休止期間を終えて夢美が活動を再開することを発表した。
この知らせにファン達は大いに沸いた。
ライバー達も夢美の復帰を喜んでいた。
「バラちゃんおかえりー!」
「まひるちゃん、迷惑かけてごめんね。一人でラジオ回してくれてありがとね」
「いいのいいのー。困ったときはお互い様だからね!」
中でも一番夢美の復帰を喜んでいたのはユニットを組んでいるまひるだった。
夢美が不在の間、まひるはユニットでの仕事を可能な限り一人で回していた。
いつ戻ってくるかも不明な中、精一杯頑張るまひるの姿を見て、夢美は改めてこの人が推しで良かったと思うのだった。
「そういえば、五期生のデビューってもうすぐだよね?」
「うん、ツウィッターも動き始めたみたいだね」
にじライブ五期生のメンバーは五人全員が元二代目魔王軍の担当声優だ。
元サラこと知念真理は紅井ララに。
元ウエンディこと西畑夏帆は新海あおいに。
元フィアこと高地伊吹はイシュリー・エル・シュメルに。
元ノームこと上田恋歌はエマ・キヌアに。
元サタンこと日村紫耀はギルベルトに。
それぞれ新たな名前と姿を得てデビューすることになったのだ。
「まさか二代目魔王軍がまるっとうちに来るとは……」
「そこは司達がかっこいいとこ見せたからだろうね!」
にじライブ五期生が近々デビューすると聞いて、夢美はレオの提案したコラボ配信を早急に行うことにした。
何せ新人ライバーデビュー後は一気に伸びる時期だ。
その時期には先輩としてフォローに回ろうと思っていたのだ。
「今日はスタジオで配信?」
「うん、レオとオフコラボ」
「久しぶりのバラレオてぇてぇだね!」
「そんなに間隔空いてたかなぁ」
夢美としては毎日のように顔を合わせているため実感はないが、休止期間も含めて前に行ったレオとのコラボからは日が空いていた。林檎とのコラボでいえば、さらに日が空いてしまっている。
しかし、それに関しては用意している動画があるため、無理にスケジュールを詰める必要もないと感じていた。
「さて、そろそろ配信いくね」
「うん、楽しんできてね!」
夢美はまひると別れると予約してあるスタジオへと向かうのであった。
「みなさん、こんばん山月! 獅子島レオです」
「こんゆみー。茨木夢美でーす」
「今日はオフコラボでやってきますよ」
「やー、配信準備レオとスタッフさんが全部やってくれたから助かったわ」
[バラレオきちゃあああああ!]
[久々のバラレオ]
[バラギおかえり!]
[ちゃっかりレオ君働かせてて草]
夢美の復帰後に始まったレオとのオフコラボは最初から盛り上がっていた。
何せ、袁傪や妖精達からすれば久しぶりのバラレオなのである。
夢美が復帰した喜びも相まって、同時接続数は配信開始からかなりの数字を叩き出していた。
「さて、何をやるかなんですけど、今日から俺と夢美はギャルゲーと乙女ゲーを実況していきます」
「一応シナリオのボリュームすごいから連日のコラボになると思うよ」
[恋愛シミュレーションをコラボでやるのかwww]
[何やるんだろ]
[これは期待]
事前にどのゲームをやるか発表していなかったため、視聴者達は期待に胸を膨らませていた。
そんな空気の中、レオは画面上にゲームのタイトルを表示した。
「俺達がやるのは――ベスティアシリーズのゲームです!」
「うぇぇぇい!」
[おお!]
[ベスティアシリーズか!]
[好きだからやってくれて嬉しい]
配信画面上には、美男子達が描かれた乙女ゲーム〝BESTIA HEART ~金色の英雄~〟と、美少女達が描かれた〝BESTIA BRAVE〟のパッケージ画像が表示されていた。
ベスティアシリーズは〝BESTIA HEART〟と〝BESTIA BRAVE〟の二大タイトルからなる。
ゲーム制作会社cre8から発売された王道ファンタジーな学園モノとして人気を博した。
第一作BESTIA HEARTは、パラメーターを上げたり、特定の場所に向かうことでイベントを起こし、攻略対象との好感度を上げつつストーリーを進めるタイプの乙女ゲームだ。
主人公は、町で診療所の手伝いをして暮らしている普通の女の子だったが、あるとき重傷を負った騎士を治療した際に、〝世界樹の巫女〟の末裔である証の光魔法が発現する。
国に保護された主人公は、王立魔法学園へと通うことになり、光魔法を鍛えながらも攻略対象と出会い、恋に落ちて共に強大な敵に立ち向かうことになる。
ちなみに、今回用意したものは家庭用ゲーム機でプレイできるようになった移植版である。
第二作BESTIA BRAVEは、一作目から打って変わり、戦闘アクションのクオリティが高いことでも有名な美少女ゲームだった。
こちらも主人公は世界でも例を見ない貴重な魔力である光魔法の使い手だ。
辺境伯の息子として育った主人公が、領内に出現した竜から領民を守るために光魔法に覚醒するところからストーリーは始まる。
希少な魔法を持つものとして、一作目と同様に主人公は王立魔法学園へと通うことになる。
そこで主人公は攻略対象達と恋に落ちながらも一作目の敵と同様の敵と戦っていくというストーリーとなっている。
そして、このベスティアシリーズは亡くなった冷凍ミカンが最も好きだったゲームでもあった。
「これシナリオがいいって評判だったんだよな」
「元エロゲ会社の人がシナリオ書いてんでしょ?」
「しかも泣きゲーで有名なとこで書いてた人みたいだし、ライターさん絶対優秀だよな」
[エロゲ言うなwww]
[普通にレオ君もエロゲやってたという事実]
[こう見えてレオ君はかなりのエロゲオタクだぞ]
cre8ともゲーム実況の包括的許諾の契約を結んでいたため、実況の許可はあっさりと下りた。
これも林檎のマネージャーである亀戸の努力の賜物である。
「で、やる前に注意事項なんですけど、この配信を見てプレイする人もいると思うのでネタバレは厳禁でお願いします!」
「あたし達が困ってたらニチャニチャするだけで我慢してくれ」
[ニヤニヤじゃないのかよw]
[ニチャァ……]
[ニチャァ……]
[ニチャァ……]
[コメント欄、粘度高くね?]
このゲームはシナリオが売りのため、レオと夢美はネタバレをしないように視聴者へと呼びかけた。
ゲームのルートも一つだけを選んで実況し、それ以外のルートはやらない予定である。
これは配信でこのゲームに興味を持った者が自分で買うように促すためだった。
「じゃあ、一作目の方からプレイしていこうか。レオ、よろしく!」
「いや、マジで俺がやるの?」
[レオ君がやるのかよwww]
[レオ君、まさかの乙女ゲーデビュー]
[男の人は男の人同士で、女の子は女の子同士で恋愛すべきだと思うの]
こうしてレオが乙女ゲーム、夢美が美少女ゲームをプレイするという異例のコラボ配信が始まった。
ゲームを始める前に、レオは自分がどれだけ事前知識を持っているか共有することにした。
「このゲームってときメモみたいな感じって聞いたんだけど、そうなのか?」
「パラメーター上げるってとこは似てそうだよね」
[あながち間違いじゃない]
[システム的にはコルダが近い]
[光魔法鍛える場面が毎回謎の音ゲーだし、うたプリともいえる]
コメント欄では有識者が似たシステムがある乙女ゲームの名前を挙げていた。
「お前ら詳しいな!」
「はえー、引継ぎ周回プレイもできるのか……」
思ったよりもやりこみ要素がありそうだったため、レオは感嘆のため息を漏らした。
「これだけ教えてほしいんだけど、このゲームって悪役令嬢出るの?」
レオはアニメやネット小説などで流行っている悪役令嬢モノに最近ハマっていたこともあり、コメント欄に問いかけた。
[出るよ]
[はい、ワザップ]
[乙女ゲームに悪役令嬢はいない!]
[それっぽいキャラならいる]
[ポンデローザは悪役令嬢じゃないと何度言ったらわかるの]
[悪役令嬢はいない]
[いる]
[いない]
[お前ら喧嘩すな]
悪役令嬢という単語に反応した視聴者は思い思いの反応を書き込んだ。
思ったよりも過激な反応があったことで、レオは驚いたように呟いた。
「えっ、悪役令嬢って乙女ゲーには存在しないの?」
「あー、確か悪役令嬢って実際の乙女ゲーにはいないって聞いたよ。いてもライバルキャラじゃない?」
「えー……悪役令嬢のテンプレって一体何なんだよ……」
[レオ君、悪役令嬢の不在にショックを受ける]
[大丈夫、それっぽいのはいるからw]
[高飛車なだけで悪い子じゃないよ]
少しだけテンションの下がったレオはスタートボタンを押すと、主人公のデフォルトネーム〝マーガレット〟を〝レナ〟に変えて〝BESTIA HEART〟をプレイし始めた。