ストーリも終盤に差し掛かり、実況配信は佳境を迎えていた。
『あ、がっ……ああああああ!』
『ポンデローザ! 正気に戻れ!』
『やめて! ポンデローザさん!』
「どうして……どうして……」
「ポンちゃん! 正気に戻って……! あっ、でもキツネモードのポンちゃんめっちゃすこ」
[どうしてこうなった]
[考えうる限り最悪のルートやん]
[俺達のポンちゃんが……]
[救いはないんですか!]
[バラギ欲望駄々洩れで草]
画面上では敵側の手に堕ち、無理矢理力を覚醒させられたポンデローザが敵として立ちはだかっていた。
イベントCGでは、狐の耳と九つの尻尾を生やしたポンデローザが狂ったような表情で涙を流して主人公に襲い掛かってきている。
レオはフラグが折れたハルバードのルートに進んでしまい。所謂バッドエンドへ向かってしまっていたのだ。
物語終盤、どのルートでも攻略対象達は守護者の血筋としての力〝ベスティア〟に覚醒する。
それぞれの攻略対象達はモチーフになった獣の特徴が体に現れる。
ハルバードならば獅子、ルーファスならば狼、といった具合にだ。
ポンデローザも守護者の血筋であるため、敵にその力を利用されてしまったのだ。
『ぐっ……ハルバード様……! わた、くしは……!』
「大丈夫だよな。ここから助かるよな?」
「助かってほしい……けど……」
[これは無理でしょ]
[いや、どの道……]
[フラグ折れてるからなぁ]
力に飲まれてしまいどう考えても助からなさそうなポンデローザ。
レオも夢美も祈るような気持ちでテキストを進めていく。
『ベスティアに覚醒できれば……!』
「おっ、これ希望あるやつか?」
「やー、これ好感度足りなくて覚醒できない奴だろ」
[バラギ鋭い]
[好感度足りててもな……]
[ポンデローザに救いがほしい]
本来ならば、ここで主人公を守るためにハルバードがベスティアに覚醒する。
しかし、レオは既にフラグを折ってしまったため、ハルバードの好感度の上昇が止まっていた。
結果、ハルバードがベスティアに覚醒することはなかった。
『すまない、ポンデローザ……!』
『いいですの。こうなったのも、わたくしの不始末ですわ……あなたをお慕いしておりました、ハルバード様……ぐっ、ふっ……!』
ハルバードがベスティアに覚醒できなかったため、ポンデローザは自分自身の手でその命を絶った。
「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」」
[ポンちゃん……]
[こんなのひどいよ……あんまりだよ……]
[マジでいい子だった……]
[悪役令嬢なんて言ってごめんな……]
レオと夢美はポンデローザが自決したことで絶叫する。
コメント欄にも悲壮感が漂い、ポンデローザの死を嘆く声で埋め尽くされる。
[姉ライオン:このゲーム中盤以降は軽率に人死ぬから気をつけな]
「姉さん!?」
「お姉さん、そう言うことはもっと早く言ってよ!」
[姉ライオン!?]
[お姉ちゃん、早く言って……]
[姉ライオン既プレイだったか]
コメント欄にはレオの姉である静香が現れて、注意喚起をしたが既に時遅し。
そのままバッドエンドへ向かってしまったため、レオは泣きの一回ということで、再びハルバードルートをプレイすることになった。
「二周目は共通ルートはスキップで行かせてもらいます」
「今度はポンちゃん殺すなよ?」
[頼むで]
[既プレイだから心にくる]
[レオ君、大丈夫かな……]
レオは意を決して二周目のプレイを開始した。
コメント欄には不穏なコメントも多く散見したが、レオはできるだけコメント欄を見ないようにしていたため、不穏な空気に気がつくことはなかった。
「もうミニゲームも慣れたもんだな」
「てか、何でこのゲーム毎回ミニゲームリズムゲーなの?」
[全部パーフェクト出してるw]
[今度こそポンちゃんを助けるという意志を感じる]
[ボーナスでめっちゃ光魔法のステータス上がるやん]
二周目ということもあり、レオはミニゲームもスムーズにクリアしていった。
ミニゲームでは、共通ルート中はポンデローザが度々登場し、スコアごとにクリア後のボイスが変わるという仕様があった。ちなみに、各攻略対象のルートに入ると、このボイスはそれぞれ攻略対象のものへと変わっていく。
今回レオはパーフェクトの数値を叩き出したため、ポンデローザは感心したように主人公を褒めた。
『あら、あなたなかなかやりますわね。少し見直しましたわ』
「っしゃ、ポンちゃんに褒められた!」
「てか、ポンちゃんやっぱり可愛いよね? ポンちゃんルートないの?」
[褒めてくれるポンちゃんかわいい]
[ポンちゃんトレンド入りしてて草]
[公式がビックリしてるぞwww]
久しぶりのバラレオコラボでプレイしていたこともあってか、〝BESTIA HEART〟と〝ポンちゃん〟という単語がトレンド入りしていた。
これによってポンデローザのことを悪役令嬢としか認識していなかった者の目にも止まり、本来の彼女が優しい性格のキャラクターだということが多くの人に知られるようになるのであった。
「さて、共通ルートも終わったし、本格的にハルバード攻略してくぞ!」
「……あんた本当にハルバード好きなの?」
[完全にポンちゃん目当てなんだよなぁ]
[他のルートでも出てくるけどなw]
[メインで見るならハル様ルートよ]
完全にポンデローザ目的ではあったが、レオは順調に攻略を進めていった。
すると、一周目では見られなかったイベントマークがあり、気になったレオはイベントマークがある学園の中庭へと向かった。
『レナさん、ここは中庭でしてよ? お食事ならば食堂でとりなさいな』
『でも、この前〝平民上がりの似非貴族〟は一緒に食事をとるなと言われまして……』
「こんなイベントあったんだ」
「パラメーター高い状態だからかな?」
[隠しルートきちゃ!]
[希望が見えたぞ!]
[くるぞ……!]
このイベントは二周目のハルバードルートでのみ起こる隠しルートへの入り口だった。
コメント欄はこの後の展開に期待を寄せるものが多く存在した。
『おやおやぁ? 我が兄の婚約者様ではありませんか』
「えっ、誰このキャラ」
「めっちゃ悪そうなの来たな!」
[きちゃあああ!]
[先生だ!]
[スタン先生きちゃ!]
画面が切り替わり登場したいかにも悪役顔な金髪の少年にコメント欄が湧く。
「えっ、何々? 先生って呼ばれてるけど人気キャラなの?」
[ベスティアシリーズ人気投票一位やぞ]
[BESTIA BRAVEにも出てくるぞ]
[移植版で追加されたのよ]
「スタンフォード・クリエニーラ・レベリオン、ハルバードの弟みたいだよ」
「そういえば、ハルバードルートの身の上話で弟と仲が悪いって言ってたな。でも、何で先生?」
[ブレイブやればわかる]
[先生いなきゃブレイブクリアできなかったと言っても過言]
[過言で草]
それから、話を進めていくとスタンフォードはポンデローザをバカにするような発言をして彼女を怒らせる。
ポンデローザが去っていくと、スタンフォードは主人公に向き直って告げる。
『はっ、君みたいなみすぼらしい奴が世界樹の巫女とは笑わせてくれるねぇ。まったく、兄上の目も曇られたものだ。ま、君にはここで独り笑われながら食事をとるのがお似合いさ』
「いや、めっちゃ嫌な奴!」
「えー、あたしはこういうクズ好きだけどなぁ」
[初見はそうなる]
[ビジュアルは悪役だからなw]
[実際、ブレイブじゃ悪役だったしな]
こうしてレオは隠しルートの入り口を開くことに成功したが、フラグに気づけずにこれ以降スタンフォードが登場することはなかった。
そして、ハルバードルートに好感度が高い状態で入ることができたレオは、再びポンデローザがベスティアの力を無理矢理引き出される場面まで辿りついた。
『あ、がっ……ああああああ!』
『ポンデローザ! 正気に戻れ!』
『やめて! ポンデローザさん!』
「今度こそ助けるぞポンちゃん!」
「覚醒しろハルバードォォォ!」
[いけえええええ!]
[今度こそ!]
[つらい……]
力を無理矢理引き出され暴走するポンデローザの攻撃が主人公を襲う瞬間、ついにハルバードのベスティアが覚醒する。
獅子のような特徴がハルバードの身体に浮かび上がる。
『正気に戻れ、ポンデローザァァァ!』
ハルバードのベスティアの力によってポンデローザを包んでいた黒い靄が晴れ、キツネの耳と尻尾も消える。
「良かった……」
「これでポンちゃん助かる――おい、コメント欄が不穏なんだけど」
[あっ]
[ところがどっこい]
[これは……]
誰もが助かったと思った。
しかし、ポンデローザの肉体は光は発しながら崩れ落ちていった。
「はえ?」
「ああ、やっぱり……」
『レナさん、どうかハルバード様のことをよろしくお願いします、わ……』
「「cre8ォォォォォ!」」
[ガチギレで草]
[これはキレる]
[ポンちゃんどうしてすぐ死んでしまうん?]
[cre8(クリエイト)公式チャンネル:ごめんなさい……]
[公式!?!?]
[cre8もよう見とる]
[公式が謝罪してて草]
その後、無事ハルバードのルートをクリアすることはできたが、レオは呆然とした様子でエンドロールを見つめていた。
レオが碌にしゃべれなくなっている間、夢美は間を持たせるためにマシンガントークを展開していた。
「何で俺はハルバードルートを選んだのか……」
「ねぇ、心がしんどいんだけど……」
[ちなみにどのルートでも死ぬよ]
[ポンちゃんは移植版の隠しルートじゃないと生きれない]
「「はぁ!?」」
どのルートでもポンデローザはベスティアを無理矢理覚醒させられて死亡する。
これはライバルキャラを攻略対象全員に用意する容量や資金が足りないという問題のため、ライバルキャラの役割をポンデローザが一手に引き受けることになった弊害だ。
他のルートでも、ポンデローザは貴族としての格差がある攻略対象と添い遂げる覚悟を問う。
ポンデローザが貴族としての振る舞いにうるさいキャラクターとなったのも、こうした裏事情があったのだ。
「夢美、俺はもうダメだ……」
「うっし、あとはあたしに任せな! ブレイブは大団円のハッピーエンドを見せてやるよ!」
[あっ]
[これはフラグ]
[もう不穏なんだが]
こうしてレオのBESTIA HEARTのプレイは終了した。
明日からは、夢美による第二作目BESTIA BRAVEの実況が始まるのであった。