Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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【白林檎】二人だけの誕生日パーティ

 

 

 配信を終了した白夜は風呂に入り、一息ついていた。

 

「こんなに楽しい誕生日は初めてだったなぁ……」

 

 まひるとの仲にわだかまりがあった頃は碌に友人も作らずに過ごしていた。

 サタン・ルシファナになったときは魔王軍が崩壊する渦中だった。

 全てが丸く収まり、今の自分が幸せだということを噛み締めながら迎える誕生日。

 白夜にとって今日は忘れられない大切な一日になっていた。

 

「姉ちゃん、風呂あいたぞー」

「ほいほーい」

 

 風呂から上がると、白夜はリビングでスマートフォンをいじっているまひるに声をかけた。

 こんな当たり前の光景すらも、以前にはなかったものだ。

 家族がいる。仲間がいる。

 そんな当たり前を取り戻しすきっかけをくれたのは林檎だった。

 正直なところ、白夜は林檎に対してどう接していいか考えあぐねていた。

 好きか嫌いかで言えば、間違いなく好きと断言できるだろう。

 

 しかし、同じ事務所の先輩ということもありその辺は慎重になっていたのだ。

 林檎も白夜もガチ恋勢と呼ばれる異性のファンが多いライバーだ。

 レオや夢美のように初期にユニコーンを焼き払うようなことをして公認カップルのような扱いを受けているわけではない。

 男女コラボに寛容になってきたとはいえ、そこは未だにVtuber界隈において難しい部分だった。

 林檎もそのことを理解しているためか、配信上では煽り合い以外の絡み方はしない。

 昔好きだった人であり、今ではただの恩人。

 そのはずだった。

 

「……凸待ち、来てほしかったな」

 

 しかし、林檎が白夜の誕生日凸待ちに来なかったことで、寂しさを感じている自分がいることに気がついた。

 林檎は人気ライバーであり、忙しい身だ。

 凸待ちをするにあたって、ライバー達に事前に確認をしたところ、林檎は用事があるから来れないと言っていた。

 仕方ないとは思いつつも、心にモヤが掛かっていく。

 気分を変えようとお湯を沸かし、紅茶を入れているとスマートフォンが鳴った。

 画面に表示されていたのは〝白雪林檎〟の四文字。

 それを見た瞬間、白夜は反射的に通話に出ていた。

 

「も、もしもし!?」

『あ、司君ー? 夜分遅くにごめんねー』

「いえ、大丈夫です!」

 

 白夜は自然と椅子から立ち上がっていた。

 電話口の向こうで白夜が緊張しているとも知らずに、林檎は祝福の言葉を述べた。

 

『誕生日おめでとー! 今日は凸待ちいけなくてごめんねー』

 

「ありがとうございます! こうして祝っていただけるだけでも嬉しいです!」

『そっか、そっかー。そう言ってもらえるだけでも電話した甲斐があるってもんよー……じゃ、ちょっとピアノ弾くねー』

「え?」

 

 突然、林檎はピアノを弾き出した。

 それは歌詞もなく、聞いたこともない曲だった。

 しかし、不思議と誕生日を祝福しているように聞こえるバースデーソングのような曲調だと白夜は感じた。

 

 明るくアップテンポなメロディ。

 心地良いピアノの音に、白夜は静かに耳を傾ける。

 それは林檎が白夜のために初めて作曲したバースデーソングだった。

 

 この曲を作るにあたって、林檎は母である郁恵に作曲についてアドバイスを求めた。

 ピアノの才能こそあれど作曲はしたことがなかった林檎には、もっとも身近な作曲を行ったことのある郁恵に頼る他なかったのだ。

 林檎にとって郁恵は複雑な存在だ。

 自分にピアノの楽しさを教えてくれた存在であり、今まで自分を縛り付けてきた毒のような存在。

 和解したとはいえ、二人の間にできた溝は深かった。

 それでも、林檎は好きな人に最高の時間を過ごしてもらいたいと思い、深い溝を飛び越えた。

 郁恵も林檎が自分を頼ってきてくれたことを嬉しく思い、スケジュールを調整して昔のように付きっ切りで林檎に指導をした。

 在りし日の親子の形を思い出した二人は、本当の意味で和解することができたのだ。

 

 林檎はこの曲を作る際に思った。

 白夜は林檎に幸せにしてもらったと言った。

 そして、林檎もまた白夜が感じているのと同じくらい幸せにしてもらったと感じていたのだ。

 

『……というわけで、ご清聴ありがとうございましたー』

 

 演奏を終えると、林檎はどこか照れたように告げる。

 

「本当に素敵な演奏でした……」

 

 気がつけば白夜はスマートフォンをテーブルに置いて拍手をしていた。

 それほどまでに、林檎の演奏は白夜の心を満たしていたのだ。

 

『それでさー、誕生日プレゼントについてなんだけど』

「えっ、今の演奏がプレゼントじゃないんですか?」

『今のはただの演出だよー。ほら、ケーキ用意するときに歌ったりするでしょー?』

「そのレベルではなかったと思いますけど……」

 

 林檎の作成した曲はプレゼントを渡す前の演出と言うにはレベルが高すぎる。

 てっきり曲がプレゼントだと思っていた白夜は怪訝な表情を浮かべた。

 

『私、碌なプレゼント用意してなくてさー』

「はぁ……?」

 

 わざとらしい口調の林檎に、白夜は意図を量りかねる。

 しかし、次の言葉に白夜の思考は完全に停止することになった。

 

 

 

『誕生日プレゼント、私でいい?』

 

 

 

「…………………………」

 

 しばらく無言の時間が流れる。

 

『……ねぇ、無言ってどうなのさー』

「………………はっ!」

 

 痺れを切らした林檎の言葉に白夜の脳が再起動する。

 

「い、いや、ちょっと待ってください!」

『待たないよーだ』

「だって、えっ……いやいやいや!」

『嫌かー。それじゃあ、しょうがないなー』

「違いますよ!」

 

 林檎の手のひらの上で転がされながらも、白夜は必死に頭を回す。

 林檎の言葉の意味は考えなくてもわかる。

 つまりは、そういうことなのだ。

 迷っている暇など、林檎は与えない。

 畳みかけるように繰り出された言葉に、白夜は観念したように自分の気持ちを素直に林檎へと告げた。

 

「……優菜さん、あなたのことが好きです。僕と付き合ってください!」

『にひひっ、よく言えました』

 

 白夜の満足げに頷くと、林檎は電話口の向こうでいつものように悪戯っ子のような笑みを浮かべた。

 

『それじゃ、遅い時間にごめんね。おやすみー……私も好きだよ』

「おやすみ、なさい……!」

 

 最後の最後に心を揺さぶる一言が白夜の耳で残響する。

 あまりの破壊力にテーブルに突っ伏していた白夜は気持ちを落ち着かせるために入れていた紅茶を口に含んだ。

 

「渋っ!?」

 

 お湯を入れたまま放置していた紅茶はすっかり渋くなっていたのであった。

 甘党である白夜には口に合わないはずの渋くなったストレートティーは、そのときばかりは口に馴染むのであった。

 




やっとこの二人がくっつきました。
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