かぐやの登録者数が百万人を超えた。
数多のVtuberの中で六人目の偉業に、にじライブファンだけでなくVtuber界も大いに沸いていた。
ミコに途中で抜かれはしたものの、かぐやが今まで歩いた道のりを振り返れば、この百万人は重みが違った。
Vtuberとしてのノウハウもなく、暗闇を探るように歩きやっとここまできたのだ。
ライバーという、黎明期から荒野を開拓し続けたVtuber達とは方向性が違う道。
かぐやが歩んだ道の後ろには確かな道が出来、後ろからは多くのライバー達がかぐやの後を追いかけてきた。
『そっかぁ、うちのアプリでそういうの出せたりすれば売れると思ったんだけどなぁ』
きっかけは同僚のふとした思い付きの一言だった。
『よしよし……泣かないで』
自分を慕ってくれる後輩は、いつの間にか自分を支えるほどに成長していた。
『こんな僕を受け入れてくれた大恩、しっかり事務所に返していきます』
義理堅い後輩は、今も一歩ずつ確実に前へ進んでいる。
『かぐやパイセン見てると、やっぱ自分が楽しむことが一番って思い知らされるわ』
破天荒に暴れまわる後輩は、問題を起こしながらもライバー活動を楽しんでいる。
『俺は後輩を導けなかったし、先輩を救えなかった……もう二度とこんな思いはしたくないんです!』
過去のことを引きずる後輩は、今や後輩ライバーのまとめ役のポジションを担っている。
『あちしはトップで駆け抜けるバンチョーが大好きだょ!』
普段から何を考えているかわからない後輩は、何だかんだ同期と共に楽しく活動を続けている。
『私、四谷さんに迷惑かけちゃったので、反省してゲームは一日10時間までにします!』
体力お化けの後輩は、部下の尽力もあって健康面にも気を遣うようになった。
『やっぱ、バンチョーがいなきゃ始まらないっしょ!』
お調子者の後輩は、自分に倣って多くの企画を積極的に行うようになった。
『俺はもっとライバーとしてできることを増やしたいんです!』
伸びずにくすぶっていた後輩は、企業の枠に囚われず多方面へのコラボを成功させた。
『バンチョー、あんたの痺れる歌をまた聞かせてよ』
歌のうまいクールな後輩はことあるごとに激励の言葉をくれた。
『むー、やっぱバンチョーいてこそのにじライブじゃないの?』
かなり抜けたところのある後輩は自分の実力を信じて疑わず、今も応援してくれている。
『あのさぁ……レオは凄いからな。みんな元アイドルって聞いて、どうせ売れないアイドルだって舐めてるけど、本当に凄いんだからな』
仲間想いの優しい後輩は炎上を乗り越えて、今も勢いを増している。
『今の私は嫌いじゃないです』
過去に囚われていた後輩は、仲間と共に辛い過去を乗り越えた。
『先日御社に所属しているライバーの竹取かぐやさんのライブを見て思ったんです。もう一度輝きたいって。またあんな舞台に立ちたいって』
自分がきっかけで夢を再び追い始めた後輩は、今再び夢に向かって手を伸ばしている。
『私の一歩は誰よりも遠い。でも、足跡はバンチョーの方が誰よりも多い』
自分を追い越した新規プロジェクトから参入した後輩は、自分を慕った上でこれからも上を目指して邁進している。
『私、にじライブに来て正解でした!』
競合他社の推薦でやってきた後輩はとんでもない勢いで人気を博している。
『本当に最高の事務所に入れたと日々痛感していますよ』
人格者である後輩は、顔を合わせるたびに丁寧に礼を述べてくる。
『『『『『ありがとうございました!』』』』』
自分と同時期にVtuberとしてデビューした者達は、壁を乗り越え後輩として新たに仲間となった。
ライバーだけではない。
今まで共に歩んできた社員、新たに仲間となった社員。
その全てが今のかぐやを形作っていた。
『もう嫌なの! 画面の前に立つだけで苦しいの! コメントを見るだけで吐き気がするの! ……こんなことなら、テスターになんてなるんじゃなかった!』
『いやいや、アタシは被害者ですよ? 何でアタシが責められなきゃいけないんですかぁ?』
辛いことなど数えきれないほどあった。
それでも歩みを止めずにきて良かったと心から思う。
かぐやは一歩一歩を踏みしめるように収録スタジオへと向かう。
「バンチョー、これから収録?」
「まひる……」
収録スタジオの扉の前では、珍しく大人びた表情を浮かべたまひるが立っていた。
かぐやのこれからの活躍、まひるのメジャーデビュー、後輩達への活躍の場。
様々なことを加味した結果、かぐやとまひるの番組〝月一にじライブ〟はリニューアルされ、レギュラーを交代することになった。
個人配信での絡みが少ない二人は、この番組がなくなれば必然的に絡む頻度は少なくなる。
そんな寂しさを吹き飛ばすように、まひるはいつものように天真爛漫な笑みを浮かべてかぐやへ告げる。
「月一にじライブがなくなってもJKコンビは不滅だよ!」
「ああ、もちろんや!」
迷いはもうない。
これからもライバーとして走り続ける。
覚悟を新たに、かぐやは収録スタジオの扉を開いた。
かぐやの登録者数百万人記念動画のプレミア公開には多くの視聴者達が駆けつけていた。
[待機]
[100万人おめでとう!]
[これは期待]
かぐやはこの日のために、他企業のVtuberまで声をかけていた。
それだけ、この動画にかける想いが強かったのだ。
そして、プレミア公開の時間になり、かぐやの気合の入った動画が再生される。
『プレッシャ~♪ それがどうした~♪ 神様の助けはいらない♪』
[きちゃ!]
[こんバンチョー! ¥10,000円]
[決戦スピリットだ!]
[どちゃクソかっけぇ!]
[神曲キタ!]
かぐやが選曲したのは、バレーボールを題材としたアニメのエンディングテーマだ。
逆境を跳ね除けて進んできたかぐやにとって、この曲は思い入れの強い曲だった。
『味わった敗北のキズは~♪ 涙やって花を咲かせる~♪』
[はい好き]
[めっちゃいい……]
[バンチョーの歌声マジですこ ¥20,000円]
[今までを思い出して泣いた]
[アニメーションも神だわ……]
今回の歌ってみた動画はイラストではなく、よく動くアニメーションで作成されていた。
かぐやがいかにこの動画に気合を入れていたかは、視聴者達にも一目瞭然だった。
ボロボロになりながらも前へ進み続けるかぐやを描いたアニメーションは、まさに彼女の今まで歩んできた軌跡を表していた。
そして、曲が間奏に入ると場面が切り替わる。
かぐやの目の前には四つの大きな壁が現れ、そこには四つの人影があった。
『かぐやちゃん、あなたはここまでこれるかしら?』
[畜生イルカ!?]
[こいつしゃべるぞ!]
[圧倒的強キャラ感]
[四天王がこぞってツウィートしてたのそういうことか!]
挑発的な笑みを浮かべるイルカがアップで表示されるのと共に、イルカは芝居がかった口調でかぐやに問いかけた。
これは事前にかぐやが依頼した音声を曲に編集で入れたものだった。
イルカの台詞が終わると、次は可愛らしい少女の顔がアップで映し出された。
『早くここまでくるのじゃー!』
[バ美肉おじさんで草]
[何か気が抜けるwww]
[アニメだったら実力を隠した強キャラポジ]
柔和な笑みを浮かべるバ美肉おじさんから発せられる男性の声に、視聴者は不意打ちを食らって笑いだした。
バ美肉おじさんの台詞が終わると、今度は珍しく闘志を宿したアダルティーナの表情が映し出される。
『私だってまだまだ負けない! 全力でこい!』
[アダルティーナくそかっこいいんやが]
[何でアダルティーナはこういうときだけかっこ良くなるんだ]
[ギャップで風邪ひきそう]
普段のおちゃらけた雰囲気を微塵も感じさせないアダルティーナの声音に、視聴者達は驚いていた。
彼女もまた新たな場所で挑戦することへの決意を込めていたのだ。
そして、最後に仁王立ちしているココロが映し出された。
『あいどーも! 待ってるよ、かぐやちゃん!』
[首領きちゃ!]
[エッモ]
[何気の絡みが全然ない二人]
[よく受けてくれたな]
親愛と敬意の籠ったココロのメッセージ。
それはこれからも、ライバルとして、友として一緒にこの業界を生き抜いていこうという思いが込められていた。
『Break out! 挑まずにはいられない~♪ Break out! 最強の最前線~♪』
[すげぇ、すげぇよ!]
[語彙力どっかいった]
[ここまでするか?]
[それがにじライブ!]
あまりのクオリティに視聴者達は語彙力を失っていた。
全編アニメーションの歌ってみた動画にゲストのバーチャル四天王。
普通に考えてこのレベルの動画を出せるのは、Vtuber界広しといえども、かぐやくらいだろう。
『味わった敗北のキズは~♪ 涙やって花を咲かせる~♪』
[ミコちゃん!?]
[ミコちゃんにまで頼んでたの!?]
[めっちゃ笑顔だ]
[かわいい]
Cメロに差し掛かったところで、かぐやを追い越してジャンプするミコが登場した。
台詞こそなかったが、アニメーション内のミコは壁の上に立つと、振り返って笑顔を浮かべてかぐやへと手を差し伸べた。
唖然とするかぐや。
その背中を貝殻のブレスレットを身に着けた手がそっと押す。
[今の手ってまさか!?]
[貝殻のブレスレット、俺でなきゃ見逃しちゃうね]
[姫ちん!]
一瞬だけ映ったかぐやの背中を押した手に視聴者達は、大いに盛り上がる。
今はいない乙姫が、今も前へ進むかぐやの背中を押す。
この演出には多くの視聴者達が反応していた。
『不可能と笑えばいいさ♪ そんな言葉、僕は知らない~♪』
[これはてぇてぇじゃねぇ、尊いだ]
[スマホが目から出た塩水で水没したわ]
[画面が霞んで見えない……]
[この動画は涙腺破壊兵器]
かぐやが涙を流しながらジャンプし、ミコの手を取ったところで動画は終了する。
このかぐやの歌ってみた動画は、たった一晩で百万回再生を達成し、にじライブの歴史に新たな伝説を刻むのであった。