Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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【夢星島】夢星島へいらっしゃい! 最高の夏をあなたと! その2

 何曲かソロやデュエットなど、様々な組み合わせで曲を歌い終えると、再びMCの時間がやってくる。

 

「さて、最初の方で特大の発表をしたわけですが、まだまだお知らせがあります!」

「嬉しい発表があたし達の結婚だけだと思うなよ!」

「まだまたアルヨー!」

 

[ご懐妊ですか?]

[嬉しい発表って言ってるから期待]

[わくわく]

 

 視聴者はレオ達からどんな発表がされるのか、期待に胸を膨らませる。

 満を持してレオは、スタッフに合図をすると告知内容を発表した。

 

「というわけで! なんと、夢星島オリジナルグッズ発売決定です!」

 

 レオの言葉と共にバックモニターにグッズの画像が映し出される。

 

「「やったぁぁぁ!」」

 

[うおおおおお!]

[マジか!]

[たすかる]

[ロゴがめっちゃおしゃれ]

 

 画面上には、Tシャツやタオル、缶バッジなどのグッズが並んでいる。

 そのどれにも、夢星島をイメージしたライオン、茨、流れ星のデザインが施されていた。

 

「こちらのグッズは本日23時より販売開始予定となっております。概要欄にも追加いたしますが、後ほど俺達三人のツウィッターでも告知させていただきます!」

「売り上げは今後の夢星島の企画費用などに充てサセテ、イタダキマス!」

「買えよ、お前らァ!」

 

[絶対買うわ]

[買えば買うほど、後の企画が豪華になるわけだな]

[おい、清楚なママどこいった]

[パワフルさしか残ってない……]

 

 グッズの売り上げも今後の活動のための企画費用に充てると聞いた視聴者は沸いた。

 何せ自分達の好きなグループのグッズを購入すれば、それが直接的にそのグループだけの活動費に充てられるのだ。

 今後も夢星島のコラボ企画を見たい視聴者としては、購入する以外の選択肢は存在していなかった。

 

「そしてそして! お知らせ第二弾!」

「何とあたしとレオのバーチャル披露宴の開催が決定しました!」

「いええええええい!」

 

[ファッ!?]

[バーチャル披露宴だと!?]

[今日一日でどれだけVの常識をひっくり返すんだw]

 

 そして告げられた次の発表に視聴者達は度肝を抜かれた。

 まさかの結婚披露宴をバーチャル空間で行うなど、誰にも予想できなかったのだ。

 

「もちろん、普通に結婚式も行うわけですが、ライバーとしてもお世話になったみなさんにきちんと還元したいと思ったわけですよ」

「そこで相談したらマネちゃん達が『披露宴やりましょうよ! バーチャルで!』って鼻息荒く言うもんだからやることにしましたー」

 

[マネちゃん達グッジョブ!]

[これは神対応]

[さすがにじライブきってのカプ厨マネージャー]

 

 飯田と四谷の提案もあり、レオと夢美は普段世話になっている視聴者達への供給と称してバーチャル披露宴の様子を配信することに決めたのだ。

 もちろん、ご祝儀と称してスーパーチャットが飛び交いやすいという利益的な面も開催に踏み切る要因ではあったのだが。

 

「モチロン、娘のワタシも出席シマース!」

 

[両親の結婚式に出席する娘]

[もはや本当の家族]

[夢星島あったけぇや]

 

 ミコは二人の結婚式、披露宴の両方に出席するつもりだった。

 彼女にとって、レオと夢美は日本における第二の両親なのだ。

 

「具体的な日時などは未定ですが、グッズなども作成予定ですのでお楽しみに!」

「袁傪達、妖精達、金の貯蔵は十分か?」

「十分カー?」

 

[できらぁ!]

[おのれおのれおのれおのれ ¥50,000円]

[これでも供給足りないくらいだ!]

[むしろここしか使いどころがない]

 

 改めて披露宴に関するグッズ販売も告知したところで、レオ達は表情を引き締める。

 ここからは、夢星島ではなく個人的な話になってくる。

 

「さて、そろそろラストが近づいてきたわけですが。次に歌う歌ですが、ちょっと個人的な思いを込めて歌わせていただきます」

「あたしやレオにとってとても大切な人に向けて歌わせてもらうけど、許してくれる?」

 

[もちろん!]

[自由にしてもろて]

[どの道俺達は歌が聞けるからな!]

[歌ってあげてー!]

 

 レオと夢美が歌を捧げる相手。それは今は亡き冷凍ミカンだった。

 レオにとっては初期から応援してくれている視聴者であり、夢美にとっては友人とも言えるほどに仲が良かった配信者だ。

 もう亡くなっているため、自分達の歌が届くことはない。

 それでも、今まで支えてくれた感謝の気持ちを込めてどうしても彼女のために歌いたかったのだ。

 

「それじゃ、まずは俺からいくぞ」

「うん、頑張ってね」

「キット、届きマス!」

 

 夢美とミコがステージからはけたのを確認すると、スタッフが映像と共に音楽を流し始める。

 落ち着いたイントロが流れ出すと、レオは静かに歌い始めた。

 

「心だけは捨てないよ~♪ これが終わりだとし~ても~♪ 誰にも思い出とか、希望は奪えない~……♪」

 

[なっつ!]

[何かのドラマの主題歌だった]

[何か海外の小説が原作だったよな]

 

 レオが歌ったのは、アメリカの小説家の作品〝小公女〟を原作とするドラマの主題歌だった。

 十年以上前の楽曲であり、有名アーティストの曲とはいえピンと来ている者はそこまで多くはなかった。

 だが、レオの想いを込めた歌声からは、元の曲の良さが確実に伝わっていた。

 

「サヨナラは言わないことにしよ~♪ これが終わりだとし~ても~♪」

 

 もう二度と会えない。

 それでも、冷凍ミカンのことは絶対に忘れない。

 レオは歌いながら、彼女のことを思って涙を流していた。

 

「……ご清聴ありがとうございました」

 

[88888888888888]

[あれ、レオ君泣いてる?]

[俺も泣いた]

[やっぱウーバーの曲は神だわ]

[あとで買おっと]

 

 それからレオは静かにステージからはけると、すれ違いざまに夢美とハイタッチを交わす。

 夢美はしんみりとした空気を振り払うようにイントロが流れ出すのと同時に、

 

「やってきたぜ犬の刻!」

 

[犬夜叉様の始まりだ!]

[犬夜叉様の始まりだ!]

[犬夜叉様の始まりだ!]

[それはグリップの方だろw]

[君がいない未来だ!]

 

 夢美が選んだのは、昔夕方に放送していた妖怪と人間のハーフ半妖が主人公のアニメの主題歌だった。

 

「守るべきものなんて~♪ 悩むまでもな~く♪ 一つしかなかった~♪」

 

[めっちゃ懐かしい……]

[アラサーホイホイ]

[やっぱバラレオ夫婦ってアラサーよなw]

[結婚適齢期で草]

 

「君がいない未来~♪ 意味などない未来~♪」

 

 夢美にとって、冷凍ミカンにもう一度会えないのは辛い出来事だった。

 これほどまでに気の合う人間はそうそういない。そう思えるほどに冷凍ミカンとは気が合った。

 デビュー当時からレオと共に推してもらっていることもあり、夢美にとっても彼女の存在は大きかった。

 だからこそ、思いの丈を歌声に込める。

 

「時空を越えて~♪ はるか旅する僕等~♪」

 

[8888888]

[めっちゃ良かった]

[初期に比べて信じられないくらい声伸びるようになったな……]

[ソロだからこそ際立つ歌のうまさ]

 

 夢美はメジャーデビューしていることもあり、定期的にボイストレーニングを行っている。

 ダンスもキレを増しており、夢美の歌っている姿だけを見れば、バーチャルアイドルと呼ばれていても誰も疑問を持たないだろう。

 

「ありがとう、ございました……!」

 

 夢美は涙を堪えながら精一杯明るく叫んだ。

 夢星島の配信は海外勢も見に来たということもあり、同時接続数三十万人を突破した。

 これは配信業界でも稀に見る異常な記録だった。

 こうして、盛り上がりは最高潮のままに夢星島のイベントは幕を閉じた。

 後に、この配信はVtuber業界でも伝説と呼ばれる配信となり、後世に語り継がれていくことになるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………尊い」

 

 絢爛豪華な装飾がされた部屋の中で、一人の女性が涙を流し、特殊な器具で映し出された映像に両手を合わせていた。

 白銀の巻き髪と泣きボクロが特徴的な女性は、顔に刻まれたしわに涙を溜めながらも特殊な魔法で映し出される映像を食い入るように眺めていた。

 

「こんなところにいたのか」

 

 ちょうど、映像が終わったタイミングで威厳ある風体の男性が部屋に入ってくる。

 

「記憶水晶から推しの配信見てたのか」

「ええ、最近記憶の抽出と映像化がうまくいったって聞いてね」

 

 女性は涙を拭いながらも笑顔を浮かべた。

 

「あの子のおかげでこうして彼らの歌はあたしの元へと届いた。ホント、あたしの推し達は最高よ」

「そうか、良かったな」

 

 二人共孫がいる歳だというのに、一切老いを感じない様子で楽しそうに語り合う。

 それから、男性は女性に問いかける。

 

「それで、ようやく全部のゴタゴタも片付いて隠居できるようになったわけだけど、どうするんだ? 転生してから見れなかった分の配信アーカイブでも見るのか?」

「それもいいけど、先にやっておきたいことがあるの」

 

 そう告げると、女性は男性にびっしりと文字が書き込まれた紙の束を渡した。

 

「これは……小説か?」

「あたし達のこれまでのこと、全部書き記しておこうと思ってね」

「ははは、確かに大変だったもんなぁ」

 

 男性は苦笑すると、懐かしそうに小説に目を通していく。

 

「タイトルは決めたのか?」

「うん、タイトルはね――」

 

 女性の告げたタイトルに、男性は笑顔を浮かべて頷いたのだった。

 

 




というわけで、六章が終わりました。
バーチャル披露宴は次章になります。

そして、書き溜めていた次回作を公開いたします。
https://syosetu.org/novel/271020/
タイトルは〝負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!〟


【挿絵表示】


ヒロインは皆さんご存じのあの人です!
是非、見ていってください!

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