にじライブ一期生であるかぐや、勝輝、乙姫は会議室で頭を悩ませていた。三人だけでなく、会議に参加している他の社員達も頭を抱えていた。
「やっぱり、この企画は延期するしかないか……」
「さすがにビッグサイト三日間借りてやる以上、スケジュール調整がな……」
「もう、そもそもイベントの内容がきちんと固まってない状態なのに、他の企画を同時進行で進めるからこうなるのよ」
現在、にじライブでは様々な企画を同時進行で進めていた。
公式で行う番組やそれに伴うグッズ制作、イベントやライブなど、活躍するライバーが増えたこともあって、増員した社員が総動員で行ってもパンク状態だったのだ。
「やっぱり、この特大イベントは一年後に回さないと無理ですよ」
「だよねぇ……」
「こちらのイベントはイベント企画企業に投げた方が良いのではないでしょうか?」
「あと、ライバーの皆様にもどんな企画をやりたいかアンケートを取りましょう」
様々な意見が飛び交い、会議は難航する。
特にこれから行う予定だったイベントは今までで最大規模だ。
にじライブとしても会社を上げて行うイベントでもあるため、絶対に成功させたいイベントだった。
会議が終わると、勝輝はため息をついて喫煙所へと向かう。
喫煙所に入ると、そこには先客がいた。
「綿貫さん、お疲れ様です」
「飯田君、お疲れ様。獅子島君のサポートはどうかな?」
「人気もうなぎ登りですし、順調ですよ。まあ、獅子島さん自身の実力が桁外れなので、僕のサポートは微々たるものですけど」
喫煙所にいたのはレオのマネージャーである飯田だった。
飯田はここ最近、レオの誕生日が近づいていたこともあり、忙しくあちこちを駆け回っていた。
「グッズの準備とかはどうだい?」
「それは抜かりなく、ゲストとのスケジュール調整もばっちりですよ」
「ホント、見違えたね」
タバコに火をつけると、勝輝は感慨深そうに呟いた。
「前の会社でもこうして一緒にタバコを吸ったりしていたけど、そのときとは顔つきが別人だ」
「そうですかね?」
「やっと、心からやりたい仕事が見つかったって顔してるよ」
以前の会社に勤めていたとき、飯田は毎日つまらなさそうに仕事をしていた。
愚痴もたくさん聞いてきた勝輝としては、今のようにイキイキと仕事について語る飯田の成長は嬉しかったのだ。
「きっとかぐや君も君の成長を喜んでいるよ」
「そうだと嬉しいんですけど……諸星さんの部下としてもかぐやさんのマネージャーとしても、まだまだです」
「それでいいさ。現状に満足したとき、人間の成長は止まるからね」
勝輝は火を消して吸殻を灰皿に捨てると、軽く伸びをして告げる。
「さて、そろそろ仕事に戻ろうか」
「はい!」
にじライブでは今日も社員達が駆け回る。
ライバーが自由に活動をするため、彼らは全力で仕事に取り組んでいるのだ。
「――というわけで、にじライブカフェの売り上げも順調です」
「順調というか、材料の消費が予想以上ね。グッズもあっという間に売り切れちゃったし……」
「布施さんの考案したドリンクメニューも好評です」
社内のとある会議室では、企画部の一之江英子が担当しているにじライブカフェの売り上げを上司へと報告していた。
「本当、彼女には頭が上がらないわね。さすがあの二人の幼馴染ね」
「うーん、ライバーになってくれたら最高なんですけどね」
「その件だけど、一つ朗報があるわ」
「朗報ですか?」
上司が楽しそうにニヤリと笑ったのを見て、一之江は真礼が何かをしたのだと気づいた。
「布施真礼さんが、ユーチューバー〝まーや〟として、お菓子を作ったりする動画をアップするチャンネルを作ったのよ。それもにじライブカフェの宣伝も兼ねてね」
「えぇ!?」
衝撃の報告を受けた一之江は慌ててU-tubeを開いて真礼のチャンネルを検索する。
「嘘、もう登録者数が五万人越えてる……」
「まったく、商魂たくましいわね。まあ、おかげでこっちもいろいろやりやすいんだけど」
不敵に笑うと、上司は自分の計画を話した。
「彼女は個人のユーチューバーという形だけど、配信のノウハウを教えて徐々に生配信の方へと引きずり込みましょう。そして、もっとバラレオの二人と絡んでもらってお互いにwinwinな関係を築くのよ!」
「い、いいんですか! 社外の人ですよ!」
「だからこそ、よ。安心して、上長承認はもうもらってるから! あの人との繋がりはしっかりと残しておくことが今後の利益に繋がるのよ!」
「な、なるほど……」
マネジメント部では、新人ライバーの担当を務めることになったマネージャー達が慌ただしく働いていた。
「ライバーのスケジュールを管理するときは、私にも共有してください。教育係としてしばらくは確認するので」
「他にも判断に迷うことがあれば、どんなに些細なことでも報告して欲しいかな」
すっかり部下を教育係するほどに成長した亀戸と、にじライブに入社してからメキメキと頭角を現し始めた阿佐ヶ谷は、息ぴったりで指導をしていた。
亀戸は親会社の社長令嬢で七光りと言われていた頃が嘘のように、仕事を捌いていく。
そんな姿を入社してからずっと見ていた阿佐ヶ谷は亀戸と一緒に働けることを誇りに思っていた。
「亀戸さん、お疲れ様です」
「阿佐ヶ谷君、お疲れ様です。今日は助かりました。阿佐ヶ谷君もすっかりにじライブに馴染みましたね。仕事は楽しいですか?」
「ここはどこまでもライバーのために頑張れる環境ですから、仕事しててやりがいをとても感じますよ」
前社がライバーを道具として酷使するブラック企業だっただけに、阿佐ヶ谷はにじライブで働けることを心から喜んでいた。
「みんなが楽しそうにしている。それが叶えられただけでも嬉しいんです」
「阿佐ヶ谷君……」
「でも、まだ満足はしてませんよ。二代目の彼らをサポートするマネージャー達を育成しなければいけませんからね!」
「はい、お互い頑張りましょう!」
ちなみにこの後、二人は決起会という名目で飲みに行った。
その結果、亀戸が酔い潰れて阿佐ヶ谷が高級住宅街にある彼女の実家まで送ることになるのだが、それはまた別の話である。
「――はっ、てぇてぇの予感!」
「だから、林檎さんはどこから電波受信してるんですか……」
久々の裏方回