Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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【三期生】月間ミーティング

「それでは来月に向けてのミーティングを始めさせていただきます」

 

 諸星の言葉により三期生のミーティングが始まる。

 にじライブでは急な方針の変更がない限り、基本的に月一回ミーティングが開かれている。もちろん、これらはライバー同士のコミュニケーションのためでもあり、自由参加だ。

 ちなみに、このミーティング、一期生、二期生、三期生ごとに行われており、その全てに諸星は出席している。

 

「獅子島さん、茨木さんは登録者数共に八万人越え。白雪さんも五万人越えで順調過ぎて怖いくらいですね……」

「いえ、諸星さんをはじめ、事務所側のサポートあっての結果ですよ」

「きょ、恐縮です」

「どもどもー」

 

 三期生の現在の登録者数はレオと夢美が最近八万人を超えたところで、林檎は五万人を超えたところだ。

 にじライブの運営は勢いがあるとはいえ、この結果は偏に三人の実力あってのものだろう。

 

「てか、林檎ちゃん今日はどうしたん? 自由参加なのにいるって珍しいね」

 

 夢美は、さぼり癖のある林檎が自由参加のミーティングに出席していることに違和感を覚えていた。

 驚く夢美に対して、林檎はあっけらかんとした様子で答える。

 

「いやー、今日は別のコラボの打ち合わせもあったからついでに出たんだよー」

「別のコラボ?」

 

 怪訝な表情を浮かべる夢美に、諸星が代わりに説明する。

 

「竹取かぐやと白鳥さんとのコラボですよ。白雪さんにはそろそろブーストをかける必要がありますからね」

「えっ、それってJKコンビの月一にじライブ!?」

「かぐや先輩とまひる先輩の番組!?」

 

 レオと夢美は、それぞれ憧れているライバーがパーソナリティを務めている番組へ林檎が出演することに驚きの声を上げた。その声音に羨ましさが混じっていたのは言うまでもないことだろう。

 

「何かごめんねー、憧れの人達と先にコラボしちゃって。ほら、二人と違って私は登録者数伸びてないしねー」

「いや、気にしなくていいよ。あの二人なら君が暴れてもどうにかできるだろうし、胸を借りるつもりではっちゃけてくればいいんじゃないか?」

「今度、絶対感想聞かせてね!」

 

「ほ?」

 

 てっきり羨ましがるだろうと思っていただけに、林檎は笑顔でそう返してきた二人の言葉を聞いて硬直した。

 林檎にとって人を煽ることはコミュニケーションの一種だった。

 彼女のことを理解する人間はそれを理解した上で、冗談半分に怒ったりして林檎との会話を楽しんでいた。それは〝ゆなっしー〟として活動していたときも同じだった。

 それ故、レオや夢美のように〝純粋な善意〟で返されると返答に困ってしまうのだった。

 

「も、もちのろんっすよー。土産話楽しみにしててねー」

 

 何とか返答した林檎は困惑したままだった。

 それから会話に一区切りがついたと判断した諸星はレオに話題を振った。

 

「それでは、獅子島さんの次の配信予定など聞かせてもらえますか?」

「そうですねぇ……この前の歌枠での女声が好評だったので、まるまる一枠女声でやってみたいと思います」

「実はそう言うと思って担当イラストレーターの方には立ち絵を書いていただきました!」

「マジですか!? 適当に思いついただけだったんですけど……」

「今の獅子島さんなら視聴者の需要に応えられるような配信をすることは目に見えています。最悪、思いつかなくても立ち絵が用意されていればやるでしょう?」

「あはは……何か最近の飯田さんスパルタですね」

 

 レオと飯田の軽快なやり取りを見ると、諸星は笑顔を浮かべた。諸星としても二人の信頼関係が構築されているのは喜ばしいことだった。

 

「とても面白いと思います。あと、先の話ですが他の企業のVtuberとのコラボの話も来ていましたよね?」

「はえ……? 他の企業V?」

 

 まさかの企画にレオは間抜けな声を上げる。

 予想外のことが次々起こるため、最近のレオはアホになりがちだった。

 他の企業に所属するVtuberと絡むということは、知名度を一気に上げることができるチャンスでもあるのだ。にじライブ内のコラボで、知名度を上げようとしても限界があるのだ。

 

「ただ一つ問題がありまして……」

「何ですか?」

「獅子島さんが3D化していないと参加できないんですよね」

「いや、致命的じゃないですかそれ」

 

 にじライブでは、イラストを動かす形式を採用している〝二次元のライブ配信〟が主流のため、ある程度人気が出なければ3D化することは叶わない。

 しかし、今回の企業の枠を超えたコラボは全員3DモデルのVtuberが参加している。

 本来なら、3D化している上に知名度もある竹取かぐやが出演するべきなのだが、彼女はせっかくの機会に知名度がある自分ではなく、今勢いのあるレオを指名したのだった。

 

「ですが、もう手は打ってあります。うちには3Dモデルのサンプルとして普通のライオンのモデルがあるんですよ。それを使って参加すれば問題ありません!」

「問題しかないと思いますけど!?」

「まあ、聞いてくださいよ獅子島さん。あなたの持ち味はネタで引き付けて歌唱力で感動させる。つまり、明らかにおかしな奴が一人いるって思わせて、めちゃくちゃ歌がうまいってなれば話題性抜群じゃないですか!」

「な、なるほど」

「見た目に突っ込まれたら、最近登録者数伸びて調子に乗ったらこんな姿になったって言えば設定も守れて一石二鳥ですよ!」

「それはありですね! やりましょう!」

 

 レオはすっかりにじライブのノリに浸食されていた。一ヶ月前の彼ならばまず承諾しない提案である。

 

「二人共、盛り上がり過ぎですよ。まだ先の話なのですから」

 

 そんな二人をクールダウンさせるように諸星が声をかける。

 

「どうせやるなら思い切りやらないとダメですよ。今度ライオンのモデルでどれだけ動けるかテストするように」

 

 忘れがちだが諸星もにじライブの人間である。染まるどころか染める側なのである。

 諸星は飯田の提案には賛成だった。なんなら良い提案をできるようになったと、部下の成長を喜んでいるまであった。

 

「ぷっ、くくく……サンプルのライオンって……! 李徴化が悪化してるじゃん……!」

「くくっ……いやー、やっぱうちの事務所ってイカレてますねー」

 

 ぶっ飛んだやり取りを見ていたせいか、夢美と林檎は腹を抱えて笑っていた。

 

「ひとまず、獅子島さんは大丈夫そうですね」

 

 安心したようにそう言うと、諸星は夢美に話を振った。

 

「茨木さんはどうしますか?」

「あの四日でスイッチ版が配信停止になったゲームやりたいですね。できれば耐久配信で!」

「あはは……夢美ちゃん、本当に耐久配信好きですよね」

 

 生き生きした表情で地獄のような配信内容を希望する夢美に、四谷は苦笑した。

 夢美はやたらと長時間の配信を行うことが多かった。先日も夕方から朝まで10時間近い配信をしたばかりである。

 

「……体調には気をつけてくださいね」

「うっ……先日はご心配をおかけしました」

 

 食あたり騒動について四谷から報告を受けていた諸星は、表情を強張らせて夢美に注意を促した。これは本当に心配しているだけで諸星に他意はない。

 

「まあ、あなたには獅子島さんや四谷に飯田が付いてますし大丈夫でしょう」

「えっ、あたしの生活習慣改善の必要性って役員レベルの人間でも共通認識なの……」

 

 事務所の上層部にすら自分の醜態が知れ渡っていることに夢美は戦慄していた。

 

「最後に、白雪さんは何か次にやりたいゲームなどはありますか?」

 

 林檎は先日、ストーリー系のゲームの実況を終えたばかりだ。次に何をやるかはある程度目処をつけていた。

 

「ふっふっふ、良い質問ですねー。そう言うと思って一覧を作ってきましたよー」

「……あの、作ったの私なんですけど」

 

 目の下にクマを作った亀戸は不満げに呟く。

 

「ふむ、知名度の高いゲームから、視聴者受けしそうなコアなゲームもありますね。白雪さんは本当に視聴者の求めているものを汲み取るのがうまいですね」

「まあ、それほどでもありますけどー」

「権利関係はこちらで調べておきます。亀戸は午後から半休を取っていますから、四谷に仕事の引継ぎをするように」

 

「かしこまりました! ごめん、四谷さん。よろしくね?」

「いや、別にいいけど……亀ちゃんはゆっくり休んだ方がいいよ」

 

 四谷は同情するように睡眠不足で辛そうな亀戸を気遣った。

 

「それでは、これで三期生のミーティングを終わります」

 

 こうしてレオ、夢美、林檎の三名は近々行う配信に向けて準備を始めた。

 レオは女声でしゃべり続ける練習をし、夢美はスマートフォン用のゲームトリガーを購入し、林檎は事務所からの連絡があるまでぐっすりと眠って英気を養うのであった。

 

 




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