ライブはそれからも順調に続いた。
メロウとバッカスのデュエットは特に盛り上がった。
透き通るような高音と渋い低音の組み合わせは大好評だったのだ。
この後はさらに盛り上がる組み合わせが予定されている。
「はいはい、こんバンチョー! みんな盛り上がってるかァァァ!?」
『当たり前だァァァ!』
[バンチョーきちゃ!]
[常に必殺技放ってきやがる]
[これは期待]
にじライブのリーダー的存在であるかぐやが出てきたことで会場のボルテージはさらに上がる。
登録者数でこそミコに抜かれたものの、彼女もVtuber業界では数少ない百万人の壁を超えた者。
その実力はこれまでの人気が証明している。
「メロウとスタバさんが盛り上げてくれたこの空気のまま突っ走るで! いくで!」
かぐやは手に握ったボールを宙に投げる。
「レオ、キミに決めた!」
「GRRRRRRRRRRRRRR!!!」
ボールが光って消えるのと同時に、一頭のライオンが現れる。
[草]
[これがやりたかっただけだろwww]
[バンチョーは ポケ廃ライオンを くりだした!]
[今日だけでレオ君何回咆えるんだよw]
もちろん、それは待機していたレオである。
かぐやがボールを投げたタイミングでライオンの方の3Dモデルを表示させたのだ。
「みなさん、こんばん山月!」
[そのまま始めるなwww]
[こんばん山月(泣き声)]
[すっと二足歩行になるの笑う]
普段の3Dモデルではなく、そのままライオン形態で挨拶を始めたことで、会場、コメント欄共に笑い声が溢れる。
「というわけで、次はレオと一緒に歌うで!」
「シャァァァァァ! バンチョーとデュエットだぁぁぁぁぁ!」
[ライオンのままガッツポーズするなwww]
[コロンビア]
[レオ君の ほえる!]
レオにとってかぐやと同じステージで歌うことは夢のような状況だった。
落ちぶれて夢もなくただ毎日を過ごしていたとき、レオの夢を蘇らせたのはかぐやのクリスマスライブだった。
一年という時間が流れ、今二人の道は交わり同じステージにいる。
憧れてやまなかった存在であるかぐやと肩を並べられる。
それがレオにとってどれだけ喜ばしいことか、袁傪含め多くの人間が知っている。
「レオ、良かったね……」
少年のようにステージではしゃぐレオを見て、夢美は瞳を潤ませて自分のことのように喜びを噛み締めていた。
「うっ……!」
「林檎さん、大丈夫かい?」
「おー、これが噂に聞くてぇてぇ発作ですか!」
夢美の様子を間近で見ていた林檎は胸を押さえてよろけた。
そんな林檎をバッカスは苦笑しながら、メロウは楽しそうに支えていた。
「そんじゃいくで!」
「お前らァ! 全力でついてこい!」
『うおおおおおおおお!』
以前にもレオとかぐやはデュエットで歌ったことがあった。
その際は、レオが愛してやまないモンスター育成ゲームのアニメの主題歌を歌った。
「「タイプ:ワイルド!」」
そして、今回も同じシリーズの曲を歌うことにした。
曲はかなり古いが、今も尚愛される名曲だ。
イントロが流れ始めた瞬間、レオの姿が本来の3Dモデルへと戻る。
「マサラタウンにサヨナラしてからどれだけの時間たっただろう~♪」
「すりきずきりきずなかまのかず~♪ それはちょっとじまんかな~♪」
[タイプ:ワイルドだ!]
[そりゃ二人のタイプはワイルドだわ]
[これほどこの曲が似合うVもそうそういない]
[この二人は歌唱力とダンスだけじゃなくて選曲も神なんだよなぁ]
二人の視聴者層を考えれば、この曲が刺さる者は多い。
曲の知名度も高い上に、勢いのある曲はレオ、かぐや共にイメージにピッタリだ。
曲の早口になりがちな部分もなんのその。
二人は見事な歌唱力で気持ちを込めて曲を歌いあげる。
そして、キレのあるダンスを披露しながら二人は顔を見合わせて獰猛な笑みを浮かべた。
「いつの間にか~♪」
かぐやがサビの初めの部分を歌い、レオが観客側へとマイクを向ける。
『タイプワイルド!』
「オラァ! もっと声出せェ!」
「すこしずつだけど~♪」
今度はレオの方が歌い、かぐやが観客側へとマイクを向ける。
『タイプワイルド!』
「まだまだいけるだろォ!」
会場が揺れるほどの声が轟く。
ライバーだけではなく、この場において観客も全力以上の力を発揮してライブを盛り上げていた。
レオとかぐやの煽りもあって、観客達は普段から燻っている胸の奥の炎を最大火力で燃やしていた。
限界など知らない。そんな風に思わせる勢いで歌い続け、本来息継ぎに使うような間でも観客へと全力を出せと叫ぶ。
これほどパワフルでワイルドなパフォーマンスをしたライバーはこの二人くらいである。
「「そして、いつかこう言うよ~♪ ハロ~♪ マイドリーム~♪」」
『バンチョォォォォォォ!』
『レオくぅぅぅぅぅぅん!』
[8888888888888888888888]
[8888888888888888888888]
[8888888888888888888888]
[これは神]
[最高の組み合わせで最高の曲が聞けたぜ]
[バンチョー、レオ君、ゲットだぜ!]
[俺らがゲットされてるんだよなぁ]
会場もコメント欄も今までにない圧倒的なパフォーマンスに沸いていた。
かぐやは長いライバー経験から得たポテンシャルを、レオはアイドル時代に培ったポテンシャルを存分に発揮していた。
会場にこれずにネットチケットを購入していて、パフォーマンスを見ていた元STEPの慎之介、良樹、三郎も予想以上のクオリティで行われたデュエットに言葉を失っていた。
それは、ノルウェーからライブを見ていたカリュー、三島も同じだった。
「「お前らのハート、ゲットだぜ!」」
『ピッ、ピカチュゥゥゥゥゥ!』
[野太い鳴き声で草]
[いや、女性も結構いるぞ!]
[野郎の声にかき消されてるwww]
ライブを終えて、レオとかぐやは速やかにステージ脇に逸れていく。
次は夢美の番である。
「レオ、バンチョー、お疲れ様」
「サンキュ、夢美も頑張れよ!」
「バラギもアイドルだってとこ見せたれ!」
レオとかぐやの激励を受けた夢美は凛々しい表情でステージへと向かう。
「うん、行ってくる!」
訳あってレオと夢美のパートは減っており、夢美にとってはソロで歌うのはこの一曲のみ。
本来ならば宣伝も兼ねてまひるとのユニットである〝pretty thorn〟からオリジナル曲を歌う予定だったが、そちらではなく夢美はカバー曲の方を歌うことになっていた。
理由としては、カバー曲の方が思いを込めやすく会場も合いの手を入れやすかったからだ。
ステージに立つと、夢美はすぅっと息を吸い込んで満面の笑みを浮かべて挨拶をした。
「こんゆみー!」
『こんゆみー!』
[こんゆみー!]
[バラギきちゃ!]
[まさかのソロだ!]
これまで繋いできた最高の盛り上がり、それを背負って夢美は堂々たる姿で歌いはじめるのであった。
実はかぐやとレオの組み合わせはバンチョーレオモンにしようと思ってたんですが、そのままなのもどうかと思ってバンチョーレオクンにしました。