」

 

 苦し紛れにかぐやはミコを食事に誘うのであった。

 かぐやがミコを誘ったのは、おいしいと評判の鉄板焼きの店だった。

 

「時間は大丈夫ですか?」

「ハイ、問題nothingデス!」

「それは良かったです」

 

 店内に入ると鉄板から漂う香ばしいソースの匂い。

 関西出身のかぐやとしては、この匂いはとても落ち着く匂いだった。

 

「「かんぱーい!」」

 

 注文を済ませると、かぐやは生ビール、ミコはオレンジジュースを手に取って乾杯をした。

 

「ぷはぁ! 仕事終わりの一杯は最高や――最高ですね」

「別に取り繕わなくてもバレないと思いマスヨー? たぶん、ここにいる人達、V見てないデスヨ」

「……まあ、たまにはええか」

 

 外では徹底して標準語で話しているかぐやだったが、ミコに促されたことで素直に素の口調で話し始めた。

 

「にしても、ミコちゃんはよう気遣いできるなぁ」

 

 ミコは店内に入ってからかぐやを上座へ座るように促すと、上着を受け取って店員に預けた。

 その後もスムーズに注文を済ませるなど、目上の人間に対しての気遣いがよくできていた。

 

「ソンナコトないデスヨー」

 

 かぐやに褒められたことで、ミコは照れたようにはにかんだ。

 

「お待たせしました。こちら海鮮もんじゃになります」

「おお、もんじゃってこんな感じなんやな」

 

 実を言うと、かぐやはもんじゃ焼きを食べたことがなかった。

 粉ものは好きだが、かぐやはもんじゃ焼きを食べる機会に恵まれなかったのだ。

 

「よし、今日はお祝いを兼ねてウチが焼いたるで!」

「あ、ありがとございマス……」

 

 意気揚々と具材を混ぜてもんじゃを焼く準備を始めるかぐやを、ミコはどこかもどかしそうに見ていた。

 かぐやはお好み焼きやたこ焼きならば自分で作れるが、基本的に料理をしない。

 かぐやの手つきはとにかく雑だったのだ。

 

「えっと、土手を作って……なんや難しいなこれ」

「ああ、もう!」

 

 初めて焼くもんじゃ焼きにかぐやが四苦八苦していると、ミコは業を煮やしたように叫ぶ。

 

「見てらんないし! 貸してください!」

「ミコ、ちゃん?」

 

 突然豹変したミコにかぐやは驚きのあまり固まった。

 ミコはヘアゴムで髪をまとめ、ヘアピンで前髪を上げると、真剣な表情でヘラを構えた。

 

「油の弾き方も雑だし、ちゃんと具も混ざってないし、もう、もう! もう!」

 

 苛立ちを隠さずに、ミコは慣れた手つきでかぐやの雑な調理の修正を行う。

 瞬く間に整っていくもんじゃの土手を見て、かぐやは絶句していた。

 金髪碧眼の美少女が鮮やかなヘラ捌きでもんじゃを作る。

 そのどこかアンバランスな光景に、かぐやは見入っていたのだ。

 

「はい! これで完成だし!」

 

 得意気な表情で青のりをもんじゃに振りかけると、ミコはもんじゃが完成したことを告げた。

 

「……………………」

「かぐやさん?」

 

 かぐやはミコの豹変に最初こそ驚いていたが、今はそれどころではなかった。

 ミコの技術に見入っているうちに、空腹だったことを思い出してすっかりもんじゃ焼きに視線が釘付けになっていたのだ。

 

「ど、どうぞ?」

「ええの!?」

「いや、もう完成だし……」

 

 口から涎が垂れそうな勢いでもんじゃを凝視していたかぐやを見て、ミコは思った。

 

 何この人、めっちゃ可愛いんだけど!?

 

 普段から圧のあるかぐやだが、童顔低身長であることも相まって現在は食いしん坊の子供にしか見えなかった。

 

「うんまぁ!」

 

 小さなヘラでもんじゃを掬い取ったかぐやは目を輝かせた。

 

「うん! このぐちょぐちょした感じ、雨上がりに散歩したときの味やな! ほら、長靴履いて外に出たときみたいな?」

「Huh……?」

 

 そして、出てきた微塵もおいしさの伝わらない感想にミコは怪訝な表情を浮かべた。

 それからかき込むようにもんじゃを平らげたかぐやは、目を泳がせながらミコに告げた。

 

「お、お好み焼きとかも……いける?」

「任せてクダサ――私に任せて! バッチリおいしいの焼きますから!」

 

 ミコはわくわくしながら鉄板を凝視するかぐやへ満面の笑みを浮かべて答えた。

 このときの話は、後にミコとかぐやそれぞれの雑談枠で語られた。

 それによって、視聴者達は荒れていたことなど忘れ、二人のコラボを求めるようになるのであった。

 

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