Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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【三期生】グレイトブルー・オーシャンズ

 

 レオ達三期生がデビューしてから約八ヶ月。

 後輩達が新しく入ったこともあり、三期生は一年と経たずにすっかりベテランライバーのような扱いをされていた。

 登録者数も林檎が先日七十万人を突破し、レオも六十四万人、夢美も六十二万人とVtuber界の中でもトップクラスという状況だった。

 林檎は高頻度でピアノでの弾いてみた動画を出したりしていることもあって海外人気も高い。

 レオと夢美もミコの視聴者からの流入があったため、かなり登録者数を伸ばすことに成功していたのだ。

 そんな三期生の三人だが、最近では三人でのコラボがなかなか出来ないでいた。

 理由は単純で、個々が抱える案件や企画が多すぎて嚙み合わないためだった。

 本人達も裏では頻繁に会っているため、気にはしていなかったが、視聴者達はどこか寂しさを覚えていた。

 

「皆さん、こんばん山月! バーチャル隴西の李徴こと、獅子島レオです!」

「みんな、こんゆみー! 永遠に眠れる美女こと茨木夢美でーす!」

「みんな、おはっぽー。にじライブの焼き林檎こと白雪林檎でーす」

 

[きちゃあああああ!]

[五億年待ってた!]

[久々の三期生コラボだ!]

[ばけものフレンズのお通りじゃあああ!]

 

 すっかり減ってしまった三期生のコラボ。

 それが本日久々に行われることもあって、配信は開始早々大盛り上がりだった。

 

「というわけで、今日は案件配信となります」

「今日は、株式会社gamewhithさんが提供しているスマートフォン向け本格RPG〝グレイトブルー・オーシャンズ〟通称グブオーのガチャ配信となります」

「現在、グブオーではにじライブのコラボが開催中でーす。コラボで登場するのは、何と私達三期生ですよー」

 

[グブオーありがとう……]

[絶対スタッフ三期生リスナーだろwww]

[感謝しかない]

 

 にじライブのライバーの中から、あえて三期生をコラボキャラとして登場させる今回のコラボ。

 視聴者の予想通り、グレイトブルー・オーシャンズの運営スタッフには三期生のファンがおり、その担当者が今回のコラボを持ち掛けたのであった。

 

「本日、十九時のアップデートで追加された我々三期生ですが、現在ガチャではピックアップキャラとして限定排出されております」

「今回の配信では、そんなあたし達を紹介しつつガチャをブン回す配信でーす」

「なんか私は人権キャラらしいから引きたいと思いまーす」

 

[白雪は強いというより周回に必要]

[ドロップ率上昇はあたおか]

[戦闘性能も悪くはないぞ]

[戦闘性能で言えばレオ君の火力もやばい]

[バラギは壁役として優秀]

[全員火属性ダメ大幅軽減ついてて草]

 

 今回、実装された三期生のキャラクターは持っているだけでアドバンテージと言われるほどに、ゲーム内での性能が高かった。

 グレイトブルー・オーシャンズは、主人公が海賊団を立ち上げ、大海原を旅する中で様々な島に立ち寄って冒険するという少年漫画にありそうな世界観のゲームだ。

 ゲームが発表された当初はパクリと揶揄されていたが、実際にプレイしたユーザーからは重厚なストーリーとクオリティの高いイラストが評価されていた。

 イラストもよくあるソーシャルゲームのように複数のイラストレーターが担当するという形ではなく、一つのイラストチームが同じ絵柄で揃えて描いているというのも、このゲームが高く評価される要因の一つだ。

 

 今回のコラボで実装された三期生のキャラクターは、レオが攻撃型、夢美が防御型、林檎が特殊型というように役割が分かれていた。

 レオはとにかく火力が高く、獣化というスキルを使用すると防御力が半分になる代わりに、攻撃力が一ターンの間10倍になるという超火力特化のキャラクター。

 夢美は相手の攻撃を無効化して、反射ダメージを与えるスキルや、味方に対する攻撃をかばうスキルを持つ防御型のキャラクター。

 林檎はパーティに入れているだけで、アイテムのドロップ率が上昇する特殊効果を持つキャラクター。

 戦闘面ではレオと夢美のシナジーは大きく、属性が違うのにも関わらず二人を組み合わせるだけで、安定して高火力が出せるコンボが出来上がっていた。

 

 また林檎に関しては周回して素材を集めることが多いこのゲームにおいては最強クラスの性能をしており、常にパーティに入れておくだけでレアアイテムがドロップしやすくなるのだ。

 限定キャラということもあり、レオ達を知らないグブオープレイヤー達もこぞってこの限定ピックアップガチャを引いていた。

 

「今回の配信で俺、結構ストーリーを進めて石貯めてんだけどさ。このゲーム作り込みがすげぇんだよ」

「あーね、あたしも思った。島ごとに環境が違うから、その環境で育った人と主人公達みたいな外からきた人間とのズレが丁寧に描かれてたよねぇ」

「さっすがgamewhithさん! いやー、神ゲーですわー」

 

「「急に媚びるな」」

 

[案件だからしゃーない]

[実際神ゲー]

[雑に褒めてて草]

 

 さりげなく雑談交じりにゲームの魅力を紹介しながらも、レオ達はさっそくゲームのガチャ画面に移行した。

 ソーシャルゲームのガチャでは、最高レアリティのキャラクターの排出率は極めて低く設定されていることが多い。

 排出率1%を下回ることも少なくないガチャ界隈において、グレイトブルー・オーシャンズは最高レアリティであるSSRの確率が4%と、比較的良心的な確率に設定されていた。

 さらに、今回のピックアップでは確率が二倍。

 ある程度ガチャを回せば出る。

 そんな確率の中、三期生のガチャ配信は開始された。

 

「よし、全員準備できたか?」

「あたしはいつでもオッケーだよ」

「こっちも大丈夫―」

 

 全員の準備が完了したことで、レオ達は同時に画面をタップした。

 

「「「せーのっ!」」」

 

 同時に画面をタップした瞬間、林檎の画面だけに眩い光が溢れる。

 

「あっ、SSR確定演出きた」

 

「「早ぇよ」」

 

[い つ も の]

[豪運焼き林檎]

[神に甘やかされた果実]

[ちょっと待て! SSR五体いるぞ!]

[確率おかしいだろ!]

 

 林檎の画面には海底の中で輝く光が十個表示されている。

 その中で、SSRを示す虹色の光が五つも表示されていた。

 

『こんばん山月! 獅子島レオだ! 大海原でも任せてくれよな!』

 

「おっ、レオだー」

 

[一発目からレオ君引いてて草]

[ピックアップ仕事してるな]

[さて、残りはどうなるか……]

 

『はいはい、こんゆみー。茨木夢美でーす。おい、まだ自己紹介中なのにバラギって呼んだ奴誰だ』

 

[台詞で草]

[あっちの世界でもバラギ呼びが浸透してるのか……]

[運営さん、バラギの扱いを完全に把握してやがるw]

 

 二番目に夢美が表示されたことで、コメント欄は大盛り上がりである。

 連続でピックアップキャラを引いたという豪運は、まさに林檎ならではのものである。

 そして、五体の通常キャラクターの演出を見たあと、再び虹色の光からキャラクターが登場する。

 

『おはっぽー、いるだけでいいって聞いてやってきたよー。えっ、名前? 白雪林檎でーす』

 

[はい、配信終了ー]

[解散解散!]

[相変わらずの豪運でワロタ]

 

 一発目のガチャで今回の目的である三期生全員を引いたことで、視聴者達は改めて林檎の豪運に戦慄していた。

 

「うわー、こうやって聞くと思ったより棒読みだなー……」

 

[そうでもなくね?]

[Vtuberのコラボの中ではうまい方]

[レオ君が自然すぎるだけ]

 

 林檎はゲームから流れてきた自分のボイスに顔を顰める。

 収録中は気にならなかったが、やはり本家の声優と比べると棒読み感が出てしまっていたのだ。

 

「白雪はもともとのんびりした話し方だから、棒読みっぽく聞こえるだけだろ」

「そうそう、あたしなんて毎回配信でも誰って言われるくらい声変わってるし」

 

[それはそれでどうなんだ?]

[バラギは段々と声が低くなっているイメージ]

[徐々に声低くなるのは笑う]

 

 レオと夢美も林檎にフォローを入れつつも、林檎のガチャ結果を最後まで見守った。

 

『こんばん山月! 獅子島レオだ! 大海原でも任せてくれよな!』

 

『はいはい、こんゆみー。茨木夢美でーす。おい、まだ自己紹介中なのにバラギって呼んだ奴誰だ』

 

「初手からそれはおかしいだろ!」

「林檎ちゃん、あたし達の運吸い取ってない?」

「いやー、ごめんねー?」

 

[これはブチキレ案件]

[白雪が回すと確率10倍くらいになってそう]

 

 林檎がレオと夢美をもう一セット引き終わった。

 このゲームでは、キャラクターを五回まで引くことで必殺技が強化される。

 キャラクターがダブることも決して悪いことではなかった。

 

「俺と夢美は収穫なしか……」

「いや、これ普通だからね?」

 

[これは白雪がおかしい]

[さて、レオ君とバラギはどうなるか]

[次いってみよう]

 

 レオと夢美は通常のキャラクターしか出なかったため、流れるように次のガチャを引いた。

 

「あー、ダメだ。SSRなしだ」

「おっ、あたし来たぞこれ!」

 

 次のガチャ画面では、夢美の方に虹色の光が映し出された。

 

『おいあんた、水夫をお探しじゃないかい。俺、結構使えるぜ?』

 

「誰やねん!」

 

[すり抜けで草]

[そいつ結構強いぞ]

[ビジュアルのせいでネタ扱いされてるけどなw]

 

 夢美の画面に表示されたのは、日焼けした肌が眩しい筋骨隆々の偉丈夫だった。

 美少女が多いこのゲームにおいて、珍しいガチガチの男性キャラである。

 しかし、このキャラクターは見た目の割に性能が高く、高難度のクエストには必須級のキャラクターでもあった。

 もちろん、普段からこのゲームをやっているわけではない夢美にとって、それは何の救いにもならない。

 それから、レオと夢美はなかなか自分達を引けずに時間が経過した。

 レオは途中で自分と林檎を引くことに成功したが、夢美だけがなかなか出現せずにいた。

 そんな中、やっとレオのガチャ画面に夢美が登場した。

 

『はいはい、こんゆみー。茨木夢美でーす。おい、まだ自己紹介中なのにバラギって呼んだ奴誰だ』

 

「よっしゃぁ! やっとよめ――夢美がきた!」

「――っは! 今、嫁って言おうとした?」

 

[白雪、マジトーンじゃんw]

[とんでもない噛み方してて草]

[これは言い逃れできませんね]

[バラレオてぇてぇ]

 

「いや、違うんだよ。夢美と嫁って似てるじゃん」

「そうだねー。〝夢美〟は〝嫁〟だもんねー」

「くっそ、最悪なタイミングで噛んじまった! さっき、水飲んでおけばよかった!」

 

[大 後 悔 時 代]

[ちゃんとお水飲んで]

[切り抜き確定]

 

 レオが夢美を嫁と呼び間違えたことで、林檎はレオをいじり始める。

 レオは話題転換のため、夢美に話題を振って話を逸らそうとした。

 

「おい、夢美。お前も何か言って――」

 

『おいあんた、水夫をお探しじゃないかい。俺、結構使えるぜ?』

 

『おいあんた、水夫をお探しじゃないかい。俺、結構使えるぜ?』

 

『おいあんた、水夫をお探しじゃないかい。俺、結構使えるぜ?』

 

「うぐっ、あう、あうあうあー……」

「それどころじゃないな、これ……」

 

[壊れちゃった……]

[おっちゃん三連続で草]

[ジェットストリームおっちゃん]

[かわいそう]

[これは精神崩壊不可避]

[ピックアップとは]

 

 夢美はレオと違い、いまだにピックアップキャラクターである三期生の誰も引けていなかった。

 あまりのガチャの渋さに夢美のメンタルは崩壊気味だった。

 ちなみに、林檎は三期生全員限界まで引き終わっており、レオと夢美がガチャを引いている間に台詞を再生したり、キャラクターの性能の紹介をしていた。

 それから何も出ない時間が続き、再び夢美の画面に虹色の光が表示される。

 

「くっ、こんどこそ!」

「さすがにそろそろ引かせてあげてくれ!」

「これ以上は見てられないよー……」

「おっ、キタァァァ――あ?」

 

 レオと林檎も祈る中、ついに夢美は自分を引くことに成功した。

 したのだが。

 

『はいはい、こんゆみー。茨木夢美でーす。おい、まだ自己紹介中なのにバラギって呼んだ奴誰だ』

 

「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!? 画面止まった! ねえ、撮れてない! 撮れてない! た゛す゛け゛て゛ぇ゛!」

 

[こ れ は ひ ど い]

[ある意味取れ高]

[意外とこのゲーム重いからしゃーない]

 

 夢美の画面が処理落ちし、ゲーム画面が真っ暗になってしまったのだ。

 さらに、トラブルはそれだけに留まらなかった。

 

「あ゛ぁ゛!? 待って! あたしも消えたんだけど!?」

 

 パソコンの処理が重くなった影響で、今度は夢美のモデルまでもが表示がおかしくなり、ぼんやりとした緑色の枠だけが表示されていたのだ。

 

「ふっ……くっ……夢美、石どころか自分まで溶けてるぞ……!」

「くくくっ……あっはっはっは! 何これ!? どんな放送事故だよー!」

 

[草]

[ガチャで自分まで溶かした女]

[どんなガチャ狂いのVでも自分を溶かす奴は初めて見たぜ]

[白雪笑い過ぎて過呼吸になってるぞ]

[レオ君も堪えてるけど笑い声が漏れてるw]

[笑いの神に愛され過ぎだろwww]

 

 こうして、久々の三期生の配信はトラブルに見舞われつつも大好評のままに終了したのであった。

 


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