バーチャル四天王である坂東イルカを筆頭に、Vtuber界随一の歌唱力を持つ七色和音、個人勢を代表するVtuber但野友世、グループ全体で人気を博した魔王軍を代表するサタン・ルシファナ、にじライブという伝説量産事務所で今も尚伝説を作り続けるライバー獅子島レオ。
界隈でもトップクラスのVtuber達で構成されたグループ〝カラオケ組〟は、サタンの魔王軍転生騒動以来コラボする機会を失っていた。
そんなカラオケ組が久々に復活すると聞いて、チャンネル主であるイルカの元には多くの者達が集まっていた。
『そういえば、かぐやさんの歌ってみた動画めっちゃよかったね!』
「ええ、あの動画はエモ過ぎて涙が止まりませんでした……」
『そういえば、乙姫ちゃんとのロキの再生数も急に伸び始めたんですよね?』
「ええ、たぶん白雪の復帰配信のあとに桜色卒業が一緒に伸びたのと同じ感じの現象だと思います」
音量調整も兼ねて、カラオケ組のメンバーは軽く雑談をしていた。
かぐやの動画について談笑したあと、配信の時刻になった。
『さて、今日はよろしくお願いしますね日村君。いえ、魔王様?』
『は、はい、よろし――うむ、本日はよろしく頼む!』
イルカの問いかけに、気合を入れてサタンが答えると配信が開始された。
『Vtuber大集合!』
『『『「カラオケ組コラボ!」』』』
[きちゃぁぁぁぁ!]
[待ってた!]
[もうダメかと思ってた……]
サタンの演者が変更された今、カラオケ組で集まることは不可能とされていた。
それでもこうして集まることができたのは、ひとえに現在のサタンが事務所を必死に説得したことが功を奏したからであった。
『さて、今日は久しぶりのカラオケ組コラボです! みなさん今日は集まってくれてありがとうございます! 改めましてわたくし、@LINE所属の板東イルカと申します。魚のみなさん、キュッキュー! この後は音量注意ですわ』
[キュッキュー! ¥1,000円]
[キュッキュー!]
[ありがとうイルカちゃん……]
[注意喚起たすかる]
チャンネル主のイルカは挨拶をした後、視聴者達へ音量調整をするように促した。
『みんな、やっっほ――――! 但野友世だよ! 今日はよっろしくぅ!』
[音量注意]
[音量調節、間に合わなかったぜ!]
[鼓膜変えなきゃ……]
いつものように大声で挨拶をした友世に、視聴者達もお決まりのコメントを書き込む。
『七色和音です! 今日はよろしくお願いします!』
[久々に通常音量の和音ちゃんの声聞いた]
[最近声張るようになったけど、カラオケ組のときは段違い]
[元気な和音ちゃんたすかる]
和音はいつも以上に元気のある声音で挨拶をする。
カラオケ組でのコラボ以来、すっかり和音はハキハキとしゃべれるようになっていた。
彼女にとってカラオケ組というコラボはかけがえのないものなのである。
「GRRRRRRRRRRRRRR!!!
……はい、みなさん、こんばん山月! 獅子島レオでーす」
[ナチュラルに咆哮するなwww]
[恒 例 行 事]
[盛大に咆えたあと冷静になるの草]
すっかりライオンの咆哮がお約束となってしまったレオは、いつもと趣向を変えて咆えた後にすぐ普通の挨拶をして視聴者達を楽しませる。
そして、問題のサタンの番がやってきた。
『ふっはっは! 魔王軍の諸君! 久々のカラオケ組コラボ、存分に楽しんでいってくれ!』
[うーん……]
[これじゃない感]
[白夜君まだー?]
[魔王様、よろしくお願いします!]
サタンが挨拶した途端、コメント欄にはすっかり盛り下がったコメントが流れた。
二代目になって以降、魔王軍の人気は低迷していた。
それでも生配信に切り替えたことで、二代目声優達の魅力が徐々に伝わり、固定ファンをつかむことには成功していたのだ。
『あれ? 知らない人の声がしますわね』
『おーい! 魔王様どこー!』
『遅刻、ですかね?』
「サタン君、返事してくれ!」
『おいこら、やめんか!』
[草]
[大丈夫かこれwww]
[そのネタはまずいですよ!]
[ブラックジョークどころじゃないぞw]
サタンの中身が変わっていることに対して、全員が一斉にいじったことで微妙な空気のコメント欄は笑いに包まれる。
一通りいじり倒れた後、サタンは気を取り直して語り出した。
『……まあ、諸君らも何故吾輩がここにいるか疑問に思っている者もいることだろう』
[あっ]
[そういえば、そっか……]
[これが最後だからか?]
サタンの声音が真面目なものになったことで、視聴者達は理由を察し始めた。
『カラオケ組コラボにサタン・ルシファナが登場できるのはこれで最後になる。魔王軍の活動は年内で終了するからな』
[お労しや、魔王様……]
[お労しや、魔王様……]
[お労しや、魔王様……]
魔王軍チャンネルはその全ての活動を年内に終了することになっていた。
理由は二代目魔王軍のメンバー全員が活動を終了したいと運営に打診したからだ。
『年内までは吾輩も四天王の皆も全力活動する。特にフィアとノームは大晦日に行われる〝バーチャル紅白歌合戦〟に出演するからな!』
『はい、宣伝ありがとうございまーす!』
[草]
[そのために来たのかよwww]
[配下のために矢面に立つ理想の上司]
[魂が変わってもやっぱり魔王様は魔王様だな]
サタンが事務所からコラボの許可が下りたのは、宣伝のためでもあった。
登録者数が百万人を超えるイルカのチャンネルで宣伝するとなれば、事務所も宣伝効果は無視できなかったのだ。
「ちなみに、サタン君の言ったV紅白ですが、俺も後輩のつばさとメロウを引き連れて参加しまーす!」
『私もアダルティーナさんと奏ちゃんと一緒に出ます!』
[にじライブ強すぎん?]
[歌唱力四天王のうち三人がにじライブにいる事実]
[アダルティーナって今はVacterに移籍したんだっけか]
アダルティーナは先日、和音の所属するVacterへの移籍を発表した。
これからは音楽活動にも力を入れていくという発表に、アダルティーナの古くからのファンは大いに喜んでいた。
『アタシも出たかったなぁ!』
『今回個人勢には声がかかりませんでしたからね』
今回の企画では、企業Vだけにオファーがかかっていた。
その中でも、歌唱力に定評のある者だけに声がかかる。
まさに選ばれた者だけが立てるステージだったのだ。
『七色は大丈夫なのか。クリスマスには事務所のライブもあるのだろう?』
『問題ありませんよ。これでも体力には自信がありますから』
[和音ちゃんも精力的に活動するようになったなぁ]
[すっかり頼もしくなっちゃって]
[今や事務所を代表するVだからな]
和音はV紅白の前に事務所のライブに出演する予定があった。
ライブが行われるのはクリスマス。
レオ達三期生はオフのため、全員で和音のライブを見に行く予定だった。
『さて、宣伝も終わったところで本題だ。吾輩の魂は長くは持たない。そのため、吾輩が抜けた穴を埋める後任を決めたいと思う』
『魔王様、バトンタッチは得意だもんね!』
『だからそのネタをするのはやめろ!』
[草]
[まだ擦れる]
[アーカイブ残せるのかよwww]
[終わらない転生いじり]
友世のいじりにツッコミを入れ、咳払いをするとサタンは仕切り直すように告げる。
『後任と言っても、あのもののけ地獄を乗り越えた絆あってこそのカラオケ組だ。諸君らも生半可な人材では納得しないだろう』
[それはそう]
[えっ、まさか……]
[そういや、白夜君ツウィートしてたような]
察しの良い視聴者達は、サタンが何をしようとしているのか理解した。
全員が納得するカラオケ組の後任。
該当者など一人しか存在していない。
「今回、サタン君や視聴者のみんなも納得する人材をうちの事務所から連れてきました!」
『諸君! あ、やっべ間違えた』
『『『『「こらこらこらこら!」』』』』
[きちゃあああああ!]
[やりやがったwww]
[マジで白夜君呼んだの!?]
[あれ、魔王様声戻った?]
[いい加減怒られろ!w]
初配信のときと同じようにボケて白夜が登場したことで、一気にコメント欄は盛り上がり始める。
元サタン・ルシファナである白鳥白夜。
まさかの一代目と二代目の共演が盛り上がらないわけがなかったのだ。
『というわけで、カラオケ組の後任に選ばれた白鳥白夜でーす。何か初めましてのはずなのに、この空気めっちゃ馴染むんだよなぁ』
[はじめまして!(二回目)]
[待ってたぞ!]
[おかえり!]
[白夜しか勝たん]
それから軽くトークをした後、白夜はサタンに向けて心から感謝の言葉を送った。
『魔王様、今まで本当にありがとう。ずっと見てたよ』
『……ああ、白夜殿にそう言っていただけると吾輩としても思い残すことはない』
[急に涙腺破壊すな]
[悲しいなぁ]
[本当、今までよく頑張ったよ……]
サタンがあの騒動の後、いなくなった自分達の居場所を守ってくれていた。
批判も飛び交う中で、活動を続けてくれたサタンに白夜は心から感謝していたのだ。
『あんまり多くは語らないけど、これでお別れってのも寂しいから、あえてこう言わせてもらうよ――またな!』
『ああ……! 必ず、また相まみえようぞ!』
[魔王様、またな!]
[またな!]
[またな!]
[またな!]
[またな!]
こうしてサタン・ルシファナこと日村紫耀は多くの視聴者達に見送られカラオケ組コラボから去っていくのであった。