U-tubeのライブ配信には二種類の配信がある。
どのユーザーでも見ることができる通常の配信。
大半の視聴者達がこの配信を見ているだろう。
もう一つはメンバー限定配信だ。
メンバー限定配信は、月額料金を払っているメンバーだけが見ることができる。
このメンバー限定配信は料金を払っている者だけが見れるということもあり、メンバー限定配信で共有された情報を外に出すことはご法度とされていた。
しかし、メンバーになる者が必ずしもファンとは限らない。
アンチやネット記事で知名度を上げることを狙った者がメンバーに加入し、情報を流すこともあるのだ。
そのため、メンバー限定配信といえどライバー達は発信する情報には気をつけていた。
「はーい、こんゆみー。今日も付き合ってもらっちゃって悪いね。明日、仕事ある人とかはいい感じのとこで切り上げてね」
[こんゆみー]
[二回行動たすかる]
[ニートだから大丈夫やで]
[最後まで付き合おう]
夢美はこのメンバー限定配信である雑談配信を高い頻度で行っていた。
背景は真っ暗で本人のモデルだけが中央に表示されるという簡素な画面。
全くと言っていいほど手間のかかっていない配信画面も、メンバーの中では一つの味として人気を博していた。
「いやぁ、ホントここは第二の実家みたいで安心するよ。最近いろいろ忙しかったからほっとする」
[俺達はバラギの実家だった……?]
[俺が、俺達が家族だ]
[夢星島inおれら]
夢美は最近までユニットのライブやコラボ配信、案件などに忙殺されていた。
彼女のライバーとしての心の拠り所でもあるメンバー限定配信は、忙しさに比例するように増えていたのだ。
「いや、マジでみんなのことは家族みたいなもんだと思ってるから。今まで支えてもらってここにいるし、みんながいなかったらまひるちゃんとユニット組んでメジャーデビューなんてできなかっただろうし」
[あのライブは神だった]
[最後に全員風船割ってスタッフビビってたのはワロタ]
[何かめっちゃ可愛い女オタクいたよな]
夢美とまひるのユニット〝pretty thorn〟はかぐやがデビューしたとき以上に話題を呼んだ。
先日行ったライブも大盛況で、ネットでの有料配信もかなりの同時接続数を叩き出し、DVD、ブルーレイディスクの予約数もかなりのものになった。
「配信頻度下がっちゃったのはごめんね。しばらくぶっ倒れてたからさ」
[メン限やっといて配信頻度下がるは嘘やん]
[マジで無理しないでね]
[半分寝ながらメン限やってたときは執念を感じた]
[休みたいときは休んで]
普段は配信上で憎まれ口ばかり叩く妖精達も、最近の夢美の忙しさは把握していたため、純粋に彼女の身体を心配していた。
「いや、こういうのじゃなくて表ではゲーム配信とかみんな見たがってるじゃん? ぶっちゃけゲーム配信は苦手だからなかなか手が出せなくてさ。謎解き系は結構面白かったけどね」
[実は頭いいのバレてたの草]
[優しいこともバレた模様]
[だらしないだけで地頭いいもんね]
「営゛業゛妨゛害゛や゛そ゛!」
[草]
[草]
[草]
すっかり妖精達の間では夢美は、頭の回転が速くて気遣いのできる女性という認識となっていた。
「……今は忙しいけどさ、すっごく楽しいんだ。前の会社もブラックじゃなきゃ居心地は良かったけど、今の方が好きなこと好きなようにやらせてもらえて楽しいかな」
[何か今日しみじみとしてない?]
[確かガラス清掃やってたんだっけ]
[真面目な話は不穏だからやめてくれ……]
夢美は高校卒業後から社会人として働いていたが、そのときから直属の上司には仕事ができて気遣いもできるからと気に入られていた。
また愛想も良かったため、ガラス清掃で入るビルの管理人やテナントの担当者からも気に入れらていたのだ。
労働環境さえ過酷でなければずっとそこで働いていられるとさえ思っていたほど、夢美は周囲から愛されていた。
「やめないから安心しなって! てか、レオを残してやめるのは申し訳なさすぎるから」
[確かに]
[もしバラギやめたらレオ君ヘラりそう]
[家隣なのにそれは気まずい]
[結局レオ君ってマジで幼馴染なん?]
真剣な話で今までのことを話したりすると卒業を疑うのは、ここ最近のVtuber界の有名Vtuberが引退している影響だ。
最近特に忙しい夢美や、配信中に気絶して入院した経験がある瑠璃などは特にこういった心配をされがちだった。
「何度も言ってるけど、幼馴染は本当だよ。デビュー前は知らなかったんだけど、顔合わせで同期が幼馴染ってこと知ってカプ厨のマネちゃん達が〝設定にも加えましょう〟ってテンション上がっちゃってさ」
[マネちゃんwww]
[運命の再会じゃん]
[さらっとすごい裏話出てきた]
夢美は何気なくレオと事務所で出会ったときの話をした。
実際、あのときは幼馴染ということにも気づいていなかったが、出身地が同じということがわかって飯田や四谷が暴走した結果現在に至る。
その暴走が今じゃいい方向に転がってるんだからわかんないもんだね、と夢美は心の中で独り言ちる。
「初配信のときはテンパっててあんまりその話できなかったんだよね。台本も全部用意してたからまだ清楚だったっしょ」
[は?]
[は?]
[は?]
[寝言は寝て言え]
[これは寝言]
夢美が清楚を自称した途端、コメント欄は辛辣なコメントで溢れかえった。
この流れも夢美の配信では恒例の流れだった。
「さっきまで優しかったのに急に手のひら返すな! DV夫かよ!」
[DV夫は草]
[レオ君に慰めてもらえ]
[そしてまたDVを受けると]
「お前らはすーぐキレるんだから」
呆れたようにため息をつくと、夢美は話題を変えることにした。
「そういえば、最近ミカンちゃん見ないね」
[ああ、雌袁傪ネキか]
[ツウィッターも止まってたな]
[雌袁傪ネキ引退か?]
夢美の言うミカンちゃんとは、夢美の配信に毎回顔を見せてる有名リスナー〝冷凍ミカン@雌袁傪〟のことだ。
レオの登録者数十万人企画〝その声は我が友李徴子ではないかコンテスト〟で優勝を搔っ攫っていたことで知名度を上げ、その後彼女自身も個人で配信者として細々と乙女ゲームなどの実況配信を行っていた。
妖精達の間でも知名度は高く、古参の妖精からは〝雌袁傪ネキ〟という愛称で呼ばれていた。
「まあ、あの子も配信者だからね。疲れて休んでるんじゃないの?」
[あの存在感はすごかった]
[配信も止まってて残念]
「ねー、ミカンちゃんの乙女ゲー配信楽しいもんね」
[リスナーは配信者に似るという言葉を体現していた]
[一回コラボしたときはマジでビビった]
[行動力の化身]
ミカンは配信上でよく推し相手に夢美のように限界化していた。
一度だけ行ったコラボ配信では、女性向けのソーシャルゲームのガチャで同時に推しを引き当てて同時に絶叫するというミラクルを起こしていた。
夢美のツウィートにも高速で反応し、そのやり取りから二人が気の合う仲だということは妖精達にも周知の事実だった。
「久しぶりに連絡でもして見るかなー。また何かやりたいし」
[おっ、コラボくるか]
[これは期待]
[雌袁傪ネキ、普通にしゃべってれば声可愛いもんな]
「ね、ミカンちゃんの声可愛いよね。マジで羨ましい」
[はじめましてぇ~]
[はじめましてぇ~]
[茨木、夢美でぇすっ]
[はぁっ]
ミカンの声が可愛いという話題になった途端、夢美の初配信での言葉がコメント欄に溢れかえる。
「やめろ……やめて?」
[ガチトーンで草]
[雌袁傪ネキとの扱いの差に涙が止まらん]
[推しを雑に扱うメン限配信]
こうして夢美のメンバー限定配信は明け方まで盛り上がり続けるのであった。