真礼と別れた後、レオと夢美はラムネを飲みながら再び屋台を回っていた。
「そういや、バーチャル縁日厳しいみたいだな」
レオは去年夢美と話していた3Dモデルを使用したバーチャル空間での縁日の企画についての話を思い出した。
「やろうと思えばできるんだろうけど、最近はみんな軒並み3D化していろいろやってるからスタジオや機材の空きがないみたいだからね」
「予約は割とまめに入れないと、次いつできるかわからないくらいだもんなぁ」
にじライブのライバーは現在新人である五期生を除いたライバー達は全て3Dモデルを持っている。
各々3Dの配信で好きなことをやりたいという思いが強く、スタジオは連日収録で常に使用されている状態だ。
中でも、公式ゲーム番組であるハンプティ道場での収録時間はかなりの長時間になるため、自由にライバー達が使用できるスタジオは限られていたのだ。
「スタジオと機材増やせないのかな?」
「3D系の機材は値段がえげつないからなぁ」
「まあ、どの道事務所の移転が済んでからの話になりそうだね」
レオ達三期生が大きく躍進したことにより、にじライブは様々な企業との繋がりができ、特にレオのおかげでテレビ業界とは大きな繋がりができた。
ライバーも増えてきたこともあり、にじライブの次のステップへと進もうとしているのだ。
「そろそろ花火の時間みたいだな」
「じゃ、去年と同じ穴場行っちゃう?」
レオと夢美はラムネを飲み干し、ゴミ箱へと捨てると移動を始める。
二人がやってきたのは去年一緒に花火を見た場所だった。
周囲に人はおらず、花火を見るには絶好のスポットだ。
「「たま~や!」」
夜空に鮮やかな花火が上がり、二人は楽しそうに声を上げる。
数多の花たちが鮮やかに夜空に咲いては消えていく。
花火を見ていて夢美はふと思う。
自分達もこの花火と同じように、輝いていられる時間はそう長くはないのではないか。
しかし、そんな不安もレオが隣にいるだけですぐに消えてなくなる。
「……あたし、みんなとどこまでも輝き続けたい」
気がつけば、夢美はそんなことを口にしていた。
夢美の願い、それはとても難しいものだ。
今この瞬間にも、多くのVtuberを含めた配信者達が生まれては消えていっている。
黎明期に活躍した者達も多く消えていった。
流行が移り変われば姿を消す。
登録者数こそ百万人を超えているが、四天王ですら最近はあまり話題に上がらなくなってきたほどだ。
にじライブ、Vacterという二大Vtuber事務所に所属しているライバーですら安心はできない。
「俺は芸能界を追われてここにきた。そんでもって実感したよ。この業界で生き残っていくことがいかに難しいか」
レオは夢美の独白を聞いて語りだす。
レオにとってもこの一年は、人生においてそれこそアイドル時代と同等かそれ以上に濃い一年間だった。
プライドを拗らせ、デビュー当時は伸びなかった。
夢美の当時からすれば考えられないような介入の仕方で、レオのライバー人生は輝かしいものへとなった。
思い返せばキリがない。
「はっきり言って俺達は運が良かった。俺達の歩いてきた道のどこかで違う選択肢を選んでいれば、きっとここまで大きくはなれなかった」
「そうだね。後悔のないように全力でやってきたけど、これからもずっとうまくいくとは限らない」
きっと何かが違っていれば、全てが破綻していた。
そんな中で勝利を勝ち取ってこれたのは、仲間と手を取り合って一致団結して同じ方向へと向かって走り続けてきたからだ。
「それでも、うまくいかせてみせる」
レオは強い決意を瞳に宿して夢美を見据える。
「俺達のファンは内輪で固め過ぎてるところがあるからな。もちろん、その方がアングラ感があって好きだって人は多いかもしれないが、俺達はもうアングラって立場にいられない。夢美、お前は当初と在り方が変わっても前線に居続ける覚悟はあるのか?」
「それでもあたしは、このままどんどんVとして前線で活躍しつづけたい。それに、多少やり方が変わるだけで、あたしはあたし。メン限だってあるし、やりようは自由でしょ?」
「ま、自由なのがVtuberの売りだからな」
夢美の言葉に、レオは心底楽しそうに笑った。
何にでもなれる自由な存在。
それこそがレオ達にじライブの目指す未来なのだ。
「それじゃ、手始めに大変革を起こしますかね」
レオは笑顔を浮かべるとわざとらしい口調で話し始める。
「Vtuber初の夫婦なんてきっと話題になるだろうなぁ」
「何、まーた伝説作る気か?」
「もちろんだ。我、にじライブぞ?」
レオは夢美が言い始め、今やにじライブの代名詞となっている台詞を告げる。
「だから、また一緒に伝説作ろうぜ」
「いいよ。ほれ」
夢美は笑顔で薬指を差し出す。
レオはポケットから小箱を取り出し、それを開けて指輪を夢美の指に着けると真剣な表情を浮かべる。
「由美子。絶対に幸せにする。だから、俺と結婚してくれないか」
「うん、幸せにして。あたしもお返しに幸せにしてあげるから」
そして、二人は互いの想いを重ねるように唇を重ねた。
夜空に特大の花火が咲き誇る。
それはまるで二人のこれからを祝福しているようだった。
まさかのキスシーン書いてるときに、こんなにデッカイ地震くるとは思わんやん……