Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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【映画デート】恋愛するのにひよってる奴いる?

 

 林檎は珍しく着飾った服装で外出した。

 今日は白夜との約束の日。

 待ち合わせ場所に到着した林檎は、スマートフォンのインカメラで前髪を整える。

 しばらくすると、林檎に気が付いた白夜が駆け寄ってきた。

 

「すみません、お待たせしました!」

「まだ十分前だよー。私も今来たとこだしー」

 

 そう言って林檎はいつものようにヘラヘラと笑った。

 白夜は林檎が空になったペットボトルを持っていることで、それなりに待たせてしまったことを察したが、それは指摘しない方がいいと思い心に留めた。

 

「で、今日はそっちに丸投げしちゃって大丈夫なのー?」

「はい、バッチリっすよ!」

 

 白夜は自信満々の表情でそう告げると、早速目的地へと向かうのであった。

 二人が向かったのは映画館だった。

 

「あっ、これ最近紫恩さんが布教してる漫画の実写映画じゃん」

「何だかんだ原作読んでなかったので、楽しめるかなぁって」

 

 白夜が選んだのは最近、二期生の鶴野紫恩がライバーや視聴者達へ布教している漫画の実写映画だった。

 不良漫画とタイムリープものが描け合わさったこの作品は多くのファンの心を鷲掴みにしていた。

 

「私ミームになってるとこしか知らないんだよねー」

「ひよってる奴いる? のとこですね」

「そうそう! それ!」

 

 原作では名シーンだったが、やたらとそのシーンをネタにしたミームが出来上がっているせいで、元ネタを知らないで先にその部分を見た者が本編で笑ってしまうという風評被害も地味に発生していた。

 

「最近、相葉ちゃんがやたらと日和にそのネタ振ってるよねー」

「まあ、本名が日和さんですからね」

 

 白夜は本当に嬉しそうにレインとリーフェのやり取りについて思い出した。

 白夜にとって二人は魔王軍時代から苦楽を共にしてきた仲間だ。

 特にレインに関しては、魔王軍を盛り立てるためにウェンディとして最初期から頑張っていた。

 そのレインが心を擦り減らして潰れていく様子を間近で見ていた白夜は、今の彼女は素のまま楽しく過ごせていることを元サタンとして心から喜んでいたのだ。

 

「不思議なもんですよね」

「何がー?」

「僕と優菜さんって、拓哉さんがカラオケ企画に参加してなかったら再会できなかったかもしれないんですよね」

 

 林檎と白夜が出会ったのは高校生のときだが、二人が関わるようになったのは夢美の妹である由紀をカラオケ組の五人で探したときだ。

 

「懐かしいなー。あのときは夜通しスマブラやったよねー」

 

 由紀を探して疲れ果てて眠った林檎が目を覚まし、当時サタンとして活動していた白夜と夜通し対戦ゲームに興じていたことは記憶に新しい。

 それが気がつけば、魔王軍解散騒動を経てから今ではにじライブを代表するライバーの一人となっているのだ。

 林檎はつくづく、レオ達を通して繋がったり修復されたりした縁の不思議さを感じていた。

 

「私もそろそろ金盾見えてきたし、もっと頑張ろうかなー」

「体だけは壊さないでくださいよ?」

「わかってるってー。だから、こうして司君と息抜きしにきたわけだしー」

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべると、林檎は白夜の腕に自分の腕を絡めた。

 

「ちょ、優菜さん!?」

「ほらー、ちゃんとリードしてよー?」

 

 心底楽しそうに笑っている林檎を見て、白夜は思い出した。

 高校生のときの彼女も人を揶揄うことが好きな人間だった。

 だが、耳まで真っ赤になっている彼女の姿は、そのときとはまた違った魅力に溢れていた。

 

 

 

 映画を見終わった二人は満足げな表情を浮かべていた。

 

「いやー原作知らないけど、面白かったねー!」

「むしろ原作を知らないからこそ楽しめた感はあると思いますけどね」

 

 原作小説や漫画が存在している作品の映画は基本的に短い時間の中に内容を詰め込まなければいけないため、成功と呼ばれている部類の映画でも説明不足感が出ることは否めなかった。

 

「ま、面白そうだし、原作全部ポチったよー」

「えぇ!? 判断早くないすか!」

 

 林檎はいつの間にか原作を全巻まとめて購入していた。

 しかも、電子書籍ではなく通販の全巻セットで単行本をまとめて購入したのだ。

 林檎は昔から漫画は紙派だったのだ。

 

「電子書籍じゃなくて紙で買ったから、読みたかったら家に来なー」

「行きます行きます! 漫画の絵柄も好きなんで気になってはいたんですよ!」

 

 完全に漫画の内容に気を取られている白夜は、林檎の家に一人で行くということがどういうことか頭からすっぽり抜けていた。

 

「いやぁ、僕ヤンキー漫画は敬遠してたとこあったんですけど、これならハマっちゃいそうですよ!」

「ただ殴り合うだけじゃないもんねー。キャラの背景がしっかりしてるから面白いんだろうねー」

 

 林檎は映画を見て興奮したように目を輝かせる白夜のトークに、ただただ笑顔で相槌を打っていた。

 

「ごめん、ちょっとお手洗いに行ってくるー」

「あっ、はい。いってらっしゃい」

 林檎はニヤリと笑うと、こっそりとまひるへとメッセージを送った。

 

[いろいろうまくいったよー。協力ありがとねー]

 

[✌('ω'✌ )三( ✌'ω')✌]

 

 まひるからは狂喜乱舞している様子の顔文字が送られてきた。

 実は今日の映画館デートは、主導権を白夜に渡しているようでいて、林檎は白夜の姉であるまひるに頼んでいろいろと仕込みをしてもらっていたのだ。

 白夜が好きそうな映画作品をピックアップして、林檎が今日見た映画を見たがっているという情報を伝える。

 白夜は気に入った内容ならば、原作をまとめ買いする傾向がある。

 それを先に林檎が行って、家に呼ぶ口実を作る。

 

「……計画通り!」

 

 元々恋愛に関しては割と消極的だった林檎だったが、同期二人の気に当てられたのか、ここにきて一気に攻めの姿勢へと転じていたのであった。

 


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