自分の番が回ってきたかぐやは、堂々とした佇まいで思い出を語りだす。
「あれはウチがまだ高校生だった頃の話や――」
ウチにはいつも連んでいる仲の良い友達がいた。
今でも定期的に連絡を取り合うくらいにはその子らとは仲が良いんやけど――
[ん?]
[えっ]
[あっ]
[ま だ 高 校 生 だ っ た 頃]
[今も高校生では?]
竹取かぐやは高校二年生ということになっている。
かぐやがデビューしてから三年は経っているためかぐやが高校生でないことは誰もが知っていることだ。
定期的に失言はするものの、基本的にかぐやは〝自分は高校生である〟という事実は曲げなかった。
かぐやの失言に気がついたレオと夢美は焦ったようにかぐやの言葉を遮った。
「あの、ちょ、かぐや先輩!?」
「ストップ! ストーップ!」
「くくくっ……! レオ、バラギ、アウト―」
[バラレオめちゃくちゃ焦ってて草]
[白雪めちゃく笑ってるwww]
[今更だから大丈夫よー]
[久々の失言やね]
視聴者達はかぐやの失言を全くといっていいほど気にしていなかった。
Vtuberは人外や高校生など、自分ではないものになれる自由な存在だ。
しかし、そこに完璧を求めてしまい崩壊してしまうことも少なくはない。
本当は女子高生や人外でなくとも、Vtuberはそのように振る舞い、視聴者も全力で乗っかる。
この構図がにじライブでは、綺麗に出来上がっていたのである。
それ故に多少のRP崩壊くらいならば、むしろネタとしておいしいとまで思われているのであった。
もちろん、自分からRPを否定していくのは視聴者の熱が冷めてしまうため、あまりよろしくはないが。
「あっ、高校の校舎にいたとき! 校舎にいたときやで!」
「「ぶふっ!」」
「キャッキャ!」
「白夜、レイン、まひるちゃん、アウトー」
[言い訳が苦しすぎるwww]
[白夜とレイン様も耐えられなかった模様]
[まひるちゃん、ニッコニコで草]
[まひるちゃんも他人事じゃないぞw]
まさかのハプニングにスタジオにいた全員が笑いを堪えられなかった。
目に浮かんだ涙を拭い、笑いを堪えながら林檎はかぐやへと告げる。
「えー、バンチョーおめでとうございまーす。全員アウトなんで5AP獲得でーす」
「まだ冒頭しか話しとらんで!?」
[草]
[この話は雑談枠でいつか話してくれw]
[RP崩壊で満点を取った女]
こういったハプニングは生放送特有のもののため、ある意味視聴者が求めているものでもある。
さっそく、盛り上がりはじめるコメント欄を見ているとき、レオはかぐやの口元がニヤァと歪んでいることに気がついた。
かぐやはレオの視線に気がつき、口元に人差し指を持ってきてウィンクをした。
この人、わざとやりやがった!
レオはかぐやの思惑に気がつき、心の中で絶叫した。
配信を盛り上げるだけでなく、面白い思い出トークを後半に温存できる動き。
配信者の鑑のようなかぐやの動きを目の当たりにして、レオは改めて気を引き締めた。
かぐやのターンが終わったことで、次はまひるの番が回ってきた。
「じゃあ次はまひるのターンだね! ドロー、動画カード!」
まひるは動画カードを使用することを高らかに宣言すると、スタッフがまひるの作成した動画を流し始めた。
画面は切り替わり、まひるが学校の中にいるイラストが表示された。
穏やかな日常感を醸し出すBGMが流れる中、まひるは語りだした。
まひるには弟がいる。
小さい頃から一緒にゲームをしたりして傍から見ても仲の良い姉弟だったと思う。
でも、あるときから弟はまひるを避けるようになった。
いわゆる思春期というやつだろうか。
「スゥッ――――……」
[迫真の呼吸音で草]
[スゥッ――――……]
[身内ピンポイント爆撃w]
どのような内容の話が来るか理解した白夜は動揺しないように身構える。
この企画に参加した時点で、ある程度予想はできていたが、一発目からかましてくることは予想外だったのだ。
一緒にゲームができないのは寂しいけど、そのうちまた一緒にできるようになる。
だから、まあいっか。
そう思った。
同じ高校に進学してきてくれたし、きっと嫌われてはいない。
そう思ってまひるは気にしないことにした。
「うっ、ぐぅぅぅ……」
「白夜君ェ……」
[効いてる効いてるw]
[これはむごい]
[徐々にダメージ入ってるw]
そんなあるとき、弟は見た目に気を使いだした。
眼鏡もコンタクトに変えたり、髪をセットしたりオシャレになっていたんだ。
声はかけなかったけど、何となく気づいた。
弟にはきっと気になる子ができたのだと。
「やめろァァァァァ!」
「白夜君、アウトー」
[これはひどい]
[どの世界でも弟は姉から理不尽な目に遭わされるもの]
[高校デビューバラされてて草]
白夜が耐え切れずに絶叫したことで、夢美やレインが釣られるように吹き出した。
「……はい、まひるちゃん3AP獲得―」
そんな中、林檎はどこか照れたように頬を染めつつもまひるの獲得APを宣言した。
「白夜君、強く生きてくれ……」
[お労しや……]
[お労しや……]
[お労しや……]
コメント欄は白夜への同情一色へと変わったが、白夜は逆にやりやすくなったと気持ちを切り替えた。
「……もう容赦しないからな」
「おっと、白夜君に火がついたねー。さ、次は君の番だよー」
「僕のターン! ドロー! 思い出の品カード!」
白夜は手元から手紙を取り出した。
「今日はこの企画のため、姉ちゃんへと今までの感謝の気持ちを込めて手紙を書いてきました」
[おっ、てぇてぇか]
[アレのあとでエモくするな]
[一転攻勢]
[温度差で風邪引くやつ]
[罪悪感を抱かせる戦法と見た]
「手紙、か」
「どうしたんや、バラギ?」
「い、いえ、何でも……」
「ああ、そういうことか」
夢美は手紙と聞いて顔を引き攣らせた。
かぐやは小声で夢美の様子を伺い、彼女の懸念事項に気づいて笑顔を浮かべた。
「それじゃあ、読みまーす」
おねえちゃんへ
おねえちゃんは、ぼくにとってじまんのおねえちゃんです。
なぜなら、おねえちゃんはなんでもできるからです。
「「「ぶふっ」」」
「バンチョー、バラギ、レイン、アウトー」
[対お姉ちゃん兵器と思わせて笑わせてくるとは]
[これはズルいw]
[さっそく三人撃破だ]
白夜は子供のようにわざと舌足らずな読み方で手紙を読み始める。
予想外の出だしに、さっそく夢美、かぐや、レインが吹き出してしまう。
レオとまひるは笑いを堪えるため、感情を殺して真顔になっていた。
おねえちゃんのトークはおもしろいです。
むかしからどこかアホなところがあったけど、さいきんはそれにはくしゃがかかってるきがします。
もうとにかくアホでおもしろいです。
「白夜?」
「そうきたか……」
[めちゃくちゃディスってて草]
[まひるちゃんにアホは誉め言葉]
[何でも誉め言葉って言えばワンちゃん誤魔化せる説]
でも、おねえちゃんのすごいところはそこだけではありません。
むかしから、どうがへんしゅうもできて、はいしんしゃとしてのぎじゅつはピカイチです。
おなじじむしょになったいまは、それをじっかんしています。
ひとりのライバーとして、とてもそんけいしています。
「白夜ぁ……」
[もうほだされてるwww]
[チョロいんよ]
[さっきのアホは照れ隠しか]
おねえちゃんはぼくがこまっているとき、たすけてくれました。
メジャーデビューもしてたいへんなときなのに、てをのばしてくれたんです。
だから、ぼくはたいせつななかまといっしょにわらえるんだ。
ほんとうにありがとう。
「うぅ……」
「白夜君……」
[泣きそう]
[あれは嫌な事件だったね……]
[本当に大変だったもんなぁ]
白夜が魔王軍転生騒動に軽く触れて、まひるへ感謝の言葉を述べたこともあり、まひるもレオも心が揺らぎ始めた。
白夜はこの手紙を読むという悪ふざけの中で、まひるへ感謝を伝えようとしていた。
目的はそれだけではないが。
おねえちゃんはぼくをたすけながらも、メジャーデビューしてだいかつやくです。
いえにいても、バラギさんとよくつうわして、しんけんにうちあわせしてるのをよくみます。
とくにさいきんはレッスンをがんばっていたからか、ごはんをおいしそうにもりもりたべてます。
「白夜?」
しあわせそうにごはんをたべるおねえちゃんは、さいきんちょっとあつがましたきがします。
「白夜!」
そんなねえちゃんはいま、たいじゅうが、ごじゅう――
「白夜ァァァァァ!?」
「まひるちゃん、アウトー」
[ライン超えで草]
[さっきの高校デビュー暴露が生易しく見える]
[体重暴露www]
体重を公表されそうになり、まひるは叫び声を上げて白夜の声をかき消した。
「またライン超えたね、白夜!」
「先にライン超えたのはそっちだろ!」
「もう、喧嘩しないの……」
[まーた喧嘩してるよ]
[バラギが仲裁してて草]
[すっかり保護者ポジが板についたな]
こうして喧嘩をするまひると白夜を夢美が仲裁しつつも、企画は順調に進んでいった。