「はい、諸星さん。もんじゃ焼きだし! あーん!」
「あーん」
「ほら、香澄ちゃん。お好み焼きよ。あーん」
「あーん」
「内海さん、お好み焼きなら私が作るし!」
「一人じゃ大変でしょ? 分担した方がいいじゃない」
「「むぅ……」」
「もんじゃもお好み焼きもうまいなぁ……!」
両側から差し出されたもんじゃとお好み焼きを交互に頬張るかぐや。
彼女を間に挟み、ミコと乙姫がバチバチと火花を散らしている。
「ほら、由美子ー! 負けてらんないよー! 早く拓哉にあーんをするんだー!」
「いや、しないって……」
「何だよ、この状況……」
3D動画の撮影を終えてその場にいたメンバーで食事に行った結果がこれである。
ミコと乙姫の間で謎の修羅場が発生していることに、レオは疲れたようにため息をついた。
「まさかケイティがこんなにもんじゃ作るのがうまいとは思わなかったよ」
「お婆ちゃんの家がもんじゃ焼き屋さんだから、気がついたら覚えてたし!」
「見た目とのギャップがすごい」
見た目は純度百パーセントのイギリス人にしか見えないミコが、慣れた手つきでもんじゃを作っていく姿の違和感はすごかった。
「たぁー! もんじゃ焼き初めて食べたけど、めっちゃおいしいねー!」
鉄板焼きは高級ステーキくらいしか食べたことのなかった林檎は、目を輝かせて夢中でもんじゃを頬張った。
林檎は舌こそ肥えているが、こういったあまり食べる機会のない料理は喜んで食べるタイプだった。
「あっ、チーフが作ってくれたもんじゃよりおいしい……」
「チーフって前のガラスのときのか?」
「そ、ヘルプで人工ヤバい現場に入ったときに奢ってもらったんだよね」
夢美はミコの作ったもんじゃを食べながら、ガラス清掃員時代に想いを馳せた。
どうしても、思い出に苦労が滲み出てしまうのはガラス業界故のものである。
「それにしても、由美子ちゃんもよく復帰してくれたわね。その、いろいろ辛かったでしょ?」
「ええ、確かに辛かったですけど、支えてくれる人が傍にいたので立ち直れました!」
「てぇてぇ……!」
レオとミコを見ながら笑顔を浮かべた夢美を見て、林檎はいつものように胸を両手で抑えた。
「そういえば、諸星さん。イベントって開催のタイミングとかまだ先になりそうですか?」
「せやなぁ。いくつかイベントの企画も進めてるんやけど、なかなかなぁ……」
「公式番組も増えてきましたからね」
にじライブでは、いくつもの企画を同時で進めている。
その中でも、イベント関連のものに関しては予定通りに進まないことばかりだった。
「本当なら拓哉達のイベントも春にやる予定やったんやけどな」
「結果的に考えれば延期して正解ですよ。後輩達のデビューや俺達の一周年のタイミングとも被っちゃいますから」
レオ、夢美、ミコの三人での家族コラボ〝夢星島〟では、イベントを開催する予定だった。
完全無料のバーチャル3Dライブ。
以前からライバー達がライブをやるとなると、さまざまな費用がかかるためチケットの値段も高額になりがちで、転売などの問題も発生していた。
転売に関しては法律でも制定されているため、多少は何とかなったが、それでも純粋に学生などはイベントを楽しみづらいという状況が発生しがちだった。
自身もファンだったこともあり、ミコはレオと夢美に夢星島で完全無料で行えるイベントをやろうと持ち掛けていた。
その結果、ネット配信限定で無料公開の3Dライブを行うことにしたのだ。
しかし、完全無料で行うとなると様々な問題が発生してイベントは延期することになってしまったのだ。
夢美の活動休止や三期生の一周年、五期生達のデビューなども重なっていたため、結果的にはイベントを延期したことは良い方へと転がった。
「てか、ギル……ギルバート君の勢いすごいよね」
「いや、ギルベルドでしょー」
「ギルベルトな」
「ギル君もすごいけど、イシュリーさんの伸びもやばいし」
「イシュリーは頭の悪さが致命的やけどな。視聴者からも堕女神なんて呼ばれとるしな」
「そこに天然のエマちゃんが交ざると手が付けられなくなるものね。まあ、そこが人気なんだけど」
五期生達もデビューしてから信じられない勢いで伸びている。
特に元サタンと元フィアであるギルベルトとイシュリーの勢いは凄まじかった。
二人共コメント欄とのプロレスがうまく、あっという間にファンを増加させた。
また元ノームだったエマも自慢の歌唱力で歌ってみた動画での再生数ではどれもトップクラスに躍り出ており、ギルベルト、イシュリーとのやり取りも人気だった。
この三人はギルガメッシュ叙事詩をモチーフとしており、古代人風のデザインをされていた。
ギルベルトはシュメル王国を収める王。
イシュリーはシュメル王国に豊穣をもたらす女神。
エマは神々が生み出した意思を持つ人形。
この三人の組み合わせは〝シュメル組〟という名前で呼ばれ始めていた。
「あたし的にはあおちゃんもいいよね。ロリだし」
「もう成人してるはずなんだけど、なんか素でロリだよねー」
「セクシー枠かと思ったララさんに至っては面白ろお姉さんだし、結局はにじライブって感じに落ち着いたよな」
「にじライブのセクシーなお姉さんは結局こうなる運命だねー」
「モモタロス……うっ、頭が……」
五期生の他二人もそれぞれ活躍している。
元ウエンディであるあおいはゲーム実況などでも人気を博しており、同じ元ウェンディであったレインとは早速コラボをしていた。
元サラであったララも、かなり際どい衣装を身にまとった見た目をしていたが、中身はいつものにじライブだった。
「おっ、拓哉見てこれ。もうV-Signの再生数が200万超えてるよ」
「マジかよ。まだ投稿して一週間くらいしか経ってないだろ」
「これでV-Sign歌ったのは一期生、にわとり組、和装組、三期生かー」
にじライブの代表曲であるV-Signを三期生であるレオ達は歌って一周年記念として投稿した。
その動画はあっという間に200万再生を突破することになった。
いくら代表曲とはいえ、オリジナル曲でこの伸びは異常と言えるだろう。
「あっ、そうだ。諸星さん、内海さん、どこかいい物件知りませんか?」
レオは思い出したようにかぐやと乙姫にどこか条件のいい物件がないか尋ねた。
「何や、拓哉と由美子は引っ越すんか?」
「今の半同棲状態だとダメなのかしら?」
「「いや、違いますよ!?」」
完全に同棲するために引っ越すと思われていたレオと夢美は慌ててそれを否定した。
「今、あたしの友達が物件が見つかるまでの間うちにいることになってて……」
「あー、メグさんね」
ミコは夢美の言う友人の存在に心当たりがあった。
冷凍ミカンの友人であった才上慈理。
現在、彼女は実家を出て部屋探しの最中だった。
その間、夢美が部屋に住まわせていたのだ。
「メグちゃんも配信の邪魔になるからって気を使ってるから早く見つけたいみたいなんだけど……」
「なかなか見つからないみたいなんだよなぁ」
ちなみに、慈理はただで居候するわけにはいかないとレオ、夢美、ミコの家事全般を引き受けていた。
おかげで最近の夢美の部屋は清潔さが保たれていた。
「しっかし、それなら実家に住みながら探せばええとちゃうか?」
「慈理さんの精神衛生上、それはキツイと思いますよ」
「事情を聞いてもいいかしら?」
レオは慈理が置かれている状況を素直に話した。
慈理は弟が亡くなったことで、両親から激しく責められた。
慈理の友人である冷凍ミカンと弟が事故で亡くなったことにより、事情を説明したからだ。
元々慈理の弟を甘やかして過度な期待を寄せていた両親は、慈理が友人を呼んだことで弟が家を飛び出して事故に遭ったのだと激怒した。
元々親子仲が良くなかったこともあり、毎日のように責められることに耐えかねた慈理は逃げるように家を飛び出したのだった。
「ほー……どの家庭にも毒親っているもんなんだねー」
「や、優菜ちゃん。それ笑えないから」
慈理の事情を聞いた林檎は感慨深そうに呟いた。
林檎も両親とは確執があったため、他人事とは思えなかったのだ。
ちなみに、最近では一緒に食事に行けるくらいには林檎の家族仲は修復されつつある。これは林檎が譲歩し、武蔵と郁恵が徐々に歩み寄っていた結果である。
「優菜と宇多田は修復できそうだけど、慈理さんのとこはさすがに無理そうだな……」
「話を聞く限り、あれはもう末期だもんねー」
「うし、わかった。ウチが知り合いの不動産に掛け合ってみるわ」
「私も聞いてみるわね」
「ありがとうございます!」
こうして、かぐやや乙姫の紹介で良い物件を見つけられた慈理は無事に住みやすい部屋を見つけて新たな生活を始めた。それに伴い、夢美の部屋もあっという間に元の汚部屋へと戻っていくのであった。