[ハンプ亭ダンプ:本当に申し訳ございませんでした……]
[竜宮乙姫:いいんですよ。結果的には盛り上がりましたし、私も気にしていません。ただ誤植には気を付けてくださいね?]
にじライブプロジェクトのライバー用のチャット欄。
そのダイレクトメッセージの欄で最近人気の男性ライバーハンプ亭ダンプがにじライブ初期メンバーである竜宮乙姫へ謝罪をしていた。
「はぁ……」
申し訳なさそうにしているハンプに気にしないように告げると、乙姫はツウィッターを開き自分の名前を入力する。
すると、サジェスト欄には[竜宮乙姫 潰す]などという物騒な言葉が一番上に現れた。
これは一期生である勝輝とハンプが主催したレースゲームの企画の際に起こった出来事がきっかけだった。
選手紹介の際、主催側で考えた二つ名を頭上に表示する場面で、ハンプは誤ってかぐやの頭上に表示する予定だった〝潰す〟という単語を乙姫の紹介時に表示してしまったのだ。
普段、清楚で心根の優しいことで知られている乙姫の頭上に表示される攻撃的な〝潰す〟という単語のギャップに視聴者達は大爆笑しており、この一件はかなり話題になった。
そのせいで、竜宮乙姫と打ち込むと〝潰す〟と一番上に出てきてしまう状態になってしまったのだ。所謂サジェスト汚染というものである。
表面上は乙姫も気にしていないと言ってハンプを許したことで、この一件はにじライブでよくある面白ハプニングとして片付けられた。
だが、乙姫はサジェスト汚染によって新衣装の話題が流れてしまったこともあり、落ち込んでいたのだ。
「よっ、乙姫」
「もう、社内でライバー名呼ぶのやめてよ」
乙姫が浮かない表情を浮かべていると、彼女の背後から楽し気な表情を浮かべたかぐやが肩を組んできた。
かぐやは社内では基本的に標準語の敬語で話すようにしているが、勝輝、乙姫しかいない場では本来の関西弁で話していた。
それだけかぐやは同期である二人に心を許していたのだ。
「聞いたでー。例の二人採用したんやろ?」
「ええ、経歴も問題なかったし、女木島さんも山口さんも〝面白い人〟だったから」
例の二人とは、先日乙姫が採用スタッフ内海光として面接を行った女木島智也、山口聖羅の二名のことだ。
「ホンマに問題なかったんか? 元キャバ嬢の山口さんはともかく女木島さんの方は明らかにヤーさんやろ」
「あっ、入れ墨見せてもらったの。見事な鬼だったわ」
「ちょ、待てや! マジでヤーさんやったんか!?」
笑顔で衝撃の発言をする乙姫に、かぐやは目を見開いた。
「女木島さんにはきちんと経歴を聞いたわ。きちんと自分が昔ヤクザであったことを明かした上で、どういう経緯があって、どんな理由でライバーになりたいのか聞いたの」
「……それでどうやったんや?」
「山口さんの借金を一緒に返すために、組を抜けて稼げる仕事を探しているって聞いてね。彼の所属していた鬼島組の絶縁状もコピーを取らせてもらったわ。少なくとも彼は裏の世界では生きていけない。そんな状態にあるみたいよ」
「しっかし、その筋の人間なら借金くらいすぐに返せそうなもんやけどな」
「今はヤクザも稼げないみたい。特に昔気質な〝任侠〟気質なところは顕著らしいわ」
ヤクザの世知辛い裏事情を知ったかぐやは感慨深い表情を浮かべた。
しかし、それはそれ、これはこれである。
いくら元ヤクザがのっぴきならない事情で社会復帰しようとしていようと、後ろ暗い過去のある人物がライバーをするのはリスクがある。
実際に元ヤクザでVtuberを行っている者も少数だが存在するとはいえ、リスクが高いことに変わりはない。
たとえ、犯罪に手を染めていないとしてもだ。
「せやけど、元ヤクザなんてリスク背負ってまで採用する決め手はなんや?」
「女木島さんね……ふふっ……前科がないか確認したときに『俺は誓って殺しはやってません!』って言ったの!」
「ぶっ、けほっ……げほっ……」
有名なヤクザのゲームでの台詞にかぐやは飲んでいたコーヒーを吹き出して咽た。
「狙って言ったんでしょうけど、もうおかしくて……ふふっ」
乙姫は面接時のことを思い出して笑みをこぼした。
「女木島さんはヤクザはいい人の振りをする人間が多いから気をつけるように言っていたし、問題が起こりそうな予兆があればすぐに自分を切ってくれて構わないって言ってたの。だから、あんな面白そうな人、放置するのももったいないなーって思ってね」
「風俗説教おじさんか! まあ、義理堅そうな人みたいやし、うちも会ってみるわ」
「それともう一つお願いなんだけど……」
「大丈夫や。ライバーの採用に関してはウチらに丸投げされてるし、上長承認もかっちゃんで止まるからな」
「ごめん、いざってときは私が責任とるから!」
元ヤクザと理解して採用して何かあったとなれば、ライバーの採用関係のトップである乙姫の責任問題になる。
そんな責任を負ってでも乙姫は、智也と聖羅と直接話したことで救いの手を伸ばしたくなったのだ。
「アホ抜かせ。いざというときはウチもかっちゃんも一連托生や。というか、かっちゃんも理解しててハンコ押したんやろ」
乙姫の頭にチョップを叩き込むと、かぐやは優しい笑顔を浮かべて告げた。
「それに、もしものときは二期生のみんな引き連れて新しい場所でライバーやればええ話やろ」
「かぐやちゃん、ありがとうね」
どこまでも頼もしいかぐやの言葉に、乙姫は心からの笑顔を浮かべて礼を述べた。
「そういえば、あの二人の印象が強すぎて忘れてたけど、もう一人採用したの」
「もう一人って言うと、あの絵がうまい子か?」
「そう! 亀梨花子さん!」
今回の応募では、三人までライバーの枠が用意されていた。
智也と聖羅は壮絶な人生経験から来る本人達の面白さ。
そして、もう一人である亀梨花子はイラスト、トーク、企画力、など、あらゆる総合力が高かったため採用したのだ。
「あの子ね、絵がうまいだけじゃなくて、クオリティの高い声帯模写もできるのよ!」
「マジか!? とんでもないのがきたもんやな……」
「そうなのよ! あの子は絶対に採用したいと思ってね!」
乙姫は採用した亀梨について珍しく興奮した様子で語った。
「しかも、推しを聞いたら私って言ってくれてね! 正体は明かせなかったけど、嬉しかったわぁ」
「いや、それ気づいた上でのリップサービスやろ……」
「でもでも! 配信のどこが面白かったとか、ハイテンションで長時間語り続けられる? 亀梨さんったら、好きなものについて語って、って言ったら一時間ノンストップで竜宮乙姫の魅力について語ってくれたのよ?」
「そ、それは本物やろな……」
面接で推しについて長時間語ったという部分に若干顔を引き攣らせながらも、かぐやは少なくとも噂の亀梨が乙姫を慕ってライバーになろうとしていることは理解できた。
「それで、三人のライバー名とイラストは決まったんか?」
「ええ、イラストレーターの人も張り切ってるわ。あと、亀梨さんは自分の持ち込みでデザインを持ってきてくれたから、彼女には自分でデザインしてもらうことになるかしら」
「ほー、イラスト描けるってだけでいろいろやれることは増えそうやな。ちなみに元々活動してたイラストレーターなんか?」
「いいえ、ネットでの活動はしてなくて趣味でずっと描いてたみたい。あっ、でも専門学校は通ってたって言ってたわ」
こうして、にじライブから新たに三人のライバーがデビューすることになる。
鬼ヶ島で暮らしていたが、鬼の群れを抜けて人間社会に馴染もうとする赤鬼〝名板赤哉〟
桃から生まれた脳内まで桃色の女武士〝吉備津桃華〟
恐ろしき妖怪を箱に封じ込め、その封印を守る役目を担う着物を着た少女〝箱根タマ〟
この中でも、タマはその多才さからあっという間に登録者数10万人の壁を突破し、勢いを増していくのであった。
この頃の内海さんはわりとはっちゃけてますね