林檎が企画した大型企画に参加するため、スタジオにはいつも以上にライバー達が集まっていた。
今回の企画、参加者はレオ、夢美、かぐや、まひる、白夜、レインの六名だ。
「思い出で殴り合おう!」
「「「「「わー!」」」」」
[何が始まるんです?]
[殴り合おうっていうのが気になる]
[白雪が司会やるの珍しいな]
[嫌な予感しかしない]
視聴者達はゲーム大会以外の大型企画に期待を寄せる反面、地獄のような企画が始まるのではないかと危惧していた。
中にはそんな地獄企画を楽しみにしている者もいるにはいるのだが。
一通りライバー全員の挨拶が終わると、司会進行を務める林檎は早速企画の趣旨を説明し始めた。
「今回の企画では思い出を語り合ってもらいまーす。自分の思い出を面白おかしく語るのも良し、泣けるような思い出を語るのも良しの笑いあり涙ありの企画でーす」
[絶対笑いしかない]
[殴り合おうって言ってるけど、勝負なのか?]
[まーた焼き林檎が何かしようとしてるよ]
[要するにスベらん話ってことか]
林檎が持ち掛けた今回の企画は、参加者がそれぞれ思い出を語り合うという趣旨の企画だ。
視聴者もいまいち企画内容を把握しきれていない中、林檎はそのまま説明を続けた。
「参加者のみんなには、今回の企画にあたって〝思い出デッキ〟を用意してもらってまーす。デッキ内容はシンプルに思い出を語るだけ、作成した動画を流す、持参の思い出の品を使用するなど自由! 攻撃ターンの人が思い出を語り、他の参加者にどれだけリアクションをさせられるかが勝負のカギだよー」
[芸人がバラエティー番組でやってる感じのやつね]
[思い出話でどれだけ笑わせられるかってことか]
[ここまで誰も笑わせる以外の選択肢を考慮してないの草]
笑いあり涙あり、とは言ったものの、視聴者はライバー全員が笑わせに来る方向で思い出を語るのだろうと予測していた。
何故なら彼らはにじライブのライバーだからだ。
芸人気質なライバーが多い中、泣かせに来る者はいないと視聴者は予想していたのだ。
「白雪、質問いいか?」
「はいはーい、何かなー?」
「リアクションをとったかどうかはどう判定するんだ?」
「いい質問だねー」
レオの質問に笑顔を浮かべると、林檎はルールの詳細について話した。
「笑った場合は吹き出した瞬間アウト。感動系なら泣いた瞬間アウトだねー。リアクションをとった人数に応じてアップルポイント、略してAPがもらえるよー」
[APは草]
[寝る前に消費したくなる]
[泣かせるのはハードル高いだろ]
笑いに関してはちょっと笑っただけでもアウトになる。
だが、感動はしても涙を流すまではいかないことも多い以上、どう考えても感動系思い出の方がハードルが高かった。
「あっ、僕もいいですか?」
「はい、白夜君どうぞー」
「怒らせたりするのはありですか?」
「……もう君が何をするのかわかっちゃったよー。まー、リアクションだからオッケーだよー」
[あっ(察し)]
[白夜やる気満々で草]
[哀れお姉ちゃん……]
白夜の質問内容から、林檎や視聴者は彼がどういった内容の思い出を用意しているのか察した。
一通りルール説明も終わったことで、林檎は早速企画を始めることにした。
「それじゃー、早速始めるよー!」
「「「「「
[掛け声それでいいのかw]
[ライフポイント表示されてそう]
[ピピピピピポイン]
[0になってて草]
全員の掛け声と共に企画が開始され、レインがテンション高く声を上げた。
「私のターン! ドロー!」
[先行はレイン様か]
[人望ゲキアツお嬢様の思い出トークとはいかに]
[レイン様の思い出……あっ]
トップバッターということもあり、若干緊張しながらもレインは自分の思い出について語り出した。
「まずは、簡単なトークから始めさせてもらいますね。あれは私がまだ小学生だった頃――」
昔から私は人と話すことが苦手だった。
相手を傷つけていないか、不快にさせていないか。
そればかりが気になり、顔色を窺ってばかりだった。
人と話した後には必ず一人反省会を脳内で開いていた。
通信簿にも「周りの子達よりも大人で、話すこともしっかりしている。でも、もうちょっと友達と仲良く話せたらいいなと思います」とよく書かれていた。
メールを送るときなんて、いつも消しては書いてを繰り返し、長文になりがちだった。
メールが返ってこなくて、次の日友達は揃ってこう言う「ごめん、寝てた」と。
「ごめん、もう泣きそう……」
「レインちゃん、辛かったね……」
「レイン、あんたにはウチらが付いとるで」
「ちょっとォ! まだ導入なんですけどォ!」
[草]
[笑いを狙って泣かせにかかるとはやるな]
[早速予想外の流れになってるw]
「こっからが本題なんですよ!」
そんな私にも心を許せる友達がいた。
自由気ままに振る舞う彼女はいつだって私を守ってくれた。
立ち止まる私の手をいつだって引いてくれた友達。
彼女は私の前では明るく笑いいつも元気を分けてくれた。
だから、私もこの子の前では自然体でいられた。
「これはエモイ流れかな?」
「まひる、泣きそうなんだけど……」
[そういえば、リーフェって幼馴染って言ってたよな]
[やっぱり感動系じゃないか!]
[レイリーてぇてぇ]
あるとき、友達が家に来ることになった。
夏休みでおにい――兄上も友達の家に遊びに行っていて、両親も仕事で家にいなかった。
外で遊んだときに服が泥だらけになったこともあって、私達はシャワーを浴びて服を洗濯していた。
友達には私の着替えを貸した。
でも、着替えを貸したのにも関わらず友達はパンツ一丁で家の中を走り回っていた。
「えっ、これ大丈夫な話か?」
「レインちゃん、その話詳しく!」
[バラギのロリコンセンサー反応]
[ガタッ、じゃないんよ]
[バラギ、座れwww]
どうやら友達の家に遊びにきたのは私の家が初めてらしく、友達はテンションが上がりまくっていたのだ。
それにしてもパンツ一丁はどうかと思う。
止める私の声も聞かずにリビングまで走っていった友達。
その動きがピタリと止まった。
リビングには友達の家に遊びに行っているはずの兄上がいたからだ。
どうやら、友達の都合が悪くなって帰ってきていたようだった。
しばらく固まっていたリー――友達に兄上は笑って告げた。
レインの友達かな? はじめまして、レインのお兄ちゃんだよ、と。
あっ、えっ、とか、スゥ――――しか言えなくなっている友達を他所に兄上は私に向かって言った。
それにしてもビックリしたよ。まさかレインが男友達を家に連れてくるなんてな、と。
「――というわけで、リーフェ――じゃなかった私の友達は初対面の兄上にパンツ一丁という恰好で出会って男に間違えられたのでした!」
[草]
[アンラッキースケベかと思いきやただただかわいそうw]
[もう隠す気なくて草]
[兄上は天然だなぁ]
レインの思い出語りが終わった後、コメント欄には草というコメントが大量に流れていた。
それと言うのも、レインの友人が誰なのかということを全員が理解していたからだ。
「くくくっ……!」
「白夜君、アウトー」
レインが話し終わったとき、笑っていたのはレインとリーフェの関係をよく知る白夜だけだった。
それ以外にリアクションがあったのは、話の途中で泣いていたまひるだけである。
レオ、夢美、かぐやの三人は特にリアクションはせず、揃って気の毒そうな表情を浮かべていた。
[リーフェ:キレちまったよ]
[リーフェおるやん!]
[場外に攻撃通ってて草]
[これは不憫]
「あっ、念のために言っておくと、この話はリーフェに話してもいいって許可はもらってるからね!」
[リーフェ:普通の雑談枠で話しなさいよ!]
[やっぱり昔から男疑惑あったのか]
[女疑惑があったときが懐かしい……]
[地声低いし、中性的な見た目してるらしいからな]
「ふっ……くくくっ……いやー、いい思い出話だったねー。レイン・サンライズ合計2AP獲得!」
林檎はひとしきり笑った後、かぐやの方を向いて告げる。
「次はバンチョーかなー。よろしくお願いしまーす」
「おう、ウチのターンやな! ドロー!」
林檎に促され、かぐやは意気揚々と自分の用意した手札を切るのであった。
続きます