レオは実家に着くと、姪っ子と遊びながらのんびりと過ごしていた。
元々ワーカホリックなところがあったレオは、珍しく穏やかな時間を素直に受け入れていた。
「拓哉、ライバー活動は楽しい?」
「最高に楽しいよ。なんならアイドル時代より自由にやれてるくらいだ」
「そう、それは良かった」
「……由美子さんとはどうなんだ?」
「あー、まあ、時期的にそろそろ結婚かなーとは思ってる」
「……そうか」
アイドル時代のこともあり、気まずかった両親とも今ではこうして普通の親子のように会話することができる。
レオは改めて自分の人生を変えてくれた夢美、そしてにじライブに感謝していた。
ふと、そこでレオは自分と遊んでいる姪っ子の母親である姉がどこにもいないことを疑問に思った。
「そういえば、姉さんはみっちゃん放ってどこ行ったんだ?」
「静香なら用事があるって言ってたわよ」
「用事ねぇ……」
レオの姉である静香が帰省中に用事があると言い出した。
それだけでレオはだいたいの予想がついた。
「ま、俺も準備するかね……」
レオは姪っ子を母親に任せると出かける準備を始めるのであった。
夕方になると、レオの実家の近所にある神社は人込みでごった返していた。
レオは待ち合わせの人物を見つけると、去年と同様に見つかりやすいように手を挙げた。
「ごめん、待った?」
「いいや、今来たとこ」
夢美は去年とはまた違う落ち着いた色合いの浴衣を着てやってきた。
もちろん、夢美をプロデュースしたのは静香と由紀である。
「そっか、じゃあ感想どうぞ」
夢美はレオと合流するや否やポーズをとってレオに感想を催促した。
「はいはいワロスワロス」
「はっ倒すぞ」
割と本気で腕まくりをした夢美を見て、レオは笑いながら浴衣の感想を述べた。
「めっちゃ綺麗だな。こんな彼女いる時点で勝ち組決定だわ」
「へへっ、そっちこそバッチリ決めてきてんじゃん! イケメン彼氏持ちのあたしも勝ち組だわ」
冗談めかしてお互いに笑い合うと、レオは自然に腕を組みやすいように夢美の方へと差し出した。
「ほれ」
「お邪魔しまーす」
夢美も当然のようにレオの腕へ自分の腕を絡めた。
どう見ても美男美女のカップルの登場に、周囲の者達は羨ましそうにレオ達を見ていた。
それから二人は去年と同様に屋台を回った。
射的では夢美が景品を取れずに発狂し、レオが代わりに取る。
金魚すくいでも夢美が金魚を取れずに発狂し、レオが代わりに取る。
ヨーヨー釣りでも夢美がヨーヨーを取れずに発狂し、レオが代わりに取る。
毎回同じ状況になったレオは、呆れ気味に夢美へ問いかける。
「何、お前祭りに発狂しに来てんの?」
「うっせ! ガチャ配信のせいで発狂癖ついちゃったんだよ!」
「嫌な職業病だなおい。あんま大声出すと特定されるぞ」
「拓哉が彼氏な時点でお察しだわ」
レオが元トップアイドルのシバタクだということはもう周知の事実だ。
しかし、夢美の身元はいまだにネットには出回っていなかった。
小学校の同級生達も特に暴露するといったことはしなかったからだ。
「あっ、司馬! 由美子!」
しばらく二人であるいていると、私服に身を包んだ真礼がやってきた。
「布施、何か久々だな」
「真礼も夏祭り来てたんだ」
「地元の友達とね。ほら、あの子達」
真礼が視線を向けると、そこにはふくよかな体型の女性が三人いた。
彼女達は、去年レオと夢美と再会し真礼の陰口を叩いていた小学校の同級生達だった。
「前はうちの店に嫌味言いに来てたんだけど、うちのケーキが美味しかったみたいで常連さんになっちゃってね。あの通り」
「それで手懐けたのかよ……お菓子の魔女だな」
「まあ、真礼の作るスイーツはおいしいからね」
真礼の友人達は、ヘルシーでおいしいということもあり、かなりの頻度で真礼の店に来てケーキを買っていた。
三人共、運動をしているわけでもなく高頻度でケーキを食べていたこともあり結局太ってしまったのだった。
「で、二人は夏祭りデート?」
「「そんなとこ」」
「かー、いいわねー。相手がいて羨ましいわー」
真礼は心にも思っていないことを言った。
「真礼は良い人いないの?」
「うーん、仕事と動画投稿が忙しくて、今はお菓子が恋人って感じ」
現在、彼女はパティシエユーチューバー〝まーや〟としてお菓子作りの動画を上げつつも、店の宣伝をしている。
おかげで知名度は上がり、店の売り上げも大幅に増えた。
にじライブカフェのおかげで、企業とのタイアップ案件も依頼が来ており、今の真礼はオタクに知名度のある有名パティシエとなっていた。
「それにしても由美子、めっちゃ美人になったよね」
「でっしょー! ダンスレッスンで身体動かしまくってるからなぁ。あとは毎日楽しくやってるからかもね」
「少しは謙遜しとけよ」
「でも、実際お前の彼女美少女っしょ?」
「それはそう」
「……あんたら、もうとっとと結婚しなさいよ」
会話していると自然と惚気てくる二人に、真礼は呆れたように肩を竦める。
「それじゃ、これ以上邪魔しちゃ悪いし、私はあの子達と回るわ。日程決まったらウェディングケーキの予約してねー」
手をひらひらさせながら真礼は友人達の輪の中へと戻っていく。
ちなみに、去年に比べてさらに綺麗になった夢美を見て、同級生三人組は悔しさをバネにダイエットに成功することになるのであった。