Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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今回のお話はニンダイの同時視聴配信やゲームの公式番組のような雰囲気を意識して書きました。


【バラレオ】案件配信、BESTIA ORIGIN

 

 チームバラレオのRINEグループに連絡がきたレオと夢美は事務所へ向かっていた。

 以前、実況配信を行ったベスティアシリーズの製作会社〝cre8〟から感謝の品が届いたとのことだった。

 cre8側からは事前に荷物を送って良いかという打診があり、レオも夢美も喜んでそれを了承した。

 事務所に到着したレオと夢美は届いた荷物の大きさに驚いていた。

 

「これ、大きくないですか?」

「中身はぬいぐるみみたいですね。それにしてもかなり大きいですけど」

 

 レオのマネージャーである飯田は伝票を見て興味深そうに呟く。

 

「何かマスコット的なのいたっけ?」

「さあ……」

 

 夢美の疑問に四谷も首を傾げた。

 意を決してダンボールを開封してみると、そこには梱包材と共に目つきの悪い鳩のぬいぐるみと、獅子の紋章の入ったマントが入っていた。

 

「おっ、これポンちゃんが飼ってた鳩じゃん!」

「これってスタンきゅんが着てた外套!?」

 

 中身を見た瞬間、二人の目の色が変わる。

 レオに送られてきたのは、BESTIA HEARTのキャラクターであるポンデローザのペットである鳩のぬいぐるみ。

 夢美に送られてきたのは、BESTIA BRAVEのキャラクターであるスタンフォードが着ていた外套風のブランケット。

 どちらもファンからは人気のグッズだった。

 

「こいつにはさんざん選択肢のときに糞を落とされたなぁ」

「レオがアホほど選択肢ミスるからでしょうが」

 

 レオは感慨深そうに鳩のぬいぐるみを眺める。

 実況時には煮え湯を飲まされた存在ではあるが、その見た目はどこか憎めない見た目をしていた。

 

「へぇ、この鳩ムジーナっていうんだ」

 

 鳩のぬいぐるみについている商品名が記載された札には〝ふわふわぬいぐるみ・ムジーナ〟と記載されていた。

 

「ムジーナってどっかで聞いたような……」

「ポンちゃんのミドルネームだろ」

 

 ポンデローザのフルネームは、ポンデローザ・ムジーナ・ヴォルペだ。

 レオは何度やっても救えないポンデローザに心を痛めながら、全ルートをしっかりやり込んだ。

 そのため、このくらいの知識はノータイムで答えられるようになっていた。

 

「レオ、あんたすっかりベスティアシリーズにハマってない?」

「そういう夢美だって、もう周回してスチル全回収してただろ」

「まあね。戦闘はライトなモンハンって感じで意外と楽しかったし、普通にやりごたえあったからね」

 

 二人共すっかりベスティアシリーズの虜になっていた。

 そして、そんな二人へと朗報が届く。

 

「実は、今日お呼びしたのは荷物だけじゃないんですよ」

「cre8さんから頂いた案件があるんだ」

「はえ?」

「ホア?」

 

 飯田と四谷から告げられた言葉に、レオと夢美は間抜けな声を零した。

 cre8は、以前に発売したゲームが話題になったこともあり、レオと夢美には感謝していた。

 そこで、新作の宣伝の案件を二人に任せようと判断したのだった。

 

 

 

 後日、レオと夢美はスタジオで配信を行っていた。

 

「どうもみなさん、こんばん山月!」

「はーい、みんなこんゆみー」

 

[こんばん山月!]

[こんゆみー]

[コラボたすかる]

[最近バラレオ供給多くてたすかる]

[この前のベスティアシリーズの実況からきました]

 

 cre8からの案件ということもあり、配信には多くのベスティアシリーズのファンも駆けつけていた。

 

「何と今回はあのベスティアシリーズの製作会社であるcre8さんからの案件です」

「シャァァァ! お前ら、新情報だから耳かっぽじって聞いとけよ!」

 

[新情報!?]

[これは期待]

[ベスティアシリーズの続編とか?]

 

 ここで二人がcre8の宣伝役という印象を付けられれば、また視聴者を獲得できるということもあり、にじライブ側もかなり気合を入れていた。

 

「それでは、まずこのムービーをご覧ください」

 

 レオがそう告げると、画面が暗転して動画が流れ出す。

 

『それはまだ人間が魔力を体内に宿していなかった頃の物語――』

 

 渋い声のナレーションと共に、映像が始まる。

 画面には、人々が戦争をしているような映像が流れる。

 

『人々は土地を巡って争いを続けていた。大地は荒廃し、この世から多くの命が消え去っていった。そんな中、世界樹ユグドラシルは自身が根ざす土地に住む少女に果実を与えた。世界樹の実を口にした少女は、後に多くの人々に癒しを与える存在、世界樹の巫女となる』

 

『初めまして、ラクリア・ヴォルペと申します! 気軽にリアと呼んでくださいね?』

 

「おお、これハートの方の主人公っぽい見た目だ!」

「主人公ちゃんのご先祖様かな?」

「あれ、ヴォルペってポンちゃんの苗字だったような……」

 

[ボイスが付いてる!]

[ドラマCDのときの主人公ちゃんの声だ!]

[デフォだとマーガレットちゃんだったよな]

 

 画面に表示された女性キャラクターに視聴者達は盛り上がる。

 ラクリアはBESTIA HEARTの主人公と似たようなデザインをしており、ゲームではついていなかったボイスが今回はついていた。

 

『巫女の傍に仕えるは、世界樹の枝より生み出されし聖剣ベスティア・ブレイブ』

 

『俺は巫女の敵を切るための剣だ。それ以上でもそれ以下でもない』

 

 今度はBESTIA BRAVEの主人公と似たデザインの青年が映し出される。

 

[バラたろうきちゃ!]

[バラたろうで草]

[とっとこバラたろう]

 

「お前ら! バラたろう言うな!」

「いや、あれは夢美が悪い」

「あんな演出あるなら、デフォルトネームでやってたわ!」

 

 以前、夢美がプレイした際に〝バラたろう〟という名前が表示され、感動的な場面が台無しになったこともあり、コメント欄はバラたろうという文字で溢れかえっていた。

 

「あの、マジですみませんでした……」

 

[ガチ謝罪で草]

[内輪ネタにならないように気を付けよう]

[これ案件だからな]

 

 それから次々にキャラクターが紹介されていく。

 そして、ついにレオの大本命であるキャラクターが登場する。

 

『歴史を大きく変えるきっかけを作った少女。世界樹の巫女の妹、ムジーナ・ヴォルペ』

 

『何? お姉ちゃんと違ってあたし、忙しいんだけど』

 

「ポンちゃんキタァァァァァ!」

「うるさっ!?」

 

[レオ君、大興奮www]

[ポンちゃんのご先祖様!?]

[こっちでは幸せになってもらいたい]

[頼むぞcre8……]

 

 画面に表示されたポンデローザによく似たキャラクターは、貴族令嬢然としたポンデローザとは違い、砕けた口調だった。

 声優の演技力も相まってまるで別人のような声に聞こえるが、声優はきちんとポンデローザと同じ人が担当していた。

 

「えっ、雰囲気だいぶ違うけどポンちゃんと同じ青井優希さんだ! 声優ってすげぇ!」

「少しは落ち着きなよ……」

 

[バラギが珍しく呆れとる]

[好きなものが関わったときのレオ君相手にはいつもこうだぞ]

[夢星島でもだいたいこんな感じやで]

 

 ムービー中も大興奮のレオを夢美が呆れながらも諫める。

 しかし、レオの興奮は収まることはなかった。

 

「えっ、だってこれ世界樹の巫女と苗字同じだよな? つまり、姉妹ってことか? てか、ムジーナってポンちゃんのミドルネームで、ペットの鳩の名前だよな? 待って無理、情報量が多い!」

 

[完全にオタクで草]

[よく噛まずに言えるなwww]

[オタクライオンすこ]

 

 完全に自分の世界に入り始めたレオに、夢美はチョップを叩き込んで現実へと引き戻す。

 

「ほら、いい加減戻ってこいって。まだムービーあるんだから」

「あ、ああ、悪い……」

 

[バラギママ……]

[嫁に諫められとる]

[てぇてぇ]

 

 案件ということもあり、夢美はレオがこういう状態になったときのためにしっかりしなければと気を引き締めていた。

 バツの悪そうな表情を浮かべるレオを見て、やれやれと肩を竦めていた夢美だったが、次の瞬間、映像を見て固まった。

 

『世界樹の根ざす土地を狙う蛮族クリエニーラ族を率いる若き族長クリエニール』

『この世は弱肉強食、勝った奴が正義だ。悪く思うなよ?』

 

 映像にはスタンフォードとよく似た〝クリエニール〟というキャラクターが表示されていた。

 蛮族ということもあり、かなりワイルドな服装をしていて肌の露出も当然多かった。

 

「イ゛ェアアアア!?」

 

[この世のものとは思えないほど汚い声で草]

[これは呪いの館]

[ひろしの断末魔じゃねぇか]

 

 夢美の好きなキャラが好みのデザインで登場したこともあり、夢美は絶叫していた。

 

「待って! やばいこれ! スタンきゅん! エロい、すごい! これやばいって!」

「お前も人のこと言えねぇじゃねぇか! あと案件でエロい言うな」

 

[立場逆転してて草]

[さっきまで保護者ポジだったのに……]

[これがバラギだ]

 

 夢美が発狂し始めたので、今度はレオが彼女を諫める。

 それから一通り映像が終わると、そこには〝BESTIA ORIGIN〟というタイトルロゴが浮かび上がっていた。

 映像が終わり、画面が切り替わったことで、レオは手元にある台本通りに進行を始める。

 

「えー、というわけで、cre8さんから発売される完全新作のタイトルはBESTIA ORIGIN! こちらはベスティアシリーズの過去のお話となっております」

 

[過去話きちゃ!]

[チラッとブレイブの回想で出たけどな]

[購入確定だわ]

 

「……はい、何と今回は主人公や守護者達のご先祖様のお話みたいで、あの人気キャラクタースタンフォードとポンデローザの先祖も大活躍! 是非、ご期待ください!」

 

 若干過呼吸気味になっていた夢美も何とか立ち直って台本を読み上げる。

 レオは夢美が台本を読み終えるのを確認すると、安心したように胸を撫で下ろした。

 

「そして、今回の主人公はスタンフォードの先祖であるクリエニールだそうです! ゲーム内容としては、素材を集め町や城、そして国を作れるシミュレーションゲームとなっております」

「戦闘からクラフトまで何でもござれ! 君だけのレベリオン王国を作ろう! ということで、ね。またとんでもないゲームを出してきたよcre8さん」

 

[マイクラで草]

[完全にマイクラだwww]

[ストーリーのあるマイクラだな]

[ドラクエもやってたけど、この手のゲームは楽しいからすこ]

 

 システム面ではにじライブのライバー達もこぞってプレイするゲームと同じだった。

 素材を集め、クラフトを行い建築をするだけでなく、敵勢力との戦闘もある。

 それから一通りシステム面の説明を終えると、二人は今回の案件に当たって始動した企画について話し始めた。

 

「そしてですね、ただいまツウィッターフォロー&リツウィートキャンペーンが開催されております」

「概要欄にあるBESTIA ORIGIN公式ツウィッターアカウントをフォローして、企画ツウィートをリツウィートしていただくと、ポンちゃんのペットである鳩のムジーナふわふわぬいぐるみが10名様に、スタンきゅんの外套型ブランケットが10名様に当たります!」

「ちなみに、俺達はcre8さんからこちら二つともいただいております」

「どうだ羨ましいだろぉ!? 悔しかったら概要欄からキャンペーンに応募するんだな!」

 

[ズルイ!]

[マウント取ってくるなwww]

[くっ、応募せねば!]

 

 レオと夢美の宣伝によって、爆発的な勢いで公式アカウントのフォロワーは増加していき、該当ツウィートもどんどんリツウィートされていく。

 この結果には、cre8の宣伝担当者でさえ目を見開いたほどだった。

 

「さらに、もうソフトの予約も開始しております!」

「予約ページは概要欄に貼ってあるから、みんな急げー! 予約特典は店舗ごとに違うから要チェックだな!」

 

[もう宣伝上手なんだから!]

[概要欄にURL貼れてえらい]

[もう予約したぞ]

[特典全回収せねば]

 

 各店舗の予約特典と早期購入特典を紹介し終えたレオと夢美は、満足げに配信を終える。

 

 トレンド入りも果たしたことで、二人は今後もcre8から定期的に案件を回してもらえるようになるのであった。

 


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