Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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前回のまひるの体重についていろいろ言われてるので言っておきますが、身長にもよりますが50キロ台が標準なのはわかってますよ。
あくまでも、もとより太ったということと、弟である白夜だからいじってるってことなので、誤解なさらないように!


【決闘!】思い出で殴り合おう! その3

 次にターンが回ってきたのはレオだった。

 

「俺のターン! ドロー!」

 

 レオはシンプルに過去の芸能活動の中から話題を選ぶことにした。

 

「これはまだ俺がアイドルとして活動していた頃――」

 

 

 芸能界で生き残ることは容易ではない。

 たとえ実力が評価されていようと怒らせてはいけない人間というものは存在する。

 そんなこともわからない俺は調子に乗り傲慢な態度を改めなかった。

 自業自得、因果応報。

 アイドル活動後期の俺はそんな言葉が当てはまる状態だったと言えるだろう。

 

 

「あー、落ち目の頃は悲惨だったもんね」

 

[マジで干されてたよな]

[気が付いたら消えてた]

[たまにテレビ出ても扱い雑だった記憶がある]

 

 

 そんなあるとき、マネージャーがある企画をもぎ取ってきてくれた。

 それは限界集落を復興するという企画だった。

 他のメンバーと別行動をしていたこともあり、企画は俺一人で行った。

 学校に通いながら田舎の限界集落と東京の往復ははっきり言ってしんどかった。

 それでも、仕事である以上妥協することはできなかった。

 最初は集落の人達も温かく迎えてくれた。

 集落の人達にいろいろと教わることは楽しかった。

 このときばかりは俺も傲慢な態度はなりを潜めていたと思う。

 そうして撮影を続けているうちにある違和感に気がついた。

 テレビで全くといっていいほど、この企画が放映されなかったのだ。

 集落の人達も段々と俺とスタッフ達をいぶかしむようになる。

 俺はディレクターに詰め寄った。

 すると、彼はこう言った。

 素直に言うこと聞いて限界集落の人と交流している君って面白くないよね、と。

 そして、ちょうど別の企画も並行して収録していたこともあり、そちらが優先されることになったのだ。

 

 

「――というわけで、この企画はお蔵入りになったのでした! いやぁ、マジでこれ芸能界の闇って感じでやばいですよね! はははっ!」

 

「「「「「……………………」」」」」

 

「えっと……みんな?」

 

[レオ君……]

[闇深すぎて笑えねぇ……]

[これで笑えるあたり、レオ君の感覚がバグってることがよくわかる]

 

 予想と違う反応にレオは困惑していた。

 芸能界の闇深すぎだろ、というツッコミ待ちで話した内容だったが、全員渋い顔をしていた。

 

「えっ、これダメですか?」

「レオ、0AP獲得―」

「マジか……」

 

[レオ君、強く生きて]

[レオ君が滑ってるの初めて見た気がする]

[芸能界怖い]

 

 まさかの0APに加えスタジオの空気はお通夜モード。

 久々にやらかしたことを理解してレオは焦った。

 

「ったく、クソ雑魚ライオンは引っ込んでな!」

 

 そんなレオの頭を引っぱたくと夢美は空気を変えるように言った。

 

「あーあーあ、みんなパンチ足りなくない? 企画名は〝思い出で殴り合おう〟だよ。真のインファイトってもんを見せてやんよ!」

 

[煽るねぇ!]

[真打登場!]

[バラギのターンだ!]

[これは期待]

 

 レオのやらかしを吹き飛ばすように、夢美は不敵な笑みを浮かべて宣言する。

 

「あたしのターン! ドロー! 動画カード!」

 

 夢美はまひると同様に最初から動画カードを使用した。

 

「あたしもデビューしてから結構経ったからね。一周年記念でやろうかなって思ってたんだけど、ここでやる方がいっかなって思ってこの動画を作ったんだよね」

 

[あっ]

[これはやばい]

[特大の爆弾持ってきやがったwww]

 

 画面に映し出されたのは〝清楚()のはじまり〟という文字。

 この文字を見た瞬間、全員が表情筋を引き締めたことは想像に難くないだろう。

 

『はじめましてぇ、茨木夢美でぇすっ』

 

「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛! やっぱ待って待って! いったん止めてぇぇぇ!」

 

[自傷ダメージ受けてて草]

[きっつ]

[何故だろう、俺達にもダメージが来る]

 

 夢美は慌てて動画を止めるように言ったが、スタッフは笑顔で親指を立てると動画を一時停止した後、少し前に戻して再生し続けた。

 

『はじめましてぇ、茨木夢美でぇすっ』

 

「スタッフゥゥゥゥゥ!」

 

[容赦なくて草]

[戻すなwww]

[自己紹介の後の吐息でもうダメだった]

 

 案の定、コメント欄には草というコメントが溢れる。

 少し経てば同時接続数も膨れ上がるように伸びていき、〝バラギ初配信〟という単語がトレンド入りまでしていた。

 

『わっ、コメントがすごい! たくさん!』

 

「何も考えてない発言やめろやァ!」

 

「ふっ……くくっ!」

「バンチョー、アウトー」

「これはズルイやろ!」

 

 ついに耐え切れず、かぐやが陥落した。

 動画単体ならまだしも、動画を見て自分でダメージを受けている夢美の様子にツボってしまったのだ。

 他の参加者も必死に笑いを堪えているが、肩がプルプルと震えており限界は近かった。

 

『それでね、みんな。あたしのことは、どんな呼び方で呼びたい? バラギ? えー、やだよ可愛くないもん!』

 

「くふっ……!」

「はい、レイン。アウトー」

「いや、だってこんなん笑いますよ!」

 

[すっかり浸透した呼び名]

[最初にバラギってコメントした奴天才だろ]

[初配信で既にバラギ呼び出てて草]

 

『それでね。今後はいろいろやっていきたいなーって思ってて、特にゲーム配信とかすごいやりたいと思ってます。えへへっ』

 

「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛! きっつ! きっついわ、これ! 無理無理無理!」

 

「「ぶふっ!」」

 

「まひるちゃん、白夜君、アウトー」

 

 それから夢美が羞恥にもだえ苦しみながらも、地獄の初配信振り返りは続く。

 残り一人となったレオは、こみ上げてくる笑いを何とか気力で耐えていた。

 レオの場合は普段から夢美と接している分、まだ耐性があったのだ。

 動画はスタッフの判断で、リアクションのあったところのみ止められ、反応があった個所がリピートされる地獄の状態で進み後半へときた。

 夢美の初配信を綺麗にまとめた動画は、あっという間に終わり間際の箇所まで到達した。

 

『あっ、違ぇわ。そうじゃない』

 

「もうダメじゃん! 完全に素が出てるじゃん!」

 

「ふっ、くっ……! くくくっ……!」

「あっ、これは吹いたね。レオ、アウトー」

 

 夢美が取り乱して素が出た箇所で、とうとうレオも陥落した。

 終始爆笑していた林檎は、目じりに浮かんだ涙を拭いながらもレオに声をかけた。

 

「結構耐えてたのにねー」

「いや、だってさ……可愛い声のまま〝違ぇわ〟は笑うだろ!」

 

[芸能界の闇の次はVの闇か]

[てぇ……てぇ?]

[てぇてぇくはねぇよw]

[ノーガードが過ぎるだろ]

[さすがバラギ]

 

 夢美の自分への精神ダメージを顧みない攻撃に、参加者全員が撃沈した。

 この後、公式の切り抜き漫画でこのときの醜態がさらに拡散されることになることを、夢美はまだ知らない。

 


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