Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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【一期生】思い出巡り

 にじライブ事務所の会議室。

 そこでは以前からスカウトしていたライバー達の顔合わせが行われていた。

 

「以上で説明を終わりますが、何かご質問はありますか?」

「俺の――俺達のデビューはいつになるのでしょうか?」

 

 乙姫からされた説明が終わり、スカウトされたライバーの一人である日村紫耀は、その場にいる全員を代表して手を挙げた。

 

「そうですね……今は調整中なのでなんとも言えませんが、四月頃にはデビューとなるので、それまでは準備期間になりますね。こちらも全力でサポートさせていただきます」

 

 こうして五期生の顔合わせはつつがなく終了した。

 そもそも、五期生の全員が元々別の事務所から丸々引き抜いてきた人間なので、顔合わせする必要もあまりなかったのだが、自分達はにじライブのライバーになるという意識を持ってもらうためにわざわざ事務所まで新人五人を呼んだのだった。

 

「おう、乙姫」

「顔合わせご苦労様」

「あら、かぐやちゃん、かっちゃん」

 

 企画会議を終えたかぐやと勝輝が合流する。

 最近、ライバーとしての活動も増えてきた勝輝は、営業部に段々と仕事を任せて社内にいることも多くなった。

 

「かっちゃんは体調大丈夫?」

「ああ、最近は会食も減らしてるし健康そのものだよ」

「あんまり酷かったらウチが作りにいったろか?」

 

「「それはダメ」」

 

「なんでや!」

 

 かぐやがあまり料理が得意でないことを知っている二人は、彼女の提案を即座に切り捨てた。

 

「それより、五期生はどうなんや?」

「元々過酷な環境でやってきた子達だし、転生匂わせのおかげで注目度も高いわ。デビューしたら爆発的に伸びるんじゃないかしら」

「確かに、二代目魔王軍も終盤は好意的に見られてたからね」

 

 五期生の正体は二代目魔王軍のメンバー達だった。

 二代目魔王軍がにじライブに所属することは、白夜を筆頭に関わりのあるライバー達が情報を小出しにしてバラまいた。

 そのおかげもあって、五期生に関する期待値は高まっていた。

 

「乙姫的には誰が伸びると思う?」

「まだ何とも言えないけど、二代目フィアをやっていた高知伊吹さんは間違いなく伸びると思うわ」

 

 今日の顔合わせまでを含め、乙姫は全員と会ったときの印象や、魔王軍での活動を元に推論を述べる。

 

「あの子は礼儀正しくてしっかりした印象を受けるけど、中身はかなりのポンコツだもの。義務教育の敗北って言葉が頭に過ぎったのはまひるちゃん以来よ……」

「アホの子っていうより、シンプルなバカやな」

 

 伊吹の教養のなさを思い出したかぐやと乙姫がため息をついてこめかみを抑える。

 

「でも、フィア時代もコメントとのプロレスうまかったよね。それにいつも明るくてへこたれない鋼のメンタルを持ってるのは配信者として優秀だ」

 

 社会人としては落第だが、配信者としては優秀な伊吹に対して勝輝は好印象を抱いていた。

 

「あと、注目株としてはやっぱり二代目魔王を見事務め上げた日村君も伸びるだろうね」

「彼もコメント欄とのプロレスうまいものね」

「ま、あの二人は間違いなく配信者として飛び抜けとるわな」

 

 勝輝が紫耀が伸びると言ったことに対して、かぐやも乙姫も同意した。

 カラオケ組での一幕など、紫耀は一番遅く二代目魔王軍に加入したのにも関わらずうまく立ち回っていた。

 

「あとの三人もなかなかぶっ飛んどるし、こりゃ四月が楽しみやな」

「三期生の一周年もあるものね」

「そうか、もうあれから一年経つのか……」

 

 三人はしみじみと忙しかったこの一年を振り返った。

 そんなとき、唐突に乙姫は手を叩いて笑顔を浮かべて言った。

 

「そうだ! 今日一緒に配信しない?」

「は? 今日やるんか?」

「うん、最近きちんとした配信ばっかりだし、昔みたいな雑な配信したいなぁって」

「まったく、普段は一番ちゃんとしてるのに乙姫君は唐突にぶっ飛んだこと言うよね」

 

 乙姫はにじライブでは珍しく常識人ではあるが、たまにおかしなことをすることで有名だった。

 真の清楚と呼ばれながらも、その正体はおもしろお姉さんなのである。

 

「よし! じゃあ、今日は仕事が終わったらスタジオに集合よ!」

 

「「おお!」」

 

 こうして一期生のゲリラオフコラボが始まるのであった。

 

 

 

「みなさん、おは竜宮~。にじライブ一期生、竜宮乙姫です。今日は久しぶりにマイクラやりますよー」

 

[おはりゅーぐー]

[おはりゅーぐー]

[おはりゅーぐー]

[姫ちんのマイクラとか懐かしい]

[建造物いっぱい増えてるからな]

[のんびりとした空気に浸れそう]

 

 唐突に始まった乙姫の配信。

 最近は事前に告知してから枠をとって配信を行うのが通例となっていたため、唐突に配信の通知がきた浦島さん達は慌てて配信ページへと飛んだ。

 

「ゲリラでごめんねー。久しぶりにこういうのやりたくなっちゃって」

 

[たすかる]

[こういう雑な配信久しぶり]

[まさか姫ちんがやってくれるとは]

 

 浦島さん達も昔のような空気間の配信が始まったことで、歓喜していた。

 

「あっ、あと今日はオフコラボでかぐやちゃんとかっちゃんもいまーす」

「はいはい、こんバンチョー! 今日はゲリラオフコラボや」

「こんにちポンポコー! 乙姫君がノリでやろうって言い出して一期生集まっちゃったよ」

 

[アグレッシブすぎるだろ]

[姫ちんこういうとこはぶっ飛んでる]

[奇跡のゲリラや……]

[もう泣く]

 

 まさか、こんな風に一期生が揃うとは思っていなかった視聴者達は降って湧いたコラボに歓喜した。

 それほどまでにこの三人での配信は長い間望まれてきたのだ。

 

「それで、今日は何するんや?」

「何も決めてないのよねぇ」

「唐突に始めたからね」

 

[マジでノープランじゃん]

[この空気感、懐かしい]

[みんな寝ぼけて脳死でやってたのホントすこ]

 

 三人は昔よくこのブロックを積み上げて建築を行うゲームで配信をしていた。

 三人のアバターは特殊仕様できちんとライバーの姿が反映されていた。

 

「って、乙姫夏祭り仕様になっとるやん」

「あー、最後にプレイしたときがそのくらいの時期だったみたいね」

 

[サラッと重い話やめて……]

[そっか、夏祭りのあと姫ちんの時間は止まってたのか]

[今もチャンネルやアカウント系そのまま残してた運営有能]

 

 通常、卒業したライバーは権利の関係上、チャンネルのコンテンツやアカウント権限が削除される。

 しかし、乙姫が関わるものは全てそのまま残していたのだ。

 もちろん、これも乙姫がにじライブの社員だからできたことでもあるが。

 

「まあ、乙姫君がいつでも戻れるようにはしていたからね」

「本当にありがとうね、かっちゃん」

 

[かっちゃんぐう有能]

[さすが社長]

[ありがとう、ありがとう……]

 

 コメント欄は勝輝への感謝のコメントで溢れかえる。

 今のにじライブを見ていれば、勝輝がどれだけライバーのために貢献していたかは一目瞭然だったのだ。

 

「とはいえ、社員の残業時間はもっと改善したいところだよ。好きだからって頑張る人は多いけど、無茶をする人間が多すぎるから上司からストップをかけないといけないのが辛いところだね。一応フレックスタイム制やリフレッシュ休暇とかいろいろ制度は導入してるんだけどねぇ」

「社内の生々しい話すな」

「うふふ、バラギさんのマネージャーさんはよくリフレッシュ休暇使って海外旅行してるって聞いてるし、制度も段々と根付いていくんじゃない?」

 

[まあ、Vtuber企業はどこもブラックだからしゃーない]

[かっちゃんが床で寝てた頃よりマシでしょ]

[バラギのマネちゃん、ちゃっかりしてて草]

 

 勝輝の社長としての苦労話も挟みつつ、話はゲーム内のライバー達が作り上げた建造物に移っていった。

 

「何この大穴!?」

「ああ、それはスタバさんが掘った穴やな」

「底が見えないね……」

 

[スタバさん、エグイぐらいに掘り進めるから]

[採掘所の方行けばもっと整った施設あるで]

[あっ、メロウちゃんが歌いながら耐久配信してエグれた山がある]

 

「かぐやちゃん! あれは何かしら!」

「あれはバラギが林檎に嵌められたドッキリハウスや。マグマのトラップが中にあるで」

 

[懐かしいwww]

[出た伝説のカプ厨式マグマダイブ]

[普通に好きだけど? → ほ?]

[てぇてぇ]

 

「かっちゃん、あれは?」

「あれは白夜君が途中で放り出した空中要塞だよ」

 

[空に浮いた土地と石ブロックの残骸しかなくて草]

[飽きるの早いw]

[まひるちゃんとサーラ先生に怒られて塀だけ中途半端に出来てるの笑う]

 

 それから、三人は当時の思い出話に花を咲かせながら簡単な家を建てた。

 簡素な家だったが、三人がまた一緒に何かをするという光景は視聴者達に何よりの尊さをもたらした。

 

「それじゃ、みなさん――」

 

「「「おつ竜宮~!」」」

 

[おつりゅーぐー]

[おつりゅーぐー]

[おつりゅーぐー]

 

 こうして、一期生のゲリラオフコラボは後日切り抜き動画が大量に投稿されるほどに話題を呼んだ。

 ちなみに、突然スタジオを無断使用したことで会社の上層部であるはずの三人はスタッフに叱られることになるのであった。

 


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