プロローグを見終えたレオは早速チュートリアルで学んだ通りにパラメーターを上げていく。
各攻略対象とのイベントを起こすためには最低限必要な数値までパラメーターを上げなくてはいけない。
事前情報が何もないレオは、攻略対象を狙い撃ちをするつもりはなかったため、全体的に万遍なくパラメーターを上げていた。
すると、金髪の美男子との会話イベントが発生した。
『……君は確かレナだったな。学園生活で不自由はないか?』
『は、はい、大丈夫です』
「おっ、こいつパッケージの一番前にいる奴だよな!」
「えっと……ハルバード・クリエニーラ・レベリオンだって。この国の第一王子か」
[ハル様きちゃ!]
[満遍なく上げてればそうなるわな]
[まだ共通ルートだから]
レオが出会ったのはハルバードというクールな王子様のキャラクターだ。
キャラクター紹介でも一番初めに出てくることから、このキャラクターはこのゲームにおけるメインキャラクターともいえるキャラクターだった。
「すげぇな乙女ゲー! 本当にイケメンが首痛めてるよ!」
「感動するとこそこかよ」
[草]
[イケメンは首を痛めがち]
[レオ君のツボってやっぱりズレてるよねw]
ハルバードの立ち絵は手を首に回した姿だったため、レオは興奮したように叫んでいた。
イケメンのカッコイイポーズの一つとしてある首に手を回している姿が、首を痛めているように見えるというネタはレオもよく知っていたからだ。
ゲームの演出には全く関係のないところではしゃぐレオに、夢美は呆れたようにため息をついた。
「でも、レオもよくそのポーズしてるぞ。てか、今してる」
「えっ、マジで!?」
[それは草]
[首を痛めるポーズをするということはイケメンの証]
[レオ君はイケメンだからな]
現実でのレオもよく首に手を当てて話していることが時々ある。
そのことを指摘されたレオは、どこかむず痒そうに首から手を離した。
それからレオは淡々とゲームを進める。
ストーリー上、主人公は極秘に国から守護される立場のため、生徒会に所属することになる。
生徒会には、守護者と呼ばれるかつて世界樹の巫女を守護する立場にあった者達の末裔が所属していたからだ。
『ようこそ生徒会へ』
「主要人物が集まる系のイベントか」
「生徒会ってそんな権力者集まらないだろ」
「夢のない話はやめてくれ……」
[アニメ、ゲームあるあるやけに権力を持つ生徒会]
[クール系美少女の生徒会長だって存在するもん!]
[レオ君、ちょくちょくダメージ受けてて草]
ハルバードの説明が終わると、今度はいかにも軽薄な印象を受けるキャラクターが表示される。
『世界樹の巫女っつーからどんな美人かと思えば……』
『あの、あなたは?』
『おいおい、俺様のことを知らないなんて随分世間に疎いんだな。俺様はルーファス・ウル・リュコスだ』
『はぁ、ルーファスさんですか。よろしくお願いしますね』
堂々と自己紹介をしたルーファスに対して特に反応せずに主人公は頭を下げる。
それを見たルーファスは口元を吊り上げて呟いた。
『……へぇ、あんたおもしれー女だな』
「「ぶふっ!」」
[おもしれー女]
[おもしれー女]
[おもしれー女]
おもしれー女、という単語が出た瞬間、レオと夢美は吹き出した。
おもしれー女とは、少女漫画や乙女ゲームなどで、人生に退屈しているような性格の攻略対象や俺様系の攻略対象が主人公に対して言う言葉である。
周囲とは違って自分に靡かないような女性にたいして、女たらしの攻略対象がこの発言をすることから、最近ではネットミームと化している。
夢美は特にこの言葉を言われることが多い。
「くくくっ……おい、夢美呼ばれてるぞ?」
「はっ倒すぞ」
「くくっ……おもしれー女」
[レオ君、ツボってるwww]
[まーた持ちネタが増えたよ]
[これしばらくレオ君擦るぞ]
それから一通り攻略対象との顔見世が終わると、主人公は自己紹介をする。
『はじめまして、レナ・シシジマと申します!』
「はじめましてぇ……」
「やめろやめろ! いつまでそのネタ擦るんだよ!」
[レオ君そのネタ好きすぎるだろwww]
[初期バラギ]
[ホントそのネタ好きだなwww]
〝はじめまして〟というテキストを見た瞬間、レオは自身の2Dモデルをレナのものに切り替えて夢美の初配信の真似をした。
それから乙女ゲーあるあるネタにツッコミを入れながらも、ゲームを進めていった。
『オーホッホッホ! あら、あなたが噂の世界樹の巫女の末裔ですの? 随分とみすぼらしいお姿ですこと!』
『えっと……』
『あら、ヴォルペ公爵家令嬢のわたくしをご存じないの? わたくしはポンデローザ・ムジーナ・ヴォルペ。以後、お見知りおきを』
「何かすごい子出てきたな」
「まーた濃いのが来たなぁ……でも、キャラデザはすこすこのすこ」
[ポンデローザきちゃ!]
[ライバルキャラと見せかけた友人キャラ]
[友人ではないだろwww]
[悪役令嬢の風評被害受けがちな子]
レオがゲームを進めていくと、銀髪縦ロールで切れ長のつり目に泣きぼくろが特徴的な、いかにも貴族令嬢といった出で立ちのキャラクターが登場した。
「この子がコメント欄で言われてた子か」
「確かに悪役令嬢っぽい見た目はしてるよね」
[見た目はね]
[悪役令嬢モノが流行ったせいで、悪役令嬢の代表格にされちゃった子よ]
[性格悪いけど、いい子なのよ!]
ポンデローザは昨今の悪役令嬢ブームによって、乙女ゲームに実在する悪役令嬢の代表格という扱いを受けてきた。
しかし、ベスティアシリーズのファンはそんな扱いを受けるポンデローザを可哀そうに思うことが多く、こうして擁護する者が一定数存在した。
「いや、性格悪かったらいい子じゃないだろ」
[ド正論で草]
[根は良い子だから!]
[とりあえず、やってみて判断してくれ]
レオはひとまず第一印象の悪いポンデローザの評価はもう少し進めてから行うことにした。
ポンデローザは選択肢が現れる前に事あるごとに高笑いと共に登場してきた。
『オーホッホッホ!』
「おっ、ポンちゃん来たぞ」
「選択肢前だからセーブしとこうぜ」
[時報みたいに扱ってるw]
『どこへ行くおつもりですの。まさかとは思いますがハルバード様の元へ行くおつもりではありませんわよね?』
レオは表示された選択肢を見てカーソルを切り替えて悩んでいた。
「ポンちゃんってハルバードの婚約者だよな? さすがに、怒らせたらまずいよなぁ」
「ひよってんじゃねぇよ! ここは堂々とするべきだろ!」
「いやぁ、でも、ポンちゃん一途で可愛いから略奪愛したくない……」
[ポンちゃん呼びで草]
[レオ君がポンデローザに攻略されとるやんけ]
[選択肢前に心の準備をさせてくれるいい女]
設定上、ポンデローザは攻略対象であるハルバードの婚約者だった。
他の攻略対象のルートでもたびたび出現するが、レオは〝根は良い子〟と彼女が言われる理由を理解し始めていた。
事あるごとに『貴族としてなってない』と注意をしてくる彼女だが、ミニゲームではチュートリアル役をしており、憎まれ口を叩きつつも見本を見せてくれる世話焼きなイメージが定着していたのだ。
選択肢を間違えると、彼女のペットのハトが頭上に糞を落としてくるというコミカルなシーンもあるが、それは彼女の指示によるものでない。
選択肢を間違えたことによって、賢い彼女のハトまでもが呆れてしまうという描写だったのだ。
一応、その都度糞をぬぐいながら謝罪をしてくるため、レオは言葉がキツイだけで面倒見の良い子という印象を受けて、すっかりポンデローザを気に入っていた。
「ここはバチバチ回避でいこう!」
▶『そ、そんなわけないじゃないですか』
『はい、そのつもりです』
レオは無難な選択肢にカーソルを合わせてボタンを押した。
すると突如、パリン! と画面にヒビが入って砕ける演出が起こった。
「えっ、何々!? また俺何かやっちゃった!?」
[なろう系主人公で草]
[また何かやっちゃいましたか?]
[フラグ折れたな]
[あっ]
[ニチャァ……]
[あーあ]
[レオ君、この先大丈夫かな……]
「あーあ、これ絶対ミスっただろ」
「えー……マジか」
このゲームには攻略対象とのフラグが折れると、特殊演出が入る仕様があった。
つまり、レオは重要な選択肢を間違えたということになる。
『はっ、見損ないましたわ。そんな覚悟のない方にわたくしが負けるはずもございません。今後は彼に必要以上に近づかないでくださいまし』
「嘘だろ……ポンちゃん……」
「いや、レオ。これギャルゲーじゃないからな? 攻略対象ポンちゃんじゃないからな?」
[レオ君ガチ凹みで草]
[選択肢のたびにヘタレるから……]
[レオ君が恋愛下手くそなのがよくわかったわ]
それから第一回の配信が終わるまで、レオは意気消沈したまま攻略を続けてキリの良いところで配信を終えた。
ちなみに配信中、ポンデローザが出てくるたびにテンションの上がるレオを、夢美がジト目で見ていたため、後日〝他の女にデレデレするレオ君に呆れるバラギ〟という切り抜き動画が上がることになるのであった。