Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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【お盆休み】再びの帰省

 

 終始安全運転に準じていたレオは、周囲の景色が見覚えのあるものに変わってきたことに気がついた。

 

『200m先、右方向です』

 

「そろそろ由美子の実家の近くだな」

「どうする? 由紀達も会いたがってるけど」

「先に降りててくれ、適当な駐車場に停めてから挨拶に伺うから」

「オッケー」

 

 レオは夢美と荷物を降ろすと、手ごろな駐車場へ車を停めて夢美の実家のインターホンを押した。

 

「あっ、お義兄ちゃん。いらっしゃい!」

「久しぶりだな、由紀ちゃん」

 

 ドアを開けてレオを真っ先に出迎えたのは、夢美の妹である由紀だった。

 RINEでやり取りをしたり、ネットを介してゲームで遊ぶことはあったが、こうして実際に会うのは久しぶりだった。

 

「そういや、由紀ちゃんって今年からもう中学生か」

 

 部活か夏期講習帰りなのか、由紀はセーラー服に身を包んでいた。

 レオがデビューした頃は小学六年生だった由紀も一年経ち、中学生になっていた。

 由紀は中学受験はせずに、実家から通える公立中学へと進学した。

 中学生になったことは知っていたが、実際にセーラー服姿を目にすると、時の流れを感じざるを得なかった。

 

「何か大人っぽくなったな」

「そうかな?」

 

 制服補正もあるだろうが、由紀は以前よりも髪も伸ばしており、同学年の中でもかなり大人びた存在だった。

 既にクラスでは男女問わずに人気者になっているくらいだ。

 元々大人びたところはあったが、久しぶりにあった由紀は大人っぽさに拍車がかかっていた。

 

「由美子の奴、妹に清楚成分全部持ってかれてるな……」

 

『聞こえてんぞ、コラ』

 

「やべ、インターホンまだ付いてたか」

 

 インターホン越しに恨みがましい声が聞こえてきたことで、レオは慌てて中居家宅に上がることになった。

 

「由利子さん、正紀さん、ご無沙汰しております」

 

 レオはあらかじめ用意していた手土産を夢美の両親へと渡した。

 

「ひさしぶりね、拓哉君。わざわざお菓子とか買ってこなくてもいいのよ?」

「そうそう、そんなに気を遣わなくてもいいんだよ? うちのことは第二の実家と思ってもらっていいんだから」

 

 夢美の両親はすっかり拓哉のことを気に入っており、娘の彼氏というよりは義理の息子に接するくらいの勢いだった。

 

「ねぇ、お姉ちゃんからは何かないの?」

「何で実家帰るだけで何か買わにゃならんのよ……一応、成田で東京バナナ買ってきたけど?」

「わーい、お姉ちゃんらしい雑チョイスだ!」

「うっせ」

 

 既にくつろぎモードになっていた夢美はソファーで寝転がっており、由紀は楽しそうに夢美と話をしていた。

 ふと、今がお盆であることを思い出したレオは由紀が制服を着ていたことに疑問を持った。

 

「そういえば、由紀ちゃんは今夏休みだったよな。部活か何かで学校行ってたのか?」

「うん、弓道部の練習で学校行ってたんだ」

 

 由紀は中学では弓道部に所属している。

 アニメやゲームの影響で弓道に憧れがあったこともあり、夏休みでも由紀は嬉々として部活の練習に参加していた。

 

「へぇ、弓道やってるのか。どうりでエイムが神がかってたわけだ」

 

 レオはFPSの大会に初心者枠として参加した際、配信上でFPSが得意なハンプや白夜と練習をしていた。

 裏でも練習をするため、由紀とも一緒に遊ぶことはあったが、同じ時期に始めたというのに由紀の方が圧倒的にうまかったのだ。

 その腕前は、元世界ランカーであるハンプのお墨付きである。

 

「ゲームと現実じゃ勝手は違うけどね」

「やーい、キャリーされてやんのー」

「そもそもやってない奴に言われたくないっての」

「あたしはスプラ得意だしー」

「あれはFPSとはまた違うだろ」

「負け犬の遠吠え乙―」

「お前なぁ……」

 

 妹にゲームの腕前で負けていることを夢美に揶揄われ、レオは不貞腐れる。

 話題を変えるため、レオは由紀に話を振った。

 

「由紀ちゃんは将来の夢とかあるのか?」

「公務員かなー」

「中学生とは思えないほど現実的な答えが返ってきたな。一周回って心配になっちゃったよ」

「好きなことするために安定した生活欲しいだけからね。理想を言うなら石油王に養ってもらいたいけど」

「おい、夢美。お前の悪影響が出てるぞ」

「あたしのせいじゃねぇよ! というか、あたしは元アイドルのライバーに養ってもらうから石油王は守備範囲外だっての」

「いや、お前も働けよ」

 

 レオと夢美は当たり前のように自分達が結婚すること前提の会話を繰り広げる。

 その会話を聞いていた夢美の両親は、困ったように笑いながらレオの手土産を摘まんでお茶を啜っていた。

 

「ねえ、あなた。この様子だと結婚の挨拶とかもういらない勢いよ?」

「うーん……一度は『娘はお前にはやらん』っていうのやってみたかったんだけどなぁ」

「いや、お父さん、お母さん。ズレてるから、ツッコミどころはそこじゃないから」

 

 家族がいるのに当たり前のように恋人空間を展開しているレオと夢美、そして天然な両親に、由紀は呆れたようにため息をついた。

 

「それより、二人とも。今年も夏祭りには行くの?」

「行く予定だけど?」

「なら、しっかりと準備しないとね」

 

 由紀は準備などまるでしていない夢美を見ると、レオの姉である静香に『お姉ちゃん、今年も準備できてないです』とメッセージを送るのであった。

 


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