ストーリーを進めていく内に、敵側の勢力が段々と動き始める。
最初こそ、戸惑いながら学園生活を送っていた主人公だったが、今ではすっかり周囲と打ち解けて〝主人公のグループ〟ともいえる輪の中心にいた。もちろん、主人公以外は全員女の子である。
『じゃあ、この前の魔獣騒ぎはミドガルズの仕業ってこと?』
『バカバカしい話ね。何で大昔の敵国が復活してるのよ』
『……ミドガルズ、竜の王国。最近、竜増えてる。信憑性、ある』
『どちらにせよ。被害が増えてる以上放っておけないな』
「すっかりハーレムになったな……羨ましい」
「一応ギャルゲーだからな」
[自分の分身を羨ましがるな]
[親の顔より見た光景]
[親の顔もっと見ろ定期]
主人公達は敵組織である〝ミドガルズ〟について作戦会議をしていた。
ミドガルズという敵組織の名前については、前作のBESTIA HEARTでも登場していた。
「ミドガルズならハートの方にも出てきたよなぁ」
「ポンちゃんが死んだ元凶だろ。ラスボス出てきたらアイテムも容赦なく使ってボコボコにしてやってくれよ」
「任せろ」
[ミドガルズへの殺意高くて草]
[もう同情せざるを得ない]
[ポンちゃんの恨みは深い]
[エリクサーはとっておかずにバンバン使ってけ]
主人公一行の作戦会議も終わり、場面が切り替わる。
主人公は人のいない鍛錬場へとやってきていた。
『……スタンフォード?』
そこには夜も遅いというのに、一人で汗を流して鍛練を続けているスタンフォードの姿があった。
『何だ君か。はっ、碌に鍛錬もせずにこんな時間までブラついているなんて良い御身分だねぇ』
「あ゛あ゛あ゛あ゛! スタンきゅん!」
「……お前、ハートで出てきたときはそこまでじゃなかっただろ」
「だって、レオがポンコツ過ぎて一瞬しか出てこなかったじゃん!」
[それはそう]
[隠しルートは条件キツイからしゃーない]
[レオ君、ポンちゃんしか見てなかったからなw]
スタンフォードが登場したことで、夢美が限界化する。
もはやお約束となった反応にレオは嘆息した。
『どれ、この僕直々に鍛練してやろう。ほら、構えな』
「え゛ぇ゛!? いいんですか!」
「あの猪にあっさりやられた癖に、よくこんなに上から目線でいられるな……」
[あれはINOSHISHIだったから……]
[スタン先生も油断してたし]
[スタン先生の個人レッスンきたぞ]
突如スタンフォードと始まった戦闘イベント。
スタンフォードは王族にしか使えない雷魔法の使い手であり、遠距離では雷撃、近距離では剣術で攻撃してくる。
雷撃を食らうと痺れて少しの間動けなくなるが、ダメージは少ない。
最初こそ苦戦していた夢美だったが、攻撃パターンがわかってからはうまく攻撃を避けながら着実に攻撃を当てていき、スタンフォードを撃破した。
『はっ、なかなかやるじゃないか。さすがは光魔法の使い手といったところか』
「ありがとごじゃます!」
「いや、お前派手に吹っ飛ばされてたじゃん……」
『鍛錬場ではスタンフォードが事あるごとに戦いを挑んできます。敵が倒せない場合は、スタンフォードと戦って経験値を稼いだり、アイテムを入手して主人公を強化しましょう』
「おっ、久々のシステムメッセージだ」
「もしかしてスタンきゅんが先生って呼ばれてるのこれのこと?」
[せやで]
[章ごとにボスと似た動きをするから鍛錬場は必須]
[ボスの動きほぼ全パターンを組み込まれてる]
スタンフォードの鍛錬は、通常の戦闘よりも多く経験値が手に入り、レアアイテムもドロップするおいしいクエストだ。
またボスの動きなども組み込まれているため、ボス戦で苦戦する者はスタンフォードの鍛錬で鍛えてボス戦に臨むことが多かった。
そのため、スタンフォードはファン達から〝スタン先生〟と呼ばれるようになったのだ。
それから夢美がスタンフォードの鍛錬場に入り浸るなどして、テンポが悪くなったりしつつもストーリーは進み、BESTIA BRAVEの最初の関門雷竜ライザルク戦が始まった。
『はっはっは、僕に電撃は効かない! こんな雷トカゲ如き僕一人で十分さ! 君達はさっさと逃げるんだね』
「もう嫌な予感しかしないんだが……」
「口悪いけど、めっちゃ人助けするよねスタンきゅん」
[そこがスタン先生の良いところ]
[プライドが高くて口が悪いだけだから……]
[劣等感拗らせてなけりゃ幸せになれたかもしれない]
口調こそ腹立たしいが、スタンフォードは貴族らしく自ら進んで他者を守るという行為は行っている。
ただその行動は周囲から兄であるハルバードと比べて劣っているという評価を受け続けたため、劣等感を覆すために功績を立てたいという欲から来ていることは否めない。
「いやぁ、やっぱすこだわスタンきゅん」
「プライド高くて拗らせ過ぎただけじゃないのか?」
「そこがいいんじゃん!」
[レオ君、ブーメラン刺さってる]
[おっ同族嫌悪か?]
[どっちもモチーフライオンだしな]
結局、主人公が駆けつけた頃にはスタンフォードはボロボロになっていた。
夢美はベスティアシリーズユーザーの登竜門と言われるこの戦闘を、スタンフォードとの鍛錬で鍛えまくっていたおかげで一度でクリアすることができたのだった。
それからストーリーが進むにつれて、スタンフォードはどんどん主人公への劣等感と嫉妬心を拗らせていく。
鍛練場での会話イベントも、語気がストーリー序盤よりもキツイものになっていた。
『……性懲りもなくまた来たのか。君は一人で鍛錬することもできないのかい?』
「はい! できません!」
「……何か見てて辛くなってきたんだが」
[バラギ、すっかり全肯定マシーンになってて草]
[実際スタン先生の鍛錬場が効率良すぎるのはある]
[レオ君にぶっ刺さってて草]
[闇堕ちしそうで怖い]
[スタン先生はかなり拗らせてるからな……]
ストーリーを見ている中で、プライドが高く他者を見下す傲慢な振る舞いを繰り返すスタンフォードに、レオはどこか親近感を覚えるのと同時に、昔の古傷を抉られているような気分になっていた。
「これスタンフォードの見せ場ってあるのか?」
「今のところ、あたしにとって全部見せ場だが?」
「違う、そうじゃない」
[そろそろ来るんじゃない?]
[引き立て役としては完璧ムーブ]
[一応、見えないところで戦果結構あげてるから……]
主人公が絡むイベントではお約束の如くやられ役になっているスタンフォードだったが、それ以外のところでは魔獣を退けたりそれなりの戦果を出していた。
実際のところ、主人公が強すぎて目立たないだけで強さでいえば作中では上位に匹敵するキャラクターなのだ。
『ギュラァァァ!』
『なんだこいつ! 姿が見えないし、攻撃が効かない!』
「えっ、これ負けイベ?」
「いや、物理攻撃だけ地味に通ってるみたいだな。たぶん、何かの条件で透明化が解除されるやつだな」
[鬼畜カメレオンきたwww]
[これ無理だろw]
[さすがのスタン先生も透明化は再現できなかった模様]
ストーリーも後半に差し掛かってきたタイミングで、夢美は珍しくボスとの戦闘で苦戦していた。
夢美が戦っている竜は透明化している上に、光魔法がすべて無効化されてしまう厄介な敵だった。
物理防御もかなり高く設定されており、この手の敵はギミックが仕込まれており、条件を達成すると透明化が解除されるとレオは予測した。
「尻尾切るとか、角破壊するみたいな部位破壊が条件か?」
「モンハンじゃねぇか。このゲームに部位破壊って概念ないだろ」
[それはナヅチの攻略法なんよ]
[来るぞ……]
[ニチャァ……]
[ニチャァ……]
それから夢美が体力を5%ほど削ったタイミングで、一度戦闘が中断されてイベントが始まる。
『はっはっは! 情けないねぇ! そんなんじゃ先が思いやられるよ!』
『スタンフォード!?』
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! スタンきゅん!」
「一番頼りにならないのきたな……」
[キタ――――!]
[スタン先生!]
[これで勝つる]
今まで主人公が戦う前にボスに負けていたスタンフォードが戦闘の途中で現れたことで、夢美もコメント欄も盛り上がった。
『光は通り抜けてしまうだろうが、僕の電撃は透かせないよ!』
スタンフォードが放った広範囲の電撃は、透明化していた竜に直撃する。
電撃を浴びた竜は、透明化が解除されて動きが露骨に鈍くなった。
「スタンきゅん、ありがとう!」
「……まあ、やるじゃん」
[やっぱスタン先生しか勝たん]
[これは惚れる]
[レオ君、複雑そうで草]
レオは今までのスタンフォードの態度が気に入らなかったため、キャラクターとしての魅力はいまいち感じていなかったが、素直に今のイベントはカッコイイと思ってしまった。
自分にできることを自覚して、嫉妬の対象である主人公を助けに来る。
ある種の成長を見れたことで、見直しはしたがそれを認めるのはどこか癪だったのだ。
『消し飛べ! 〝滅竜波!!!〟』
『QUEST CLEAR!!』
「いやぁ、スタンきゅんとの共闘は熱かったわ」
「俺は絶対闇落ちすると思ってたんだけどな」
[これはめちゃくちゃかっこいい]
[スタン先生すこなんだ]
[レオ君スタン先生アンチになってるwww]
こうしてスタンフォードの共闘イベントを終えたところで、今日のコラボ実況配信は終わった。
ストーリーも終盤に差し掛かってきたため、次の日に行う配信が最後の配信となる。
夢美は終始興奮しっぱなしだったが、レオはどこかこのまま全員が幸せになるハッピーエンドに向かうとはどうしても思えなかった。