「すみませんでした!」
「…………」
内海は自宅に上げた途端に謝罪をした亀梨を無言で見つめていた。
声を震わせながらも亀梨は言葉を紡ぐ。
「……アタシはバカだった。自分だけの本物がほしかった癖に自分からそれを切り捨てた。あんなに温かい人達を裏切って、全部自分の手のひらで転がした気になって、あなたも物凄く傷つけた。許してくれなんて言わない。覚悟はできてる。煮るなり焼くなり好きにしてもらって構わない。でも、その前に――」
「私の方こそ、ごめんなさい」
「え?」
自分の言葉を遮って頭を下げてきた内海に亀梨は驚いて固まった。
そんな亀梨を見て苦笑すると、内海は懺悔するように言った。
「ずっと逃げていた。業務量が多いから、自分の配信活動があるから、あなたと真剣に向き合わなかった。ごめんなさい……私がもっとしっかりしていれば、あなたもこんなことせずに済んだのに」
「それは違う! 全部アタシが勝手に見切りをつけて何もかも無茶苦茶にしたことが原因なの!」
「違わないわ。確かにあなたの行動はひどいものだったけど、責任は私にもある」
強い意志を持って亀梨の言葉を否定すると、内海はある仮説を述べた。
「亀梨さん、あなたがあの騒動の後に私に接触してきたのは白雪さんの復帰後だったわね?」
「そう、だけど」
「獅子島さんの身バレ騒動の意図的な拡散の手伝い。バーチャルリンクへの攻撃。あなたの〝手助け〟はどれも綱渡りで、最悪の場合あなた自身がさらに炎上する結果になりかねなかった」
亀梨はこれまで裏で何かとにじライブを助けるような行動を繰り返していた。
実はレオの身バレ騒動の際には、彼女も一枚噛んでいたのだ。
そのどれもが一見すると、ただ悪意を持って行っているようにしか見えないようなものだった。
「どうして、あなたは自分にリスクを集中させてでも私達を助けてくれたかようやくわかったの。あなた、償いとして私を復帰させて自分はいなくなるつもりだったんでしょう?」
「っ!」
図星だった。
内心、罪悪感と後悔を抱えていた亀梨は、過去を清算するためと自分に言い訳をしながらにじライブを助けるような行動をとっていた。
全ては自分のせいで引退した竜宮乙姫を復帰させるために。
「あなたが私を本当に慕ってくれていたことは気づいていたの。だから、私はあなたのことを信用できた」
内海は亀梨が自分を本当に慕っていることに気づいていた。
そんな彼女の努力を無下にするような対応をしてしまった。
その結果、亀梨が自分に牙を向けることになったと感じていたのだ。
「だから、悪いのは私なの。許すも何もないわ。にじライブが今の形で運営できているのは、ある意味あなたのおかげでもあるのよ? 授業料にしては高すぎたけど、失ったものもあれば得たものも大きかったの」
「内海、さん……」
心からの笑顔を浮かべる内海に、亀梨は涙を流して後悔した。
こんな素敵な先輩を地獄の底に突き落とすなんて、どれだけ自分はバカだったのだろうか、と。
そして、今度こそ間違えないために、亀梨は真剣な面持ちで内海の目を真っ直ぐに見据えて告げた。
「内海さん、お願いがあります。ライバーに復帰してくれませんか?」
「そう来ると思った」
内海は苦笑すると、咳ばらいをしてわざとらしく告げた。
「亀梨花子さん、私が復帰するのには条件があります」
「条件?」
一体どんな条件を提示するのか身構える。
緊張した様子の亀梨相手に、内海は静かに条件を告げた。
「一つ、かぐやちゃんとかっちゃんにもきちんと謝ること」
箱根タマの起こした騒動での一番の被害者は内海だが、プロジェクトの中核でもあったかぐやや勝輝も相当な被害を被った。
にじライブが会社になるまでに相当な苦労があったことは想像に難くないだろう。
「二つ、これからも私達に力を貸してほしいの。あなたの能力は必要だと思うから」
「もちろんです」
「そして最後、あなた自身もう自分を傷つけるような行動をとらないこと」
「それは……」
予想外の条件を提示されたことで、亀梨は言葉に詰まった。
そんな亀梨に呆れたようにため息をつくと、内海は苦笑しながら亀梨の計画を言い当てた。
「どうせまた自分が悪役になって、私が復帰しやすい環境を作るつもりだったんでしょう?」
「うぐっ」
亀梨は再び箱根タマとして配信を行い、そこで全てを暴露して内海に非がないことを証明した上で消えるつもりだった。
自分の行為を正当化するように語り、そこに批判が集中したところで乙姫を復帰させるつもりだったのだ。
「バカね。可愛い後輩を犠牲にしてまで復帰したいなんて私が思うわけないじゃない」
「……まだ後輩だって思ってくれてるんですね」
「ええ、たとえ箱根タマじゃなくなっても、あなたはいつまでも私の可愛い後輩よ」
花が咲いたような笑顔を浮かべると、内海は亀梨を優しく抱きしめた。
「アタシ、本当にバカだな……」
「あら、バカな子ほど可愛いって言うじゃない」
涙を流す亀梨に笑って答えると、内海は独白するように言った。
「三期生の三人を見たとき、真っ先にあなた達〝和装組〟が思い浮かんだわ」
赤哉、桃華、タマの三人はデフォルト衣装が和服だったことから、和装組と呼ばれていた。
タマが大幅に伸びてからコラボすることはなくなったが、当時はにじライブの中でも人気のユニットだったのだ。
「暴れる桃華さんに、苦労人の赤哉君、そして計算高いタマちゃん。白雪さんと違ってあなたはそういった部分は見せていなかったけどね」
昔を懐かしむように内海はデビュー当時のレオ達のことを思い返した。
「茨木さんはすぐに炎上したし、獅子島さんは彼女を助けるためにフォローに回ったり、白雪さんは二人を利用して伸びるために近づいて、いつの間にか二人を心から大切に思うようになった」
「……アタシは焼き林檎ちゃんほど、優しくないわ」
「いいえ、あなたは気づけなかっただけ。白雪さんは本当の気持ちに気づけたし、何度でも差し伸べられた手を取ることができた。それだけなのよ」
タマはハンプやまひるの差し伸べた手を何度でも振り払った。
どこかで自分の気持ちに気がついて差し伸べられた手を取っていれば、きっと違った未来が待っていた。
「遅刻上等で人のことなんて何とも思ってない白雪さんが、獅子島さんと茨木さんとの遊びの約束に遅刻するって慌ててるのを見たとき、今度こそ失敗したくないって思ったの」
「そして、白雪林檎は復帰した」
「ええ、ほとんど獅子島さん達や亀戸さんのおかげだけどね」
林檎がライバーに復帰した当時のことを思い出して口元を緩めた後、内海は表情を引き締めて亀梨へと向き直った。
「うちの社員になれなんて言わないわ。赤哉君のところで働くことになったんでしょう?」
「ど、どうしてそれを――まさか」
「見ちゃった。ごめんなさいね」
実は亀梨が二期生と話している場面を、内海はこっそりと覗いていたのだ。
これは赤哉の考えた作戦でもあった。
「赤哉の奴……」
「うふふっ、こんなに先輩想いな後輩がいる私は幸せ者ね……だから、もう逃げない。きちんと自分と向き合うことにするわ」
決意を込めてそう告げると、乙姫は力こぶを作る動作をしてウィンクをして言った。
「まずはブランクを取り戻すためにいろいろと準備しないとね」
「アタシにもお手伝いをさせてください――乙姫先輩」
「こちらこそお願いね、タマちゃん」
固い握手をすると、二人は心からの笑顔を浮かべるのであった。
タマは三章あたりからずっとスタンバってました