「何が焦るものでもないだよ! 盛りのついたサルかよ! この性獣!」
「あんなに好き好きオーラ全開でキスされたら理性崩壊するわ! 大体ベッドに潜り込んできたのは由美子だろ!」
「うるせぇ! 酔ったあたしが拓哉への気持ちを抑えられるわけねぇだろ!」
「いや、理不尽!」
クリスマスから一夜明け、レオと夢美は服を着ながらクッションを投げつけ合っていた。
お互い焦らずにいこうと話し合ってすぐということもあり、醜い責任の擦り付け合いが始まっていたのだ。
そんな中、レオと夢美のスマートフォンに一通のメッセージが届く。
[ゆ う べ は お 楽 し み で し た ね]
「……あいつのセンサーどうなってんだ」
「……ここまで来るとホラーだよね」
林檎から送られてきた察しの良いメッセージを見て、レオと夢美は落ち着きを取り戻した。
「よく考えたら恋人同士だし問題はないな、うん」
「ゴムもつけてたし、へーきへーき。問題は事務所にどう説明するかだね」
いつもの調子で朝食を取り始めた二人は、自分達の関係を事務所にどう報告するかについて話し始めた。
「普通に付き合うことになりましたー、でよくないか?」
「それはそうだけど、やったことは察してほしくないというか……」
「表情に出るなら事務所に行って報告しなくても、メッセで連絡すればいいだろ」
「それが無難かねー」
朝食を食べ終わると、レオは天井を見上げながら呟く。
「リスナーにいい報告ができるのはいつになることやら」
「それはあたし達のこれから次第、でしょ?」
「だな」
レオと夢美は恋人という関係を表に出すつもりはなかった。
あくまでも二人は表に公表するのならば、社会的責任が生じる落ち着いた関係であるべきだと考えていたのだ。
「ひとまず報告は飯田さん達にしておくか」
「……クリスマスの次の日にこれって、何か恋人アピールみたいで複雑だわ」
こうしてマネージャーを通して恋人関係になったことを事務所に伝えた二人は、いつも通りのライバーとしての日常に戻っていった。
飯田や四谷を通して伝えられた朗報。
それを知ったかぐやは――
「……え゛え゛な゛ぁ゛」
二日酔いで痛む頭を押さえ、喜びながらも歯を食いしばっていた。
かぐやにも恋人がいたことはある。
大阪に住んでいた頃に付き合っていた恋人だったが、かぐやが東京へ転勤するのと同時に自然消滅したのだ。
「はぁ……」
別に恋人が欲しい訳ではない。
ただクリスマスに酔い潰れ、二日酔いに苦しんでいる現状に虚しさを感じていたのだ。
そんな哀愁漂うかぐやの元へ来客があった。
「あ゛い゛……」
「あらあら、ひどい状態ね」
ドアを開けてみれば、そこに立っていたのは苦笑いを浮かべた内海だった。
「ここ最近、羽目を外し過ぎじゃない?」
「うっ……」
「まあ、あなたが楽しそうならそれでいいわ」
そう言ってかぐやの部屋に上がり込むと、内海はかぐやの介抱をするのであった。
二日酔いも落ち着き、顔色の良くなったかぐやはふと内海へと告げる。
「なあ、ホンマに戻ってくる気はないんか?」
かぐやはずっと内海にライバー〝竜宮乙姫〟として復活してほしいと思っていた。
内海がライバー活動をする上で心に傷を負ったのはよく理解している。
それでも、大切な同期である彼女がまた自分や勝輝と共に横に立って欲しいと思うのは無理のない話だった。
「……正直、迷ってる」
かぐやの問いに対して、内海はポツリと呟いた。
「いまだに私を待ってくれる人がいるのは知っているわ。裏方の仕事を通してライバーとしての立ち回りも当時よりは理解している。それでも、自信がないのよ」
「そう、か……」
相変わらずライバーに復帰するつもりはない内海の返事に、かぐやは残念そうに肩を落とした。
しばしの沈黙の後、空気が重くならないように内海は話題を変えることにした。
「ねえ、三期生の三人。デビュー当時の私達に似てると思わない?」
「せやなぁ。特に炎上したり、急にバズったり、まだ一年経ってないのにアレや。ウチらの方が大人しかったと思うで」
「それはないでしょ」
自分がいかに大暴れしてきたかを棚に上げるかぐやを見て、内海は呆れたように肩を竦めた。
「私達もそうだけど、二期生も大概でしょ」
「二期生は素でおもろい奴とゲームスキルの高い面子で取ったからな」
にじライブは二期生の募集をかける際、規模を拡大するため、一気にライバーの人数を増やした。
ゲーム実況をメインに活動する者、様々な企画ができるセンスのある者など、多様性を重視して採用を行ったのだ。
「まひるちゃんは本当にびっくりした」
「トークもできて、驚くほど天然で、それなりのゲームスキルもある。こんな逸材そうそうおらんわ。……たまに本当に義務教育を終えたのか不安になるときはあるけどな」
まひるは現時点でミコ、かぐやに次いで登録者数が多い。
Vtuberという仮想世界を舞台にした存在において、もっとも嫌われるのは〝嘘〟だ。
それは何も設定の話ではなく、リスナーに対する不誠実さという意味での嘘だ。
その点、まひるは本人が驚くほど素直で天然な性格のため、Vtuberのファン層からは好かれやすかったのだ。
「しっかし、赤哉と桃タロス面接で通したときは驚いたで」
「うふふ、あの二人はかなり特殊だったものね」
内海は赤哉と桃華を採用した当時のことを思い出し、懐かしむように笑みを浮かべた。
「赤哉君は経歴こそアレだけど、彼の覚悟を見せられたら、ね?」
「ったく、前科があったら間違いなく落としてたで?」
当時のことを思い出してかぐやはどこかげっそりとした表情になった。
「ホンマ、あの二人を採用した時点であんたも大概にじライブやな」
「ふふっ、伊達に〝姫ちんは清楚だけど、まともではない〟って言われてないわ」
呆れたように嘆息するかぐやに、内海はいたずらっぽく笑顔を浮かべた。
「でも、良かったでしょ? あの二人はにじライブには必要不可欠な存在だわ」
「せやな。あの二人だけやない。やめていった奴も含めて全員が必要な――」
『いやいや、アタシは被害者ですよ? 何でアタシが責められなきゃいけないんですかぁ?』
「っ、まあ、みんな必要な奴や」
ふと脳裏に浮かんだ人間の顔を振り払うと、かぐやはぎこちない笑みを浮かべた。
そんなかぐやに対して、内海はきっぱりと告げる。
「私はやめた子達も含めて必要な存在だったと胸を張って言えるわ」
「乙姫……」
「だから、あの子のことこれ以上恨まないであげて」
自分が一番辛い目にあったというのに、どこまでお人好しな内海を見て、かぐやは笑顔を浮かべて言った。
「あんたにそう言われたらしゃーないな」
これ以上、過去に執着しても仕方ない。
いい加減前に進もう。
かぐやは内海との時間を過ごし、改めてそう思うのであった。