Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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【3D化配信】奥行きができたよ

 今日は白夜の3D化配信の日だ。

 白夜はサタン・ルシファナから白鳥白夜となってから、シューベルト魔法学園のメンバーの中でも突出して伸びていた。

 姿が変わろうとも中身は、男性Vtuberが伸びにくい時代に大人気となったVtuber。

 その持ち前のセンスは、にじライブという枠に移ってから磨きがかかっていた。

 白夜としてのデビュー当初は、魔王軍の雰囲気を匂わせて過去のアクティブユーザーを取り戻した。

 

 そして、現在は新たな人間関係を構築して新たな視聴者達を集めるという段階へ移行していた。

 元魔王軍というだけで伸びたと思われないよう、白夜達はある程度アクティブユーザーを取り戻したらシューベルト魔法学園のメンバーで固まりすぎないように言われていたのだ。

 

 レイン、リーフェ、つばさは〝御三家〟として。

 白夜、サーラはまひるとハンプを加えて〝朝昼夜亭〟として。

 

 少しずつ、形を変えて元魔王軍という称号が薄くなるように活動を行っていた。

 個々の配信でも魔王軍時代とは打って変わり、配信内容もバラバラになっている。

 

 白夜はFPSをメインに、企業、Vtuber問わずコラボをする形へ。

 サーラはソーシャルゲーム配信や歌配信という形へ。

 レインはゲーム配信をメインにコラボに多数参加するという形へ。

 リーフェは雑談をメインにレインやつばさともコラボしつつ、企画にも参加するという形へ。

 つばさは歌枠を活動の主軸とし、歌ってみた動画を出したり、雑談枠を行う形へ。

 

 元々得意な分野が違ったこともあり、五人は段々とセットではなく個々の力を存分に発揮していくことになったのであった。

 

「姉ちゃん、今日は頼むわ」

「ふふん! お姉ちゃんに任せなさい!」

「ま、EN除いた事務所のNo.2だし、大船に乗ったつもりでやらせてもらうよ」

 

 まひるは次に登録者数百万人の壁を超えるライバーとして注目されている。

 当の本人は登録者数など、まるで気にしていないのだが。

 

「でも、この内容で大丈夫なの? スクショタイムとトークだけって……」

「三期生がハードル爆上げしすぎなんだよ。ここらでハードル下げとかなきゃ後が大変だろ」

 

 それに、と不敵な笑みを浮かべて白夜は続ける。

 

「ま、僕くらいになれば、特別なことをしなくてもみんな喜んでくれるから」

「イキってんなぁ」

 

 白夜の言葉に呆れたような表情を浮かべるまひるだったが、その実白夜が何を思って特別なことをする気がないのかは理解していた。

 

「大丈夫。みんな優しいから」

 

 白夜は3D化を特別なこととせず、今まで通り自然体で配信していくという意思表示のため、特別なことをあえてしないつもりだったのだ。

 一応3Dモデルの動きを見せるため、動いたりはするつもりだが、それ以上のことはしない。

 そんな白夜のせっかくのチャンスをふいにするような考えも、にじライブは二つ返事で了承した。

 ここでわざわざファンを確保せずとも普段の活動でファンはいくらでも増やせる。

 確実に結果を出してくれるという信頼が白夜にはあったのだ。

 そして、予告していた時間になり、白夜の3D化配信が開始された。

 

「……というわけで、ね。宜しくお願いしまーす」

 

[きちゃあああああ!]

[ぬるっとはじまって草]

[また推しが自由に動ける日が来るとは……!]

 

 案の定、コメント欄は白夜が動いていることに感極まっている者が大勢いた。

 そんな視聴者達に釘を刺すように、白夜はいつもの調子で告げる。

 

「いやね。今日はみんないろいろ期待していると思うんだけど、告知通り特別なことは何もしません。もちろん、3D化配信なんで動きは見せるけどね」

 

[この緩い感じ嫌いじゃない]

[白夜らしくてすこ]

[顔がいい]

[やばい]

 

「普通3D化配信って言えば、引っ張って引っ張って盛り上げてのドーンって感じの配信だと思うんだけどね。そんな中、僕は普通にいつも通りやっていこうと思う。まあ、今回限りってわけでもないし、そんなに特別感は出さなくてもいいかなって」

 

[何この空気www]

[驚くような自然なはじまり]

[今までこんなに緩い3D化配信があっただろうか]

[実家のような安心感]

 

 白夜の意見はかなり好意的に受け止められていた。

 実際の白夜が動きが反映され、動いている。

 推しが確かにそこに存在するという事実に、視聴者達は心から満足していたのだ。

 

「それじゃさっそくスクショタイムいこうか」

 

[早えよw]

[空気ゆるゆるで草]

[三期生との落差がすごい]

 

 独特の緩い空気のまま白夜の3D化配信は進んでいく。

 新規の視聴者達は戸惑いつつも、どこか心地良さを感じる空気にハマりはじめていた。

 

「なんかポーズの希望あったらどんどん言ってくれー」

 

[中二病みたいなポーズ]

[ドヤ顔ダブルソード]

[鶴の構え]

 

 白夜が視聴者にポーズを要求すると、コメント欄にどんどんポーズ指定が書き込まれていく。

 

「おっ、ドヤ顔ダブルソードいいねぇ! スタッフさーん、剣出せますか?」

 

 白夜がスタッフの方へと声をかけると、白夜の両手に禍々しい大剣と、金色に輝く聖剣が現れた。

 

「よし、みんなスクショ準備してな! ほい!」

 

[草]

[これは永久保存版]

[表情の再現度高くて草]

 

 白夜はとあるイラストレーターが昔撮った有名な写真のポーズを再現する。

 ポーズだけでなく表情の再現度の高さに、視聴者は爆笑の渦に包まれた。

 それから、白夜はピースやウィンクなど軽いものから、剣を使ったかっこいいポーズなどをとって視聴者達を盛り上げた。

 

「さて、そろそろこの人呼んじゃいますか。姉ちゃーん!」

「はいはーい! こんまひ、こんまひ! こんまひー! どうも、白鳥まひるです!」

 

[こんまひー!]

[お姉ちゃんきちゃ!]

[白鳥姉弟てぇてぇ]

 

 実姉であるまひるの登場にコメント欄は一気に盛り上がる。

 朝昼夜亭での家族コラボはあるものの、実の姉弟二人だけ配信はこれが初めてだったのだ。

 

「ここから先は姉ちゃんも交えてスクショタイムやりまーす」

「さあ、ポーズ指定カモン!」

 

[ブリッジした白夜にまひるちゃんが乗る]

 

「えー、姉ちゃん重いから無理だよ」

「およ?」

 

[あっ]

[ライン超えやぞ]

[これは制裁が必要ですねぇ……]

 

「白夜?」

「いやいや、別に姉ちゃんがデブって言ってるわけじゃなくて、人を乗せるのが無理って話だよ」

「今デブって言った?」

「言ってるわけじゃないって言ってんじゃん!」

 

[空気悪くね?]

[姉弟喧嘩たすかる]

[まひるちゃん、もはや話聞いてなくて草]

 

 突如勃発した姉弟喧嘩を視聴者達は微笑ましく見守っていた。

 基本的にまひるも白夜も精神年齢は低い。

 視聴者達は、子供の喧嘩を見ている親のような気分を味わっていたのだ。

 

「最近メジャーデビューしたからって、うまいもんばっか食べてるからそうなるんだよ!」

「はぁ!? 白夜がカリンチョリンなだけでしょ! まひるは標準ですぅ!」

「いや、首回りとかかなり……」

 

 

 

「白夜ァァァァァ!?」

 

 

 

[太ったのバラされてて草]

[首回りはガチ]

[弟の3D化配信で太ったことをばらされた女]

 

 最近、まひるは白夜との和解、メジャーデビュー、元魔王軍の再起など、幸せなことが多かったこともあり、よく食が進んでいた。

 そのため、幸せ太りという状況になっていたのだ。

 夢美との正式なユニットライブはまだ先ということもあり、レッスンも最近はなかったこともまひるの食欲増進に拍車をかけていた。

 

「これからは白鳥ひまんに変えようぜ!」

「ライン超えだよ! 許さないからね!」

 

[ひまんちゃん……]

[ライン超越してて草]

[弟ならではの姉いじりw]

 

 それから二人は喧嘩をしつつも、仲良くポーズを決めならが配信を盛り上げていった。

 本当にポーズを決めてトークをするだけという内容で配信を行っていた白夜。

 彼は特別何かを言うわけでもなく、自然と配信の締めに入った。

 

「はい、じゃあそろそろ終わろっかね」

「本当にぬるっと終わるね……」

 

[えっ、マジでこのまま終わるの?]

[白夜なら今配信切れてもおかしくないw]

[お姉ちゃん困惑してて草]

 

 そして、本当にメッセージなども用意することなく白夜いつも通りに視聴者達へ挨拶をした。

 

「みんな、今日は来てくれてありがとう。またな!」

「またな!」

 

[またな!]

[またな!]

[またな!]

 

[ハンプ亭ダンプ:またな!]

 

[朝顔サーラ:またな!]

 

[両親もよう見とる]

[終わった後にコメントしてて草]

[マジでぬるっと終わったwww]

[なんか草]

 

 最後まで白夜らしい配信内容に、視聴者は終始笑っていたが、画面が暗転した瞬間に表示されたイラストに驚愕することになる。

 

[!?]

[!?]

[!?]

 

 まひると白夜が笑顔で手を振るイラスト。

 そこには、ご視聴ありがとうございました、というメッセージが書かれている。

 まひると白夜、それぞれの担当イラストレーターに似た絵柄でありながら一人が描いたものだとわかるイラスト。

 それを見て視聴者だけでなく、まひるも白夜も目を見開いた。

 

 特にまひるは何かに気づいたように口元を抑えると、配信が終わった途端に事務所にいる内海の元へと走り出した。

 

「内海さん!」

「どうしたの、まひ――白鳥さん?」

 

 まひるの尋常ではない様子から、内海は彼女が全てを察したのだと判断した。

 様々な思いが胸中に渦巻く中、まひるは真剣な表情で内海に伝言を頼んだ。

 

「今回のエンドカードの絵師さんに伝えてください。やっぱりあなたのイラストは最高だ、って」

「……ええ、必ず」

 

 まひるの思いを受け取った内海は、困ったような笑顔を浮かべながらまひるの言葉に頷くのであった。

 


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